特集 2019年2月5日

冬の蛾をかっこよく撮ろう

冬の蛾・アンド・ザ・シティ

たいがいの虫達が春に備えて卵や幼虫の姿でひそんでいる真冬に活動する蛾がいる。そんな冬の蛾「フユシャク」を厳冬の中、あの自撮り昆虫写真家がムダに映えさせた。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

冬に虫探しをする羽目になった

以前、「虫と自撮り」という唯一無二のコンセプトで昆虫愛を暴走させた写真家の森上信夫さんを取材した。

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おっさん達の青春のヒトコマ(記事はこちら

それ以来、森上さんとは虫がわっさわっさ活動する夏〜初秋に「また遊びましょう!」と虫を探して撮影するフィールドワークを予定していたのだがここ数年、約束した日は箱舟を作りたくなるほどの豪雨に見舞われあえなく中止、しびれをきらした森上さんの提案がこれだ。

「もうさ、冬でよくない?」

「冬でいいじゃん」、我々はいつのまにかそこまで追いつめられていたのか。まあ冬なら晴天も多いから安心ですよね、って肝心の虫が全然いないじゃないですか。

「最近昆虫好きの中で人気が高まってきている蛾を見に行きましょう。フユシャクといって冬に活動する蛾です。地味だけどかわいくておもしろいですよ」

冬に活発に、そんなシベリアンハスキーみたいな虫が身近にいるとは。それまで割と暖かめだったのに急に関東を寒波が襲った年末近く、フユシャク探しを敢行した。

ターゲットは「牛のような蛾」

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某所の公園へ。虫を見に行く出で立ちではない。
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やはり虫の姿は少ない。柵のすき間で冬眠するテントウムシ(ナミテントウ)

――しかし寒いな、なんだってフユシャクはわざわざこんな時期に活動するんですかね。

「冬はほとんどの虫が活動しない、っていう事は彼らを襲う天敵もいなくなりますよね。だからそこを狙っているんじゃないかといわれています」

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こういうぶっそうな輩がいなくなる。

――あーなるほど、そう言われてみると叡智ですね。すき間昆虫だ。

「お、早速いたぞ、幸先いいな」

森上さんが指差す白壁に、キツネ色のデルタ翼をまとった小さな蛾がとまっていた。

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天敵がいないと思ってめっちゃ目立ちおって。ちなみにこの記事で(C)N.Moriueのクレジットが入っている写真はすべて森上さん撮影です。

「これはチャバネフユエダシャクのオスです」
――名前長いな、フユシャクでなくてフユエダシャクなんですね。
「フユシャクっていうのはちゃんと言うと冬に活動するシャクガ科の蛾の総称で、日本には35種がいます。冬の中でも種によって活動する時期が違っていて、今よく見られるのがこのチャバネフユエダシャクやクロオビフユナミシャクです」
 

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獅子のごとく精悍な顔つき。

「これはオスですが、今回のメインターゲットはこのチャバネフユエダシャクのメスです。フユシャク界のアイドルで、白黒のまだら模様とずんぐりした体格から『ホルスタイン』と呼ばれています」
――ホルスタイン?牛の?蛾の愛称がですか?

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森上さん撮影。なるほどこれはホルスタインだモー。

――なんだこれ!もはや蛾じゃない。
ぱっと見た目に蛾を蛾たらしめてる要素が全然ないですね、端的にいうと羽がない。
「フユシャクの仲間に共通しているのがメスは飛ぶ事ができないってことですね。小さな羽を持つのもいるけど飛べません」

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ちなみにミノガのメス、いわゆるミノムシも羽を持たない蛾だ。

――となると繁殖するにはオスのほうが飛んでくるしかないですね。
「はい。多くは夜行性なので夜になると樹や公園の擬木柵なんかをメスが歩いて登ってフェロモンを出します。そこにオスが飛んで来て交尾をするんです」

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「こういう柵を登ってくるやつが見つけやすいです」
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さあフユシャクタイムだ

日も傾きかけた頃、遊歩道の柵の上にかなり小さい蛾がちょこんとすましていた。どうせ誰もこっちなんか気にしないだろうという体だったがそうはいかない。

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老眼とのたたかい。

「お、日暮れも近くなってぼちぼち出てきたね、これもフユシャクです。クロオビフユナミシャクのメスですね」

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威風堂々と地味!

――こいつは羽がありますね、がんばればスピッツのように空も飛べそうな気もしますが。
「いや、無理ですね。この羽じゃ貧弱すぎるね」

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拡大すると精巧なテクスチャーが美しい。

「これからどんどん活発になってきますよ、といっても地味だけどね」

バーミヤンで腹を満たして夜の部へ突入。15年ぶりくらいに入ったバーミヤンのメニューの進化っぷりに驚いて思わずハイボールを飲んでしまった。

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そして夜の帳がおりた。

最低気温が-0.7℃、寒波って寒い波と書くもんねそりゃ寒いよねみたいな状況でもひっそりと活動している虫がちらほらいた。

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フタスジヒラタアブの幼虫、木の枝などに巻き付いて通りかかる虫を食べてしまうという獰猛ではた迷惑な関所である。

ひたすら無彩色な冬景色の中でビビッドな花を咲かせていたサザンカに上質な毛並みの蛾がやって来た。

「ヤマノモンキリガですね。おそらく今日の取材で唯一の鮮やかな絵でしょう。記事の真ん中くらいにもってきたほうがいいですよ」

――構成のケアまで!
 

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よく来たね、ここが記事の真ん中らへんです。

逆光で映える

夜の部で最初に見つかったのは夕暮れ時に見たのと同じクロオビフユナミシャクだった。

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カウンタックみたいに左右の羽を持ち上げていたがすぐ降ろしてしまった。

「向こうにある街灯を入れるともっとインスタ映えするかもしれないね」

――クロオビフユナミシャクのインスタ映え!ニーズがあるのだろうか…

「ストロボで逆光を入れると美しさが引き立ちます」

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棒付きストロボで被写体の向こう側からライティング。
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おお!ムーディー!なんだかんだ興奮するな。

――すごい!ハッシュタグでいろいろ繋がれそうなやつが撮れましたね。
「カメラからの一方的な光だけよりがぜん立体感のある写真になります。棒つきストロボを使うやり方は僕独自のものでフォームによって名前をつけています。今のはフォアハンド・バックライティング」
――またムダにかっこいい名前ですね......。

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そしてムダにきちんとした資料写真。
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逆手に持ってバックハンド。だからなんでいちいち写真が出てくるんだ。
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クロオビフユナミシャクのオスも見つかった。
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オスは自由闊達に飛び回る。私がメスだったらイラッとしてクレー射撃かなんかで撃ち落とすかもしれない。

ホルスタインがぶきみに登場

そろそろ本命のホルスタインを見つけたい。

「お、こんな寒い時期にマダラカマドウマがいるなあ」

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カマドウマもなかなかの映えをみせる。

へえーどれどれと柵の下のほうにいたカマドウマをしゃがんで見ていたら柵の横木の下に妙な存在感を持つ虫が隠れていた。

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これは!

「お、やりましたね。これがホルスタインです。すこしやせ型ですね」

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ついにご対面!先に見たクロオビフユナミシャクよりかなり大きい。

「ここにオスが飛んで来て交尾するわけですが今日は交尾シーンも見たいですね。僕もチャバネフユエダシャクの交尾はまだ撮れてないので」

じゃあここでオスがくるまでずっと待っていようかとも考えたがじっとしているとマジで凍死しそうだし、せっかくなのでもっと探しまわる事にした。

「お、これはアオマツムシが卵を産んだ穴ですよ」

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♪アオマツムシが産んでいる〜(紛らわしい書き方しておいてアレですがあの歌のマツムシとは別種です)

――アオマツムシですか。あんな柔らかそうな虫がごっつい木に穴開けちゃうんですね。

「樹皮をかじり取ってそこにおしりの産卵管を差し込むんですね」

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森上さん撮影による産卵シーン。

へーアオマツムシすごいね、他にも産卵痕ありますかねと幹を照らしていたら異様な静けさをたたえたホルスタインがじっとしていた。

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ずろん。真横からだとクリーチャー感あるな。

―—よく見ると脚がすらりと長いですね。

「ちょっと刺激するとこの脚でガンガン歩きはじめるからものすごく撮影しにくくなるんですよ」

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アベック発見!森上さんが走り撮る

「あ!いた!交尾してる!」

突然森上さんが5,6mほど先の桜の木にむかって走り出した。

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厳冬の夜、桜にむかって一心不乱に棒を突き出す。申し訳ないが不審だ。

「驚かせちゃってすいません。チャバネの交尾を見つけたもんで」

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撮影された交尾シーン。お互いの尻をくっつけて交尾する。こうしてみるとほんと同じ種とは思えない。

――だいぶ早業でしたね。

「オスは羽を立ててメスとつながるんですが光や人の気配を感じると素早く羽を寝かせてメスを守るように覆ってしまうんですね。

だから時間との勝負です。ぱっとセッティングして最初のショットで決めるぐらいの感じで」

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やめたまえ。さっとマントで覆い隠す。ジェントルマンだ。

――なんかオスの態度かっこいいなあ、あと覗いてる我々がすごく下世話なことしてる感にさいなまされますね。

キラキラホルスタイン

夜も深まりさらに気温は低下、外から忘年会帰りとおぼしき泥酔した若者の奇声が聞こえる。まるで鵺(ぬえ)のようだ。そろそろ切り上げようかという頃合いに、展望台近くの柵にしがみつくホルスタインの姿があった。

「あ、ここはいい。街の灯りとセットでムダにムーディーなやつが撮れますね」

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ちょっといい感じの柵に移動してもらってベストポジションで止まるのを待つ。

――しかし街並がずいぶん遠くにあるからだいぶボケちゃいそうですね。

「ここはまた技を使いましょう。まず手前のホルスタインにフォーカスを合わせてシャッターを切り、露光している間にピントリングを回して後景のほうにフォーカスを持っていきます」

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外付けのストロボを手動で使う。

「ちょっと違うな〜もう1回」

「あーもうちょい光量欲しいなー」

吹き荒ぶ寒風の中、手動でストロボやピントを操作し、最適露出を得る作業は困難を極める。納得がいくまで調整を続ける森上さんを固唾を飲んで見守る。そしてついに、輝けるワンショットがモニターに映し出された。

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ひゃー!ホルスタインスタグラマー!(よりおおきい画像はこちら

「これはだいぶ映えてるでしょう」

――アダルトな恋の始まりの予感がただよいまくりですね!

カブトムシやクワガタなど、いわゆるスター級の昆虫達はあからさまに撮られる事を意識しているようなたたずまいをしている。俺をかっこよく撮れよと背中が語っているのだ。

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今回と同様の方法で森上さんが撮影したカブトムシ&ベニスズメ。もはや撮られ慣れてるよね。

たいしてこのホルスタインことチャバネフユエダシャクはどうだ。そんな事は1ミリも望んでいない。羽もいらない。

そもそも目立たぬようにわざわざひっそりとした冬の夜というステージを選んだのだ。それは厳しい生存競争に生き残るための叡智にほかならないがしかし、生涯の一大イベントがそれでは、あまりにも寂しすぎる。せめて我々が、まばゆく演出してあげなくてはいかんのではないか。

――まあ、あれですね。押し売りするスタジオアリスみたいなもんですかね。

「ははは、お金もらえないけどね」

寒さと酔っぱらいの奇声はますます激しさを増してきた。満足げな着ぶくれおっさん2人の前でフユシャクは、心底どうでもよさそうだった。

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見上げた木の幹にはツクツクボウシの抜け殻がまだ残っていた。

まとめ

厳冬の中、フユシャクを東京カレンダーのように華麗に演出した、森上信夫さんの最新刊「虫・むし・オンステージ!」が好評発売中。

森上さんの撮影したおもしろくかわいいポージングの昆虫達が、圧倒的なボリュームでところ狭しとパフォーマンスをしまくる、カバーの端っこまで見逃せない写真絵本だ。

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「虫・むし・オンステージ!」(写真・文:森上信夫/フレーベル館)

森上さんの活動や最新の情報はこちらをチェック
昆虫写真家・森上信夫のときどきブログ

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