「秋田にはこの冬一番の寒気が流れ込んでおり!」「どうしても通勤される方はくれぐれもお気をつけて!」朝のニュースのお天気コーナーは心なしか緊張感が漂っていた。こういうこと前にもあったように思う(大雪の北海道取材)。
朝ごはんを食べながら外を見ていると、みぞれ混じりの雨はずっと降り続いているわけではなく、真っ黒な雲がやってきたかと思うと次の瞬間ドバーっと降って、しばらくするとけろっと止むパターンだった。これが東北の天気なんだろうか。
とりあえず雨の間はなるべく交通機関で移動して、止み間に撮影する戦法で取材を進めたい。そんなうまくいくか知らんけど。
五社堂
まずは昨日、観光案内所で聞いた五社堂である。なんでもここはこのあたりの歴史を語るのに外せない場所なのだとか。
入口まで行くとちょっと不安にさせられる空気感だった。
五社堂入口より先に登山道入口と書いてあるのだ。天気が悪いからか、登山口には僕しかいない。
秋田には古くから定期的に鬼がやってきては里で悪さをしていたという。困った人々は鬼と賭けをした。一晩で1000段の石段を作ったら村のおなごを差しだそう。ただしできなかったら二度と来てくれるなよ。
鬼はせっせと石段を作った。このペースでいくと夜明けまでに1000段いくだろう。それはまずい。
999段積み上げたとき、村人の一人が「コケコッコー!」とニワトリの真似をした。
朝が来たと勘違いした鬼は悔しがって杉の大木を一本ひっこ抜き、それをさかさまにぶっさして帰っていったという。
この五社堂、見ての通り小型の神社が5つ横並びになっている。これは全国的にもかなり珍しいパターンなのだとか。そうだろう、見たことないものこんなの。しかも建築様式からして、かなり古いものらしい。
鬼の階段を上ってくる間は雲が途切れてところどころ日が差していたのだけれど、五社堂に着いたとたん風が強まり山がごうごうと音を立てて鳴った。
「ゴゴゴゴゴ……」
鬼が来る!と思った。山の中に一人でいると、ちょっとした自然の変化にも疑心暗鬼に陥るものなのだ。怖くなって五社堂に手を合わせたあと、逃げるようにして帰ってきた。
ゴジラ岩
もう一か所、駅の観光案内所で聞いた場所がこのあたりにあるはず。
ゴジラみたいな形をした岩、それがゴジラ岩。実は石川県や北海道はじめ各地にあるらしいのだが、ここ秋田男鹿半島のゴジラ岩が中でも人気なのだという。
秋田は鬼もゴジラもいるのだ。過酷な環境である。
ゴジラ岩は人気の観光地と聞いていたのだけれど、道路から浜へと降りる階段があるだけで、駐車場もなければ浜に下りたあとは道すらなかった。
雨の止み間にさっと行ってさっと見てこようと思ったのだけれど、足場が悪すぎてそういうわけにもいかないぞこれは。
しばらく行くと明らかにゴジラっぽい岩が出現した。
これは冒険の末に発見!みたいな感動がある。観光地化されていないことがかえってよかった。なにもしない、それが演出なのかも。
風の音がごうごう言っていてゴジラの鳴き声みたいだった。寒すぎて長居できずにたまらず引き返す。
次の行き先を誰かに聞きたくても誰もいないしとにかくこの雨である。途中で見つけた道の駅にいったん避難することにした。
道の駅「てんのう」は特産品コーナーのほかに展望タワーや温泉まで併設していて、たまたま立ち寄っただけなのに充実の道の駅だった。
お店の人にお勧めを聞いたところ、いま作り立てだからおにぎりが美味しいですよ、と。おにぎり?
これが本当に作りたてで、パックを持ち上げるとしあわせな重みと温かさを感じた。さっきまで寒風吹きすさぶ中ゴジラ岩を見てきたあとだったこともあり、その温かさに泣きそうになる。
秋田はなにしろお米が美味い。その美味しいお米に地元の味噌が塗られ、炙られているのだ。そんなの美味しいに決まっているのだけれど、確認のため食べてみると。
甘い味噌にしょっぱい鮭のハーモニー。確実に最後の晩餐の候補に入った。
たけや製パン直売所
もう一件、勧められたわけではないけど、どうしても行きたくて行ってきた場所がある。それは「たけや製パン直売所」。前にも紹介した記事(リンク)があるので、詳しくはそちらを読んでもらいたいのだけれど、この工場のすぐ隣にある直売所がまるでワンダーランドだった。
直売所の駐車場に車を停めると、マスクをしていてもうっとりしちゃうくらいパンのいい香りがする。ノーマスクだったら気絶してたかもしれない。
直売所の店内はお店というより工場の売店という雰囲気だった。
店内のパンは6個で388円。この仕組みに乗らない新作とかでかいパンなんかは市販の4割引きである。つまりびっくりするほど安い。
ずっと気になっていた「バナナボート」を買った。なにしろ秋田の人はバナナボートを食べまくっているというじゃないか。
実際美味しい。コンビニに売られている丸ごとバナナは買うときにちょっと気合いというか思い切りみたいなものがいるが、バナナボートならば気軽に買える。値段も量もちょうどいいのだ。それでいてしっかり美味しくて幸せになれる。