特集 2024年4月4日

ヨシタケシンスケさんに仕事の話を聞く

先日、ヨシタケシンスケさんにデイリーポータルZの記事を選んでもらった。そのときに一緒にヨシタケさんに仕事について話をきいた。

ただ仕事のインタビューをするだけだと照れくさいので、ビジネスマンっぽいアタッシュケースを改造して専用のケースを作りながら聞くことにした。

ヨシタケさんが選んだデイリーポータルZの記事はこちら

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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専用のケースとはこういうこと

林:
こうやってアタッシュケースのなかのクッションを抜くと、ほらぴったり。

クッションにブロック状に切れ目が入っているので簡単にくり抜ける。ポン酢専用ケースが作れたりするんです。

ヨシタケ:
ザワッとしますよね。中身確認させてくださいって。味もニオイも味ぽんでもちょっといいですかってなりますよね。
林:
検査の機械かけますよね。
ヨシタケ:
味ぽんじゃなくても味ぽんでもザワッとしますよね。
林:
ということをしつつ、話を聞かせていただくという企画です。

人を喜ばせるには種類がある

林:
さて、ヨシタケさんって半年ぐらい会社員だったと書いてあるんですけど、どういうお仕事だったんですか。
ヨシタケ:
最初はクリハラさんと同じ会社。
注)クリハラタカシさん。絵本作家、イラストレーター。デイリーポータルZでも連載していました。
林:
え? ナムコ?
ヨシタケ:
そう。
林:
ナムコにいたんですか。
ヨシタケ:
バンダイナムコになる直前。なんですけど、クリハラさんはコンシューマー向け。プレステのソフトとかを作る部署で、僕はエレメカ部門といって、モグラたたきとかゲームセンターにあるゲーム機の企画開発の部署だったので、職場が違うんですよ。
林:
モグラたたきだったら、ヨシタケさんが大学時代に作られていた作品に近い。
ヨシタケ:
そう。近いと思うじゃないですか。僕も近いなと思ったし、学生時代は自分の一人でやっていたのもをプロの技術とお金で面白いことができるんじゃないかって。しかもあまりゲームのことを知らないから逆になにか新鮮なっていうのがあったんですけど、ゲームセンターに置く機械って人を興奮させないといけないんですよ。
僕のネタはダウナーのやつばっかりで、僕は人をニヤッとさせたりとか、苦笑いさせたりするのが好きだったんですね。
企画書をいっぱい書くんですけど、先輩に、これをゲーム機にしたところでゲームセンターでお金を入れるやつはいないって、至極真っ当なことを言われて。
林:
それは遠回しでなく普通にダメ出しですね。
ヨシタケ:
お前のは読み物としては面白いけど企画書としては0点だと。
林:
けっこう厳しいですね。
ヨシタケ:
でもどこかで読み物としては面白いんだって思って。じゃあ読み物でいいじゃねーかってそのときちょっと思ったんですよね。
人を喜ばせるのって、いろいろタイプがあって、向き不向きがあるんだっていうことに気づいて、おれこっちじゃないって。

ヨシタケ:
意外とわからなかったんですよ。喜ばせ方に種類があって、そこに歴然と向き不向きがあることを。どうすれば人が興奮するかが最後までわからなかったんですよ。
林:
企画力や発想力ってひとつだと思われがちだけど、そうじゃないんですよね。
ヨシタケ:
喜んでもらうのは好きなんだけど、僕ができる方法は一個しかなくて、そっちは専門外なんですよね。
林:
デイリーポータルZのアイディアで宣伝してほしいという話があるんですけど、実は向いてなくて。そういうのって課題解決なんですよね。僕は余計なことをする方向だから。
ヨシタケ:
課題を見つける方ですよね。
林:
人に言われて気付いた。
ヨシタケ:
「おもしろ」っていう大きな枠だけで見られがちだけど、意外と分業化しているというか。専門家が違う。

イラストレーターになるまで

ヨシタケさんは会社で働きながら、同級生の造形の仕事を手伝っていたがそちらの仕事が軌道に乗り始めたことで退職を決意する。

ヨシタケ:
5つぐらいバババッて仕事が来たんです。これやってけるなと思って1.5m向こうの課長に「お話があります」ってメールを書いて。
送信ボタンを押すのが今までで一番難しい2mmだったんですけど。辞めるって言って帰ったら前の日に来ていた仕事の5つのうち4つがなくなっていたんですよ。
林:
ありますね。
ヨシタケ:
だよね〜って。それでも会社を辞めて同級生の彼と2人で14年ぐらい、広告美術の仕事だったりとかコマ撮りアニメの造形物を作ったりをずっとやっていたんです。
イラストレーターは20代の後半ぐらいからぼちぼちお知り合いから仕事をいただくようになりという感じで。
林:
本の『しかもフタが無い』とか出版されて。
ヨシタケ:
30歳のときなんです。あれもイラストレータになりたくてあの本を作ったわけじゃなくて、半年間の会社員であまりにも向いてなかったので、ノートの端っこに気がつくと課長の悪口書いちゃってるんですよ。ボールペンで。やべー書いちゃってると思って。無意識に。職場が狭いので後ろを先輩方が通るんですよ。頻繁に。給料もらってる身でさすがに申し訳ないんで、課長の悪口の下にかわいい女の子を書いて、課長を悪く言ってるのはこの女の子ですよ、キャラクターですよ。僕じゃないですよという一応セーフティーネットみたいなことを。

林:
そんな理由だったんですか。
ヨシタケ:
しかも書いてる手で隠せるように、どのタイミングで人が来てもいいようにちっちゃく書いていたんですね。だから未だに大きな絵が描けない。
林:
全部がすごくネガティブというか。
ヨシタケ:
はい、それは自信満々に言えます。
林:
小動物の進化みたいな。
ヨシタケ:
初期の哺乳類なんですよ。
林:
すぐに身を隠せるようにとか、カモフラージュするとか。
ヨシタケ:
恐竜がいたらチャチャチャって隠れる。だから絶滅しなかったっていう。

林:
アーティスティックにこうあるべきとかじゃないんですね。
ヨシタケ:
ストレス発散でやっていたので、自己表現なんてまるっきりする気はなかったんですよ。作家さんとか自分を表現する人は駅前でギターを掻き鳴らすような自己顕示欲が強い人がなる職業だし。俺を見てくれ、俺の話を聞いてくれっていう人のはずだから、僕はなんにも見てほしくないし、言いたいこともなんにもなかったので。
職人さんになりたかったんですね。言われたことをそのままできる人。「言われた通りなってるでしょ」をお金に変える仕事がしたかったから、造形の仕事は向いていたんです。
イラストのお仕事は楽しくて。お題ありきだし、やることある程度決まってるし。だめって言われてもいくらでも折れられるんですよ。
林:
折れられる!

いったん広告です

ヨシタケ:
時間なかったんだよーとか、クライアントにダメって言われちゃって。自分では納得いってないけどお金もらいたいし、いいよもうってブツブツ言いながら納品できたんですけど、そういう意味では気がラクだったんです。人のせいにできるじゃないですか。
林:
大事ですよね。僕もいま人のせいにしたい。独立したらできなくなったので。
ヨシタケ:
僕も絵本作家になって、人のせいにできないって。あれ、めっちゃこわいんですよね。
林:
飲み会の場所とかもAIに決めてもらって文句を言いたい。
ヨシタケ:
ものを決めるのがとにかく嫌いなんですよ。だから作家になっちゃうと決定権がこっちにうつってきちゃって。最終的に世に出たものが、あなたがGOサイン出したから世に出てるんでしょってなっちゃうから、めっちゃ嫌なんですよ、今。
林:
めっちゃ嫌なんですよ、が続いているんですね。
ヨシタケ:
嫌だなっていう現在進行形です。
林:
嫌だなが続いてますっていう話だ。

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