特集 2020年10月9日

小説家と「犬の看板」を見せ合う会

犬看に魅せられた男達。

高校時代からの友人で小説家の太田靖久が犬の看板を収集している。路上観察としてはわりとポピュラーなテーマだが、小説家だけあって?入り込み方がすごいのだ。

「よし、見せっこしよう」

散歩趣味の小説家とライターが集まって推しの犬看板を語り合った。


 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

前の記事:サービスエリアに1万羽のツバメが舞い降りる!談合坂の集団ねぐら観察

> 個人サイト バレンチノ・エスノグラフィー

犬の看板を探しさまよう小説家

以前、彼の「たねねた本」という活動を紹介した。古本とその内容をネタにした彼の創作をセットにしたもので、「ブックマート川太郎」という架空の本屋の商品として兄の店「 PRANK WEIRD STORE」や各種イベントで販売されている。
 

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太田靖久(おおたやすひさ)、新潮新人賞を授賞しデビュー10年目にしてデビュー作「ののの」が単行本化されるという数奇な運命を順調に辿っている。
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10月刊行の初単行本「ののの」友人の名を大竹伸朗書体で見る日が来るなんて夢思わなかった。


ブックマート川太郎の商品は「たねねた本」だけではない。出店する先で来場者が感嘆したり、「あんたほんとに小説家ですか」と眉をひそめたりするアイテムが「犬の看板写真集」や「犬の看板くじ」である。

 

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犬の看板写真集「都会犬」「地方犬」。

 

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このネット時代にプリントしたL判の写真で見るのは新鮮だ。

「朝に犬を見かけると『朝の犬はいいな』と楽しくなるし、昼に犬に出合うと『昼の犬は特別だな』とうれしくなるし、夜に犬とすれ違うと『夜の犬は最高だな』と贅沢な気持ちになる」(「犬の看板探訪記 茨城編」太田靖久/生活考察Vol.6/タバブックス)ほどの犬好きが街角の犬のふん看板に魅せられ、収集するばかりか写真集や参加型のくじまで作ってしまった。
 

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犬の看板写真くじ。駄菓子屋にあるアイドルブロマイドくじを改造した無駄にハイクオリティな仕様。


 

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小平の看板をゲット。

かくいう私も住宅街の犬の門標を調べたり、街中の犬メディアにはかなりアンテナを張っているので、それならお互いの推し犬看板を持ち寄って見せっこしようぜ、という事で、高校時代はなんというか、お互いもうちょっと大志を抱いていたような気もするがとにかくWEBメディア上で犬の看板をだらだら語るという企画が実現した。
 

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参加者が持ち寄った犬看板を画面に映してああだこうだ言う会。

伊藤健史の推し看板

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 今回はあえて東京都内のは外して出張とか旅行なんかで見つけたのを持ってきてるんだけど、まずはこれ。 

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飛ぶように駆けるコリーと少年。

 

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コリーを使ってるのはこのタイプしか見た事ないんだよね。というかここまで犬種がはっきりしてるのがあまりないというか。

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これは僕が「フリ素(フリー素材)系」と呼んでいるやつだね。同じビジュアルで様々な市町村で使われている。でも確かにここまではっきりコリーなのは見ないね。
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いろんなところで使われている「フリ素系」
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「厚木市・自治会」広いような狭いような組織の表記がいいですね。

組織に反応したのは小説家の鴻池留衣さん。

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トランスフォーマーTシャツがうらやましい。

 2016年「二人組み」で新潮新人賞を受賞しデビュー、2019年には「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」で第160回芥川賞候補となった気鋭の作家である。

ぶらぶら街を徘徊する散歩癖があり、太田が犬看板を集めているのを知って散歩で見つけた看板の写真を撮って送りつけていたら犬看板好きになっていた。

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ちなみに「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」の表紙も犬。

こんなぶっとんだ小説を書く人の視点が面白くないわけないだろうという事で参加してもらったのだ。

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この3人でお送りします。
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市町村の名前だけじゃなくて「環境美化推進協議会」みたいに組織の名前が出てくると僕はワクワクするんですよね。夜な夜な活動して街中でこういう看板をくくりつける集団を想像したりして。 

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出てきそうだなー鴻池さんの小説に。
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組織名でいうと萩で見つけたこれがよかったですね。

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糞・フン・ふん どうしますか!!
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「萩市環境衛生推進協議会」いいですね。市の名前は一文字だけなのに組織名が断然長い、暗躍してますねこれは。

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左側すっかすかだもんね。

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「どうしますか!!」自分で考えなさいって事だよね。

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ちょっとアントニオ猪木入ってるよ。

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猪木の口になっちゃうんだよ。

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イラストのタッチもいい感じだなー。これは僕が見つけたかったな。 

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仲良さそう。どうしますか!なんて愚問でしょぐらいに。
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これは秋田の横手で見つけたんだけど、とにかく犬が良くて。

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ぜったい秋田犬ではない感じだが。
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この犬はいい!好きですね。リボンつけてるのはキティちゃんぽくしたかったのかな。

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そうだとしたらご当地キティすぎますね。しかも「?」って何をすっとぼけているのか。

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かわいい犬にもおっさんにも見えてくる魅惑のイラスト。
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下の雪に埋まってるところはなんて書いてあるんだろう。
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それは...この看板に近づこうとしたら側溝か何かにはまって腰ぐらいまで雪に埋まって、死ぬかと思ってテンパって見るの忘れたんだよね......。
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最後の1枚になったかもしれなかったのか......。

 

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これは見た瞬間だいぶびっくりしたやつなんだけど......。

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うろたえる犬。

 

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パッと見口から手が出てるのかと思ってびっくりしたんだよね。

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エイリアンか。
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ウンチのイラストだけやけにリアリティがありますよね。影もしっかり付けてて。
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犬の動揺っぷりがすごいのはそれにびっくりしてるんじゃないかな。「こんなリアリティすごいの出ちゃった」っていう。

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のどから手が出るほどの精細なうんこが。
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ソーシャルディスタンスをもろともせず盛り上がる。

 

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鴻池留衣の推し看板

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ツートンの日章旗、胸に輝く「C」、何者?
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僕のはいきなりフンから外れちゃってるんですけど......。

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かわいいのに文言が穏やかじゃないですよね。「密輸入」て。

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これ、税関のキャラクターでカスタム君っていうらしいんですよね。もうすっかりフンにかかわらず犬に反応するようになってしまった。
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ダイヤルの語呂合わせが「シロイ クロイ」て。
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そういえば税関って公式Facebookページがあって、フォローするとどこどこの税関で麻薬を何kg押収しましたみたいな情報が投稿されて、それに「いいね」すると撲滅に協力したみたいで気持ちいいんですよ。

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あ、それで思い出した。カスタム君って麻薬探知犬っていう設定なんですよ。
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じゃあ、少し注射してるんですかね......。

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まだそんな都市伝説を。だとしたらこんな太らないでしょ(そこかよ)
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次のは品川のやつなんですが......。

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表情がピースフル。
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これ色がついてるバージョンは無いんですかね。 
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僕の知る限りではないですね。

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この犬、口元のところがよくわからなくて......ベロが2枚あるように見えるんですよ。

 

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ほんとだ。
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色ついてるバージョンがあればなんだかわかるかもと思ってたんです。

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2枚舌って事なのかな。

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しかしいい表情だな。拡大して見るの楽しいね。

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さっきフリ素系というのが出たけどこういうのはオリジナル系と呼んでいます。その自治体でしか使われてないオリジナリティの強いイラストのやつ。品川はけっこう多いんだよね。

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そうですね、これも品川で見つけました。
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80年代の筆箱にありあそうなファンシー感。

 

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眉毛の存在感がすごいよね。
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最初この眉が目にみえたんですよね。カバかと思いました。

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目が鼻の穴になって(笑)足のでかさもいいよね。人が入ってるみたい。こういうのは「着ぐるみ系」と呼んでます。

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人が入ってるとしたらあのフンは......。

 

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これは夜に小松川のあたりを散歩してて見つけたんですけど......。

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すごく夜に歩いてますね。
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これは雰囲気持ってますねー。

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太田さん、これはサブジャンルでいうと何系ですか?
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これはもうなんていうか「開き直り系」じゃないですかね。だってスコップをかかげてるもん。飼い主がふんを片付けようとしたスコップを奪ってるんじゃないかな。
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僕がやるよって?

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いや、「お前は手で埋めろ」って言ってるんだよ。

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放し飼いどころか下克上じゃないか。

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たしかに上から目線感はある。
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僕がすごい気になるのはへそ周りなんですよね。なんでへそをそこまでっていうのと、へそが描きたいならここ黒くしなくていいじゃんみたいな。
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確かに!フチ取りまでして。

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文言の端にいちいち承認の足形が押してあるところを見ても飼い主より犬の方が立場が上だよね。

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上長印ですか。

 

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太田靖久の推し看板

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僕のは基本的に2枚組みで見せたいんだけど。まずは北区のこの子。

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すごくいやそうにフンを見つめるドッグ。
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いいブルドッグだね。

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そう、で、次のが武蔵村山市で見たこれ。

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あれ?
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同じ........じゃない!なんかゆるいぞ。

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これは模写系って呼んでるやつなんだけど、最近ニュースにもなったでしょ、スペインの家具修復業者が名画を修復してわけわかんなくなっちゃったみたいな。
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比べると歴然。
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北区の模写をしたらこんなになっちゃったんですかね.....。
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そう、首輪なんてもはや肩出してる女の人の服みたいになっちゃってるでしょう。
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しっぽも古生代の爬虫類のしっぽだな。

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あと口の周りもよくわかんないよね。もう完全に泥棒のそれでしょう。僕は北区から見つけたけど、これ逆の順番で見つけてもかなり感動したと思うね。

 

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次はこれ。

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同じ犬、だが......。
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これはわりとよく見るフリ素系なんだけども、反転したりいろいろ変えてるんだよね。「サイゼリヤの間違い探し系」と呼んでるんだけど。

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系のバリエーション多いな。 
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ワンチャンが足上げてないなあ。あと右側のほうのウンチのほうがなんか、硬いですね。
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そう、正解。
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硬度の違いも当てなきゃならんのか。
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ウンチの上におしっこを垂らしてるのすごいなと思ったんですけど、それがなくなってますね。 

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おそらくなんだけど、足を上げて水滴たらしてる方が先で、ちょっとこれはエグすぎるっていうことで落ち着いた表現になったんじゃないかな。
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関わる組織も3つに増えてるからチェック厳しいのかな。

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尻が多いな。
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「塩尻市衛生協議会連合会」1つの組織の中に「会」が2つ入ってるのはすごく興奮しますね。 

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協議会の連合?スケール感からしてミステリアスですね。

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最後はこれ。

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犬の照れがすごい。

 

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異常に照れてる犬と片付けている子供、もうフリー素材としてはメジャー中のメジャーなんだけど、甲府のこれはバックが青空の爽やかな日って感じじゃないですか。で、次の見てもらうと......。
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背景にいい柵が現れる。
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おお。
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このコンビは全く一緒なんだけど、背景が全然違うんだよね。背景が違うだけで別日って感じがする。永遠にこのワンちゃんと少年はこれを繰り返してるような気がするんだよね。永遠性を感じるというか。
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永劫回帰だ。
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そうそう、3日目、4日目、5日目とかが想像できるわけ。そう思うとほら、なんか急に切なくなってくるでしょ。

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ちゃんとウンチをすくってるのはいいですよね。

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そう、この子はいつだって優しいし、この犬はいつだって恥ずかしがる。いつだってこういうコンビです。

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何かこみ上げてくるね。
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いつでも。どこでも。
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もっとバリエーションがあるかもしれないよね。僕も最初見逃していたかもしれないんだけど、なんかよく見たらあれ?背景違うじゃん、ってなって。

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甲府と西東京、散歩の距離長いよね。

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そうそう、距離も感じさせるでしょ。

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なんか今日見た中で1番優しい看板ですよね。
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こういう見方をしているとただ記録するというだけでなくある種の、創作へ繋がっていく部分もあるのかな。
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そうだね。例えば犬看グッズでオリジナルのキーホルダーを作ってるんだけど、フリ素系にしろオリジナル系にしろ、相当の数を見て、さんざん見てきたが故の、ありそうでなさそうでっていう落としどころとが出てきて。
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オリジナルグッズのキーホルダー。看板は架空のもの。

 

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そういうふうに書いてるじゃん小説って。そういう境界線が曖昧なところで。

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わかる。撮った写真を送りつけて、太田さんが見たことないやつだった時の嬉しさったらないんですけど、僕、そのうち捏造しそうで怖いなって(笑)

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鴻池さんもそういうスタイルで書いてるでしょ。組織名から自治会の陰謀説みたいな話が出てたけど「最後の自粛(鴻池さんの新作短編 「新潮」2020年6月号掲載)」なんてまさにそんな感じだし。

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パソコンを閉じても終わらない止まらない。
 

犬の看板見せ合おうぜ!というゆるい企画の中でも小説家の「共感力」を存分に堪能した鼎談だった。犬看板を求め街をさまよう、これも彼らにとって間違いなく小説なのだ。

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太田お気に入りの1枚。レトロ味がすごい。「これ、最古の犬看板なんじゃないの!?」

<告知その1>
10/18(日)今回の記事のメンバーでオンライン配信のトークイベントに出演します!
本屋B&B presents
鴻池留衣×伊藤健史×太田靖久
「創作のタネとしてのサブカルチャー」
『ODD ZINE』vol.5刊行記念

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太田靖久編集・執筆のZINE。最新刊vol.5では犬の看板コラム「犬の看板物語」を執筆。
鴻池留衣さんも太田の単行本「ののの」にちなんだ短編「あああ」を寄稿しています。

路上観察などを中心としたサブカルチャー偏愛からそれをアウトプットに活かす方法までを談じます。今回の記事で紹介しきれなかった
キュートな犬看板もがんがん出てきます。 

■日時:10/18(日)19:00〜21:00
■参加方法:オンライン配信
■特典:『ODD ZINE』vol.5つき配信チケットをお買い求めの方には、特典として太田靖久撮影「犬の看板写真」ブロマイドを1枚同封いたします!
■詳しいイベント情報・チケット申しこみはこちらへ
<本屋B&Bイベントページ>
http://bookandbeer.com/event/20201018b/

<告知その2>
開催中!犬の看板写真展 at西荻窪BREWBOOKS

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太田靖久編集・執筆のZINE「ODD ZINE」vol.5刊行記念として犬の看板写真展を開催中。記事では紹介しきれなかったコレクションを一挙公開!

■期間:10/1(木)〜10/25(日)
■場所:西荻窪「BREWBOOKS」
■詳しくはこちら(オフィシャルサイト)
https://brewbooks.net/?p=9769

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