佐渡島でおこなわれる小さなお祭りに参加しよう
佐渡島で行われる「ハロー!ブックス2025」という素敵なイベントに呼んでいただいた際、その翌々日に佐渡南部の羽茂大崎という山奥の集落で「佐渡であいましょう」という小さなお祭りがおこなわれることを知った。入場無料で大道芸やサーカスが観られる催しらしい。
この集落にはよく通っているし、知り合いもたくさん出るようなので、まだ滞在予定だったから見に行くことにしたところ、そのついでにうどんを打たせてもらうことになった。

なぜ急にうどんを打つ流れになったのかを説明する。
この会場には「ちょぼくり」という渋い蕎麦屋があったのだが、お店をやられていたご夫婦が体力の限界などから、一昨年いっぱいで閉店をした。
その後、その軒先で営業していたドーナツ屋の「おいしいドーナツ タガヤス堂」が建物を譲り受け、この春からちょぼくりに移動したのである。




年に数回訪れる程度の余所者がどうこういう話ではないのだが、集落の憩いの場でもあったちょぼくりで、こういったお祭りの日に蕎麦屋として復活をしたら盛り上がりそうだ。
でもみんな忙しい。なら私がやってみようか。とはいえ手打ちの蕎麦は難しく、ちょぼくりの味を知っている地元の人が集まるイベントだからこそ、ヘタな蕎麦は出せない。
なにならできるだろうか。手打ち蕎麦は無理でも、家庭用製麺機を使ったうどんなら私にも出せるかもしれない。よし、やろうとドーナツ屋に連絡をした。
要するに私がこの素敵な場所で、一回うどん屋さんをやってみたかっただけなのだが。

佐渡産小麦でちょぼくりの蕎麦風うどんを打つ
タガヤス堂の耕(たがやす)さんが、ちょぼくりのご主人から教わったというつゆの作り方によると、そもそもは佐渡の伝統食材であるアゴ(トビウオの焼き干し)がベースだったが、トビウオがまったく獲れなくなったため、晩年は煮干しを使うことが多くなったそうだ。
今回は令和版のつゆということで、幻となったトビウオの代わりに近年作られるようになった、アジを使った佐渡産焼き干しを使用した。
昆布と一緒に水にしばらく漬けて(本来は干し椎茸も入れる)、弱火で沸騰直前まで温めたら取り出し、みりん、酒、醤油などで味を決める。砂糖は入れずにキリっと仕上げるのがちょぼくりスタイル。

うどんに使う小麦粉だが、せっかくだから佐渡の食材を使いたいので、佐渡産の小麦粉を購入した。ただ品種がゆきちからという強力粉で、とても風味があってうまい粉なのだが、うどんにするとちょっと硬い麺になってしまう。
そこで伊勢うどんにも使われる、あやひかりというモッチリと柔らかい小麦粉の生地でゆきちからをサンドをした三層の麺帯を作り、喉ごしはつるっと滑らかで、でも噛みごたえと味わいのある細麺に仕上げてみた。




できあがった麺を茹でて、水でしっかりと締めて、焼き干しのつゆをかけて、ネギを乗せたら完成。麺もつゆもちょぼくりとは違うオリジナルだが、丼と盛り付け方だけは当時と一緒。
もちろんちょぼくりで食べたあの蕎麦とは別物の味だけど、これはこれでおいしいと思う。喉ごしが素晴らしい。これを食べてくれた人の胸に、この場所で蕎麦を食べた日の思い出は蘇るだろうか。

今思えば、あえて佐渡産の小麦粉だけで生地を作り、それを太めに切り出しても、それはそれでちょぼくりの蕎麦を思い出させる力強い麺になったかもしれない。
わざわざうどんで蕎麦を再現しようとするなという話なのだが。