特集 2026年9月30日

あなたは日本最大のネズミ「ケナガネズミ」を知っているか

松鼠と書いて「リモ」

日が暮れてきたが風の勢いは衰える気配がない。木の枝はそり返るほどに揺れ、ケナガネズミは見当たらない。ケナガネズミでもボリショイサーカスでもこんな時に枝を歩かないだろうという感じだ。

「もうちょっと風の当たらない林道のほうに行きましょう」菊池さんの提案でスポットを移動した。

「最近見つけたいいポイントなんです」とはいえ風は強め。台風の後ですからね。

--ケナガネズミの生態はまだ謎に包まれているとのことでしたが.......。

「一匹一匹を見分けることが難しいので、寿命や行動範囲など、個体を追うことで見えてくる生態がわかっていないんです。2015年に刊行された哺乳類図鑑※でもケナガネズミの生態については多くの項目で“not reported(報告なし)”と書かれています」

※The Wild Mammals of Japan 2nd edition:日本の哺乳類を網羅した英語版ガイドブック(松香堂、日本哺乳類学会 2015年7月)

やわらかい毛の幼獣。「やわらかい毛の生えた個体が見られる季節は限られています。なので、生まれてから半年~1年くらいで大人と同じ毛になるのではと考えています」(写真提供:菊池隼人)

「もちろん、存在自体は古くから知られていました。1855年に名越左源太という人によって書かれた『南島雑話』という地誌に、『アゼ』や『リモ』と呼ばれる生き物の絵が描かれていて、最古のケナガネズミの記録と考えられています」

「リモ」ことケナガネズミ。「『尾頭白く倭の鼠の如し』とだけ書かれていて、身近な生きものではあるものの、関心の薄そうな気配が漂っています」(菊池さん)

※引用:永井竜一 編『南島雑話』補遺篇,白塔社,昭和8. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1191508

--木の実を食べているところをよく見ますが、それ以外にも好きな食べ物はあるんですか?

「植物から動物までいろいろ食べます。奄美ではカニを食べているところが目撃されてニュースになりましたし、沖縄の調査ではナメクジ(ヤンバルヤマナメクジ)がよく食べられていたようです」

アカメガシワの実をかじりにかじる。(2025年 奄美大島)「いつ見ても何か食べている印象がありますよね」(菊池さん)
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道路に出現!木にはのぼらず

道を無数のクマネズミ(いわゆるネズミ)が横切る。ネズミが好物のハブも多そうだ。

--ケナガネズミはネズミとしては大きいですけど、天敵はいるんですか?

「もともと住んでいる生き物だと、ハブには食べられますね。あとはカラスに襲われることもあります」

最大のネズミもハブには食われる。(写真提供:西真弘)

--奄美固有種のアマミトゲネズミはぴょんぴょん飛び跳ねてハブの攻撃をかわすといわれてますけど、ケナガもなにかそういう防衛策を持っているんでしょうか。 

アマミトゲネズミ。ジャンプしてハブの攻撃をかわす。他の地から移入してきたクマネズミはハブの攻撃に対抗する手段を持たず、格好の餌となっている。

「今のところ、そういう特殊な手段は知られていません。直接対面しているところになかなか遭遇できないのでわからないというのもありますが」

--なるほど、食われたところは目撃されているけど。

「ただ、仮にトゲネズミのような手段がなくとも、ナチュラルに逃れるというのは素敵な生きざまだと思います。ドカベンに出てくる国定忠治※が、自分のことを『たいした特徴もないけど勝つ』と言ってましたけど、それもまた生きる強さなのかと」

※水島新司の名作野球漫画「ドカベン」に登場する赤城山高校の選手。投打ともに優れたバランスの良いスイッチヒッター。いるか?この注釈。

引き合いに出すキャラがしぶい。

ケナガネズミは出てこないが、アマミヤマシギやオットンガエルなど、奄美大島を代表する生き物が次々と姿をあらわし、奄美のアイドル、アマミノクロウサギも出てきた。

お疲れ様です。今日も黒いですね。

さらにしばらくして、強い風に叩かれた顔が疲れてきたころ、菊池さんが声をあげた。

「お、いましたよ!」

我々の10mほど先で待望のケナガネズミが道を横切ろうとしていた。

いた!なんせでかいので、いさえすれば見つけやすい。
アップでどうぞ。かわいい。

ひょこひょこと歩いて反対側のガードレールをくぐり、茂みに消えていった。

バイビー。

近くの木に登ってこないかなとしばらく様子を見たが、人間どもの思惑どおりには動いてくれない。風もやばいことだし、ハブに気をつけて地をゆくがよい。結局この晩見られたのはこの1匹だった。

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ケナガネズミと人間

ケナガネズミは高度経済成長期の大規模な森林伐採や、70年代にハブ対策で移入されたマングース、ノネコ(野生化した猫)などの影響で一時は絶滅が危ぶまれるほどに数を減らした。

1960年代の書物では「ほとんど撮影不可能」と書かれ、2007年の時点でも「今や幻の生き物である」と述べられていた。

約20年にわたる捕獲事業でマングースをついに根絶(2024年に根絶宣言)、ノネコの対策も進み、近年は生息数が回復している。

「最近では繁華街の屋仁川通りで目撃されてニュースになりました。 市街地周辺での目撃や交通事故も起きています」(菊池さん)

飲食店が立ち並ぶ屋仁川通りに出現。こんどは人の生活圏とかぶってきている。

「生息数が増えていることに加え、市街地周辺の森林が成長し、街の近くまでケナガネズミが近づきやすくなっているのではないかと思っています」(菊池さん)

人や社会の営みにほんろうされながら生を繋いできた彼ら。菊池さんたちの研究でその生き様がもっと明らかになってきた時、我々が突きつけられるものはなんだろう。

見かけたら遠巻きに観察しましょう。

最後に菊池さんなりのケナガネズミの推しポイントを聞いた。

「ネズミの仲間には手足に肉球(?)があります。ケナガネズミは大きいので、肉球もまた大きいです。ちゃんと見るのは難しいですが、鮮明なケナガネズミの写真などを見た時は、注目してみてください」

ぷくっとしてかわいい。

 

取材協力:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室 http://cpi.kagoshima-u.ac.jp/AmamiStation/Info/index.html

 

編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
ハブ探しが好きな伊藤さんですが、今回はケナガネズミ探しでした。ケナガネズミもハブ同様日没後の捜索でしたね。
ケナガネズミの毛の写真は、じっくり見てしまいました。数種類の毛が入り混じっているんですね。
最後2枚の写真のケナガネズミがぬいぐるみみたいでかわいいです。(橋田)

ささやかなおまけ
記事で使わなかった写真

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