特集 2026年3月18日

冷え食ファンクラブ

作りたてのときは温かかったのに、時間が経って冷えてしまった料理は、美味しくないのでしょうか?

いいえ、それは「冷え食」という、また別のジャンルの美味なのです。積極的に愛でましょう。

1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。

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「冷え食」が好き

「冷え食」が好きです。

冷凍食品を省略して呼ぶ、冷食のことではありません。“冷えた食べもの”のことです。

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例:冷えたチャーハン

僕もかつては先入観があり、温かい料理は温かいほうが美味しいものと、当然のように信じていました。ところがここ数年、日増しに愛情が強まっていくのです。冷え食に対する。

そもそも僕は大衆酒場が好きな酒飲み。そういう場にあまり縁がない方には信じてもらえない話かもしれませんが、大衆酒場のつまみには、“美味しすぎないほうがいい”という側面があります。

天ぷら、うなぎ、鉄板焼き、洋食などなど、専門店の料理であれば、料理人さんが作りたてを出してくれ、それをすぐさま味わうのがいちばん。最も美味しいタイミング。

けれども酒場の場合は、ぼーっと酒を飲みつつ、ひとりならば考えごとをしながら、複数人ならばわいわいしゃべりながら、何品か注文した料理をテーブルに並べて食べることになります。それがあまりに美味しすぎたり、熱々をあわてて食べなければいけなかったりするのって、率直に言って忙しい。なので、酒場のつまみは“そこそこ”でいいし、冷めてもつまみになるというポイントがけっこう重要だったりします。あ、もちろん、そのうえでより美味しいならそれに越したことはないんですが。

というのはもともとは、尊敬する漫画家、ラズウェル細木先生の名作『酒のほそ道』からの受け売り。が、近年、実際にしみじみと、好ましく感じるんですよねぇ、冷え食が。できたてとは別ジャンルの美味しさというか。

そもそも、自作でも、誰かに作ってもらったものでもかまわないんですが、朝作ってお昼に食べるお弁当もまた、冷めてしまってるからまずい、ということはないですよね。むしろ、全体の空気感のようなものがなじんで、作りたてよりも美味しく感じるくらい。

また、全国各地に無数ある「駅弁」も、温めて食べる前提のものはほとんどありません。それでもみんな大好きだし、たとえば有名な崎陽軒の「シウマイ弁当」を温めて食べようとは、あまり思わないじゃないですか。

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僕の愛する千葉県の「トンかつ弁当」も、冷たうまい
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我が愛しの冷え食たち

長々書いてしまいましたが、そんなわけで僕は冷え食が大好き。そこでしばらく前からXに「#冷え食ファンクラブ」というハッシュタグをつけ、日常のなかで食べて美味しかった冷え食を記録しはじめたんです。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが僕、Xにハッシュタグをつけてなにかを記録する行為がそもそも好きで。

せっかくなのでそのいくつかを、投稿時に添えたコメントともに紹介させてもらってもいいでしょうか。

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「玉子がゆ」

娘が体調を崩すと作る玉子がゆ。炊いた米を煮なおすので正確にはおじやだが、なんとなくかゆと呼びたい。たいていは多めに作って少し残るので、冷蔵庫で保存しておいたものをそのまま食べてみる。口に入れた瞬間、歯がきんとするくらい冷たいのに、食感はまったりとなめらかで優しい。だしの香りや塩気などが、ゆっくりゆっくりやってくる。舌で押すだけで崩れるお米の粒に混ざる、もち麦の弾力。

 

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「ミートソーススパゲティ」

しっかりと形を保とうとする見た目が食品サンプルを思わせる。麺はもそもそしていてのどごしも皆無だが、ゆえに小麦の味がよく感じられるような気もする。他にはない麺類。正直温かいほうがうまいけど、この素朴さも嫌いになれない。

 

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「いかと大根の煮もの」

大根を噛み締めるとキンキンに冷えただしがじゅわっと溢れだす感覚は、フルーツのようでもある。いかの旨みやくにゅくにゅぷりぷり食感もゆっくり味わえる。問題なくうまいどころか、高級な和食の一品のよう。燗酒と合わせたい。

 

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「かつ煮」

出来合いの惣菜かつ煮。しっとりと濡れた冷たい衣と柔らかい豚肉、しゃりしゃり玉ねぎと固まり気味の玉子。それらによくめんつゆ系の甘辛味が染みており、めちゃくちゃうまい。温めずに熱いごはんにのせても最高だったろうけど、酒のつまみに。

 

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「豆腐ハンバーグと小芋煮」

出来合い惣菜の残りもの盛り合わせ。温かければふわふわだったであろう豆腐ハンバーグのしっかりとした食感と、練り込まれた刻みれんこんの歯ごたえが抜群。だしやほのかなしょうがの香りなどもよくわかる。しっとりとした小芋もつまみに最高。

 

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「親子丼のアタマ」

昨日の晩の残りもの。酒蒸し法の応用で作ったので冷えても鶏がやわらかく、つゆ部分はジュレ化し、まるでこう狙って作った料理かのようにうまい。

 

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「チャーハン」

娘の朝食リクエストが珍しくチャーハンだったので、ソーセージと玉ねぎを具に作り、残ったぶんを冷蔵しておいてそのまま昼に。これほどパサパサという表現が似合う食べものはないが、じっくり噛んでいるとチャーハンになってきてうまい。

 

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「ポークチャップ」

最近娘が気に入ってよく作るポークチャップ。雑に言えば、豚肉のケチャップ炒め。よく冷えたそれは、甘酸っぱいトマトのフルーティーさが前面に出て、温かいときとは別の料理のよう。肉にまとわせた小麦粉の粉っぽさが、冷えると少し野暮ったいか。

 

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「串カツ」
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冷えたままソースをたっぷりとかけて

冷えた串カツの醍醐味は、なんといってもへにゃへにゃの衣とさらにへにゃへにゃの玉ねぎのハーモニー。できたてではない揚げものにかけるソースの冷たさも際立つ。

 

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「塩さば焼」
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しっとり感が良い

焼きたての皮のぱりっと感はないけれど、冷えているからよくわかる、じゅわりと広がる脂や身の旨味。ひとりでも多くの人に味わってもらいたい美味。

 

とまぁ、こんな感じ。今までご興味がなかった方にも、なんとなく冷え食の魅力が伝わりはじめたんじゃないでしょうか?

総じて言えるのが、温かい料理のほうが絶対に香りは強い。ただ、香りが弱いぶん冷え食のほうが味わいも薄いかというと、そんなことはないんですよね。熱さを気にせずにじっくり食べられるぶん、むしろ繊細な味わいがよくわかる。新しい発見も多い。

今までは少し寂しいものと感じていたかもしれない前日の残りものや、スーパーで買ってきたお惣菜も、冷え食であると捉えればまた違った魅力が立ち上がってきます。

⏩ 人のおすすめ冷え食を味わってみる

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