今回はあえて東京都内のは外して出張とか旅行なんかで見つけたのを持ってきてるんだけど、まずはこれ。
犬の看板を探しさまよう小説家
以前、彼の「たねねた本」という活動を紹介した。古本とその内容をネタにした彼の創作をセットにしたもので、「ブックマート川太郎」という架空の本屋の商品として兄の店「 PRANK WEIRD STORE」や各種イベントで販売されている。
ブックマート川太郎の商品は「たねねた本」だけではない。出店する先で来場者が感嘆したり、「あんたほんとに小説家ですか」と眉をひそめたりするアイテムが「犬の看板写真集」や「犬の看板くじ」である。
「朝に犬を見かけると『朝の犬はいいな』と楽しくなるし、昼に犬に出合うと『昼の犬は特別だな』とうれしくなるし、夜に犬とすれ違うと『夜の犬は最高だな』と贅沢な気持ちになる」(「犬の看板探訪記 茨城編」太田靖久/生活考察Vol.6/タバブックス)ほどの犬好きが街角の犬のふん看板に魅せられ、収集するばかりか写真集や参加型のくじまで作ってしまった。
かくいう私も住宅街の犬の門標を調べたり、街中の犬メディアにはかなりアンテナを張っているので、それならお互いの推し犬看板を持ち寄って見せっこしようぜ、という事で、高校時代はなんというか、お互いもうちょっと大志を抱いていたような気もするがとにかくWEBメディア上で犬の看板をだらだら語るという企画が実現した。
伊藤健史の推し看板
コリーを使ってるのはこのタイプしか見た事ないんだよね。というかここまで犬種がはっきりしてるのがあまりないというか。
「厚木市・自治会」広いような狭いような組織の表記がいいですね。
組織に反応したのは小説家の鴻池留衣さん。
2016年「二人組み」で新潮新人賞を受賞しデビュー、2019年には「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」で第160回芥川賞候補となった気鋭の作家である。
ぶらぶら街を徘徊する散歩癖があり、太田が犬看板を集めているのを知って散歩で見つけた看板の写真を撮って送りつけていたら犬看板好きになっていた。
こんなぶっとんだ小説を書く人の視点が面白くないわけないだろうという事で参加してもらったのだ。
市町村の名前だけじゃなくて「環境美化推進協議会」みたいに組織の名前が出てくると僕はワクワクするんですよね。夜な夜な活動して街中でこういう看板をくくりつける集団を想像したりして。
組織名でいうと萩で見つけたこれがよかったですね。
「萩市環境衛生推進協議会」いいですね。市の名前は一文字だけなのに組織名が断然長い、暗躍してますねこれは。
左側すっかすかだもんね。
「どうしますか!!」自分で考えなさいって事だよね。
ちょっとアントニオ猪木入ってるよ。
猪木の口になっちゃうんだよ。
イラストのタッチもいい感じだなー。これは僕が見つけたかったな。
これは秋田の横手で見つけたんだけど、とにかく犬が良くて。
この犬はいい!好きですね。リボンつけてるのはキティちゃんぽくしたかったのかな。
そうだとしたらご当地キティすぎますね。しかも「?」って何をすっとぼけているのか。
最後の1枚になったかもしれなかったのか......。
これは見た瞬間だいぶびっくりしたやつなんだけど......。
パッと見口から手が出てるのかと思ってびっくりしたんだよね。
犬の動揺っぷりがすごいのはそれにびっくりしてるんじゃないかな。「こんなリアリティすごいの出ちゃった」っていう。
鴻池留衣の推し看板
僕のはいきなりフンから外れちゃってるんですけど......。
かわいいのに文言が穏やかじゃないですよね。「密輸入」て。
そういえば税関って公式Facebookページがあって、フォローするとどこどこの税関で麻薬を何kg押収しましたみたいな情報が投稿されて、それに「いいね」すると撲滅に協力したみたいで気持ちいいんですよ。
じゃあ、少し注射してるんですかね......。
次のは品川のやつなんですが......。
僕の知る限りではないですね。
色ついてるバージョンがあればなんだかわかるかもと思ってたんです。
2枚舌って事なのかな。
しかしいい表情だな。拡大して見るの楽しいね。
さっきフリ素系というのが出たけどこういうのはオリジナル系と呼んでいます。その自治体でしか使われてないオリジナリティの強いイラストのやつ。品川はけっこう多いんだよね。
最初この眉が目にみえたんですよね。カバかと思いました。
目が鼻の穴になって(笑)足のでかさもいいよね。人が入ってるみたい。こういうのは「着ぐるみ系」と呼んでます。
人が入ってるとしたらあのフンは......。
これは夜に小松川のあたりを散歩してて見つけたんですけど......。
これは雰囲気持ってますねー。
僕がやるよって?
いや、「お前は手で埋めろ」って言ってるんだよ。
放し飼いどころか下克上じゃないか。
確かに!フチ取りまでして。
文言の端にいちいち承認の足形が押してあるところを見ても飼い主より犬の方が立場が上だよね。
太田靖久の推し看板
僕のは基本的に2枚組みで見せたいんだけど。まずは北区のこの子。
いいブルドッグだね。
そう、で、次のが武蔵村山市で見たこれ。
同じ........じゃない!なんかゆるいぞ。
しっぽも古生代の爬虫類のしっぽだな。
あと口の周りもよくわかんないよね。もう完全に泥棒のそれでしょう。僕は北区から見つけたけど、これ逆の順番で見つけてもかなり感動したと思うね。
次はこれ。
これはわりとよく見るフリ素系なんだけども、反転したりいろいろ変えてるんだよね。「サイゼリヤの間違い探し系」と呼んでるんだけど。
ウンチの上におしっこを垂らしてるのすごいなと思ったんですけど、それがなくなってますね。
関わる組織も3つに増えてるからチェック厳しいのかな。
「塩尻市衛生協議会連合会」1つの組織の中に「会」が2つ入ってるのはすごく興奮しますね。
協議会の連合?スケール感からしてミステリアスですね。
最後はこれ。
そうそう、3日目、4日目、5日目とかが想像できるわけ。そう思うとほら、なんか急に切なくなってくるでしょ。
ちゃんとウンチをすくってるのはいいですよね。
そう、この子はいつだって優しいし、この犬はいつだって恥ずかしがる。いつだってこういうコンビです。
もっとバリエーションがあるかもしれないよね。僕も最初見逃していたかもしれないんだけど、なんかよく見たらあれ?背景違うじゃん、ってなって。
甲府と西東京、散歩の距離長いよね。
そうそう、距離も感じさせるでしょ。
そういうふうに書いてるじゃん小説って。そういう境界線が曖昧なところで。
わかる。撮った写真を送りつけて、太田さんが見たことないやつだった時の嬉しさったらないんですけど、僕、そのうち捏造しそうで怖いなって(笑)
鴻池さんもそういうスタイルで書いてるでしょ。組織名から自治会の陰謀説みたいな話が出てたけど「最後の自粛(鴻池さんの新作短編 「新潮」2020年6月号掲載)」なんてまさにそんな感じだし。
犬の看板見せ合おうぜ!というゆるい企画の中でも小説家の「共感力」を存分に堪能した鼎談だった。犬看板を求め街をさまよう、これも彼らにとって間違いなく小説なのだ。
<告知その1>
10/18(日)今回の記事のメンバーでオンライン配信のトークイベントに出演します!
本屋B&B presents
鴻池留衣×伊藤健史×太田靖久
「創作のタネとしてのサブカルチャー」
『ODD ZINE』vol.5刊行記念
路上観察などを中心としたサブカルチャー偏愛からそれをアウトプットに活かす方法までを談じます。今回の記事で紹介しきれなかった
キュートな犬看板もがんがん出てきます。
■日時:10/18(日)19:00〜21:00
■参加方法:オンライン配信
■特典:『ODD ZINE』vol.5つき配信チケットをお買い求めの方には、特典として太田靖久撮影「犬の看板写真」ブロマイドを1枚同封いたします!
■詳しいイベント情報・チケット申しこみはこちらへ
<本屋B&Bイベントページ>
http://bookandbeer.com/event/20201018b/
<告知その2>
開催中!犬の看板写真展 at西荻窪BREWBOOKS
太田靖久編集・執筆のZINE「ODD ZINE」vol.5刊行記念として犬の看板写真展を開催中。記事では紹介しきれなかったコレクションを一挙公開!
■期間:10/1(木)〜10/25(日)
■場所:西荻窪「BREWBOOKS」
■詳しくはこちら(オフィシャルサイト)
https://brewbooks.net/?p=9769