前菜の盛り合わせ
まずは前菜の盛り合わせ。ここでは伊勢うどんを出さずに、伊勢うどんのたれに使われるたまり醤油がどういう味なのか、私がいつもどういうものを食べているのか、この店がなんの店なのかを暗喩してみた。伝わったかどうかは知らない。
東京湾で釣ったタコと育ちすぎたタケノコで作ったメンマのたまり醤油煮、そして家庭菜園で抜いてきた大根に店主が作ったカレーリーフソルトという南インドの風を感じるオリジナル調味料をかけたものである。
昭和初期の伊勢うどんと令和の伊勢うどん
伊勢うどんの聞き取り調査をしていて印象的だったのは、時代によって伊勢うどんに使う小麦粉がまったく違うという話だった。
江戸時代から存在していたという伊勢うどんだが、終戦までは伊勢市周辺をメインに国内で作られた地粉を使っていた。
戦争が終わると外国からたくさん小麦が入ってくるようになり、伊勢うどんも外麦と呼ばれる外国産小麦の粉がメインとなる。ちなみにさぬきうどんに使われる小麦(オーストラリア産ASW)と同じものを使う店も多かったようだ。
そして現在は、国内産小麦の盛り上がりもあり、製麺所の工場長や自家製麺の店主が、己の理想とする柔らかさやコシを追求した伊勢うどんが各種作られている。
そんな流れを感じてもらうために、農林61号という戦時中に開発された小麦にあえて全粒粉を混ぜることで製粉技術の低さを再現した麺と、自家製麺の店で多く使われているあやひかりという小麦の麺を手作りで用意した。
玉子入り伊勢うどん
伊勢うどんには「月見伊勢うどん」と「玉子入り伊勢うどん」が存在する。
なんのことやらと思うだろうが、月見はたれをかけたうどんに生卵を乗せたもので、玉子入りは茹でてすぐに料理人が生卵を絡めて半熟にしてたれをかけたもの。釜玉うどんとかカルボナーラが近いだろうか。
ある店主の話では、地元の人は月見よりも玉子入りを好む人が多いそうだ。
牛肉入り伊勢うどん
伊勢市が松阪牛で有名な松阪市から近いということもあるのか、牛肉が人気のトッピングだという店も多い。薄切りを出汁でさっと煮たもの、スジ肉を伊勢うどんのたれで煮たものなど様々。
一回目はスジ肉を柔らかくなるまで伊勢うどんのたれで煮込み、二回目は霜降りの薄切りをさっとたれで煮て、玉子入り伊勢うどんに乗せてすき焼き風にしてみた。