イカ墨による白髪染めに失敗してから一か月が経ったが、どうでもよくなって三毛髪はとりあえあずそのままになっている。どうせなら今度はちゃんとした白髪染めを使って、また半分だけ黒く染めようか。
スミイカの墨は顔についても簡単に落ちることが分かったから、また年末あたりにスミイカ釣りに行って、今度こそ自分で釣り上げて、生きたままの墨袋縛りにチャレンジして、書初めや羽子板の罰ゲームで顔に塗る墨にして、2022年の正月を祝いたい。
床屋で髪を切ったら白髪が目立ったので、自分でイカを釣ってきて、そのイカの墨で染めてみようと思った。
成功とか失敗はどうでもよく、とても満足度の高い一日となった。もうすっかり春ですね。
髪が伸びたので床屋で切ってきたら、黒、白、茶色の三毛猫になっていた。いや猫ではないから三毛人か。
そもそも白髪が多いので、ずっと全体を茶色の白髪染めで染めていたのだが、最近は人に会う機会も少ないからと毛染めをさぼっていたため、伸びた毛を切ったところ、茶色く染めてあった髪、後から生えてきた黒髪と白髪で、三色になったのだ。
本当である。
どうしよう、三色過ぎる。三毛猫はかわいいが三毛のおじさんはどうだろう。ちなみに遺伝の関係で、三毛猫はほとんどがメスらしいよ。
誰も私の髪の色に興味ないことは重々承知だが、もしこういう髪色にしたと思われたらちょっと照れる。わざわざ説明するのも面倒だ。
仕方ないから白髪染めを買ってこようかと思ったときに、ふと頭をよぎったのがイカの墨だった。
古代ギリシャではイカ墨をセピアと呼び、インクとして使われたそうだ。
ならばこの白髪、イカの墨でセピア色に染められないだろうか。
イカの種類はとても多く、なんと450種以上も確認されているらしいが、墨をとるならやっぱりスミイカだろう。スミイカの正式名称はコウイカで、大量の墨を吐くからスミイカと呼ばれている。天婦羅や刺身でおいしい人気のイカだ。
スミイカなら東京湾でも釣れるので、釣り好きとイカ好きの友人2名を誘って、早朝の釣り船に乗り込んだ。
さっさと結果を書いてしまうが、この日は風が強かったためかスミイカの機嫌がとても悪い日だったようで、私はボウズ(一匹も釣れないこと)で終了となった。おかしいな、前にやったときは釣れたんだけど。
この釣りのベテランである釣り好きの友人は苦戦しつつも5匹くらい釣っていたので、まったく釣れないということはないのだが。まだ釣り経験の浅いイカ好きの友人も2匹仕留めているのに。
「ボウズだけに毛を染められないね!」と、私の中のリトル玉置がうまいことをいう。うるさい。
イカが釣れずにしょんぼりしていたら、「私のイカで染めてください」と、イカの同人誌(こちら)を出すほどイカ好きの友人が、生きた状態で墨袋を縛ったイカを一匹くれた。
普通なら釣り上げたスミイカは、入れておくタルの中で多くの墨を吐いてしまうが、この特殊な結束処理をすることで、貴重な墨を吐かすことなくキープできるそうだ。さすがイカマニア。
できれば自分で釣ったイカで染めたかったが、次の機会を待っていたら長毛の三毛になってしまう。ここはありがたくいただこう。
帰宅後、早速いただいたスミイカから墨袋を取り外す。以前にスミイカの墨を使った料理は何度かやっているのだが、さすがは結束処理をしたイカだけあり、墨袋がパンパンで驚いた。
わざわざ縛らなくても体内の墨をすべて吐ききる訳ではないので、多少は残っているのだが、こんな満タンの墨は初めてである。また墨が漏れないので、大変捌きやすかった。
こうして想像以上に黒い最上級のイカ墨が用意できた。この濃さと量なら、一匹分でもかなりの量を染められるだろう。
想像していたセピア色というよりは、ブローネでいったら「ナチュラルブラック」、ビゲンでいったら「8G」くらい真っ黒に染まりそうけど。
それでは墨が新鮮なうちに、はりきって白髪を染めていこう。こういうのは冷静になったら負けである。
こうして黒猫と三毛猫のハーフができあがった。オッドアイならぬオッドヘアー。想定とは違う染まり方だが、これはこれでいい気がする。
鏡に映った自分を見て、全日本女子プロレスに入門して、ブル中野の下で悪役レスラーになるストーリーを夢想した。汚れてもいい服として黒のジャージを着ているからかも。
イカ墨が乾いてカチカチになったところで、せっかくだからとこのままコンビニまで買い物にいってみたが、店員さんは特にリアクションをなかった。私が店員の立場でもリアクションはしないけど。
毛染めから一時間が経ち、もうしっかり白髪が染まったものと信じて、風呂場でイカ墨を洗い流す。
頭からダラダラと流れる黒い水を眺めながら、自分の髪がどうなっているかを想像する。心配な点が多々あるが、染まっていると信じたい。
よくタオルで水分を拭き取り、白髪を染めた洗面台に立つと、鏡には染める前の見慣れた自分が写っていた。やっぱりダメかー。
顔に垂れた墨が簡単に拭き取れたので、もしかしたらイカ墨の染める力は弱いのかもとは思ったが、ここまできれいさっぱり落ちるとは。インクに使われていたということなので、髪じゃなくて紙なら残るんだろうけどね。
いやでもよく見れば、水で薄める前の原液で染めた分け目の根本部分が、少し黒く染まっているような気もする。そう信じたい。例え効果は薄くても、信じて続ければいつかイカ墨色に染まるはず。続けないけど。
白髪を染めるという目的に対しては無意味な結果に終わったが、人生で一度きりの体験としては、とても楽しかったので後悔は一切ない。それにしても一生分の自撮りをした気分だ。
イカの墨で白髪は思ったほど染まらない。それがわかったからなんだという話だけど、こういう知識こそ我が人生の糧となるのだ。たぶん。
でも考えてみれば、髪を黒くできるのに洗えば落ちるというのがメリットかもしれない。親に金髪だと知られたくないバンドマンが実家に帰らなきゃいけない時とか、一日だけ黒髪のコスプレをしたいときとか、イカ墨があれば解決だ。ちなみにまったく生臭くはなかった。夏場はどうなるかわからないけど。
いつか推理小説を書く機会があれば、殺人事件の犯行現場で黒髪の男が目撃されたが容疑者は金髪、ただしイカ釣り名人だったというトリックを使おうと思う。
君にこの謎が解けるかな?
イカ墨による白髪染めに失敗してから一か月が経ったが、どうでもよくなって三毛髪はとりあえあずそのままになっている。どうせなら今度はちゃんとした白髪染めを使って、また半分だけ黒く染めようか。
スミイカの墨は顔についても簡単に落ちることが分かったから、また年末あたりにスミイカ釣りに行って、今度こそ自分で釣り上げて、生きたままの墨袋縛りにチャレンジして、書初めや羽子板の罰ゲームで顔に塗る墨にして、2022年の正月を祝いたい。
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