「学芸員と行く立山氷河眺望ツアー」に参加
8月の下旬、朝7時の富山駅に集合し、貸切バスに乗り込む。
バスは駅を出て富山湾とは反対側の立山方面へ向かう。路面電車が走る街並みを抜けて常願寺川(じょうがんじがわ)沿いに山道を登り、1時間ほどで立山アルペンルートの起点、立山駅近くの「立山カルデラ砂防博物館」に着く。
ここで学芸員や山岳ガイドが合流して参加者が揃うと、バスはさらに蛇行しながら立山有料道路を行き、標高2450mの室堂平(むろどうだいら)を目指す。
バスの中で学芸員の福井幸太郎さんから今回のツアーの概要が語られた。
「室堂平で下車してから1時間くらい、標高2700mの一ノ越(いちのこし)まで歩きます。休憩をはさんでまた1時間ぐらいで雄山(おやま)の山頂に着いたら、足元に見える御前沢(ごぜんざわ)氷河の解説をして、お弁当を食べて戻ります」
ルートはこんな感じ。
私が参加したのは(一社)地域・観光マネジメントが主催する「カルデラ博物館学芸員と行く『立山の氷河眺望ツアー』」である。
※写真は復路で撮影
氷河を見るといっても氷河といったらグリーンランドやパタゴニアとかの 「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」みたいなところでしょ、と思っていた。しかし、自分が無知であることを知っているので調べてみたら、国内にも氷河が存在していることがわかった。
その氷河が学術的に氷河と認定されたのは2012年、かなり最近だ。
立山カルデラ砂防博物館の研究チームにより、北アルプスは立山蓮峰の雄山東面の御前沢雪渓、剱岳東面の三ノ窓と小窓雪渓※が調査され、氷河であると学術的に認められたのだ。
※夏でも局所的に残る積雪のことを雪渓(せっけい)とよぶ。雪渓が氷河となる仕組みは後述。
そのうちのひとつ、御前沢氷河は雄山の山頂から見下ろして観察することができる。その雄山に登り氷河を見よう、しかも実際に氷河を調査した学芸員さんの解説付きですよ、というスペシャルなツアーなのだ。
立山連峰で日本初の氷河を確認した研究メンバーの一人である。
標高約1900m、車窓の向こうにはラムサール条約に登録された湿原、弥陀ヶ原(みだがはら)が見えてくる。
「この弥陀ヶ原を越えてしばらく行くと、草原にこれまで無かった大きな岩が転がっているのが見えてきます」(福井さん)
「この岩は川もないのにどうやって運ばれてきたのかというと、氷河のしわざだと考えられるんですね。最終氷期という、今から6万年〜3万年ぐらい前の、今よりずっと寒い時代に氷河がここより高いところから岩を運んできました」
「そして温暖になると氷河は溶けてなくなり、岩がここに迷子石として残りました。つまり、かつて氷河がここまで発達していたという証拠のひとつになっているわけです」
氷河が岩を運んできたとは、つまり氷河とは川のように流れのあるものなのか?
「雪が積もって長い間溶けずに厚みを増すと、重さで押し固められて氷になります。この厚みが20mや30mになってくると、その重みで変形して流れ始めます。同時に、岩盤の上をゆっくり滑ります。おもにこの2つの動きで流動する氷体が氷河となります。氷があっても動かないのは万年雪ですね」
この風景をふつうに見ても「カリッとしたいい岩じゃな」と通り過ぎるだけだっただろう。福井さんの解説で、なにげなく転がっている岩に秘められた大地の物語が見えてくるのだ。
まだバスを降りてもいないのにアツいことになってきた。
雄大な氷河地形「山﨑カール」は読み方注意
標高2450m、立山アルペンルートの登山や周遊の拠点となる室堂平でバスを降り、標高3003mの雄山頂上を目指す。
行く手には目指す雄山の頂上が見える。この雄山に連なる大汝山、富士折立の3つのピークを合わせて「立山」と呼んでいる。
「立山といっても立山という山があるわけではないんです」
この雄大な山々に刻まれたダイナミックな凹凸にも、氷河のお仕事が隠れている。
「ここからは国の天然記念物に指定されている『山﨑カール』という貴重な氷河地形が見られます」
「雄山と隣の大汝山の直下に険しい崖が見えます。圏谷壁(カール壁)という地形です。その下にフラットな斜面があって、それが圏谷底(カール底)と呼ばれています」
「最終氷期にはあのあたりに氷河が流れていて、氷河が岩盤を削ってできた地形です」
「で、岩を削る時に出た土砂はそのまま氷河と一緒に下流に流れていき、末端のほうで堤防のように積み上がっていきます」
「こうして丘のように盛り上がったのが『モレーン』と呼ばれる地形で、年代別に3段のモレーンが作られています」
川が侵食して作るV字谷とはまた違った、独特なダイナミックさで足跡を残している。氷河期世代とか自嘲気味に言ったりもしていたが、氷河すげえ。

