特集 2015年4月21日

歯ブラシ専門店でいい歯ブラシを買う

歯ブラシ選び放題の愉悦。
歯ブラシ選び放題の愉悦。
専門店が好きだ。専門店はすごい。
何がすごいかって、専門のモノが大量にあるし、どれを買うか迷った時はお店の人に聞けばいくらでも詳しく教えてくれる。量販店にはないプロユースなやつもある。
なので、何か欲しいモノがある時は毎回「○○+専門店」という検索でお店を探すことにしている。
いま欲しいのは『磨き残しの少ない、いい歯ブラシ』だ。
じゃあ、検索をかけて見つけた歯ブラシ専門店に行ってみよう。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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すぐわかる専門店

今回目星をつけていた歯ブラシ専門店は、銀座にあるらしい。

銀座は少し奥に入ると小規模店舗がごちゃごちゃあるので、迷うとやっかいだなー、と思っていたのだが、地図に従って歩いていたら簡単に発見できた。
どう見ても、歯医者か歯ブラシ専門店の二択。
どう見ても、歯医者か歯ブラシ専門店の二択。
店先から、全面的に歯推し。間違いなくここが歯ブラシ専門店『Megadent』だ。
歯アイコンコレクターとしては、どうしても笑顔になるよね。
歯アイコンコレクターとしては、どうしても笑顔になるよね。
ふりむいた先にも歯があった。
ふりむいた先にも歯があった。
よく見たら傘立てすら歯だ。
よく見たら傘立てすら歯だ。
お店に入る前から、もう歯まみれである。

以前から歯科医の歯アイコン集めをしている身としては「宝物庫か」と言いたくなる状況だが、今回の目的はあくまでも歯ブラシ購入である。

歯アイコン撮影をしたい気持ちを抑えるため、ぐっと奥歯をかみしめて店に入ろう。

歯ブラシと歯ブラシ、あと歯ブラシ

専門店巡りの醍醐味は、店内に踏み込んだ一歩目の光景にある。
専門の品ばかり、という品揃えに圧倒されるこの感覚がたまらない。
ドラッグストアとかにはまず無い品揃え。ステキだ。
ドラッグストアとかにはまず無い品揃え。ステキだ。
遠足のお菓子を買いに駄菓子屋に踏み込んだ時とよく似た、「わー、どれ買おう」という焦りと多幸感。

ああ、僕、ここに並んでるやつ全部から、欲しいのを選んで好きに買えるんだ。
隅から隅までぎっしりと歯ブラシ。
隅から隅までぎっしりと歯ブラシ。
歯磨き粉も専門店ならではのいいやつが揃ってるっぽい。
歯磨き粉も専門店ならではのいいやつが揃ってるっぽい。
サイズや硬さも選び放題なんだぜ。
サイズや硬さも選び放題なんだぜ。
電車やカエルからブラシが飛び出すぜ。これは子供が喜ぶやつだ。
電車やカエルからブラシが飛び出すぜ。これは子供が喜ぶやつだ。
忍者と舞子さんも、首をもいだら歯ブラシが飛び出す。子供、これ欲しいのか。
忍者と舞子さんも、首をもいだら歯ブラシが飛び出す。子供、これ欲しいのか。
GReeeeNの歯ブラシ。ちゃんと「e」の数を数えながら書きました。
GReeeeNの歯ブラシ。ちゃんと「e」の数を数えながら書きました。
音楽グループの『GReeeeN』のロゴが入った歯ブラシなどもある。なんだこれ、と思ったが、取材に同行してくれたライター西村さんが「そうか、GReeeeNの人らって歯医者さんだからか」と気付いてくれた。そういやロゴも口と歯になってる。
口臭予防の舌ブラシも見たことない品揃え。
口臭予防の舌ブラシも見たことない品揃え。
天然動物毛の歯ブラシも選び放題。豚毛と白馬毛。
天然動物毛の歯ブラシも選び放題。豚毛と白馬毛。
変な毛先のブラシも好きに選べる。
変な毛先のブラシも好きに選べる。
問:歯ブラシ専門店でグミ売ってるのはなぜか。
問:歯ブラシ専門店でグミ売ってるのはなぜか。
答:歯ブラシだから。持ち手がグミグミしてて気持ちいい。
答:歯ブラシだから。持ち手がグミグミしてて気持ちいい。
肉球みたいなパッドで、歯を磨きながら頬の内側をフェイスアップマッサージ。すごく売れてるらしい。
肉球みたいなパッドで、歯を磨きながら頬の内側をフェイスアップマッサージ。すごく売れてるらしい。
本当にこれ歯ブラシか、と疑いたくなる変なやつもあるが、でも間違いなく歯ブラシ。
歯ブラシ専門店ならではの安心感である。

しかしこれだけ色々ある中から選ぶとなると、逆にどれを買うべきなのか迷ってしまう。
こういう時は、お店の人…つまり歯ブラシのプロに聞こう。
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歯ブラシのプロに話を聞こう

歯ブラシ専門店の人は、つまり歯ブラシに詳しい人だ。
話を聞けば、自分が選ぶべき歯ブラシが見つけられるに違いない。
酒向さんの胸に輝く社章はもちろん歯。
酒向さんの胸に輝く社章はもちろん歯。
今回は、Megadent代表の酒向さんにお話をうかがうことができた。
さすが、笑顔からのぞく歯が真っ白である。この人なら僕にぴったりの歯ブラシとか、その歯ブラシを使った僕に最適な歯磨きの方法とかも教えてもらえるんじゃないか。

「すいません、もちろん商品の使い方はお教えできるんですが、歯磨きの方法指導はできないんですよ」
いきなり話の出鼻をくじかれる。
いきなり話の出鼻をくじかれる。
歯ブラシのプロなのに駄目なんですか。

「歯科衛生士法や歯科医師法がありまして、歯磨きの指導は予防処置として医療行為になるんです」

「ちなみに歯磨きをするのも医療行為になります。以前に渋谷で歯を磨いてくれる『歯磨き屋』さんがあったんですが、そこは裁判で負けて閉店しましたね」

「ただ、日常的な介護行為として歯磨きをしてあげるのはOKなんです。この辺りは法律がまだ完全でないので、かなりあいまいなんです」


身体的に日常の歯磨きができない人はもちろん、面倒だから毎日他人に磨いてもらいたい、というのも介護としてOKらしい。
その場限りの歯磨きは法に触れるけど、毎日なら合法。確かにあいまいな気がする。

法に触れるのでは仕方ない。
ならば、いろいろな歯ブラシの説明を聞いて自分で選んでやろう。

最新歯ブラシトレンド

まずは、最近の歯ブラシトレンドを聞きたい。いま流行ってる歯ブラシとはどんなものなんだろうか。

「今は、こういう大きい歯ブラシが人気ですね」
上が大きい歯ブラシ。確かにでかい。
上が大きい歯ブラシ。確かにでかい。
あれ? 歯ブラシって小さい方が奥まで磨きやすくていいんじゃないんですか?
『歯医者さんが薦める歯ブラシ』という惹句で売ってた小さい歯ブラシ、前に使ってたのに。

「実は調べても、小さい歯ブラシの方が磨きやすいくて汚れが落ちる、という内容の論文は無いんですよ。小さいブラシを薦めている歯科衛生士さんにそういう話をすると「えっ、論文無いの?」と驚かれるんですが…」

「ケースバイケースなんですが、特に年配の方なんかだと長期的に見ても大きい歯ブラシの方が汚れが落ちているという結果も出ています。小さい歯ブラシ信仰は日本だけです」

「小さいので一生懸命磨くよりは、歯への接触面積が大きいブラシで磨いた方がいい場合もある。そういう意味では、最近は日本の歯医者さんも大きい歯ブラシを否定しなくなってきましたね」
通常の2倍磨けそうな、ダブルヘッド歯ブラシまで。
通常の2倍磨けそうな、ダブルヘッド歯ブラシまで。
これなんか、接触面積が普通の倍だ。すごい。

「これはさすがに大きすぎる気もしますが、上の歯と下の歯が同時に磨ける、ということかもしれませんね。最近のトレンドでいえば、こういうのもアリにな流れになってます」

複数の歯ブラシを使おう

なるほど、大きめの歯ブラシで歯を磨くのが今のトレンドなのか。よし、大きいの買おう。

「ただ、大きい歯ブラシだけだとやはり磨き残しもあります。どうやれば一番歯の汚れが落ちるのかというと、適度なサイズの歯ブラシとこのタフトブラシを併用する、というのがお薦めでしょうか」
大きいのの次は、極端に小さいブラシが。
大きいのの次は、極端に小さいブラシが。
「8020ってご存じでしょうか。80歳になった時に20本の歯を現存させていよう、という目標のことなんですが、いまスウェーデンは8026なんです。80歳で26本」

大人の歯は32本。すごくないか、80歳で26本。ちなみに日本の現状は8008から8013ぐらいで、スウェーデンの半分。
で、そのスウェーデンでよく行われているのが、普通の歯ブラシとこのタフトブラシを併用する歯磨きなのだそうだ。
普通の歯ブラシだと、前歯の裏が磨きにくい。
普通の歯ブラシだと、前歯の裏が磨きにくい。
タフトブラシならばっちり磨ける。
タフトブラシならばっちり磨ける。
「口の中を完璧にカバーできる歯ブラシというのは、存在しません。であれば、複数の器具を使って磨ける範囲を補い合うのがベストなんです」
歯ブラシの後ろがタフトブラシになっている、消しゴム付き鉛筆的なやつも。
歯ブラシの後ろがタフトブラシになっている、消しゴム付き鉛筆的なやつも。
「イギリスの歯科医師会ホームページに出ている『歯を大事にするための方法』というので(1)フッ素を使う (2)フロス(歯間ブラシ)を使う (3)シュガーレスガムを噛んで唾液を出す (4)歯科医に行く、の4つが挙げられているんですが、要するにこれも複数のオーラルケア用品を併用する、ということですね」
単体でも歯を広範囲に攻められる歯ブラシ。
単体でも歯を広範囲に攻められる歯ブラシ。
こんな感じ。ただ、これ買ってみたけどけっこう磨きづらい。
こんな感じ。ただ、これ買ってみたけどけっこう磨きづらい。

毛が硬い・柔らかいの差

ここで、同行してくれたライター西村さんが「前からの疑問なんですが、歯ブラシの毛が硬いとか柔らかいとかあるじゃないですか。あれ、どういう差があるんですか?」と酒向さんに疑問をぶつけた。

「ああ、いい質問です。毛が硬いものは洗浄能力が高いんです。毛の弾力で汚れを素早くはじき飛ばしちゃう。その代わり毛先が細かいところに入っていかない。毛の柔らかいものはなかなか汚れが落ちないんですが、細かいところまで入るので、長い時間をかけて磨くときれいになります。ウサギとカメみたいな関係性になるんです」
「ウサギとカメみたいな関係性」という説明に感心する西村さん。
「ウサギとカメみたいな関係性」という説明に感心する西村さん。
「なので、これもケースバイケースなんです。それぞれの磨き方もあるし、好みもある。例えば忙しい朝は硬い毛の歯ブラシを使って、ゆっくり磨ける夜は柔らかい歯ブラシを使うとか。これもまた組み合わせですね」
「変わったところでは…」と出してもらった歯ブラシ。
「変わったところでは…」と出してもらった歯ブラシ。
「最近はこういうのもあります。『高密度植毛歯ブラシ』と言いまして、毛の数が1万2千本です。普通の歯ブラシがだいたい800本なので、通常の15倍です」

うわ、毛がふさふさで柔らかい! これは触ってるだけで気持ちいい。
左が1万2千本、右が800本。一目で分かる、毛の量。
左が1万2千本、右が800本。一目で分かる、毛の量。
「これなんかは非常に柔らかいブラシでして、主に歯茎をマッサージするためのものです。もちろんこれで歯を磨いても構わないので、ゆっくり時間をかけて歯と歯茎に使うといいですね」
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歯ブラシと震災

ところで、今回の取材は平日の午後に「お店が比較的空いている時間なら」と受けていただいたのだが、それでもたびたびお客さんがいらして取材が中断した。
本当に失礼な話だが、歯ブラシ専門店にここまでお客さんが来るとは思っていなかったので驚いた。

「注目されるようになったのは、3.11の震災が大きいですね」
なんだそれ。地震と歯磨きの関連性がよく飲み込めない。
なんだそれ。地震と歯磨きの関連性がよく飲み込めない。
「被災地では、まず歯ブラシがなくて困られていた。さらに貴重な水を消費したくないということでオーラルケアができず、結果として病気を発症したり、ということもあったようです」

「そこで、防災用品の中に歯ブラシや水を使わず歯磨きができる液体歯磨きが入るようになったんです。色々とお問い合わせももらうようになりましたよ」
防災とオーラルケアの啓蒙ポスター。
防災とオーラルケアの啓蒙ポスター。
「それ以降はオーラルケア用品への企業参入も増えまして、市場規模も毎年じわじわのびております」

なるほど、意外なきっかけもあるものだ。
「それ以降はオーラルケア用品への企業参入も増えまして、市場規模も毎年じわじわのびております」  なるほど、意外なきっかけもあるものだ。
「それ以降はオーラルケア用品への企業参入も増えまして、市場規模も毎年じわじわのびております」 なるほど、意外なきっかけもあるものだ。
「最近の参入企業だと、森永乳業やポーラ化粧品などが意外なところですかね。森永は乳酸菌を使ったオーラルケア商品なんですが、いまわりと乳酸菌やラクトフェリン(乳たんぱく)を使ったものはブームになりつつあります」

歯磨き粉にもトレンドがある

ブームといえば、昔、炭入り歯磨き粉がすごい流行った記憶がある。
ああいう流行って今もあるんだろうか。
炭歯磨き、まだあった。
炭歯磨き、まだあった。
「最近ですと、ナタ豆ですね。ナタ豆の成分がたまたま口臭予防に効果があるということがわかったらしいんですが、すごい売れ行きで、今はうちでも在庫がないんです」

ナタ豆のお茶が花粉症に効くというのでしばらく飲んでいたが、歯磨きにも効くのか。ナタ豆、あいつ万能か。

「あと、これもすごい売れたんで今はサンプルしか残ってないんですが、面白いですよ」

そういって、酒向さんが歯磨き粉のチューブを手渡してくれた。

「開けてみてください。びっくりしますよ」
中から何か飛び出してくるとか、そういう系か。
中から何か飛び出してくるとか、そういう系か。
光った。
光った。
「光触媒作用をもった酸化チタンが入ってまして、まず歯ブラシに歯磨き粉をつけて光を当ててから、歯を磨くんです。それでホワイトニングができるというものです」
光歯磨き、パンフレットが良い味を出してる。
光歯磨き、パンフレットが良い味を出してる。
酸化チタンを使った家の建材があって、光触媒効果で外壁の汚れを防止すると聞いたことがある。まさか歯のホワイトニングにまで使えるとは。

これは買って帰りたかったが、先に聞いたとおり品切れである。自宅に帰ってから検索かけてみたが、ネットショップでも品切れのところは多かった。僕の知らないところで知らないモノが売れているのだなあ。

当初の目的、歯ブラシを買う

すごい欲しくなった光触媒歯磨きは買えなかった(あとでネットで購入した)が、酒向さんのお話を聞いて自分なりに選んだものが、これだ。
結局、これだけ買った。
結局、これだけ買った。
複数のオーラルケア用品を使えという教えに従い、歯科用フッ素入り歯磨き粉、舌ブラシ、三面歯ブラシ、グミ歯ブラシ、タフトブラシ、そして歯科用キシリトールガム。
コンビニなどで売っている普通のキシリトールガムはキシリトールの配合率が30%ほどだそうで、対してこちらは歯科用の100%キシリトールだ。『歯科用』という表示がプロっぽくてグッとくる。

これでしばらくオーラルケアに努めるつもりなので、今後の僕の白い歯にご期待ください。

実は今回記事にした以外に、電動歯ブラシについても酒向さんにお話を伺っていたのだが、ここだけで一本の記事になりそうなぐらいのボリュームになってしまい、泣く泣く割愛させていただいた。
あと、聞きながら「あー、これ書いたらメーカーに怒られる可能性あるやつだ」とちょっと思ったのも事実だ。
電動歯ブラシについての話も知りたいという方は、ぜひMegadent銀座店で、酒向さんに直接聞いて欲しい。
電動歯ブラシの動きを熱演する酒向さん。
電動歯ブラシの動きを熱演する酒向さん。
取材協力 Megadent銀座店
住所:〒104-6601 東京都中央区銀座1丁目14-10
営業時間:10:30~19:30(祝・日は18:00閉店)
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