マリオは死に過ぎている
明らかにマリオは死に過ぎている。マリオの命は塵より軽い。特にスーパーマリオ。そのシステムは残酷だ。マリオはいつだって勇敢で、危険を顧みずダッシュし、ジャンプし、そして死ぬ。するとどうなるか。別のマリオが出てくる。
こんなこと、現実世界ではありえない。人生は一度きり だ。世の中のゲームはどんどんリアルになって没入感が増し、最近ではVR空間で超リアルなゲームもできる。でも、なぜか「死」だけ没入感がない 。じゃあどうするか。ゲーム内の死を現実とリンクさせるのだ。タライ で。
……というわけで作った。マリオが死ぬとタライが落ちる システム。デスマリオ だ。
こちらがデスマリオ。マリオが死に、タライが落下。
死を希釈する
「いや、タライが落ちるだけでは "死" ではないだろ!」 という真っ当なようで狂気でもあるツッコミが聞こえてくる気がする。じゃあどうすればいい?包丁を落とせばいい?でもそれだと本当に死んじゃうじゃん。コナンの映画のノアズ・アークに乗っ取られたコクーンのような、HUNTER×HUNTERのグリードアイランドのような、本当に死んじゃうゲームを作るつもりはない。あたりまえだ。命は大事 なので。こっちは死の体験を何万分の一かに希釈 した「タライが落ちてくる恐怖と痛み」でやらせていただく。
実は2年前に「罰ゲーム展」という展示会でタライの罰ゲームを体験する機会があった。けっこう怖かったし痛かった。「これをマリオと連動させたいな」と思ったのが今回のきっかけだ。
デスマリオの設計
「マリオが死ぬとタライが落ちるシステム」(通称:デスマリオ)をどうやって作ったか。みんなが真似できるように作り方を記しておく。
物理部分の事前スケッチはこんな感じ。
簡単な話で、マリオの死を何らかの方法で検知し、そしたらサーボモーター(指定した角度だけ回る特殊なモーター)が動作して紐の固定が外れるようにすればよい。それだけでタライの位置エネルギーは運動エネルギーに変換され、プレイヤーに痛みをもたらすことができる。
問題は、マリオの死をどのように検知するか 。これにはいいアイディアがある。BGMに着目するのはどうだろうか。スーパーマリオブラザーズではマリオの死に際し「テレッテ テレッテ テン♪」という陽気なレクイエム が流れる。この音を検知すれば良さそうだ。
つまり、こういう仕組みになる。
デスマリオのシステム全容である。
デスマリオの実装
やることが決まったらあとは手を動かすだけだ。ここが面倒だが一番面白いところ。まずはダイソ―に行って必要な材料をそろえる。
最終的に使わなかった材料もありますが、買ったものはこれら。
まずは土台を組む。個人的こだわりポイントは、猫用の爪とぎ を使ったところだ。加工しやすく、強度があり、それでいて軽い。非常に工作向きと言える。しかも私の行くダイソーでは大量に売られており、たくさん買っても罪悪感がない。
セメダインを塗りたくってギュッと押せば、猫用の爪とぎはすぐにくっついた。
セメダインはダイソーで300円で買えた。「これくらいなら大丈夫だろう」という油断でゴム手袋をせず素手で作業し、少量のセメダインが指につき、あわてて水で洗い流す。人生で何回も経験している。いい加減学べ、自分。体が大事じゃないのか!
(ガチ情報:こういうときに布製の軍手はダメです。瞬間接着剤の種類によっては化学反応でやけどの恐れがあります。ポリエチレン製の手袋をつけましょう!)
サーボモーター周りのギミックはこんな感じ。
タライにつながる紐はこんな感じで固定されている。この状態でツノが右に90度回転すると、紐の固定が外れる寸法だ。
このツノの部分は自作した。ちょうどいいツノがなかったからだ。引っかかりすぎず、ちょうどいい塩梅で外れるツノが求められる。
3D CADソフトの知識はほぼ皆無だが、今の時代、チャットAIにやりたいことを伝えれば丁寧に操作方法を教えてくれる。私はClaude Codeに聞きました。
3Dプリンタでウィ~ンっと印刷する。AIの指示通りにパソコンを操作しボタンを押すだけで、ほしかったものがその場で作られる。すごい時代を生きてるね。
残るは、マリオ逝去検知 の実装のみだ。
ファミコンミニをテレビにつなぎ、テレビの音をマイクで収音し、パソコンに入力する。(テレビの前がめちゃくちゃ子育て仕様でスミマセン!)
「テレッテ テレッテ テン♪」の音をパソコンに覚えこませ、いざその音がなったら「検知」とパソコンに表示する。そういうプログラムを作った。
0.1秒おきに「いま流れている音が テレッテ テレッテ テン♪ か」を判定している。実際には類似度という値を計算し、それが一定の値以上だったら「テレッテ テレッテ テン♪」であるとみなしている。
そして、パソコンとサーボモーターをマイコン経由でつなぎ、「マリオの死を検知したらサーボモータを90度動かす」という設定にする。一連の動作を試してみよう。
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マリオが死ぬと、PCがそれを判定し、サーボモーターが動き、紐の固定が外れた!大成功!
これで完成だ!さっそく試したい!
デスマリオの運用
ライター仲間であり大学時代の研究室の後輩でもあるりばすと さんに自宅に来てもらい、デスマリオをやってもらうことに。
りばすとさん
りばすと :マリオ得意なのでなかなか死にませんが大丈夫ですか?
ほり :全然いいよ。その分、死んだときのタライが効いてくるから
1-1を難なくクリアするりばすとさん
ワープを使うりばすとさん
一度も死なずに8-1へ。(ステージは8-4までしかない。全クリされちゃう。まずい。)
ここで痛恨のデス!
そしてタライ。
せっかくなので音声付きでお試しください。
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マリオが死に、タライが落ちた。デスマリオとしては成功!
ほり :おつかれさまでした
りばすと :おつかれさまでした
なんとなくしんみりした終わりになったのは、実はここに至るまでに重大インシデントがあったからだ。
重大インシデント
実は、ここに至るまでに「本当はマリオが死んでいないのに、なぜかタライが落ちてしまう」 という最悪な事故(重大インシデント)が発生し、りばすとさんはすでに冤罪タライをくらっていたのだ。本当に申し訳ない。
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誤デスの瞬間 (マリオは生きてる)
りばすと :うわぁ~!なんで~!!!
ほり :ごめんなさい!本当にごめんなさい!!
原因は、マイクで拾った音にノイズがあり、誤検知した というものである。本当はマイクによる収音ではなく、テレビの音声出力をオーディオケーブル 経由でパソコンに直接入力 したかったのだが、Amazonの配達が間に合わず、やむを得ずマイクで収音し判定した。しかし、それだとノイズが乗ってしまう。そのせいで本当は「テレッテ テレッテ テン♪」の音が流れていないのにパソコンがそれを誤検知してしまった。その結果、無実のりばすとさんの上にタライが落ちた。
冤罪でタライをくらい、笑うしかない りばすとさん
こればかりは本当に申し訳ない。作るのがギリギリで十分にテストができていなかったし、そもそももっと早く作り始めていればオーディオケーブルが間に合って誤判定は起きなかっただろう。
反省と学び:
・工作は十分に早めに取り掛かるべき
・テストは十分に行うべき
自分もやる
ひとにタライを落としてばかりで自分がやらないのはいかがなものか。自分もデスマリオを体験した。
実は私も20年以上プレイしてきたので結構うまい。なんなくワープゾーンへ。
しかし、あきらかにいつもと違う感覚 があった。いつもは「死んでもまたやり直せばいい」とけっこう思い切ったプレイができるのだが、上にタライがあるせいでプレイが縮こまってしまう。それが如実に出たのがワープ直後のステージ(4-1)である。
トゲゾー(トゲトゲの亀)が大量に降ってくるステージだ。
ふだん私がこのステージをプレイするときはキノコやスターは無視して一気に駆け抜け、トゲゾーを回避してクリアする。多少のリスクはあるが、結局これがいちばん成功率が高い。
しかし、上にタライがあるせいで、「キノコを取っておいたほうが安心かも……」と弱気になり、その結果フォームを崩して挙動不審になり 、最初の穴に落ちてしまった。
マリオ転落。初心者のようなミス。
平常時なら簡単にできることも、命がかかっていると途端にうまくできなくなる。 カイジの鉄骨渡りと同じだ。
「報い」を受ける瞬間
ほり「痛い!」
なぜか笑顔になってしまった。マリオの死と連動して自分が痛みを感じたことの可笑しさと、デスマリオがうまく動作したことの安堵によるものだ。結局ぜんぜん没入できてないな。
メイカーフェアに出します
重大インシデントを起こしておきながら「ほんまかよっ!」という感じですが、今回のデスマリオを9月5日(土)、6日(日) 開催のMaker Faire Tokyo 2026 で展示します。入力方式を変えるなど改良し、誤検知によるタライ落下は起きないようにするのでご安心ください。また、あんまり痛すぎないように高さ調整もするのでご安心ください。(「逆にもっと痛いほうが臨場感がある」という人向けにはタライの中におもりを入れるようにします。)
なお、今年のメイカーフェアはビッグサイトではなく有明GYM-EX(ジメックス)らしいです。お間違えのないようお気を付けください。私も気をつけます。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
音声認識みたいなハイテクなことをやりつつも、「猫の爪とぎが便利」みたいな超ローテク工作情報も入っていて、共存しているのが素晴らしい記事です。
予備知識としては、実験台になっているりばすとさんが、筆者ほりさんの大学の研究室の後輩であることを知っておくとより楽しめるのではないでしょうか。先輩の実験台になる後輩、ミスしてないのに理不尽にタライを落とされる後輩、先輩は先輩で予定外の誤動作に慌ててフォロー……。
社会人になってもこういう関係が続けられるの、最高ですね。(石川)
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