特集 2025年12月10日

ドボク模型グランプリ2025

学生たちが土木技術を、動く模型で紹介する「ドボク模型グランプリ」が開かれるという。難しいかなと思ったのだが、背景から丁寧に説明してくれるのでよくわかり楽しかった。大会の模様を紹介したい。


東京国際フォーラムで開催

「ドボク模型グランプリ2025」は東京・有楽町の東京国際フォーラムで開かれた。「日経クロステックNEXT 東京 2025」というイベントの一環で、主催は日経コンストラクションである。

会場はこんなふう。国土交通省の技監や主催者による挨拶のあと、いよいよ学生たちのプレゼンテーションが始まった。 

いったん広告です

鉄筋が命を守っている

最初は、早稲田大学の有志によるチーム温室である。

右奥に見えている写真の明るい表情に比べて、緊張気味だ。トップバッターというのはそれだけで偉い。

テーマは、コンクリートのなかの鉄筋のようだ。いきなり模型で実演するのではなく、まずは背景を説明する流れになっている。

建物の構造にはコンクリートが使われるが、それだけでは地震の揺れなどには耐えられない。

そこで鉄筋を入れる。すると、ひっぱりに強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートがお互いを補い、建物が強くなる。

ただし、鉄筋の入れ方にもいくつか種類がある。まずは、軸方向鉄筋という縦の鉄筋を入れた場合にどうなるか、建物を揺らす実験をする。

台には二つの寒天が載っている。「あり」と書いたほうには赤い線のように長い竹串が、軸方向鉄筋として刺さっている。「なし」と書いたほうは短い竹串だけで支えられている。

「なし」のほうはよく揺れていて・・

さらに強く揺らすと倒れてしまった。

 

なので軸方向鉄筋は役に立つのだが、それでもさらに揺らすと・・。

軸方向鉄筋ありのほうも倒れてしまった。

実際に、阪神淡路大震災で倒壊してしまった高速道路の柱ではこのようなことが起きたという。 

 

ここで起きているのは、せん断破壊という現象である。せん断力とは、建物を互いに平行に逆方向に引き裂こうとする力だ。

それに対抗するためには、せん断補強鉄筋という鉄筋を、巻きつけるようにつけるのだという。実際にやってみたらどうなるか、というのが次の実験だ。

というわけでやってみる。「あり」と書いたほうには、せん断補強鉄筋を模した竹串が巻いてある。なしのほうは軸方向鉄筋だけだ。

揺らすと、なしのほうはよく揺れていて・・。

最終的に吹っ飛んで倒れてしまった。

 

動画を見るとちょっと笑っちゃうくらい揺れている。とにかく、せん断補強鉄筋のあるほうが強いのは伝わってくる。

いったん広告です

審査はM-1方式

ここまでで発表が終わり、次は審査に入る。審査員として土木のすごい人たちが9人座っていて、漫才コンテストのM-1のように、一人ずつ得点を発表していく。

最初の二人の得点は、74点、86点。

 

最終的な得点は695点だった。審査員は9人なので、900点満点だ。平均得点は77点。これからはこれが基準になる。

そしてM-1と同じく、審査員から何人かがコメントをしていく。

中原俊之さん(清水建設常務執行役員土木営業本部長)

中原さん「説明がすごく分かりやすくて、本当に良かったなと思います。阪神淡路大震災をテーマに取り上げていただいてました。震災の当時は復旧現場を走り回ったんですが、今年であれから 30 年なんですけど、皆さんの世代がこれをテーマとして取り上げてくれたことが本当に嬉しく思いました。」

堀智晴さん(京都大学防災研究所長)

堀さん「分かりやすい説明ありがとうございました。よく工夫されてて、ここを見て欲しいっていうところがよく分かりました。

ただ、すっぽ抜けて剪断破壊面が出てこなかったのはちょっと残念だったかなと思います。鉄筋コンクリートって付着力が強くて、ほぼ鉄筋とコンクリートが一体で動くのが理想なので、例えば竹ひごに少し切り込みを入れて摩擦を強くするとかの工夫もできたかなと思います。ぜひ発展させてください。ありがとうございます」

専門家から見て、学生のプレゼンには思うところもあるだろう。しかしまずは肯定的に受け止める。そして必要なら建設的な助言をする。そのあたりがとてもいいなと思った。

いったん広告です

擁壁の水抜き穴にものを詰めてはいけない

kyodai-1.jpg
京都大学 ナンジャモンジャチーム

つぎは京都大学 工学研究科 都市社会工学専攻の学生のみなさんだ。

擁壁についての話。

そもそも擁壁(ようへき) とは、崖が崩れないように抑える壁だ。

この壁が擁壁なのだが、よく見ると矢印のところに穴が空いている。これは何か?というのが本題だ。

覗き込むとこんなふうになっている。

塩化ビニールのパイプが奥まで続いている。

発表者の一人である小室さんは、こどもの頃、ここに空き缶や石が詰められているのを見て真似していたらお母さんに怒られたとのこと。

なぜなら、この穴は擁壁の内側に溜まった雨水を抜くための水抜き穴だからだ。

国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」p.3 より

これは擁壁を横から見たようすで、まんなかの点線のところが水抜き穴だ。ちょっと分かりづらいが、左側が正面で、右側が壁の内側で土が詰まっている。壁の内側に雨が降ると、水の分だけ土が重くなり壁を内側から押そうとする力が増え、最悪の場合は壁が崩れてしまう。

だからそれを防ぐために水を抜くための穴が空いているのだ。よく見ると穴にはちゃんと傾斜がついていて、正面に向かって水が落ちてくるようになっている。

夏ごろ、東京で擁壁が崩れ、そのうえの住宅もろとも倒壊したというニュースがあった。それを見たお母さんから、ドボク模型コンテストのテーマにどうか、と連絡があったのがきっかけらしい。

いったん広告です

模型はこんなふう

水抜き穴の役割を説明するためにチームで作った模型はこんなやつだ。まんなかの白い板が擁壁で、右側には土を模したものが積んである。ここに水を注ぐのだ。

まずは、水抜き穴がちゃんと空いている場合。

じょぼじょぼ

 

この場合は、右側に降った雨が、水抜き穴から左側に抜けていく。どれだけ水を注いでも水位は上がらず、擁壁は倒れない。

いっぽう、水抜き穴に栓をした場合。

 

さきほどの水位が右下に白い線で描かれているが、その水位をどんどん超えていく。さらに水を注ぐと・・。

ぐぐぐ
ばたん

 擁壁が完全に倒れ、土砂崩れのようになってしまった。

kyodai.gif

いったん広告です

なぜ倒れるのか

実験は見事だったが、それだけでは終わらない。なぜそうなるのかを説明するまでがデモンストレーションだ、とばかりに理論的な話が始まった。

水抜き穴があるときは、その位置までしか水圧がかからない。いっぽう水抜き穴がなければ水圧が高い位置までかかり、擁壁が踏ん張る力を土圧+水圧が超えてしまう。

具体的に力は何倍になったのか?を計算したところ、今回の実験の条件では4倍(実際の土では2倍)程度、擁壁を倒そうとする力が強くなったという。

それじゃあ倒れるのも不思議はない。水抜き穴は必要だし、まずは低い位置にあったほうがいいということがよくわかる。

高得点

審査員9人の合計は791点だった。一人当たり88点。

審査員の講評は、平川了治さんから。

平川了治さん(パシフィックコンサルタンツ技師長)

平川さん「プレゼン、うまいと素直に思いました。完成度も高いと思いますし、もはや1つの授業として成り立っていると思います。模型も良かった。そのあと難しい数値の説明がありましたけども、そこも含めて授業として成立しているなという風に思いました。」

他の講評はこんなふうだった。
・計算するところで算数や理科が世界と接続しているのが伝わった
・水抜き穴は自分も子どものころ覗きまくった
・誰もが疑問に思うようなところが入口になっていてよかった

⏩ 力の伝わり方を光で可視化

▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

記事が面白かったら、ぜひライターに感想をお送りください

デイリーポータルZ 感想・応援フォーム

katteyokatta_20250314.jpg

> デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」が届きます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ