もういちど見に行きたい
10年ぐらいまえに横瀬駅から見た時は、時間がなくて急いでバスに乗って正丸峠の方に行ってしまったので、あのすごい形の山をじっくり鑑賞することができなかった。
あの山は一体何なのか……? 夢か、幻か……。
と、もったいぶって引っ張るほどのことでもなく、その山は武甲山という山だ。

左側に写っているのが武甲山。山の中腹がえぐれて削られているのはわかると思うけれど、よくみると山のてっぺんまで横スジが入って削られている。

白い部分は雪ではない。採掘している石灰岩が露出しているので白く見えている。町なみの先に、てっぺんまで削れているバカでかい山が見えていると思うと、すごいというか、このときは不気味ささえ感じてしまった。
こんなに変な形の山、他にあります? いや、あるかもしれませんけれども。1300メートルもある山のほぼてっぺんまで削れているのはなかなかの奇観だ。
もちろん、秩父に住んでいる人は見慣れているでしょうからなんとも思わないかもしれませんが、僕のように何も知らずふらりときて偶然みかけたら「え、なにあれ?」と絶対なるはずだ。
編集部の石川さんに件の武甲山の写真を見せたところ「マインクラフトみたいですね」と指摘された。

山から石灰を採掘している上に、しましま模様になっている。まさにマインクラフト。マインクラフトって武甲山がモデルだった可能性もある(ない)。
というわけで、もういっぺんあの山をじっくりと鑑賞したいので、一路秩父に向かう。
秩父は荒川沿いに発達した河岸段丘の盆地になっているので、北側の荒川沿いにひらけている道以外は、どこから行くにしても峠を超えるかトンネルを通るかしなければ行けない。

トンネルを抜けて道路を左折すると、さっそく道の先に武甲山がチラチラと見えてくる。

しばらく進むと、駐車場からちょうどいい感じに武甲山がみられそうなコンビニをみつけた。



なんというか、ガスっているというか、湿度が高いので若干うすぼんやりしてはいるけれど、武甲山を真正面からじっくり鑑賞できるポイントとしてはなかなかよいのではないでしょうか? ローソン秩父下寺尾店です。そして、左側に秩父太平洋セメントの工場がちらりと見えているのもポイント高い。
とはいえ、もうちょっと近くでじっくり眺めたい。というわけで秩父市内に向かう。
コンビニの上に武甲山が乗っているみたいな写真を撮りたいが無理だった
できれば、コンビニの建物の上から武甲山が生えているように見える、そんなコンビニはないものだろうか? と、市内をうろうろしていると、いいかんじのファミリーマートを発見。


なんだかうまいこと撮れない。電柱や後ろの民家の屋根の主張が意外と強い。
なかなか難しい。
本当は、武甲山の東側にある焼山という山に登って写真を撮れば、削れているところがよくわかるど迫力の写真が撮れるのだが、わたしは極力登山をしたくないのでこればかりは仕方がない。
焼山からの眺めは各自グーグルマップを検索して見ていただくこととして、武甲山麓の羊山公園にある武甲山資料館に行くことにする。

この資料館は、石灰の採掘により山の形が大きく変わるため、採掘前の姿や自然などを保存するとともに後世に伝えるため、関係自治体やセメント関係の企業が共同で設立した資料館とのこと。
とにかく入ってみて衝撃を受けたのは、昭和35(1960)年当時の武甲山の姿だ。

ちなみに、今はこれ。

撮影位置が違うとはいえ、この変容ぶりはすごい。60年ほどでよくここまで削ったものだ。
武甲山の頂上まで見える横に入っているスジのような模様は、ベンチカットと呼ばれる階段状に削る削りかたで、ちょうど階段の平らな部分に木を植えて植林している。スジにそって緑がみえるのはそのせいだ。

で、改めて資料館内にある昭和50年のジオラマをみてみる。

よく見ると、武甲山が全然削れていない。隅の方に「昭和50年6月現在」とある。いまから50年前の武甲山の形だろう。


武甲山での石灰の採掘が始まったのは大正時代だそうだが、大量に、それこそ山の形が変わるほど掘り始めたのは昭和の高度成長期あたりからだ。当時、武甲山の高さは1336メートルあったが、1980年ごろに元の山頂付近は削り取られてしまい、現在は1304メートルとなった。32メートル分も山を削ったということになる。
