天然ゴムにもグレードがある
念のため”あの輪ゴム”をおさらいしておこう。
オーバンドを製造するのは、大阪市西成区に本社を構える株式会社共和。創業は1923年。輪ゴムを作り続けて今年100年の老舗企業である。
年間の製造数は約2000トン。用途に合わせて73サイズを取り揃え、工業、農業、漁業をはじめ幅広い業界で使用され、そして実家の台所あたりに絶対1箱ある。
その箱を作っている工場のひとつが、株式会社共和 泉佐野工場である。
さて、改めて本日のスタート地点とゴール地点を確認しよう。ざっくり言うと以下の写真のようになる。
その天然ゴム、工場になるとこんな感じで積まれている。
共和では天然ゴムにこだわり、グレードの高いものを使っているという。
天然ゴムのグレードって何で決まるんですか? という質問に、午前中に話をうかがった池田さんは「不純物が少ない」ことを挙げていた。
池田さん 天然ゴムは、ゴムの木に傷を付けて、カップに樹液を集めたもの。カップの下の方は不純物がたまりやすく、出始めの樹液なので品質が悪いんです。カップの上澄みのほうは不純物が少なく、高いグレードとして取引されています。
池田さんは「天然ゴムの素材に近いものって、日常生活で目にするのは輪ゴムくらいなんですよ」と言う。
実際に見せてもらって分かったけど、「輪ゴム」と聞いて思い浮かぶあのアメ色は、天然ゴムの色そのままなのだ。
東南アジアの熱帯雨林で採れたものが、ほぼそのままの色で僕の家にある。なんだかふしぎな気持ちになる。
天然ゴムは重くて固い
しかし、いくらグレードの高い天然ゴムといっても、そのままでは輪ゴムにはならない。東南アジアから遠路はるばる運ばれてきた天然ゴムは、最初ガッチガチに固い。
まずはこのガチガチの天然ゴムを柔らかくしないといけない。ミキサーのような機械に天然ゴムと添加剤を投入し、混ぜ合わせていく。
南さん 添加剤には、天然ゴムに弾性や強度、伸びを持たせる役割があります。天然ゴムの塊は33.3kgに国際基準で統一されている。そして、この33.3kgを基準に添加剤を決まった割合で混ぜています。
言い忘れていたけど、ここは工場の2階。添加剤を配合された天然ゴムは、1階にある機械に落ちていく。そこで待ち構えているのが、この巨大なローラーだ。
巨大ローラーで踊るゴム塊
次の工程は「混練り」と呼ばれる作業。巨大な2つローラーで挟みながら、ゴムをさらに混ぜ合わせていく。
動画でもどうぞ。
まだ固いゴムは、ローラーの回転に合わせてウネウネと踊り出す。ふんわり柔らかそうに見えるけど、さっき投入した天然ゴムの固まりの数を考えると、100kgは軽く越えているだろう。
それにしても、ゴムを練り直したあとカッターでスーッと切っていくのが気持ちよくて、ずっと見入ってしまう。簡単そうに見えるけど、やはり難しいそう。
南さん 普通にやると、まず刃が入らないですね。柔らかそうに見えて、まだゴムは固いですから。カッターの刃は毎日研いでいて、作業員が持ち手の太さなどを自分で調節しています。「握りやすい」と感じる厚さがそれぞれ違うんです。
このあと、ゴムは細かな異物を取り除き、約20kgごとにまとめられる。ここから12時間以上、棚で寝かして熟成されるのだ。まだまだ時間がかかるのである。
輪ゴムの生産が完全に機械化できない理由
こねて寝かせるなんてまるでパンですねぇ、と思いつつ、とは言え我々も12時間棚で寝るわけにいかないので、別のゴムで次の工程を見せてもらうことに。
次の工程でいよいよ輪ゴムができるのだけど、この日はたまたまアメ色の輪ゴムの生産がなく、白や青の輪ゴムを生産していた。
さて、熟成が終わると待っているのは、再び混練りである。ここで色素や加硫促進剤を混ぜて、「伸び」と「色」を決めるのだ。
これも動画でどうぞ
さっきの濃いブルーに白を混ぜて、ちょっと薄いブルーに仕上がった。混ぜる時間やタイミングは、すべて作業員の方の判断に任されているという。
南さん 練る工程が一番難しいですね。ゴムは気温や湿度で柔らかさが変わりますし、天然ゆえに特性のバラつきもあります。柔らかさすぎず、固すぎないところまで練るには、ベテランの経験と勘が頼りなんです。
そういえば、さっきのアメ色のゴムを練っている人も、自分のタイミングで混ぜる時間を決めていた。あれも経験と勘だったのか。
天然の素材を扱ううえ、季節やその日の天気によって考えることも違う。もはや「生き物」を扱うよう。完全に機械化するのは難しい、と南さんは言う。
南さん さっき、青のゴムをある程度練ってから、白のゴムを入れましたよね。あれは青と白をいっぺんに入れると柔らかくなってしまうので、ちょうどいい固さになるよう時間差をつけているんです。こうしたタイミングも、ベテランの知恵なんですよ。
普段何気なく使っている輪ゴムに、こんなに人の手がかかっていたなんて。なんだかどんどん輪ゴムが輝いて見えてきた。