タコを求めて
スルメといえば一般的にイカを干したものだ。タコではない。どこのお店でも「スルメをください」というと干したイカを示される。一応スーパーを数件覗いてみたのだが、やはりタコのスルメは売られていなかった。予想はしていたがこれほどまでにタコ、忘れられているとは。改めてそれはひどい。
なぜタコのスルメは忘れられてしまったのか。自分で作ってみたらなにかわかるかもしれない。
ということで生のタコを仕入れるべく市場へとやってきた。横浜中央卸売市場南部市場。ここは小売もやってくれるらしいので安心してタコを探せるのだ。というのはライター玉置さんからの情報。魚のことを気軽に相談できる人が近くにいるって本当に心強い。
ではいざ、タコを探そうぞ。
3時半頃に魚が着くと聞いたので、見計らって4時に来ている。眠くて吐きそうだったのだが、魚市場の活気に喝入れされて背筋が伸びた。だだっぴろい競り場では局所的に競りが始まっている。
競りで買い付けられた魚は市場内の各店舗へと運ばれていく。地域の寿司屋さんなんかはここで仕入れを行うわけだ。
僕がタコを探している間にも、業者と見える人たちが魚をばんばん箱買いしていく。タコが買われちゃわないかと心配で足が速まる。
広大な市場売り場ゾーンの端から一軒ずつタコを探して歩いた。魚を探して下を向いたまま歩く僕に対し、市場の人たちはみな元気で親切だった。カメラ片手に明らかに他業種っぽいのに「おにいちゃん、何探してんの?」とフレンドリーに話しかけてきてくれる。「タコっす」、と僕。
タコを探すうちに知り合ったあるおっちゃんに教えられてやってきたブース。ここには確かにタコがあったが、小降りのしかも茹でたタコだった。
「なんやにいちゃん、タコってこれとちがうんか」
違うんですよ、生の、でかい姿のがいいんです
「イケのでかいのは最近見ねえよー、入ったとしても姿で買うならそうとう値が張るねー」
おっちゃんいわく、イケ(生の)のでかい姿のタコは接近していた台風の影響もあってかここ数日見かけていないとのこと。しかも一匹買おうとしたら余裕で1万は越える、と脅されてしまった。カード使えますか、なんて言ったら嫌われそうだったのでお礼を言ってその場を辞した。
「イケのタコ入ってませんか」(もう業者っぽい口調になっている)と念仏のように繰り返しながら市場をさまよう。
1時間ほどそうやって市場の中をうろうろしていると、さっき小タコを売っていたブースの人が僕に気付いて「**さんとこにタコ入ったってよ!」と教えに来てくれた。他店を勧めてくれるなんて、なんと気前のいい人なんだ。
すぐさま教えられたお店へ走ると、そこには見るからに新鮮そうな巨大なタコの足が2本入っていた。お店の人に聞くと、イケは今これだけしかないねー、と。どうやらたまたま一匹入ってきたタコをばらして競り落としたようだ。
本当はイケの姿で欲しかったのだが、高いということと、どこにも姿では売っていないということ、それからそんな貴重なタコを干してスルメにしたりしたらあのおっちゃんに叱られるんじゃないかという気持ちもあり、足を一本だけいただくことにした。とはいえ一本1000円以上する。
このタコでスルメを作っちゃおうというのだ。