特集 2021年8月6日

ナタデココは自宅で育てられる

左が市販品、右が我が家で育てたやつ。どちらも間違いなくナタデココだ。

ある日、夕食後のデザートにナタデココを食べていたときのこと。ふと妻が「ナタデココって、自分で作れないのかな?」と言い出した。

彼女はナタデココが好物なので、自作すればいっぱい食べられるのではないか、と思ったらしい。

その理屈は分からないでもないが、そもそもあの白いコリコリしてグニッとした謎めいた物体、どうやって作っているのかが謎である。

うーん、じゃあ調べて作ってみるか。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

そもそもナタデココってなんなのか問題

いちおうの前知識として、「ナタデココはココナッツの果汁を発酵させて作ったもの」ということまでは、何かで読んだ記憶がある。あれは発酵食品なのだ。

しかし冷静に考えたら、果汁をどのように発酵させたらあの白いコリコリグニグニになるのか?という肝心の部分に関しては、まったく分からない。半端な知識は役に立たないぞ。

で、検索してみると、大ざっぱに「ナタ菌という菌でココナッツ果汁を発酵させると、表面に皮膜ができる。その皮膜こそがナタデココだ」とあった。へぇ!

ナタ菌と聞いてまずイメージした、ナタを持った菌。「もやしもん」に引きずられ過ぎだ。
ナタ菌と聞いてまずイメージした、ナタを持った菌。「もやしもん」に引きずられ過ぎだ。

ナタデココはフィリピン発祥のものだが、しかし作るのに必須のナタ菌は、なんとフィリピンが国外への輸出を禁止しているらしい。えーマジか。

検疫的な問題なのか、それとも産業保護の問題かは分からないが、ともあれこの時点で詰みは確定じゃないか。

ところが諦めずに検索を進めていくと、「え?」という情報に行き当たった。ナタ菌と、1970年代に日本で健康ブームの一環として流行った紅茶キノコが、実は同じ菌だという。 

懐かしの紅茶キノコ(Wikipediaより)。そうかキミ、実はナタ菌だったのか。
懐かしの紅茶キノコ(Wikipediaより)。そうかキミ、実はナタ菌だったのか。

紅茶キノコをご存知ねえよという方のためにザックリ説明すると、瓶に甘くした紅茶と菌を入れて発酵させると、なにやら謎めいた塊ができる。これが紅茶キノコと呼ばれるものだ。

実際には「発酵した液体(元 紅茶)を飲むのが健康に良い」とされており、このキノコ部分は食べられていなかったようだが。僕が物心ついた頃には紅茶キノコブームが終わってたので、よく知らない。

しかし同じ菌で発酵させたものなら、そのキノコこそがナタデココ(正確にはナタデ紅茶になるのか)ということになる。

なんだ、じゃあ紅茶キノコの菌をココナッツ果汁に放り込んだらナタデココができるんじゃないのか。

ナタ菌は紅茶キノコでコンブチャだった

とはいっても紅茶キノコブームは数十年前に終了してるしなー、と思っていたが、どっこい、実は名前を変えて未だに根強く残っていた。その名も「コンブチャ」だ。紅茶?昆布茶?どっち?

どうやら欧米に紅茶キノコが持ち込まれた際に、菌の培地がトロッとしているのを見た人が「昆布のとろみだ」と誤解したところから、おかしなことになったらしい。(諸説あり)

うん、いいな。なかなか親近感の沸くうっかりエピソードである。誤解がそのまま定着しちゃって、もう取り返しの付かない感じがすごく好きだ。

普通に通販で買えてしまったコンブチャ。あとココナッツ果汁も必要です。
普通に通販で買えてしまったコンブチャ。あとココナッツ果汁も必要です。

さてさて、「コンブチャ」で検索すれば、菌自体はあっけないほど簡単に購入できた。さっきまで、ナタ菌入手不可能なのかよ!とガッカリしていたのが嘘のような手軽さ。

手に入ってしまえばもうこっちのもんで、これをココナッツ果汁に放り込んで待てばナタデココの完成である。楽勝。

「……と思っていた時期が、私にもありました」と続くのが記事としては面白いんだろうけど、残念ながらそこまでの振り幅は存在しない。

トップの画像でも見せちゃってるけど、ナタデココはできました。

パックの中で不気味に浮かんでるのが、ナタ菌で紅茶キノコでコンブチャ。ややこしいな。
パックの中で不気味に浮かんでるのが、ナタ菌で紅茶キノコでコンブチャ。ややこしいな。

もちろん、本当にただ果汁に放り込むだけ、とはいかないので、ちょっと過程も説明しておこう。

まず件のナタ菌(=紅茶キノコ=コンブチャ)だが、分類としては「産膜性酢酸菌」というもので、糖を分解して酢酸に変える働きをする。で、その過程でセルロース(植物繊維の元)ゲルを産むんだけど、これが溜まって膜のように固まったものが紅茶キノコ≒ナタデココ、というわけ。

ともあれ発酵には糖が必要ということで、鍋で温めたココナッツ果汁に、飲むと「わりと甘いな」と感じるぐらいまで砂糖を溶かす。これを冷ましたら、煮沸消毒して雑菌を排除した瓶に注ぎ、そこにドロッとした菌株を入れる。

加糖したココナッツ果汁に、ドゥルン!とナタ菌を注ぐ。容器は徹底的に煮沸消毒するのが発酵ものの基本。
加糖したココナッツ果汁に、ドゥルン!とナタ菌を注ぐ。容器は徹底的に煮沸消毒するのが発酵ものの基本。
なんかこう、「あ、ヤバいもの入れたな」という気分になるビジュアル。
なんかこう、「あ、ヤバいもの入れたな」という気分になるビジュアル。

そうしたら菌の呼吸を妨げないようにキッチンペーパーなどで瓶に蓋をして、26〜32℃の環境に放置しておけばOK。

今の時期、我が家の北向きの部屋はエアコンつけない状態でだいたい室温30℃前後がキープされているので、ちょうどいい感じだろう。

部屋にいるときは、エアコンで気温が下がりすぎないように気を遣った。しばらくは菌ファーストの生活である。
部屋にいるときは、エアコンで気温が下がりすぎないように気を遣った。しばらくは菌ファーストの生活である。

あと、ココナッツ果汁と一緒に写り込んでいる黒い液体(写真左側)は、コーラである。

紅茶でもココナッツ果汁でもできるなら、他の甘い汁でもできるんじゃないか?と思ったので、試しに炭酸を抜いたコカ・コーラにも菌をいれてみたのだ。

紅茶でもココナッツ果汁でもいいなら、もうなんでも大丈夫なんじゃねえの?ほら、コーラとかさ。
紅茶でもココナッツ果汁でもいいなら、もうなんでも大丈夫なんじゃねえの?ほら、コーラとかさ。

これがもし成功したら、名付けて「ナタデコカ」だな。

もちろん、単にそう言いたかっただけの悪ふざけである。

大きく育てよナタデココ

呆気ないほどに手をかけるターンが終わっちゃったので、次はただ見守るターンだ。

なんとココナッツ果汁の方は、菌を入れた翌々日には、もう表面にうっすらと膜が張り始めたではないか。

そして日を追うごとに、膜はすくすくと厚くなる。見ているこっちも「よし、いいぞ、もっと膜を張れ」と声をかけたくなる成長っぷり。なんなら朝顔の観察なんかよりも見応えがあるんじゃないか。

ちなみにコーラの方はなんの変化もなし。

開始から3日目。ホラこれもう明らかに膜ができてるよね。ひょーテンション上がるー。
開始から3日目。ホラこれもう明らかに膜ができてるよね。ひょーテンション上がるー。
開始から5日目。ツルンとした膜はそこそこ硬さもありそうな雰囲気。ナタデココ感、ちょっとでてきたんじゃない?
開始から5日目。ツルンとした膜はそこそこ硬さもありそうな雰囲気。ナタデココ感、ちょっとでてきたんじゃない?
一方その頃、コーラはちょっと泡立ってるぐらいで膜は発生せず。これ以降はナタデコカについて言及することはない。終了です。
一方その頃、コーラはちょっと泡立ってるぐらいで膜は発生せず。これ以降はナタデコカについて言及することはない。終了です。

発酵は順調に進んでいるようで、室内には酢酸のツンと酸っぱいような香りも漂い始めている。

異変に気付いたのは、8日目。

だいぶ厚みを増した膜の下に、なにか茶色いぷよっとした感じのものが発生している。うへぇ、なんだこれ。

茶色いぷよぷよしたものが膜を持ち上げてしまってる。なんだなんだ、何が起きた。
茶色いぷよぷよしたものが膜を持ち上げてしまってる。なんだなんだ、何が起きた。

見た目的には最初に入れた菌株に似ているので、おそらく悪いものではないと思う。いやな腐敗臭もしないし。

問題なのは、この茶色ぷよが片寄って発生しているため、膜自体をナナメに持ち上げちゃっているのだ。

ココナッツ果汁から離れてしまうと、膜はこれ以上成長しなくなってしまうんじゃなかろうか。

ひとまず消毒したスプーンでつついて沈めてみたが、あまり変化は無し。

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自家培養ナタデココ収穫のとき来たれり

発酵開始から2週間が経過した。

例の茶色ぷよは相変わらずだが、つついて沈めてを繰り返すことで、あれからも多少は膜の厚みも増してきた。

もうちょっと見守りたいところだけど、ひとまずここで自家培養(って言い方でいいのか)のナタデココを収穫してみよう。

掴んでみると、思った以上にしっかりした弾力。
掴んでみると、思った以上にしっかりした弾力。
板状のナタデココって触ったことありますか。これなんですけども。
板状のナタデココって触ったことありますか。これなんですけども。

トングで掴んでみると、崩れたりもせず、そのままの形でずるっと引き上げられる。硬さのイメージでいうと、同じ厚みのフェルトがこんな感じじゃないかなー、というぐらいか。

これをザーッと水洗いしてやると、茶色ぷよは簡単に取れて流れてしまった。

手で持ってみると、わりと硬めのぐにっとした弾力。なかなか他に近似物が見つからないタイプの手触りである。

できればこの倍ぐらいの厚みが欲しかったようにも思うが、仕方ない。
できればこの倍ぐらいの厚みが欲しかったようにも思うが、仕方ない。

ちなみに板厚は約9ミリ。完成品のイメージからすると薄すぎるが、ともあれこいつを角切りにすれば、ナタデココになるはずだ。

じゃあこれを切ってみるか、と包丁をいれて驚いた。なんじゃこれ、切りにくいぞ!

ヘタな人がさばいたイカってこんな感じになるよね的な。ナタデココめちゃくちゃ切りにくい!
ヘタな人がさばいたイカってこんな感じになるよね的な。ナタデココめちゃくちゃ切りにくい!
017.JPG
角切りにしてさらに水洗いしたけど、やっぱりイカっぽい。

繊維質の塊だからか、刃がスッと下まで通らない。なんとか切ろうと刃をゴリゴリ動かすと、切り口の繊維がホロホロと崩れつつ、ようやく両断できた。

ナタデココの食感をイカの刺身に例える人がいるが、薄いものを切っていくと、なるほど見た目もなかなかのイカである。

あ、でも食感はナタデココだわ。感動の瞬間である。でもかなり酸っぱい。
あ、でも食感はナタデココだわ。感動の瞬間である。でもかなり酸っぱい。

試しに端切れを食べてみると……おおお、ナタデココかも。

厚みがないせいかコリコリした感じは少ないが、噛むとグニッとする辺りは間違いなくナタデココだ。

そして、やたらと酸っぱい。そりゃそうか。ココナッツ果汁でできたお酸にずっと浸かってたようなものだし。

膜の成長が途中で弱まったのも、もしかしたら菌のエサになる糖があらかた消費され尽くしていたのが原因かもしれない。

うーん、最初にもうちょっと多めに砂糖を入れておいたら、さらに厚く成長したのかも。勿体ないことしたな。 

残ったココナッツ果汁も飲んでみたが、これ完全にお酢だわ。
残ったココナッツ果汁も飲んでみたが、これ完全にお酢だわ。

酸っぱさ対策として、ひとまず水でさらしてみることに。ナタデココ自体は無味なので、中の酢酸を流し出せば大丈夫だろう。

水をたまに取り替えつつ半日ほどさらし、最後に甘めの糖液を作ってそこに一晩漬け込む。

これでいよいよ自家製ナタデココの完成である。

いざ実食!

本格的に食べてみる前に、いわゆる工場メイドの市販品ナタデココと比較してみよう。

厚さとか、切り口の繊維がほどけてるのはさておき、最大の差は白さと透明度だろう。

市販品がツヤツヤと透き通って新鮮なイカっぽいのに対して、自家製は白茶色っぽく透明感なし。くたびれたイカの切り身っぽくもあり、小柱っぽくもあり。

ココナッツ果汁と砂糖と菌の産物なのに、例えの表現がどうしても海産物に片寄るのは、妙な感じである。

020.JPG
新鮮っぽく見えるという点では市販品が勝るが、いやいや、自家製は昨日引き上げたばかりの産地直送だよ!

ところがこれを缶詰のフルーツと合わせてガラス皿に盛ってみると、どうだろう!見事にナタデココ……には、やっぱり言うほどは見えないなー。フルーツと貝柱の合わせ盛りっぽいぞ。

ルックスに関してはもう改善方法も見つからないので、諦めるしかない。しかし肝心なのは、味と食感だろう。すでに切った際の試食である程度の目安はついているが、さてどうだ。

「これがナタデココですよ」と言われても、納得できない気持ちは分かる。
「これがナタデココですよ」と言われても、納得できない気持ちは分かる。
いやでも食べるとわりとナタデココなんですよマジで。
いやでも食べるとわりとナタデココなんですよマジで。

よし! ナタデココ! 正確に言うと、85%ぐらいナタデココ!

足りない15%は、やはりコリコリ感の弱さ。厚みもだけど、どうやらナタ菌が作るセルロースゲルの密度が足りないのが原因のようだ。まぁ、それでも充分に「ナタデココ食ってるな」という気持ちにはなるけど。

逆に、噛み終わりに来る「グニッ」というテクスチャは、市販品よりもクッキリと分かるのが面白い。

どうやらあの「グニッ」感は、塊のセルロースゲルが歯の圧力に負けてバラバラに崩壊するときの感触だったっぽいのだ。密度が低い分、その崩壊する感じが分かりやすい、ということなのかもしれない。

「ナタデココ自作したい」と言い出した責任を問われて、しぶしぶ試食する妻。「あら、でも見た目以上にはナタデココ」とのこと。
「ナタデココ自作したい」と言い出した責任を問われて、しぶしぶ試食する妻。「あら、でも見た目以上にはナタデココ」とのこと。

ともあれナタデココが自作できる、という結論は出た。ちゃんとご家庭で培養できます。

なんなら今から始めれば、夏休みの自由研究ぐらいにはなるんではなかろうか。膜が育つ観察日記もつけられるぞ。

あ、発酵ものは何が起きるか分からないので、作って食べてみるにしても、よく注意して頼みます。


自家製でできたらナタデココがいっぱい食べられるかも、というのが話の始まりだったんだけど、2週間かけてこの量なので、そこは諦めるほうがいいかも。

なにより元のコンブチャ菌株がそこそこのお値段(2瓶分で3千円ほど)するので、どう考えたって市販のナタデココを食べた方が正解である。

収穫した後にも可能性を感じさせる、二毛作ナタデココ
収穫した後にも可能性を感じさせる、二毛作ナタデココ


ただ、一回収穫したあとのココナッツ果汁改めお酢に、諦め悪く砂糖を追加してかき回しておいたところ、新たにうっすら膜が発生したのが確認できた。おお、菌まだ生きてるな。

もしかしたら、二毛作・三毛作も可能なのか。何回繰り返せば元が取れるのかは計算する気にもならないけど。 

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