特集 2026年9月30日

あなたは日本最大のネズミ「ケナガネズミ」を知っているか

奄美の森で日本最大のネズミ探し!

奄美大島、徳之島、沖縄島の森には日本最大のネズミが住んでいる。名を「ケナガネズミ」という。でかいうえに毛が長いのだ。夜の森で木の枝から枝へ渡り、ひたすら木の実を食べているこのネズミの生態はいまだ多くの謎に包まれている。

奄美大島でケナガネズミの研究者に、この愛すべき森の住人の話を聞いた。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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強風の中ネズミ探し

7月、バービーという大型の台風9号が沖縄に接近し、ウェザーニュースを賑わせていた日に奄美大島に着いた。

奄美は台風のコースからはかなり離れていたので、ちょい風は強いかもしれないけど楽勝でしょ、と思っていた。しかし、着いてみると強風が吹きすさび、海を見れば荒くれた白波がしぶきを飛ばして堤防を叩いていた。

東映の仁義なき戦いシリーズが始まりそうな白波。

日暮れも近づいた頃、奄美大島随一の繁華街、名瀬市郊外のあかざき公園である人物と合流した。

鹿児島大学の奄美分室で特任研究員として活動している菊池隼人さんである。リスやネズミの生態を研究しており、近年は沖縄、奄美大島の森に住む「ケナガネズミ」というネズミを調査している。

路上を確認する菊池さん。

共通の知人を介して知り合い、一緒にケナガネズミを探すフィールドワークをしてもらうこととなったのだ。

で、そのケナガネズミとは何者か。かいつまんで言うと毛が長くてでかい、それも日本最大のネズミである。

無造作ヘアのように伸びる体毛 (写真提供:菊池隼人)

「成獣の体長は30cmほどで、尻尾を合わせると60cm近くになります。沖縄島の北部と奄美大島、徳之島に住んでいて、国の天然記念物に指定されています。生態に関してはまだわかっていないことが多く、研究が進んできたのもここ10年くらいです」(菊池さん) 

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暗闇の森でドッキリ

私がはじめてこのネズミに出会ったのは2016年、毒蛇のハブを探して奄美大島を訪れた時だった。 

10年前の奄美っす!

夜の林道を歩きに歩いたがハブは見つからず、途方に暮れていた。すると、少し奥まった木の枝がざざっと音を立て、リスザルのような動物が姿をあらわした。

「なんだチミは」「なんだチミはってか」

夜の山でいきなり出くわすとギョッとなるサイズだ。大きさだけでなく、ネズミというにはどこかエキゾチックで全体的に見たことのなさがにじみでていた。

この後に訪れた徳之島や沖縄のヤンバル(北部の原生林)でもちょくちょく出くわした。

15m先でぴょんぴょん跳ねていた。(2018年 徳之島)

行動がミステリアスなこの珍獣に愛着がわきまくっていたところ、今回の機会を得たのだ。

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なぜお前の毛は長いのか

陽が落ちる前の公園を歩きながら、菊池さんにケナガネズミについて聞いた。

「ちょっと風が強いですねー」

--ケナガネズミを見つけるコツはありますか? 

「主に夜に活動しているので探すのは日没後になります。明かりで木を照らして探すことが多いですが、個人的には動き回る音を聞くのが一番探しやすいと思っています。だから、風のない日や虫が鳴かない季節がいいですね」

--今日は虫も鳴いてるし、風はごうごうですね......。

「そうなんですよ(笑)、あとは木の上で実を食べていることが多いので、その食べあとを手がかりにします。このあたりに生えている木だと、ハゼノキとかリュウキュウマツの実がかじられていそうですね」

ハゼノキ。ウルシの仲間でかぶれるおそれあり。
リュウキュウマツの枝をチェック。「中の種を食べるので、十分に成長していて、かつ開いていない松ぼっくりがあるといいですね」

「明るいうちに見つけておくと、近くで活動しているということがわかるので探しやすくなります。足元の安全も確認できますからね」
 

ハブもいますし。

 --そもそもケナガネズミって、なんで毛が長いんですか?

「今のところわかっていません。先祖の毛が長かったのか、毛が長いことで何か有利だったのか、いろいろ想像してみてはいますが……」

--敵から見たら「うわ、食いにくそう!」となったりするんですかね。トゲっぽく見えるし。

「全ての毛が長いわけではないんですよ。3cmほどのふつうのネズミぐらいの毛もあれば、針状の硬質な毛があったり。そして5cmくらいの長い毛が生えています」

数種類の毛が入り混じっている。(写真提供:菊池隼人)

「毛が長いといっても、野外ではそんなには目立たないですよね」

--たしかに。マルチーズやペルシャ猫みたいに、パッと見でながっ!ていう感じではないですね。

「ケナガネズミという名をつけたのは哺乳類学者の青木文一郎という人ですが、彼はおそらく野外でなく標本をじっくり見て、毛が長いという特徴をとらえた和名を考えたのではないかと思っています」 

青木文一郎は日本の哺乳類学者で岐阜大学の初代学長。1915年の著書「日本産鼠科」に「オキナハ(ワ)ケナガネズミ」と記載されている。
もともと「キネズミ」という和名だったが、今(当時)ではリスなどもそのように称したりするので新しい和名を考えたとある。

※引用:青木文一郎 著『日本産鼠科』,東京動物学会,大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/947126

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