人類みな氷河期
氷河期とは、陸地を覆う厚い氷の塊(氷床)が存在する時代と定義される。つまり、グリーンランドや南極に氷床がある現在は氷河期(の中でも温暖な間氷期)であり、言ってみれば、私の世代に限らず今を生きる人々はみな氷河期世代である。だからバブルもゆとりもZもみなさん遠慮なく氷河に着目していただきたい。いや、おもしろいですよ。
まだ見ぬ氷河を目指してジオな絶景を堪能しながら登山道を行く。
「ここに少し雪が残っているんですけど、これは去年の冬の雪です。冬には20メートルぐらい積もっていたので、1年足らずでも下のほうの雪は押し固められて氷のようになります」
「これから行く御前沢氷河では谷底に厚さ20~30mの氷が長い間押し固められている状態となっています。その重みで変形したり岩盤の上を滑ったりして動いていくと氷河になるわけです」
標高2700mの中継地点、一ノ越に来ると、さっきまでほぼピーカンだった空に雲が沸くように広がってきた。山の天気は変わりやすいというがとにかく目まぐるしい。
ここから角度は厳しくなり登山道はあるものの岩ごろごろの悪路となる。いままでしゃくしゃくだった余裕がくしゃくしゃになってきた。
室堂平を出発しておよそ2時間、ついに雄山山頂にたどりついた。(毒蛇の)ハブを探して沢を谷底まで降りていったりするから楽勝だろうと思っていたが、いざ登ってみると結構しんどかった。しかし、いないかもしれないハブと違ってゴールがあるのが気持ちいい。
ここから東側の斜面を見下ろすと目的の氷河が見られる、のだが......。
「ちょっとガスがかかっちゃってますが、うっすらと見えていますね」
目をこらすとかろうじて白ずんだ地面と空間の境目が見えてくる。今回はこのようなもやっとした感じで終わってしまうのか、この見通しのなさが氷河期世代だというのか。
こういう時はそうだ、とりあえず飯を食べよう。そうやって生きてきた。
昆布じめやえび天に舌つづみを打っていると、いつのまにか視界がクリアーになってきた。
10分とたたないうちにガスが晴れて、眼下に御前沢氷河がその姿を現したのだ。いそいで食事を済まし、弁当の空箱をザックにしまう。
「かなり下の方まで見えてきましたが、御前沢氷河は長さがだいたい800mくらいあります。去年から今年にかけて降った雪が5メートルぐらい積もっていて、その下に30mぐらいの厚い氷があり、下流のほうに年間数十センチほど流動しています」
しかしこれだけ存在感のある雪渓が氷河と認定されたのが2012年とかなり最近なのは意外だ。
「あそこまで行くのが大変なんですよ(笑)。調査となると機材も持っていかなければならないし。氷の厚みを測定するアイスレーダーが小型化して実用的になったので、それで調査したらあの下に厚さ20m~30mの氷があることがわかりました。2009年からGPSを使った動きの測定などの調査を続けて、2012年に日本初の現存する氷河として認められました」
「その後、砂防カルデラ博物館や新潟大学の調査が進んで、2025年現在で9ヶ所の氷河が見つかっています」
「世界的な分布で見ると極東アジアの氷河の南限はこれまでカムチャッカ半島だったんですが、立山の発見でかなり南下したことになります。標高も高くなくて、かなり温かいところにある氷河なんですね。だから温暖化で真っ先に溶けて無くなると言われましたが、もっと寒冷地にある氷河が無くなったり縮小しているなかでも、ほとんど減らずに残っているんです」
「その要因や構造を調べると共に、今後の気象条件などで急に減少してしまう可能性もあるので経過もしっかり調査し続けたいと考えています」
氷河は動いていないようでじりじりとゆっくり動き、厳しい環境で減少や消滅が心配されながらも、なんとか生き抜いていた。
氷河自体のおもしろさにぐいぐいと魅かれ、氷河期世代としてシンパシーを感じて山を降りる。そんなフィールドワークだった。
氷河期とは、陸地を覆う厚い氷の塊(氷床)が存在する時代と定義される。つまり、グリーンランドや南極に氷床がある現在は氷河期(の中でも温暖な間氷期)であり、言ってみれば、私の世代に限らず今を生きる人々はみな氷河期世代である。だからバブルもゆとりもZもみなさん遠慮なく氷河に着目していただきたい。いや、おもしろいですよ。
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