特集 2018年10月22日

餃子の王将だけど本格タイ料理が食べられる店

トムヤムクンやカオマンガイなど、本格タイ料理が食べられる『餃子の王将』がありました。

愛知県在住の友人から、タイ料理がやたらと充実している餃子の王将があるという話を聞いた。王将は店長の裁量でオリジナルメニューを出す店もあるという話を聞いたことがあるけれど、タイ料理というのは初耳だ。

餃子の王将でタイ料理を、なんだか『ティファニーで朝食を』みたいな話である。組み合わせとは不思議なもので、餃子の王将もタイ料理の店も珍しくないけれど、餃子の王将でタイ料理が食べられると聞くと、そこが愛知だろうと行きたくなってしまった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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王将でタイ料理を食べるために愛知までやってきた

友人の話だと、タイ料理が食べられるのは一宮市にある苅安賀店。じゃあお店が空いてそうな1時半くらいに付き合ってよと約束したのだが、予定していた火曜日が定休日だということが前日にわかり、急遽稲沢店という近隣の店へ。

苅安賀店と稲沢店、数ある王将の中で、なぜかこの2店舗だけがタイ料理を出していているらしいのだ。

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やってきました稲沢店。看板は普通ですね。
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緑の屋根に赤い自販機。タイというよりはバングラデシュの国旗っぽい配色だ。

あれ、本当にここでいいのだろうか。外観からはタイらしさを微塵も感じさせてくれない。よくあるロードサイド型の餃子の王将だ。

埼玉から愛知まで新幹線で来ておいて、普通に餃子を食べて帰ることになったら俺は泣くぞ、声を上げて。

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すごく普通。

どこかにないかとタイの要素を探しながら入り口のドアをくぐると、そこには日替わり定食の看板が出ていた。

『ナスと肉の甘辛いため』、あれ普通だ。いやこれは右から読んで、さらにめを◎に置き換えて、『◎たい辛甘の肉とスナ』という暗号かもしれない。

ほらタイ料理といえば辛くて甘い味付けだ。スナってなんだ。あ、酢か。『タイ辛甘の肉と酢な』、酸っぱい料理もあるよねー。

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王将にサラダバーなんてあったかな。

暗号でこっそり伝えてくるタイ料理の存在。もしかしたら王将の本社的にタイ料理を許可しておらず、裏メニューとして存在するのかもしれないぞ。

なんていう妄想をしながら入店する。

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タッチパネルを押そうとしたら紙にブロックされた。

メニュー表を見て驚いた!

さてどこに座ろうかと店内を見回す。中央のオープンキッチンを囲うようにカウンター席があり、その周囲に座敷席が並ぶという作り。奥にはテーブル席もあるようだ。

とてもきれいでかなりの広さがあり、他の王将では見たことのないドリンクバーやサラダバーが設置されている。

ただタイ料理が出てくる気配は皆無で、どちらかといえばファミレスっぽく、メニューに目玉焼きハンバーグとかがありそうだ。

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8月にリニューアルしたばかりというピカピカの店内。まだタイ料理の要素は見つからない。
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サラダバーとドリンクバーのある王将っていうのも珍しいんじゃないかな。そしてサラダバーに酢豚らしき大皿があるあたりが王将らしい。

適当な座敷席に腰を掛けて、メニューを手に取った瞬間、ホッとして大笑いしてしまった。

いきなりのサワッディー(タイの挨拶)である。

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藤岡弘さんの表記は『藤岡弘、』が正解だと店長にいったほうがいいかな。

餃子でもラーメンでもなく、トムヤムクンの紹介から始まるメニュー表。これはなにも知らないで普通の王将だと思って来たら、店を間違えたかとびっくりするやつだ。

表紙をめくれば、そこにはトムヤムクンやパッタイ、カオマンガイといったタイ料理がズラリ。もしかしてここは王将の居ぬき物件でやっているタイ料理屋なんじゃないかと怪しむほどの押しまくりである。

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まさか餃子の王将でタイの国旗が見られるとは。

これはタイ料理用のメニューではなく、この店の全料理が載ったグランドメニューだ。

そこからページをめくると、やっと国境を越えて王将らしいメニューが登場した。うん、やっぱりここは王将なんだよな。

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前のページが幻だったんじゃないかと思えるほどの王道メニュー。
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もう一枚めくってもやっぱり王将。
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タイ料理の存在がなければ、この肉チャーハンセットをオーダーするな。というか本当にこれチャーハンなのか。

タイ料理のあるメニューを確認して安心したところで、本日のメンバーの紹介です。

情報を提供してくれた手織り雑貨作家の内田さん(当サイトではネギマフラーを作ったりしている)と、その友人で彫刻家の渡辺さん

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右が内田さん(6年振り2度目の対面)、左が渡辺さん(初対面)。この時期になると25キロ分のサツマイモを買って分け合う焼き芋仲間とのこと。

この店の駐車場で初めて会った渡辺さん。内田さん曰く、かなりの人見知りだそうで、私もすぐに人と打ち解けるタイプではないため、ここまでの会話はぎこちない挨拶のみ。

そのため後から判明したのだが、渡辺さんは家がこの近所で子供の頃からここに通っている常連。タイ料理もよく食べているそうだ。なので王将の中のタイを知らないのは私だけ。

この見守られているシチュエーションにニヤニヤしながらメニューを吟味し、タイ料理の中から3人分をセレクトさせてもらった。この胃袋が20代だったら、肉チャーハン単品もつけていたな。

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このボタンで店員さんを呼んでおいて、頼むのがタイ料理っていうだけで笑える。これ、ソネット君っていうのか。

注文時に日本人の女性店員さんに、なんでタイ料理があるのかと直球で聞いてみたところ、「オーナーがタイにいったときに美味しかったからって聞いています。一宮の苅安賀店も同じオーナーですよ」とのことだった。

なるほどー。

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これが王将のタイ料理だ!

注文したタイ料理はどれも美味しかった。タイにはいったことがないし、タイ料理に詳しくもないので、どこまで本格的なのかは判断できないのだが、王将の味をベースにしているためか、どれも舌に馴染むものだった。

タイにいったことがあるという渡辺さんによれば、「タイでは中華料理ばっかり食べていたからなー。この店ではタイ料理をよく食べるんだけど」とのこと。なんでだよ。

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きっとトムヤムクンに麺を入れたらうまいだろうなという、麺好きの夢が叶った一品、それがトムヤムクンラーメン。
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タイの海鮮サラダ、ヤムタレー。油断して食べたら結構な辛さだった。
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「タッパイも注文する?あれ、パッタイだっけ?私いっつもタッパイっていっちゃう」と内田さん。

それにしてもである。いくらオーナーがタイ料理好きとはいえ、ここは餃子の王将だ。好きというだけで、わざわざタイ料理を出すものなのだろうか。

厨房にはタイ人と思われる方がいて、日本人客と談笑している。あれは何語で話しているんだろう。

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常連らしきお客さんとカウンター越しに会話をする店員さん。彼以外にも何人かタイ人っぽい方が働いている。

そういえばメニューに何か書いてあったなと確認したら、タイ料理のご意見ご感想を店員さんに伝えてもいいシステムのようだ。

これは店員さんと話をするチャンス!

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タイ人スタッフと対人接客できる店らしい。

「あのお兄さんとちょっと話をしてみたくない?」、「美味しかったって直接伝えようよ」、「藤岡さんの『、』は伝えなくていいかな」ということで、料理を持ってきてくれた日本人店員さんを通じて、お手すきのタイミングでお話をさせてもらうことにした。

これってあれだ、人生初の『ちょっとシェフに一言伝えたいんだけど、呼んでくれるかな』というやつである。餃子の王将でトレンディドラマごっこだ。

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トムヤムクンスープ定食。餃子に唐揚げという王将における定番セットにトムヤムクンという異国の風。
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ラーメンのトムヤムクンは甘みがあってマイルドだけど濃厚で麺に合う味付け。それに対してこの定食のスープは、酸味がはっきりとしていてアッサリかつキレキレの味という差を感じた。やっぱりシェフを呼ばないと。

タイからやってきたメー店長にインタビュー

しばらくして我々の席までやってきてくれたのは、店長のメーさんだ。

おお、店長なのか。そりゃタイ料理がメニューのトップに来るわけだ。

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メーさんが厨房で必死に覚えたであろう日本語は、とても流暢でフレンドリーだ。

玉置:「タイ料理、とてもおいしかったです」

メー:「ありがとうございます!そういっていただけると、本当にうれしいです」

玉置:「日本語、上手ですね」

メー:「いやいやいやいや、読めるけど書けないんですよ。漢字とか全然わからない」

内田:「いやいやって、めちゃめちゃうまいじゃないですか」

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米麺の焼きそば、タッパイじゃなくてパッタイ。薄味に仕上げてあり、添付のレモンを絞るとちょうどよい。王将で唐揚げ以外にもレモンを絞る日が来るとは。

玉置:「日本にはいつ来たんですか?」

メー:「11年ぐらい前ですね。オーナーがタイ料理好きなんですよ。大谷さん。ちょっと一緒にタイ料理をやってくれって誘われて」

玉置:「それは日本のタイ料理店に働いている時ですか?」

メー:「タイにいた時です。オーナーさんの奥さんがタイ人で、タイと日本を行ったり来たりしていて」

玉置:「じゃあ向こうで料理人だったときに誘われたんですか!」

メー:「そうっすよ。日本語は全然しゃべれなかったです。今日はオーナーさんが休みですけど、普段は一緒に働いています。店にいる他のコックさんも、タイから誘ったんですよ」

玉置:「すごい、仲間をどんどん呼んでいるんだ」

メー:「まだあと3~4人欲しいかなって。もう忙しい、忙しい」

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メーさん曰く、「日本米は白飯で美味しい。普通のごはんは日本米です。でもカオマンガイはタイ米でなければダメ。それは譲れない。やっぱりね、日本米で炊くと味が違う」とのことで、わざわざタイ米を用意している。
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パラパラなんだけどモッチリしたご飯がうまい!

玉置:「餃子の王将って知ってました?」

メー:「日本に来てから知りました。やべえ、中華とタイ料理をやるのかって。タイにいるときはタイ料理だけだったので。でも今は餃子とかなんでもやりますよ!苅安賀店もタイ人のコックががんばっています」

渡辺:「前に喫茶店だったとこでしょ」

メー:「そうそうそうそう!」

玉置:「タイ料理と中華料理、どっちの注文が多いですか?」

メー:「やっぱりね、まだ中華のほうがでます。やっぱり餃子が有名」

玉置:「餃子の王将ですからね。そのうち『トムヤムクンの王将』にしましょうよ」

メー:「いいですねー」

内田:「でも王将は王将なんだ」

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なんだかノンアルコールの宴会みたいになってきた。
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「そういえばここ王将だっけ」と思い出させてくれる餃子の存在。

本場仕様の味付けでも注文可能

玉置:「ここの味付けとかは本場と同じですか?」

メー:「まあちょっと優しい味。辛過ぎは日本人食べられないかなって。 辛いのはめちゃくちゃ辛いですからね。日本人が一口食べたら、火が出るわ―って言われちゃいますよ。でも本場の味がよければぜひ頼んでください。注文のときにいってくれれば、タイの味で作りますよ!」

玉置:「そうなんですか。じゃあひとつお願いします!」

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タイらしいおすすめの料理を選んでもらった。
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真剣な表情で調理するメーさん。タイ人のシェフが3人くらい働いている。
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満面の笑顔で本場の味を持ってきてくれた。
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メニュー表にある写真よりだいぶ唐辛子が増えているパッカパオ。

メー:「パッカパオです。そこまで辛くないですよ。僕が食べるときは丸ごとの唐辛子を入れてもっと辛くします」

玉置:「これは……ヘックション。すみません、辛さが鼻に来ました。匂いがすでに辛いですけど、食べると美味しい辛さです。砂糖も結構入っていますね」

メー:「酸っぱいとか甘いとか辛いがハッキリしているのがタイ料理。これはご飯と一緒に食べるといいですよ。白飯と最高!」

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かっらい。でも美味しい!

玉置:「どうせだったら、もっといろんなタイ料理も出したくないですか?」

メー:「本当はソムタム(青いパパイヤのサラダ)とかも出したいですねー。でも日本だとまずパパイヤが高い。一玉で三千円とか4千円するんですよ。それを出したら一人前千円とかになっちゃうでしょ。王将では安いものを出したいじゃないですか」

玉置:「なるほど、王将ですからねー」

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オーナーの大谷さんが登場した

さてそろそろ帰ろうかというタイミングで、派手なジャージを着た方が我々のテーブルに近づいてきた。

なんとオーナーの大谷さんである。

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お休みのところ、わざわざありがとうございます!

渡辺:「僕、地元でよく来てるんですけど、もともとは普通の王将でしたよね?」

大谷:「平成3年オープンなので28年目ですね。タイの奥さんをもらう前です。実家が京都で、前の前の王将の社長と家が近所で、両親がコーヒー飲み友達だったこともあり、高校1年でアルバイトを始めたんです」

玉置:「すごい、王将一筋じゃないですか!」

大谷:「そのまま高校卒業後に王将へ入りまして、25歳で社員から店舗オーナーとして独立させていただきました。当時、京都から大阪は店舗数が多く飽和状態。そこで開拓の余地があるからと愛知県を勧められて、この店をオープンしたんです」

玉置:「そこからどういう流れで、王将一筋の男がタイ料理を出すようになったんですか?」

大谷:「王将で使う食材購入の視察でタイに何回か連れて行っていただき、そんな御縁があって、店でタイ料理をやろうかなと考えていました。そのときに知り合ったのが今の家内。タイ語はできない、ぜんぜんです。身振り手振りでアプローチですよ」

玉置:「さすが大谷ジャパン(大谷さんの会社名)」

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タイと日本を行ったり来たりしていたという大谷さん。

大谷:「ホテルの従業員だったんですが、初めてチェックインしたときにパスポートを提示したら、誕生日がたまたま一緒だった。そこから遠距離恋愛を3~4年して結婚しました。日本に呼び寄せたんですが、彼女は日本語できない、英語できない、タイ語しかできないですから。苦労は掛けましたけど、楽しかったですね」

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100歳を超えると食事が無料になるそうだ。金さん銀さんは来たのだろうか。

大谷:「それでタイ料理はおいしいから、店で売れるんじゃないっていう話をしていて、ただ現地のをそのままやってもダメだろうと。辛すぎるしクセが強すぎるのではと」

玉置:「先程本場の味でいただきましたが、確かに何も知らないで王将に来たファミリーがうっかり食べたら、びっくりする味かも」

大谷「それで日本人の方が食べられるように試行錯誤をして。最初は全然だったのですが、メーさん達のがんばりもあって、だんだんとファンが増えて。今では県外からも来ていただけるようになりました。メーさんはすごいがんばり屋さんなんです。」

玉置:「タイ料理を出していることは王将公認なんですか?」

大谷:「大丈夫です!取材もOK!」

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テストで良い点を取るとコロッケがもらえたり、皿洗いをするとご飯がタダになったりという独自のサービスも人気で、ずっと通ってくれる熱心なファンが多い店とのこと。


渡辺:「ここの店って大学芋を置いてませんでした?ぼくサツマイモが好きで、あれ好きなんですよ」

大谷:「今もやってますよ。ちょうどできあがる頃ですね」

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夕方になるとレジ横に並ぶ大学芋を出していただいた。

渡辺:「これこれ、この味。王将といえばタイ料理と大学芋。大阪の王将にいったらどっちもなくて、あれ?ってなりました」

大谷:「それが普通の王将です」

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イモ好きの渡辺さん。今度やる彫刻の個展でも焼き芋を振る舞うそうだ。

なかなか来る機会のない場所だけど、この店はまた来たい。次は全部のタイ料理を「本場の味で!」と注文しようと思う。

だったら素直にタイ料理屋に行けよという話なのだが、餃子の王将で食べるからこそ、心が躍るのである。

渡辺さんとは、こんどカニでも採りに行こうという約束をした。行こう。


本当にいってよかった、タイ料理が食べられる餃子の王将。王将一筋のオーナーがタイ料理に惚れたからこその店舗なのだ。厨房仕込みのメーさんの明るい日本語もまたよかった。野球部の後輩みたいだ。ファンが多いというのもよくわかる。

内田さんからは「本当に王将でいいの?」、渡辺さんからは「ブログじゃなくて記事なの?」と不思議がられた。確かに王将で友人と飲み食いしただけという記事なのだが、個人的にはとても満足度の取材だった。

取材協力:餃子の王将 稲沢店

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王将マジックパウダーがうまかった。

 

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