きっかけは「高知」というムックの取材から
私が高知県の須崎市に行ったのは2025年3月のことだった。関西圏でその名を知らない人はあまりいないであろうタウン誌「Meets Regional(ミーツ・リージョナル)」を刊行している京阪神エルマガジン社の、高知県をテーマにしたムック本の取材で行ったのだった。
冒頭にも書いた通り、須崎市は高知市の西、30キロちょっとの距離にある街で、太平洋に面した須崎湾があり、昔から漁業のさかんな街だった。市内にある須崎魚市場で聞いた話によると、須崎湾は穏やかで、黒潮の暖流のおかげで暖かな海に生息する魚も上がってくるし、遠洋にも深海にも様々な魚介類がいて、と、地理条件に恵まれて魚種が豊富なのらしい。
見学時はブリが大漁で(とはいえ、漁師の方によればまだ少ない方だったそう)、船からどんどん水揚げされる様子を見た。また、須崎の街を歩き、大正初期の創業だという老舗の食堂「八千代」で美味しいうなぎを食べたりした。その楽しい旅の模様は本に載っていますのでよかったら!
夜は「鈴」という居酒屋でお刺身を食べた。この日はブリとサバとアジを盛り合わせてもらったのだが、その美しさたるや!
見た目からして美しいが、もちろん、味がすごい。新鮮そのもの。透明感があって、弾力があって、本当に活きのいい魚とはこういうものかと思う。「鈴」の店主・湯浅勝三さんは84歳になられる方で、大の釣好き、というか「釣好き」というレベルを超えてご自身の船を持っており、毎日のように釣りに出て、そこで釣った魚を主にお店で出しているのだ。
「うまい!うますぎる!」と感動していたら勝三さんやお店にいた常連さんに「メジカの新子は本当に美味しいからまたその季節に来てください」というようなことを口々に言われた。
「メジカの新子」……高知好きの友人からその名をちらっと聞いたことはあった気がする。検索してみると、“メジカの新子とは、高知県で「メジカ」と呼ばれるソウダガツオの幼魚のことです。特に生後1年未満のものを指し、8月から9月頃の限られた期間にしか食べられない珍味として知られています”と出た。
“目と口の距離が近いことから「目近」とも書きます”と、それが名前の由来らしい。「朝釣ったメジカの新子は昼までに食べろ」と言われるほど鮮度が重要で、高知県内でも限られた場所でしか食べられないのだとか。須崎はそのメジカの新子が昔から食べられてきた土地である。
貴重なメジカの新子を食べに再び高知へ
そうと聞けば食べてみたい。また、そもそも取材で伺った「鈴」が気さくで温かな雰囲気のいいお店で、勝三さんのお顔はツヤツヤしてお元気そうだが、「まあ、いつまでできるかわからんきね」とおっしゃったりもするのもあって、(失礼ながら)「チャンスを逃さず、すぐ行くべきだな」と思った。事前に電話で予約をし、8月中頃、私は再び須崎に行くことにしたのだった。
住まいのある大阪から電車を乗り継いで3時間半ほどで高知駅へ。そこで今回一緒に須崎に同行してくれる友人と合流し、ちょっと高知駅近くを散策。
お盆シーズンということもあり、また前日まで「よさこい祭り」が行われていたこともあってか、高知の中心地は賑やかだった。観光スポットにもなっている「ひろめ市場」をちらっとのぞくと、フードコートのようになっていて場内のあちこちのお店の料理を食べられるその座席は人でいっぱいで、立って食べている人もいるほどだった。
近くの郵便局に入ったらそこで「鰹のたたきポーチ」が売られていて思わず購入。それぐらい高知といえばカツオなのである。
再び高知駅へ向かい、そこから電車で須崎駅へと向かう。
ここからいよいよ須崎に向かいます
1時間ほど普通電車に乗って(特急電車に乗ると40分ほどで着く)、須崎駅に到着した。須崎は「鍋焼きラーメン」がご当地グルメとして有名な街でもあり、その鍋焼きラーメンをモチーフにした「しんじょう君」というゆるキャラが人気な街でもある。
高知駅周辺や高知の中心地にはたくさんの人がいたが、須崎駅を降りると静かだった。古い街並みを歩く。
目的の「鈴」の営業開始時間まで海を見ようと歩いていたら、砂浜で車がスタックして困っているという若者たちに声をかけられた。埋まったタイヤに木板をかませたり、みんなで車を押したりして頑張ったが力不足で、タイヤはさらに埋まっていくばかり。
最終的に、うまくいかないままお店の予約時間が近づいてきてしまい、我々はその場を離れた。若者たちは「ありがとうございました!近所の方に助けてもらえないか頼んでみます!」と言っていたが、その後、なんとかなっただろうか。それが気がかりである。
そんなこともあり、予想外に汗をかいて「鈴」へやってきた。5か月ぶり、また来ることができた。
前回の取材時にも食べたのだが、事前に予約していくと用意してもらえるエビフライもこの店の名物。こんなに満足感のあるエビフライがあるのかと驚くほど海老の身がしっかり詰まっているのだ。
エビフライを味わい、改めてビールを飲んで、心がしゃっきりした。そこへメジカの新子が運ばれてくる。

