お面をつくる
自分の分身、コピーロボットを手に入れた気分を味わう為にはどうしたらいいのか? 検討の結果、下記の方法で実現させる事にした。
1.自分のお面を作る。
2.それを協力者に着けてもらい自分の代わりに行動してもらう。
で、まずはお面作りだ。
A4用紙いっぱいに自分の顔を印刷し、それを発泡スチロールのパネルに貼りつけ、裏にゴムをつける。簡単な工程だが、7つほどのお面を作るのに小一時間かかった。
机の上に並ぶ自分の顔、顔、顔。全員こっちを見てて、しかも全部自分。自分祭りもいい加減にしろ、と自分に言いたい。
協力者が集まった
次にこれを着けてもらう協力者だが、本サイトのライター陣に協力をあおぐことにした。ちょうどいいタイミングで大阪のBBフェスタがあり、そこにライター陣が集まる予定になっていた。絶好の機会なので事前に相談すると、前日から大阪に入る林さん、小野さん、乙幡さん、べつやくさん、宮城さん(ライターではないが、エアギター奏者としてBBフェスタに参加)の5名が、僕のコピーロボット役を快諾してくれた。
全員同じ新幹線で大阪に向かう事になっていたので、東京駅で待ち合わせた。
大阪に着いてしまったら会場の準備やらリハーサルやらで忙しい。みんなにコピーロボットを演じてもらえるのは、東京から新大阪に着くまでの間しかない。
という訳で、東京駅で早速僕のお面を配った。全員快諾してくれただけあって、躊躇なく僕のお面を着けてくれた。
一気に自分が増殖する
待ち合わせ場所には他の乗客も結構いて、こちらの様子に気付き始めている。
なんだアレ? 全員同じ顔してるぞ。
そこで僕は気付いた。
あっ、この企画、僕が一番恥ずかしい。
ライターさんたちに恥ずかしい思いをさせてしまって申し訳ない。実行前はそんな風に考えていたのだが、ライターさんたちは僕の顔で自分の顔が隠れているのだ。逆に、いつもより大胆になれるのではないか? 僕のお面をつけた林さんが食品サンプルを触って喜んでいる姿を見てそう思った。
しかし、ここで気後れしてはいけない。
せっかくのコピーロボットたちなのだ。新幹線が出発するまでの間、コピーロボットたちと一緒に動いてみた。
全員で新大阪に向かう
コピーロボットの便利さは、自分のいない場所で自分の代わりに何かをしてもらえる所にある。
その利点を最大限に生かすため、コピーロボットたちには停車駅毎で途中下車してもらう事にした。新大阪までに停まる、品川、新横浜、名古屋、京都の4駅でそれぞれ何かしらの用事をこなしてもらう。そうすれば、僕本人は時間通りに新大阪に着いているのに、僕のコピーたちが僕の代わりに色々な土地で何かしてくれている事になる。
この合理性こそがコピーロボットの醍醐味だろう。
しかし、降りる駅が4つなのに対しコピーロボットは5人いる。
一人余ってしまうので、住1号は出発直前にトイレに行きたくなった、という設定で予定の新幹線に乗り遅れてもらう事にした。
実際、僕は大事な時に限ってトイレに行きたくなる癖があって困っていた。そんな時、コピーロボットがいれば大切な用をこなしながら、トイレで用もたせる。
なんて便利なんだ、コピーロボット。まあ、新幹線の中で用をたせば済むことですけども。その辺は深く考えず、住1号を東京駅に残し、住本人と住のコピー4人は新大阪へ向かう。
次の品川駅では住2号に下車してもらい、品川駅構内にあるスターバックスでキャラメルフラペチーノを飲んで来てもらう。新幹線の珈琲はあまりおいしくない。
続いての停車駅は新横浜。住3号の出番だ。
ここでは崎陽軒のシウマイ弁当を買って来てもらおうと思う。
都合のいい事に崎陽軒の売店がホーム上にあるので、急げば停車時間内に買って戻れるかもしれない。そうすれば、住本人がシウマイ弁当を食べる事が出来る。
次の停車駅、名古屋まではしばらく時間があるので、住3号が買って来てくれたシウマイ弁当をゆっくりといただく事にした。
名古屋、京都でも途中下車
東京から約1時間半。
住本人と住3号、4号、5号を乗せた新幹線は定刻通り名古屋に到着した。
名古屋駅近くに大きなポケモンのいる遊園地が見えたので
「あっ、万博会場だ!」
と住本人がはしゃいでいると、
「あれは万博会場じゃないですよ」
と住5号が教えてくれた。時には間違えも正してくれる。本当に便利なコピーロボットだ。
ここ名古屋では、住4号に下車してもらう。
ホームのきしめん屋さんがおいしいというので食べて来てもらうのだ。
東京、品川、名古屋と3人のコピーロボットがいなくなり、住本人が乗る新幹線には新横浜で間に合った3号と京都で降りる予定の5号だけとなった。
京都まではあと約40分。住5号からビールをすすめられた。
大阪に着いてからBBフェスタの準備もあることなので、ここは住本人は飲まずに、住5号に2本とも飲んでもらう事にした。
これがもし本当のコピーロボットだったら、僕本人がビールを飲んでフェスタの準備はコピーロボットにやってもらうところだが、そこはやはりあくまでもコピーロボット「気分」な訳で、ぐっとこらえたのだ。
京都駅のホームでしっかりと立っていられなくなった住5号。
慌てて2本飲んでしまったのが効いたのだろうか。
京都では、生八つ橋を買って来てもらおうと思っていたのだが、ちゃんと買えるだろうか? ちゃんと新大阪まで来れるだろうか?
コピーロボットからの報告
そんなこんなで、住本人と住3号は時間通りに新大阪に到着した訳だが、ここでコピーロボットのもう一つの機能を活用したい。
ご存知だろうか。コピーロボットの額に自分の額をつけると、その日コピーロボットの体験した事を見る事が出来るのだ。
各駅で途中下車していったコピーロボットたちはそれぞれに何をやっていたのか。コピーロボットの額から記憶を移してもらう感覚で、以下、コピーロボットたちからの報告をご覧下さい。
東京駅から乗り遅れた住1号からの報告
まず最初にホームにいた係員さんに撮影を頼んだのですが、「次の列車来るから」と言われて断られてしまいました。それはそうだと思いましたが、たぶん列車がしばらくこなかったとしても別の理由で断られた感じがします。
そのあとガムを買ってキオスクのおばちゃんに撮ってもらいましたが、こちらは協力的でうれしかったです。「罰ゲームでして…」という嘘の言い訳をした分、「がんばってね」とはげまされて少しホロッときました。
僕がホロッと来るのはいつもなんかずれてる場面ばかりです。
(小野法師丸)
品川で下車した住2号からの報告
前日、軽い気持ちで引き受けたが、よくよく考えると相当恥ずかしい気がしてきた。でも寝たら忘れた。
品川駅でお面をつけたまま降り、手を振って一団と別れた後すぐに面を外したが、周囲の幾人かがこっちを見ている気配がする。その方向に向くと、目をそらされた。スターバックスに急ぐ。
さいわい、店の構造上、売り場だけを向いてれば全ての用がすむ(椅子の並んだ方面に背を向ける)格好だったので、お面を装着して列に並ぶ。すいてたので、お店の人に「あの、ある企画でこういう面をかぶって撮影するので、怪しいものではありません」と言うと、目はびっくりしたままだが笑顔でうなずいてくれた。あまつさえ、品を渡してくれるときに「ご苦労様です」と笑ってくれた。
ストローやナプキンを調達するコーナーで自分撮りをするがうまくいかない。そばで品を待っていたサングラスのおとなしめの男性に「あの、(以下お店の人に言ったことの繰り返し)なので、申し訳ないんですがシャッター押してくださいませんか」と言うと、たぶん内心びっくりしている感じの苦笑を浮かべたあと、シャッターをきってくれた。
(乙幡啓子)
名古屋で下車した住4号からの報告
・ノーマルきしめん。340円スミ。
・食券出してから10秒ぐらいできしめんが出てきたスミ。
・きしめんはとても熱く、ふーふーしても全く冷めなくて困ったスミ。
・最後の3口ぐらいになってやっと味がわかったが、その時点できしめんは、もう伸び気味だったスミ。残念スミ。
・汁はかつおだしでうまかったスミ。
・暑い日に熱いもの食べたので、ものすごい勢いで汗が毛穴から
吹き出したスミ。
・店内で売っていたおにぎりに「みぞれ」というのがあったスミ。
「あさりのつくだ煮」のおにぎりのことらしいスミ。でも、店のおっさんは「あさりのつくだ煮って書いたら売れなさそうだし」って言ってたスミ。
・名古屋から乗った新幹線の席の、私の後ろの席に座ってた子供が、席を蹴ってくるのが嫌だったスミ。
(べつやくれい)
京都で下車した住5号からの報告
住5号からは、以下写真のみの報告となります。
結局、京都で住1号、住2号、住4号、住5号は同じ新幹線に乗り合わせる事となったらしく、最後にコピーロボットの集合写真が撮影されていた。
で、コピーロボット気分は味わえたのか?
コピーロボットたちからの報告を後日いただいた時、少しコピーロボット気分を味わえた様な気がした。あの日、あの時、東海道新幹線沿いには、確かに僕と僕らしき人物が同時多発していた訳で、例えば、名古屋駅のホームに僕の知人がいたとして、僕のコピーを見て「あれ?住?」って思ったかもしれないのである。
そして、今回のレポートで特筆すべき点は、4ページ中、僕の顔が載っていない写真が2枚しかないというところである。デイリーポータル史上、こんなレポートは初めてだと思います。すみません。