マスク緊急事態
まさかマスクが入手困難になるとは。2020年、新型コロナウィルスの襲来は世界にパニックをもたらした。市政の一生活者たる私にとって混乱が直感的に感じられたのは店頭からマスクが消えた事だった。2月にはクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の長期検疫がリアルに危機感を伝えたりして、マスクは店頭に並ぶやいなや完売。ネットでは金額が高騰し、転売行為などをめぐって人心は分断した。
行きつけの病院にはよくわからないおっさんが現れ「マスク確保できますよ」とマスク商談を持ちかけていた。マスクパニック(マスパ)ここに極まれりである。
3月の終わりには東京都知事から不要不急の外出を自粛する要請が、4月には初の緊急事態宣言が発せられた。
マスクは相変わらず入手困難だったが、まるで闇市のようにどこをどう流通してたどり着いたのかよくわからないマスクが居酒屋で売られていたりした。
さすがに3000円もするマスクは買う気にならなかったが、ある日、ぶらぶら歩いていたらこじんまりとしたバザーで布製の手作りマスクが売られているのを見かけてなんとなく購入した。
マスクといえば衛生感を表す白で不織布やガーゼというイメージしかなかったが、オレンジに無数の葉っぱっぱがデザインされたマスクのざらっとした手ざわりは私の心に何かを残した。
数日後、昼食に立ち寄った蕎麦屋で「手作りマスクあります」という貼り紙を見つけた。女将を「すみません」と呼び止め「マスクをください」と言ってみたところ、注文を先読みして蕎麦湯を手に取っていた彼女は「え、買うんですか」といった表情で店の奥からマスクのつまった箱を持ってきた。「どれでも3枚で300円です」安い!このまえ3500円だったんだよマスク。
蕎麦屋でマスクを買い求める日が来るとは思わなかった。このコロナ禍という危機の中で身を守るマスクが一部の資本家どもに独占されて手に入らない(妄想入ってます)。しかしこんなことで我々庶民はへこたれない。
メディカルなルートを頼らず、無名の名工たちがこの新しい世界の日用品として、強固で美しいマスクを生み出している。これはまさにコロナ民芸ではないか。
不織布のマスク不足が解消されたら、この民芸も消え去ってしまうかもしれない。いまのうちになんらかの形で残され、鑑賞されなければならない。そう思った私は出かけた先で手作りマスクを、ついには手作りでなくともオリジナルで作られたマスクをを見かけては買い求めていた。その愛すべきコロナ民芸マスクコレクションを堪能しよう。
衣料品店でゲット
布で作るわけなのでやはり親和性が高いのは衣料品店、街のブティックや和装屋では勢いよく布マスクが作られ、店先を彩っていた。
奄美大島では世界三大織物にも数えられる伝統工芸品「大島紬(おおしまつむぎ)」がマスクになって売られていた。
のぼり旗店も当然布製品は得意とするところ、生地、発色ともにクオリティの高いマスクが作られていた。
ここでは2023年に購入したのだが、店主によると「前はもっといっぱいあったんだけどマスクがどこでも買えるようになってからはあまり作らなくなっちゃいましたね」との事だった。