れんさい企画「はじめての調味料づくり」
豆板醤はいま
……ということで、見よう見まねで豆板醤を作ってみたのが前回だ。あの晩作った豆板醤は今、我が家の冷暗所で眠っている。
しまった。先ほど「眠っている」と書いてしまったが、奴は発酵調味料である。眠ってはおらず、日々、熟成に向かって活動を続けているのだろう。いや、続けて……いるはずだと信じたい。そうであってほしい。祈りとともに日々を過ごしている。
豆板醤(仮)と久しぶりの再会を果たしてみた。旧友だったら「変わらないね」と声をかけたくなるくらい、変わりない様子である。
しかし、変化がないって逆にすごいことなのではないだろうか。
常温のまま、しかも夏真っ盛りのこの時期に、茹でたそらまめを放置しておいたら、とんでもないことになる可能性は100%だ。
なのに、どこにもカビが生えていない。怪しい水分も出てきていない。食べものらしからぬにおいもしないのである。
それってつまり、腐敗ではない何かが起こっているということ……?
撫でたい愛でたいジャンプしたい。そんな気持ちでいっぱいだ。引き続き、経過を見守っていきたい。
甜麺醤と豆豉醤、難易度がさまざますぎ問題
で、今回の本題である。
甜麺醤や豆豉醤をさあ作るぞと、作り方を調べてみた。
すると、どうだろう。簡単なものもあれば、難しいにもほどがあるぞというものまで、いろいろあることに気づいた。差が激しい。
まずは甜麺醤。クックパッドには、赤味噌と調味料を混ぜると作れると書いてあった。だが、それはあくまでも簡易版で、本場ではどうやら、小麦粉をこねて発酵させたものを使っているのだという。
豆板醤よりも難しそうだ。しかも、具体的な分量が書かれた素敵な文献がなかなか見つからないときた。となると、おおよその配合を自分で考えるしかないのだが、何をどうすればいいのか、発酵初心者マークの自分にはさっぱり見当がつかない。
さらに豆豉醤。作り方を見たら、豆豉(トウチ)という食材を使っているから、豆豉醬なのだということが素直に理解できた。
豆豉とは、大豆や黒豆に塩や麹を加え、発酵させたあと、干して水分を減らして仕上げる発酵食品だ。それさえ把握してしまえば、豆豉醤がどんなものなのかも、ちゃんと説明ができそうである。
……とすれば、わざわざ豆豉を作るところから始める必要はないだろうか。甜麺醤・豆豉醤のふたつは、自分で発酵させる工程をはしょって(諦めるともいう)クックパッドのレシピに従うのでもいいのだろうか。
……いや、待ってくれ。この連載のタイトルは「はじめての発酵調味料」なのである。発酵の段階から、自分の手でやってみてこそな気がするのだ。
これは大変に悩ましい。
答え:両方やってみればいいのではないか
AかBかを悩んだときには、両方やるのが一番ではないだろうか。まずは、「甜麺醤 作り方」「豆豉醤 作り方」とググったときに即出てくるレシピを参考に簡易版を作ってみることにした。
最初は甜麺醤である。
なんとなんと、めっちゃくちゃ簡単だ。そもそも材料自体、もともと家にあったものだ。負荷がなさすぎるだろう。なのに気がついたら「甜麺醤を家で手作りしている自分」にちょっと陶酔すらしていた。
稼働が少ないわりに達成感も自己肯定感も爆上がりだ。信号が全部青だった日くらいうれしい。今、ソフトクリームがコーンの底までしっかり入っていたときくらいにこにこしている。
家にあるものを10分かけて混ぜ合わせた。ただそれだけなのに、である。
つづいて豆豉醤もいっとこう
豆豉醤を作るには、豆板醤を使うそうで、先日作ったものはまだ熟成されきっていないため、市販のものを買ってきた。
豆豉醤は、甜麺醤よりも少しだけ難易度があがった。
すごい。甜麺醤以上に達成感が、やりきった感がある。これからのわたしはもう、昨日までのわたしとは違う。今日からは「豆豉醤を作ったことがある人」なのだ。それが何にどう作用するのかはわからないが、ただ勝手に誇らしい。
理解できていなかったものを、自分の手が生み出してしまったのだ。
気持ち的にはもうこれでゴールだ。
………とはいえ、やっぱり気になるので、次回は小麦粉を発酵させ、豆豉を作ってみたいと思います。未来がぜんぜん想像できない。
もうしばしお付き合いいただけますと幸いです。