力の伝わり方を光で可視化する

つぎは東京都市大学地盤研のみなさん。
テーマは「力はどう伝わるのか?」だ。それを光弾性という技術でかっこよく見せてくれるという。まずは話を聞いてみよう。

話の背景として、日本の都市の地盤は軟弱なものが多く、地震などがあると建物が傾いてしまったりする。これを不同沈下というらしい。

そこで建物を建てるにあたって基礎という土台を作るのだが、地盤のうえに直接土台をのせる「直接基礎」という方式だと、軟弱地盤には向かない。

そこで地下深くにある硬い地盤まで杭を挿して、そのうえに土台を載せる。これを杭基礎という。
ふたつの基礎の違いは、建物の荷重を表面の軟弱地盤で受け止めるのか、地下の硬い地盤で受け止めるのかだ。実際に力がかかっている場所の違いを、実験で可視化しようというのがこのチームのテーマだ。
光弾性による可視化
チームの方法は「光弾性」という現象を利用するものだ。

レジンを固めたものに後ろから光を当て、力を入れると色が変化する。そこで、色が変わった箇所に力がかかっていることが分かる。

硬いレジンと柔らかいレジンを箱の中に敷き詰めた。それぞれ軟弱地盤と硬い地盤を模している。そこに杭基礎と直接基礎を載せて、上から力をかけてみる。
まずは直接基礎から。

右側で、黒い基礎の上に載った家を手に持ち、上から地盤に荷重をかける。すると基礎の真下、つまり軟弱地盤にそのまま力がかかって色が白っぽく変わっているのが分かる。
動画でどうぞ
いっぽう杭基礎の場合。

建物の真下の赤い矢印のあたりは色が変わっていない。いっぽう、地下深くの黄色い矢印のレジンは色が少し変わっている(もともと白っぽいので写真だと分かりづらいです。下の動画をご覧あれ)

最高得点が出た

結果はなんと798点。得点の平均は89点という最高得点になった。
講評は、再び平川さん。
平川了治さん(パシフィックコンサルタンツ技師長)
平川さん「びっくりしたのと、感動しました。動きとか変化が綺麗だなと思った模型は初めてです。新しい素材を使って地中に作用する力を見える化したところも素晴らしい。わが社の技術社員研修にツールとして採用したいなと思いました。」
他の講評はこんなふう。
・弾性体なので何回も繰り返しできるのがいい
・子どもたちにも興味を持ってもらえそう
・レジンも背面ライトも100均にあるので手軽でいい
京都大学インフラ救急隊

次は京都大学の京大インフラ救急隊。
このチームは、背景の説明をお話ふうに進めてくれたのだが、それがよくできていてうっかり感動してしまった。

背景は、水田を守る農家と集中豪雨の話だ。チームの二人が説明を進める。

「近年、集中豪雨が増加しています」

「集中豪雨に伴って、都市部では首都圏外郭放水路のような巨大なインフラを作って集中豪雨に備えています。一方で農村部ではどのようなことが起こっているのでしょうか? 」

「鹿児島県アイラ村という(架空の)場所に住む農家の坂下さんの事例を元に、増加する集中豪雨に対して地方に住む農家の方がどのような状況に直面しているかについてお話します」
ここから、画面に出ている農家の坂下さん(65)と孫のたけし(8)の役を発表者の二人が演じる。

(チームの一人の名前が「坂下」なので、たぶん彼の地元が鹿児島なのだろう)
たけし「おじいちゃん、今日も田んぼに行くの?」
坂下さん「おお、たけし、今年もきっと豊作じゃが」(←鹿児島弁)
たけし「僕もお手伝いするよ」
坂下さん「ありがとうな、たけし助かるよ」
たけし「おじいちゃん、空が暗くなってきたけど、今夜は雨かな」
坂下さん「いや。天気予報ではそこまで強くならんち言ってたから大丈夫じゃろ」

「しかし、その日の夜11時頃から次第に雨が屋根を叩く音が強くなってきた。雨音の激しさで目を覚ますと、布団の中で田んぼのことが次第に気になり始めた。」
「このような雨は普段であれば1時間も続けば止んでしまうのだが、今回はいっこうに止む気配がない。結局、この雨は明け方まで降り注いだ。」

「そして翌朝起きてニュースを見ようとテレビを見ると、なんと氾濫している川と水につかった町が映っていた。そして、それは田んぼの横を流れる川であった。昨晩、アイラ村では線状降水帯が発生し、かつてないほどの雨が降り続いていたようだ。」
「すぐに田んぼを見に行くと、収穫を目の前にした田んぼが全て泥水に浸かり、米が台無しになっていた。」

「後で聞いた話だが、予想外の雨に水門の操作が遅れて、河川の水が水路に溢れ出して、街そして田んぼが水につかってしまったようだ。」
ここまでが話の背景だ。あくまで導入だが、ぼくはこれを聞きながら心からしんみりしてしまった。集中豪雨を受けて夜通し懸命に対応した河川やダムの管理者、そして被害を受けた人々の無念が胸に迫ったからだ。やはりお話の形式というのは強い。
本題の模型は水門について
ここからが本題。さきほどの話では、田んぼが水につかったのは水門の操作が遅れたからだった。では水門の仕組みはどうなっているのか。

一般的な水門は、左側の「引き上げ式ゲート」だ。ふだん扉が閉まっていて、必要なときにハンドルをくるくる回して扉を引き上げる。しかし手動の操作が必要なので、大雨のときには危険だし、お話のように操作が遅れることもある。
一方、右側のフラップ式ゲートは水圧で自動的に開閉するので人力がいらない。これでよさそうだが、ふだんは閉じているのでゴミ詰まりを起こしやすいという欠点がある。

それを解決するのが「無動力ゲート」 である。フラップ式ゲートと同じく自動で開閉する仕組みだが、違いは、ふだんから少しだけ空いた状態になっているということ。

なのでふだんの排水がスムーズで、ゴミ詰まりが起きづらい。

内側(田んぼ側) の水位が上がると、水門は自動的に上がって水を川に逃す。

いっぽう、お話のように川が増水した場合、外からの水圧によって水門が自動的に閉まる。
これなら水門の操作が遅れるということもなく、坂下さんの田んぼも守られるというわけだ。孫のたかしとゆっくり眠ってほしい。
水門の模型をつくった
というわけで今回チームがつくったのが無動力ゲートの模型である。

左側が田んぼ、右側が川で、真ん中に堤防と水門がある。
ふだん水門はわずかに開いているが、お話のように大雨が降るとどうなるかを再現してみる。

右上から、色のついた水を大量に川に注いでいる。すると水位がどんどん上がっていく。このままでは田んぼに逆流してしまう・・!

しかし水位がさらにあがると、水門が水圧で自動的に閉まった。田んぼは守られたというわけだ。
動画でどうぞ
無動力ゲートは、地方農村部に限らず、都市部や沿岸部でも活用できる。たとえば津波の際も、水門の操作のために人が沿岸に向かわなくていい。
人の命と地域を守る、これから重要になる技術だと締めくくられた。
審査員からも好評

点数は751点だった。一人当たり83点。
三橋さゆりさん(日本建設情報総合センター審議役)
講評は三橋さん。もともと国土交通省で川の管理をしていて、ダムカードを作った人だ。
三橋さん「人の操作をなんとか楽にしたいとか、人力をやめたいっていう、すごく大事な視点を取り上げてくれたチームだと思って評価しています。点数には現れにくいですが、よかったと思ってます」
他の講評はこんなふうだった。
・地域に寄り添ったテーマでよかった
・お話を使った導入は子どもに分かりやすそう
・鹿児島弁をもっと聞きたかった
結果発表
全チームの発表がおわり(実際には9チームが発表した)、最終的な順位が決まった。

1位は東京都市大学(光弾性) のチームだった。
記事で紹介した京都大学ナンジャモンジャ(擁壁の水抜き穴)は2位、京大インフラ救急隊(無動力ゲート)は6位、早稲田大学チーム温室(せん断補強鉄筋)は8位となった。
個人的には京大インフラ救急隊のお話のパートがとてもよかった。あのまま鹿児島弁で話が続いてたらきっと泣いてたと思う。ぼくたちは一見平穏に暮らしているようだけど、じつは防災によって割とぎりぎりで守られているんだと感じた。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
僕もレジンで地盤を模した模型に感動しました。そういう模型の面白さと、そもそもの土木技術のおもしろさ、両方楽しめる最高のイベントですよね。
工作のディテールもよく見ると手作り感あって面白かったです。ケースや地形をどんな材料で作っているか、改めて見返してみてください。(石川)