特集 2021年3月23日

イカの墨で白髪を染めたい

白髪が目立つので、イカの墨で染めてみました。

床屋で髪を切ったら白髪が目立ったので、自分でイカを釣ってきて、そのイカの墨で染めてみようと思った。

成功とか失敗はどうでもよく、とても満足度の高い一日となった。もうすっかり春ですね。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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吾輩は三毛猫である

髪が伸びたので床屋で切ってきたら、黒、白、茶色の三毛猫になっていた。いや猫ではないから三毛人か。

そもそも白髪が多いので、ずっと全体を茶色の白髪染めで染めていたのだが、最近は人に会う機会も少ないからと毛染めをさぼっていたため、伸びた毛を切ったところ、茶色く染めてあった髪、後から生えてきた黒髪と白髪で、三色になったのだ。

本当である。

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髪を切る前。髭は伸ばしているのでなく勝手に伸びた。
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切ってきた後。ほら、三毛だ。

どうしよう、三色過ぎる。三毛猫はかわいいが三毛のおじさんはどうだろう。ちなみに遺伝の関係で、三毛猫はほとんどがメスらしいよ。

誰も私の髪の色に興味ないことは重々承知だが、もしこういう髪色にしたと思われたらちょっと照れる。わざわざ説明するのも面倒だ。

仕方ないから白髪染めを買ってこようかと思ったときに、ふと頭をよぎったのがイカの墨だった。

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以前アオリイカに墨を拭かれた私。怒ったイカと髪の色がお揃いですね。

古代ギリシャではイカ墨をセピアと呼び、インクとして使われたそうだ。

ならばこの白髪、イカの墨でセピア色に染められないだろうか。

スミイカを釣りに行く

イカの種類はとても多く、なんと450種以上も確認されているらしいが、墨をとるならやっぱりスミイカだろう。スミイカの正式名称はコウイカで、大量の墨を吐くからスミイカと呼ばれている。天婦羅や刺身でおいしい人気のイカだ。

スミイカなら東京湾でも釣れるので、釣り好きとイカ好きの友人2名を誘って、早朝の釣り船に乗り込んだ。

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釣り船屋にいた猫が見事な三毛猫だった。お揃いですね。
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スミイカの釣り方はいくつかあるが、シャコをエサにしてテンヤという仕掛けで狙う。この日はシャコ不足のため、貴重なシャコをガードするためカバーをつけている。
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船上から海底にテンヤを沈め、シャコに寄ってきたスミイカを引っ掛けて釣るのだ。
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わかりにくいけど私です。

さっさと結果を書いてしまうが、この日は風が強かったためかスミイカの機嫌がとても悪い日だったようで、私はボウズ(一匹も釣れないこと)で終了となった。おかしいな、前にやったときは釣れたんだけど。

この釣りのベテランである釣り好きの友人は苦戦しつつも5匹くらい釣っていたので、まったく釣れないということはないのだが。まだ釣り経験の浅いイカ好きの友人も2匹仕留めているのに。

「ボウズだけに毛を染められないね!」と、私の中のリトル玉置がうまいことをいう。うるさい。

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この丸っこいのがスミイカ。
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この写真は10年前のもの。スミイカと呼ばれるだけあって、すごい量の墨を吐く。船の上で直接頭に浴びて、染めてみようという話ではない。
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海中で吐かれた墨は粘度が高いのでフワフワと漂う。これが外敵から身を守る分身となっている。

イカが釣れずにしょんぼりしていたら、「私のイカで染めてください」と、イカの同人誌(こちら)を出すほどイカ好きの友人が、生きた状態で墨袋を縛ったイカを一匹くれた。

普通なら釣り上げたスミイカは、入れておくタルの中で多くの墨を吐いてしまうが、この特殊な結束処理をすることで、貴重な墨を吐かすことなくキープできるそうだ。さすがイカマニア。

できれば自分で釣ったイカで染めたかったが、次の機会を待っていたら長毛の三毛になってしまう。ここはありがたくいただこう。

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漏斗につながる部分を固定してから、結束バンドで縛るらしいよ。
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ありがとうございます!
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スミイカの墨袋はかっこいい

帰宅後、早速いただいたスミイカから墨袋を取り外す。以前にスミイカの墨を使った料理は何度かやっているのだが、さすがは結束処理をしたイカだけあり、墨袋がパンパンで驚いた。

わざわざ縛らなくても体内の墨をすべて吐ききる訳ではないので、多少は残っているのだが、こんな満タンの墨は初めてである。また墨が漏れないので、大変捌きやすかった。

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いただいたスミイカ。墨で汚れることもなく綺麗な状態。
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スミイカの本名はコウイカなので甲が入っている。インコなどの栄養補助になるやつだ。
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スミイカにはボタンもある。詳しくは加藤さんの記事でどうぞ。墨で汚れていないから観察しやすいんですよ。
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縛られた墨袋がでてきた。体の大きさに対して、すごく大きいのがわかるだろうか。
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参考までに、スルメイカの墨袋はこのサイズ。中央の爪楊枝くらいの黒い棒がそれだ。
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たっぷり。イカ墨で料理をするにしても、縛ってあったほうが圧倒的に楽そうだ。
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それにしても墨袋ってかっこいいね。
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オパールにも負けない輝きを放っている。これで髪を染められるなんて幸せだ。
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この緑色の部分が特に美しい。宇宙が詰まっているみたいだ。イカは小宇宙(コスモ)。
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墨袋はそれなりに硬い。どうやって墨を絞り出そうかな。一滴も無駄にしたくない。
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縛ったところを切って開封すればいいのか。すごい楽ちん。
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ベットリと濃厚な墨がとれた。これなら私の白髪も染まってくれるだろう。

こうして想像以上に黒い最上級のイカ墨が用意できた。この濃さと量なら、一匹分でもかなりの量を染められるだろう。

想像していたセピア色というよりは、ブローネでいったら「ナチュラルブラック」、ビゲンでいったら「8G」くらい真っ黒に染まりそうけど。

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毛染めといえばアレルギー反応がでると大変なので、一応パッチテストもしておいた。
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イカ墨で白髪を染めてみる

それでは墨が新鮮なうちに、はりきって白髪を染めていこう。こういうのは冷静になったら負けである。

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耳が染まりそうだったので、イヤーキャップを用意した。
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染める前。
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ものすごく濃厚で墨汁よりも全然濃い。
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真ん中分けにして、まずは右側だけ染めてみようかな。
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濃すぎて伸びが悪いため塗りにくいけど、だからこそちゃんと染まってくれるはず。
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伸びないので予想よりも消費量が多い。ちょっと水で薄めたほうが量も増えるし塗りやすいかな。
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蛇口から直接注いだら水が出過ぎた。横着したらダメだよね。
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先に塗った部分が渇いちゃって、クシが通らず頭皮が引っ張られる。
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さらにピンチ、イヤーキャップが落ちてきた。
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今度は墨が顔に垂れてきた。我が人生で大槻ケンヂに一番近づいた瞬間だ。おじさんはいい塩梅。
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半分塗ったところで墨が終わってしまった。そうなるかなとは思っていたけど。二色の頭で眼鏡を掛けたら人気ユーチューバーの大ファンみたいですね。
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半分だけど綺麗に塗れたと思ったが、死角部分を確認すると耳の裏が濡れていないし、首のあたりが汚れまくり。そしてこの写真を撮ったときに首の筋を痛めた。

こうして黒猫と三毛猫のハーフができあがった。オッドアイならぬオッドヘアー。想定とは違う染まり方だが、これはこれでいい気がする。

鏡に映った自分を見て、全日本女子プロレスに入門して、ブル中野の下で悪役レスラーになるストーリーを夢想した。汚れてもいい服として黒のジャージを着ているからかも。

イカ墨が乾いてカチカチになったところで、せっかくだからとこのままコンビニまで買い物にいってみたが、店員さんは特にリアクションをなかった。私が店員の立場でもリアクションはしないけど。

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自分がもともとこういう髪型だった気がしてきた。人ってすぐに慣れるね。
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イカの墨は乾くとバリバリになるという学びがあった。

白髪はちゃんと染まったのだろうか

毛染めから一時間が経ち、もうしっかり白髪が染まったものと信じて、風呂場でイカ墨を洗い流す。

頭からダラダラと流れる黒い水を眺めながら、自分の髪がどうなっているかを想像する。心配な点が多々あるが、染まっていると信じたい。

よくタオルで水分を拭き取り、白髪を染めた洗面台に立つと、鏡には染める前の見慣れた自分が写っていた。やっぱりダメかー。

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風呂に入ってさっぱりしてはいるが、髪の毛はまったく染まっていない。

顔に垂れた墨が簡単に拭き取れたので、もしかしたらイカ墨の染める力は弱いのかもとは思ったが、ここまできれいさっぱり落ちるとは。インクに使われていたということなので、髪じゃなくて紙なら残るんだろうけどね。

いやでもよく見れば、水で薄める前の原液で染めた分け目の根本部分が、少し黒く染まっているような気もする。そう信じたい。例え効果は薄くても、信じて続ければいつかイカ墨色に染まるはず。続けないけど。

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微妙に染まっているような気もするけど、誤差の範囲だな。ちょっと毛艶がよくなったので、豊富なアミノ酸によるトリートメント効果はあるかもね。

白髪を染めるという目的に対しては無意味な結果に終わったが、人生で一度きりの体験としては、とても楽しかったので後悔は一切ない。それにしても一生分の自撮りをした気分だ。

イカの墨で白髪は思ったほど染まらない。それがわかったからなんだという話だけど、こういう知識こそ我が人生の糧となるのだ。たぶん。

でも考えてみれば、髪を黒くできるのに洗えば落ちるというのがメリットかもしれない。親に金髪だと知られたくないバンドマンが実家に帰らなきゃいけない時とか、一日だけ黒髪のコスプレをしたいときとか、イカ墨があれば解決だ。ちなみにまったく生臭くはなかった。夏場はどうなるかわからないけど。

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毛染めの時に墨がそこら中に飛び散っていたので、水で簡単に落ちてくれてよかった。

いつか推理小説を書く機会があれば、殺人事件の犯行現場で黒髪の男が目撃されたが容疑者は金髪、ただしイカ釣り名人だったというトリックを使おうと思う。

君にこの謎が解けるかな?


イカ墨による白髪染めに失敗してから一か月が経ったが、どうでもよくなって三毛髪はとりあえあずそのままになっている。どうせなら今度はちゃんとした白髪染めを使って、また半分だけ黒く染めようか。

スミイカの墨は顔についても簡単に落ちることが分かったから、また年末あたりにスミイカ釣りに行って、今度こそ自分で釣り上げて、生きたままの墨袋縛りにチャレンジして、書初めや羽子板の罰ゲームで顔に塗る墨にして、2022年の正月を祝いたい。

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スミイカの身はおいしくいただきました。
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