山西省の麺料理を食べる会
麺リークリスマス会の主催者は、これまでに中国を何度も訪れて、30年近くにわたる食べ歩きで得た経験を活かし、なんやかんややっている愛吃(アイチー)こと本多政子さん。
お店は新宿区大久保の山西亭。一見するとよくある刀削麺がメインの中華料理店だが、「世界の麺の故郷」との呼び名を持つ山西省の料理を食べることができる希少な店とのこと。
麺リークリスマス会は山西亭が開業した2015年から毎年開催されており、今回で第11回となる歴史ある集まりらしい。
中国北部の内陸に位置する山西省は地理地質上の特徴から稲作が難しく、小麦・ハダカ燕麦(エンバク)・高黍(タカキビ)・トウモロコシといった穀物の粉を使った麺料理が豊富にあり、その数200超と言われているとか。
通常メニューにも珍しい山西省の麺料理が並んでいる山西亭だが、年1回この日だけは、オーナーシェフ(老板)の李さんが「日本人向け」というリミッターを外した、山西省ガチ麺料理を作ってくれるそうだ。
しかも今年は、李さんのご両親が来日時に持ってきてくださった、日本では手に入りにくい山西省の珍しい食材を活かした料理も登場するのだとか。
そりゃ12月25日という人が集まりにくい日でも(本当にクリスマスにやる)、すぐに席が埋まるというものである。
事前にメールで本日のメニューとその解説をいただいていたのだが、これがまったく理解できなかった。改めてじっくり読みつつ、その意味を把握してみよう。
《山西省の地名》
五台山→ウータイシャン。山西省北部忻州市にある仏教聖地であり、李老板の故郷。
吕梁→リューリャン。山西省中西部の街。西側に黄河が流れ、渡ると陝西省。
临汾→リンフェン。山西省南部の街。黄河文明発祥地のひとつであり「華夏第一都」と呼ばれる。李さんの奥さんである秀珍さんの故郷。
◎面食(小麦や穀類の粉で作った料理)
◉澱粉(でんぷん)使用で面食に分類されないが麺状の料理
【◯◯】は麺の材料
① 凉拌芹菜豆腐干/セロリと干し豆腐の冷菜
② ◎五台煎锅 【莜=ハダカ燕麦】/五台山名物焼き平麺
③ 五台小炒(豆角・黄花菜)/李さんちの故郷味炒め(インゲンとユリ)
④ ◎莜面栲栳栳浇羊肉台蘑酱 【莜=ハダカ燕麦】/カオラオラオ 羊と五台山きのこソースがけ
⑤ ◎吕梁炒饼(韭菜・豆芽・茴子白)【白=小麦】/リューリャン名物焼きそば
⑥ ◉土豆粉豆腐丝/細切り豆腐とジャガイモ澱粉ヌードル
⑦ ◎红薯胡萝卜不烂子/サツマイモとニンジンのブーランズ
⑧ 黑醋溜白菜/面リーのオアシス⁉︎ ハクサイの山西老陳醋炒め
⑨ ◎小米摊黄儿【小米=粟(あわ)】/粟ふわパン
⑩ 醋浇羊肉/山西看板料理 羊肉山西老陳醋がけ
⑪ ◎莜面摘麻花擦尖【莜=ハダカ燕麦】/すりおろした面を五台山特産野草「摘麻花」と合わせて
⑫ ◎土豆饼卷(卷京酱肉丝)【土豆=ジャガイモ・白=小麦】/ジャガイモクレープの肉巻き
⑬ ◎黄米油糕饺子(韭菜鸡蛋馅)【黄米=黍(きび)】/キビ揚げ餃子(ニラ玉餡)
⑭ ◎临汾牛肉丸子面【白=小麦】/リンフェン名物牛肉団子麺
⑮ ◎臊子玉米金丝面【玉米=トウモロコシ】/トウモロコシ金糸麺
当日はなかなかピンとこなかったが、日本では細長い料理を「麺」とするが、中国では小麦や穀類の粉で作った料理を「面」や「面食」と表記するようだ。よって餃子なども「面」となる。
また春雨のように澱粉を使った料理は「面」ではないが、今回は澱粉の「麺」も用意しているらしい。
それにしても全部で15品ってどういうことだ。とりあえずビールを飲みつつ、不審人物の様に周囲をキョロキョロしながら鳥肌を立てまくる。
40名近い参加者のほとんどが知らない人という状況下、まったく理解できないメニューの文字列を眺めながら料理を待つという、緊張しつつもワクワクが止まらない至高の時間だ。
1品目、凉拌芹菜豆腐干/セロリと干し豆腐の冷菜
料理は基本的に6人で1皿のようだ。1人での参加が不安過ぎて誘った友人と、たまたま相席になった初対面の4人で、(最初だけ)遠慮しつついただく。
これは面でも麺でもない前菜料理だが、様々な食感が一皿に詰まっていて大変楽しい。ようやく少し気持ちが落ちついてきて、次はどんな料理が出てくるのだろうと期待をしつつ、皿に残っていた遠慮の塊をさらう。
愛吃さんの補足:「食材の彩りをきれいに仕上げるために、水に少し浸してから煮ます。 八角の香りがポイントで、唐辛子でほんのり辛味も効かせています」
2品目、五台煎锅【莜=ハダカ燕麦】/五台山名物焼き平麺
李さんの故郷で食べられている、ハダカ燕麦を使った面料理。麺という形状ではないので、クレープの様に薄く焼いたものを細切りにしているのだろうか。
ハダカ燕麦は燕麦の殻を剥いたもの。燕麦の仲間は近所の川原などにも生えているので毎年採ってはいるのだが、殻を剥くまでの工程が面倒過ぎて、どうしていいか悩んでいる野良食材。がんばればこのようなおいしい料理に昇華できるのかと希望が湧く。
愛吃さんの補足:「ハダカ燕麦粉100%の莜面です。水と塩で溶いて、クレープの様に溶いた液を直接鍋へ垂らさず、刷毛で薄〜く伸ばして焼きます。
李さんの故郷である五台山あたりだけに伝わる食べ方で、 同じ省内でも南へ200kmほどに位置する省都の太原市へ行くと、ほぼ知られていない超ローカルなグルメ。
現地では薄く焼いた生地をタレやスープにサッと付けて食べますが、今回は全員への提供に時間を要するため、生地をきしめん状に切って和える形にアレンジしました」
3品目、五台小炒(豆角・黄花菜)/李さんちの故郷味炒め(インゲンとユリ)
面でも麺でもない前菜だが、細長いインゲンはちょっと麺っぽい。ユリというのは黄色っぽい部分のようだ。「黄花菜」で検索したら、カンゾウの仲間のつぼみを干したものが出てきた。
一見素朴な一皿ながら、日本ではなかなか味わえない歯ごたえと風味が盛り込まれている。親しみのある山菜料理に通じる淡い味わいが好ましい。
愛吃さんの補足:「インゲンはお母さんが細く切って干したもので
冬用の保存食。黄花菜は地元五台山で摘んだものをサッと茹でたあと干したもので金针菜とも呼びます。 李さんが子どもの頃は、家で育てていたそうです。 炸豆腐(揚げ豆腐)の細切りとともに炒めました」
4品目、莜面栲栳栳浇羊肉台蘑酱【莜=ハダカ燕麦】/カオラオラオ 羊と五台山きのこソースがけ
この辺りからシェフがギアを上げてくる。カオラオラオという声に出したくなる料理名は、ハダカ燕麦を使った生地を筒状にして蜂の巣みたいに並べて、蒸籠で蒸した手間暇を感じさせる面料理。
ソースは羊とキノコという地域性が感じられる組み合わせで、うま味がとても強い。こういう味も形も知らない料理が食べたかったんだよと嬉しくなる一皿。
愛吃さんの補足:「栲栳栳(カオラオラオ)は『編みかご』の意味。ちなみに、お隣の内モンゴル自治区では窝窝(ウォウォ/巣穴やくぼみの意味)と呼ばれます。
台蘑(タイモー)は、五台山周辺で採れるキノコの総称で、肉厚で香り高く、人工栽培が不可能なため希少。李さんのお姉さんの旦那さんが山で採り、干して保存しておいたものをご両親が持って来てくれました」
5品目、吕梁炒饼(韭菜・豆芽・茴子白)【白=小麦】/リューリャン名物焼きそば
山西省中西部の黄河が流れるリューリャンの焼きそばは、日本人に一番馴染みがあるはずの小麦で作られているのだが、食感が普通の麺と明らかに違う。クレープやチャパティを細切りにしたような不思議な感じ。
具はニラ、モヤシ、キャベツと馴染みの食材なのだが、麺の食感がまったく違うというパラレルワールドにニヤニヤが止まらない。パラレルワールドというか山西省の日常なのだが。
愛吃さんの補足:「小麦粉を60〜70度のお湯で捏ねます。水だと餅(ビン)が固くなりますが、お湯だと柔らかい食感に。炒めても食感は変わりません。
薄く伸ばした生地に油を塗って、折り重ねる工程を繰り返して4層にして、焼いたものを細切りにしてから4枚に割き分けています」
ここまでで結構お腹はいっぱい、情報量は許容範囲を超えているが、なんとまだコースの三分の一なのである。
6品目、土豆粉豆腐丝/細切り豆腐とジャガイモ澱粉ヌードル
ここでジャガイモ澱粉を使った料理が登場。澱粉なので面食ではないが、日本人にはうれしい麺である。赤と緑のピーマンの色合いがクリスマスっぽい。
澱粉から作られる麺状のものは春雨や葛切りなど多々あるが、このジャガイモ澱粉ヌードルもその一つ。こってりしたソースを纏った熱々の澱粉麺をズルズルいただくことで、山西省の厳しくも温かい冬の景色が感じられた気がした。
愛吃さんの補足:「自家製の土豆粉(ジャガイモ春雨)は今回のための特別メニューですが、ジャガイモ澱粉を固めてサイコロ型に切って山西老陳醋で炒めた炒涼粉(チャオリャンフェン)なら通常メニューにあります」


