冷蔵庫の中の果物(おもにドリアン)の処理が目下の課題
タイ人はマンゴーをおかずにご飯を食べる。そういう料理…というか、おやつがある。「カオニャオマムアン」だ。
国民的おやつで、街を歩けば、カフェでも、露店でも、屋台でも、カオニャオマムアンを見かけることができる。口にするだけで早口言葉的な達成感のある、カオニャオマムアン。名前の意味は、カオニャオが「もち米」でマムアンが「マンゴー」。ライス&マンゴー。ユニット名でもなければアパレルブランドの名前でもない。
ところで、マンゴーがいけるなら、ほかの果物だっていけるのでは?と思った。結論から言えば、マンゴーはなにげに奇跡的な組み合わせということが判明しました。
マンゴーはどう考えても果物で、果物はどう考えてもデザート。と、日本人ならお思いのことでしょう。だけどこのタイではそんなマンゴーとご飯をいっしょに食べちゃう。「熟れてないから野菜っぽくて浅漬けみたいだよ~、なんて甘っちょろい話ではない。それはそれは立派な完熟イエローだ。そこに個人の好みはあるが、オプションとして、あま~いココナッツミルクと、しょっぱ~い炒った緑豆をふりかけて食べる。
なにはともあれ現物を見てもらおう!
これが街中の至るところで視界に飛び込んでくる。なので在住日本人でも知らない人はまずいないと思うけど、意外と「食べたことないんだよね」という人も多い。この米はもち米、要するにほぼ餅なので、具材的におかしな組み合わせではないどころか、フルーツ大福みたいなものでして。それでいて日本人の食指が動かない背景には、「米は食事で餅はおやつ」と根強いイメージがあるからだと思う。
タイでは国民的だと言った理由は、「よく食べるから」というだけにはとどまらない。
香水って。日本なら、桜餅の香水をつくってみましたといったところか。エレベータに乗り合わせた人から桜餅の香りがしたら、まんま「桜餅食べた?」って思いそう。このブランドの方も、ほかにドリアンの香水をつくったりでなんだか話題性を狙っている節があるので、純粋に香水として好んで付ける人は少数派という気がする。
なお、タイのお菓子はもち米とココナッツミルク(またはシュガーや果実)に、果物を組み合わせる形が基本。なので、実はカオニャオマムアンはセオリー通りのデザート。もともとマンゴーは4月中頃のソンクラーン(旧正月)前後に出回る季節ものだったのだが、この10年ほどでビニール栽培などの技術が向上して通年おいしく食べられるようになり、一気に広まった。といういきさつを辿っている。
が、今でもマンゴー=ソンクラーン前後の季節ものというイメージが強く、その時期は各飲食店が季節感を演出するため売り出すのだとか。日本の、夏にスイカバーをよく見かけて、秋に梨ジュースを見るものかな。
とあれこれ書きましたが、この話はタイ在住ライターの高田胤臣さんからさっき聞いたばかりの受け売りです。
そんなカオニャオマムアン、実はいまだに食べていない。甘いおこわはベトナムでも食べてきたのでいまさら抵抗はないけれど、私は単純に部屋に引きこもりがちなので食べる機会がなかったのです。先日気づいたら丸々3週間も人と話してないことに気づいてビビった。どうでもいいな。今回、いい機会なので食べてみたい。
「撮ってもいいか」と聞くと一瞥もくれず「いいよ」という返事。人気店によくあるこの手の人間(私)には手慣れたこの感じ、撮影する分にはありがたい(話を聞く分にはちょっと困る)。
カオニャオマムアン1個と、カオニャオとココナッツソースのセットが2個で、合計250バーツ(860円ほど)。1個150バーツというから、まぁそんなもん。ただここ、「高いけど美味い」と言われるかなりの人気店で、そのへんの名もなき店のカオニャオマムアンなら50バーツで食べられるところもあるそうです。名はあるか。
さぁ、ようやく人生初のカオニャオマムアン…いただきます!
言いようのない表情になってしまった。
なんだこれ、よく分からん…はじめての味…か?えーと、甘味と…酸味と…塩っ気が…なんだこれ、なんか知ってるぞこれ。確か…。こいつぁ…。マックグリドルだ!!マクドナルドが朝マックで出してるマックグリドルだ。今、「はい?」とか思われてそうだけど。
10年前に食べたあの、ビッタビタにメイプルシロップに浸ったパンケーキをバンズ代わりに、パティとタマゴとチーズが挟まれている背徳感ナンバー1の味。甘味と塩っ気をドカドカぶちこんだ味に、「やべーもん食ってんな」と思いつつ、当時夜勤が多く仕事のストレスがすごかったのでよく食べたのだった(そして太ったのだ)。
カオニャオマムアンの、ココナッツミルクの甘味と炒った緑豆の塩っけの相反する味が、あれに似ている。
ただし大きな違いが、マンゴーによる酸味、これが加わってグリドルよりよほど複雑化している。そういえば、タイで売っているカシューナッツを食べ比べしたときも一番に選んだトムヤム味は酸味と甘味と塩っ気が共存していた。もしかしたらタイのおやつ、いや料理全般に、このみっつの引っ張り合いが真髄なのかもしれない。
で、おいしいの?そうじゃないの?というと、大変まどろっこしい言い方をしましたが、ハイおいしいです。最初こそ味覚が混乱したが、このみっつの味の引っ張り合いが楽しい。食べる部分、食べる量によって、甘かったり、しょっぱかったり、はたまた酸っぱかったりする。こうしてコロコロと味覚を弄ぶのがタイ式なのかもしれない。
さて!ここからが本題。マンゴーにライスが合うなら、ほかの果物だって合うんでない?それを探ってみてみたいと思います。明日のもち米はだれ(果物)の手に?タイにならってフルーツ丼だ!
…の前に、書いてる真っ最中に気づきましたが、6年前に同じような企画を四方(よも)さんが書かれてましたー!うわー!ひえー。こわいなー。こわいこわいー。見なかったことにしてー。よろしくお願いしますー。
という訳で、スーパーで目についた果物を手当たり次第買ってみた。
右上から時計回りでこの通り。
・バナナ
・パパイヤ
・ザボン
・パイナップル
・スイカ
・ドリアン
・りんご
・メロン
・ジャックフルーツ
評価は便宜上、食感、味、そしてカオニャオマムアンとの類似度を、それぞれ5段階に分けて評価することにした。食べる順番は先の一覧とは変わります。
■パパイヤ
あれ?初回から意外とうまいぞ。自分でやっておきながら正直ぜんぶダメだと思ってた。でも、パパイヤってマンゴーってちょい似てる。魔女の鏡に「この世でマンゴーに一番近い果物は?」と問えば「パパイヤです」と言ってもおかしくない。Googleに聞けよってか。ただ、マンゴーの持ち味の酸味がパパイヤにはなく、その点ではカオニャオマムアンに近いか?といえばそうでもない。
■バナナ
うまい、かなりうまい!バナナももち米も二チャッとしてるから(表現的には最悪だが)、口の中でまとまって一体化したグルーヴ感を生み出している。口内調理によるまんじゅうだ。というより、同じくもち米でつくるベトナムの甘味のチェーは、バナナもよく使うから、おいしくて当たり前かな。ただ、パパイヤと同じく酸味がほぼゼロなので、カオニャオマムアンとはまったく方向性が違う。これはこれでおいしいけど。
■ジャックフルーツ
ふざけるなと思った。ふざけてるのはおれか。すみません。ジャックフルーツのシャリシャリ感ともち米のモチモチ感が、出会い頭で命を奪い合う。しかしそれは食感面で、味については意外とマリアージュ。知る人の方が少なそうだが、ジャックフルーツの味はパパイヤに近い。それに、タイではたまーに露店でジャックフルーツの溝にもち米を詰めたおやつを見かけるので、好きな人は好きなんだろう。この食感に慣れる気はしないけど…。
■メロン
味云々の前に、みずみずしすぎてただの濡れたもち米だ。甘味の評価をする以前に、ここまで水気でビタビタだとそれ以前という話になってしまう。いくらおもしろい漫才でも30分だと聞く気にならないようなものだ。ニュースの見すぎてつい漫才でたとえてしまった。まぁ、その水気もメロンの品種によっての違いはあろうけど。
■りんご
シャリシャリ、これも食感的にはジャックフルーツと同系統の無理さが全開。ただ、味は意外と悪くない。考えてみればここではじめての酸味が強めの果物で、もち米のほのかな甘味とココナッツミルクのくどめの甘味にようやく良い意味でのライバル出現という感じ。食感的には似ても似つかないが、甘味と酸味の引っ張り合いという意味ではカオニャオマムアンに実のところ近い。このバランスこそが重要なんだろう。
■ドリアン
キング・オブ・フルーツ!ドリアン!これうまかった、というより完成度が高かった。ばくだん丼然り、粘土の高いものと白米って相性が良いのかもしれない。もはやバターに近いねっとり感なのでそれほどの違和感もなし。それでもやっぱり酸味は足りないので、カオニャオマムアンにはあと一歩。ドリアンに抵抗がなければまず問題ない。というより実は、タイにも、ベトナムにも、あるんだよな。ドリアンおこわ。そりゃ合うよね。
■スイカ
スイカはほぼ水でした、あとはお察しください
■パイナップル
うまい。やっぱりカオニャオマムアンにおいて果物に求められる味の役割は酸味と思って間違いない。「甘味は任せろ」とココナッツミルクが言い、「塩気は任せろ」と緑豆が言い、そうなるともう最後の1ピースは酸味だけ。水々しくはあるがそれは表面だけで、このほどよい固さの食感ももち米との相性は悪くない。ただ、さすがに存在感が強すぎて、「これもう単にパイナップルのかさ増しをしているだけでは?」という疑念も残った。
■ザボン
「★」の書き忘れではない。これは最悪だ。自分で試しておいて最悪だなんて、ザボン農家の方には大変申し訳ないけど。でも、ただでさえ水気が多い中で、プチプチと粒が潰れるたびにもち米がピチャピチャになってしまう。それでいて、きっと個体差なのだろうけどこいつは苦味が強い。ほしいのは酸味でありそれじゃない。
黄色い果物はなぜかもち米と相性がいい
結果、マンゴーに次ぐもち米のお供はこの通り!
結局、ドリアンもバナナも、カオニャオマムアンほどのメジャー度はなくとも組み合わせとして存在はあるんですよね。その意味ではランキングは順当。パイナップルはおいしいけどそれ自体の酸味が強すぎて、もち米それほど関係ない。新発見としてはパパイヤもいけたよ、くらいか。このマンゴーとの組み合わせを発見した人には敬意を評したい。きっといろいろ試したんだろうな、フグを食べられるまでの努力に比べればイージーだけど。
それとなぜか、全体的に黄色い果物はもち米と相性がよかった。マンゴーはもちろんのこと、ドリアンとバナナはすでに組み合わせとして存在しているし、変化球だがパイナップルも悪くなかったし、ジャックフルーツも一定のファンはいる。偶然かもしれないけど、まさかもち米との相性に色が関係してくるとは思ってもみなかった。
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