特集 2026年10月28日

ホテルのペラペラスリッパで薄底散歩!

薄い!地面が近い!

ホテルのルームに備え付けられているスリッパには「ご自由にお持ち帰りください」と書いてある。

そんなこと言うなら持ち帰るが、それにしてもペラペラだ。このペラペラはむしろ屋外でこそポテンシャルを発揮するのではないか。
なんて思ったのでズックから履き替え、薄底スリッパで散歩した。

道路のヒビやペイントの盛り上がりなど、微細地形の感触が足裏にじんじんと響いた。私はこれを「踏み味」と呼ぼうと思おうと思った。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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薄底、大地に立つ

大地の水没に備えて箱舟的なものを業者に発注しておいたほうがいいんじゃないか、とそわそわするほど雨が降り続いた9月が過ぎ10月がやって来た。

秋晴れのこじんまりしたベンチでコンバースのオールスターを脱いだ。かわりに履くのは旅行先のホテルから持ち帰ってきた使い捨てスリッパである。

ハトが寄ってきたが興味なさそうに通り過ぎていった。
「貴方様だけの使い捨てスリッパです。ご自由にお持ち帰りください」そうか、私だけの。

外で履こうと手に取ると、とにかく薄いし作りもだいぶ華奢でなんとも頼りない。しかしこのはかなさが、散歩に新しい体験を与えてくれるに違いない。

装着完了。薄そうなやつはだいたい友達。

ルックスは悪くない。ホテルからそのまま出てきてしまった程度の違和感しかない。こういうことを真顔で言ってはいけない。

体重を乗せると、ふつうの靴とは足裏に伝わってくる地面のリアリティが違うのがわかる。

アスファルトのでこぼこが「来る」ねえ!

この感動冷めやらぬうちに近隣を歩き回りたい。

薄底散歩、はじまるよ。

ペタペタと軽快な音を立てるスリッパのクッション性のなさは想像を超えており、アスファルトにぶつかって跳ね返されるように歩みを進める。

宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンは「地球は青かった」と言ったが私はホテルスリッパ散歩士として「道路は固かった」と言いたい。
そこは地球じゃないの?と言われたら、「うーん、道路っすねえ」と答えるだろう。

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踏み味を堪能しよう

ちょっとした高低差でも薄底で踏みしめてみたくなる。この薄底目線(なにそれ)で路上を注視すると、平坦だと思っていた道は実にでこぼこしている。

この溝のところなんかもいいねえ。
道路のヒビも来るねえ。

 

ふつうの靴でも来るよねというポイントでも、強度が違う。

アスファルトのひびやカケの存在を確かに感じることができる。それだけでなく、あたたかみや硬さとか、さまざまな感触が生成りに近い状態でスリッパを抜け通ってくる。これを総称して「踏み味」と呼ぼう。薄底散歩で見つけたポイントとその踏み味を談じていきたい。

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路肩の踏み味

道の端っこの路肩がペイントされていて、よく見ると踏みたいポイント満載だった。

凸凹のカオス!
ペイントの裂け目や剥がれが母趾球(ぼしきゅう:足裏の親指の根元らへん)に来る。

ヒビや剥がれの他によく見られた微地形がタイヤ痕である。

施工して固まる前に車が通ったのかと思ったが、それにしてはたくさんある。夏場の暑さで軟化したところに大型車や関取が乗った車の圧がかかったのだろうか。

ニュイっと押し込まれた感がありますな。

さすがにこのくらいになると、こちらから「おし、感じるぞ」と意識して踏みこまないとわからなかった。しかしこの繊細さも得難い踏み味である。

ああ、でもあるね。あるわ。

 

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グレーチングの小石も感じる

路肩の外には側溝が走り、グレーチングという格子状のフタがはめられている。ふつうの靴でもかなりハードな踏み味があるが、薄底だと強度が増してマッサージ効果がすごい。

健やかになっちゃうねこりゃ。

細いグレーチングでは格子に挟まった小石も感じることができた。

グレーチングにはさまった石は個人的になんか感動しているし観察しているのだが、その話は別の機会に。

 

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マンホールの踏み味

路上で踏みたくなるオブジェクトの代表格といえばマンホールである。薄底を通じてその剛性がしっかりと伝わってくる。

かたい!
都の花、ソメイヨシノがどすんとあしらわれた東京都のマンホール。この彫りの深さなら書かれた文字を足裏で読めるんじゃないかと思ったがさすがに無理だった。

鋳物系では駐車場などと道の段差を解消する段差スロープの踏み味もよい。

ちょっと失礼。模様のバリエーションが豊富で踏みがいがある。
個人的に好きな踏み味はミスギ社の「キャスコーナー」。大きさ、数、硬さのバランスが心地よく足ツボを刺激してきた。

 

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「止まれ」の谷

なんせ薄底なので、路面表示のペイントのわずかな盛り上がりも微地形として感じることができる。なかでも素晴らしかったのは「止まれ」だ。「止まれ」には谷があった。

ほら、ここ!
おおー!
ここにも浅めの谷が!何岸段丘だこれ?

 

砂利はやめておけ

特にオブジェクトがなくとも道路それ自体が特殊な踏み味を出しているストリートもあった。かなりの粗挽きアスファルトがごつごつしていて、途中から歩くのが苦痛になるほどだった。

思いのほか鋭利でやばい。
痛い痛い!

さらにやばかったのは砂利で、これはかなり来るのではと踏んでみたが激痛が走った。安易なテイスティングだった。

痛い!やばい! しかも小石が入ってきて悶絶。

薄底散歩は砂利にかなり弱いことがわかった。

 

平坦なものがすごく平坦

さまざまな踏み味を足裏で味わい歩いていると、平滑な場所の踏み味がアップデートすることも貴重な気付きだった。

坂道の滑り止めオーリング。これは凸なのか?凹なのか?となる不思議な踏み味。
歩道のタイル目地に母趾球(しつこいけど足裏の親指の根元らへん)がくっとはまった時の踏み味もよい。

こんな感じで凸凹をハンティングしている合間に、ツルッとしているコンクリに足を置いてみると、「おお、平坦じゃん」という感動が立ち上がった。

おお、さっぱりとした薄味!

⏩ 次ページに続きます

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