うごごごごごごごごごご。と、お腹の底からなにか湧き出るような、静かな興奮にまみれた旅だった。SAに再び歩いて上陸できたのもうれしかったが、今回初の高速道路のバス停の不思議な魅力にはがっぷりだ。
ハイウェイバスは思いのほか高速道路の各所に細かく停車している。今度の遠足は、ハイウェイバスのぶらり途中下車の旅だろうか。
あたりには珍しいお店や名物もなさそうなので、主に駅のシンプルさを堪能するというだけの遠足になるかと思う。うん、いい! それで全然いい! お弁当を持って行こう。楽しみだ。
私は車を持っておらず、そのうえペーパードライバーだ。
でも、高速道路のサービスエリアには常々行きたい。
旅はいいからSAに行きたい。いや、旅先がSAというのでまったく構わない。そういえば、高速道路にバス停があるのを見たことがある。あれで行けるんじゃないか?
※2007年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
SAに行きたい! という思いと同じく、高速道路にあるあのバス停に降りたい、そこからバスに乗ってみたいというのは長年の夢だった。
びゅんびゅん車が飛ばしていく中、突如現れるバス停、そしてそこに普通に佇むバス待ちの人々の一般道かここはというテンション。あの温度差は何事だろうと思っていた。
いろいろと調べてゆくと、バス停のあるSAもあるらしい。
中でも中央自動車道にある中央道野田尻バス停は下りは談合坂SA内に、上りは高速道路上に停車するんだという。図1のような感じだ。
うおー!
私は叫んだ。実際雄たけぶほどではないにしろ、しゃべり声くらいの大きさの声で「うおー」といった。中央道野田尻バス停は私の夢を一挙にかなえてくれるというのである。こんな具合だ。
・マイカーもなく、レンタカーも運転できない私だが自力でSAに行きたい
→東京からハイウェイバスに乗る。バス停のある下り線の談合坂SAで降りればSAを堪能できる!
・高速道路上にあるバス停からバスに乗りたい
→帰りは一般道を歩いて反対車線方面へ移動、高速道路上に停車する上り線のハイウェイバスに乗って帰ってくる!
完璧である。しかも、これなら下り線のSAばかりでなく、近くにある上り線SAにも行けそうだ。一挙に2か所のSAにいけるぞ。
ハイウェイバスに乗るのは初めてだ。休憩以外ノンストップの観光バスや深夜バスには何度か乗ったことがあるが、高速道路のバス停に停まるタイプはどこから発車しているのかもまったく知らなかった。
新宿高速バスターミナルはヨドバシカメラに行くときによく通りがかっていた。ここがそうだったのか。
新宿から中央道野田尻までのキップをビルの中で買う。帰りのキップも買おうとしたところ、帰りは車内で買えるといわれた。
外観は観光バス風なのだが、細かい部分で町を走る普通のバスみたいなのだ。
しまった! 車内で食べるお菓子買い忘れた! などとあたふたしているうちに、定刻どおりにバスは発車した。
乗り合わせた人は本当に老若男女という感じで旅行、ビジネス、帰省と目的もまちまちのようだった。席は指定なのだが割合に空いていたので発車してすぐ運転手さんから「自由に移動してくださって結構ですよ」とアナウンスがあった。おお、柔軟なサービス。
やっぱりここでも町のバスっぽさは発揮していて、停車バス名の後に「○○旅館においでの方はこのバス停でお降りください」なんて固定アナウンスが流れたりする。
で、なんというか本当にサックリと談合坂SAに行けてしまったのである。
発車して1時間ぐらいだっただろうか。例の「高速道路上のバス停」に時刻表どおりに次々と停まりながら1時間ちょい、中央道野田尻バス停に着いた。
確かにそのバス停はSAの中にあった。中、というか、一般自動車の後ろにある大型自動車のそのまた後方にちんまりあった。
きたよ! と喜びで駆け出したくなるのをおさえ、駐車場をひっきりなしに出入りする車に気をつけ、右左右確認、右左右確認を繰り返しながらようやくSAの施設までたどり着いた。
SAにいながら、乗ってSAから出る車はないという状況。以前わたしは電車でSAに行く企画を取材したことがあるが、毎度不思議な不思議だ。
下り線の 談合坂SAをひととおり堪能したら、続いて上り線のSAへも。談合坂SAは上下線でやや離れたところにある。
SAやPAというと基本的に対岸に対になっているイメージだが、談合坂は改築の際に移転し、上り線のSAも下り線側に2kmほど高速を下ったところに作られた。
よし、じゃあ早速一般道に出て目指すか、と思ったのだが、さてこのSAからどうやって出場したらいいんだろう。
バス利用者の方々はこの近隣に用があってSAで下車するのだろう。つまり、外界に通じる出口がちゃんとあるはずだ。
……あ、もしかして、あれか?
なんだろう、このたっぷりとしたRPG感は……。
「一般道への出口はこちら」という案内は一度も出てこず、恐ろしげな地下へもぐる階段が2連発とは。
なにしろ怖いんだ、これが。昼間でも怖い。
歩くと足音がこだまし、打ちっぱなしのコンクリートにはひたひた水がしたたっている。前後に人はおらず、左にはスピードをあげて車がゆくばかり。
本当にこの道で一般道に出られるのか。それ以前に、この道はちゃんと使われている道なのか。
下り線の中央道野田尻バス停はだいたい日中は45分に1回はバスが停車する。45分に1回だぞ、うちの実家の方を走る私鉄よりも高い頻度だ。
普段使いつけている方々は慣れた足取りで普通にこの道を行くんだろう。人の日常は様々だ。
及び腰ここにきわまれりという状態で脇に汗をかきながら階段を下りた(冗談じゃなく本当にごれぐらいびびっていた)。向かう先はトンネルのようになっており、道の先から光がピカーッと差し込んでいた。
シャバだ!
上り線の談合坂SAは中央道で都心へ向かう人々にとって、最後のSAとなる。そのため施設にもかなり気合が入ってるらしい。
芝生の広場がある、と聞いていたのだが予想以上に広かった。どれぐらい広いかというと、次のページに続きます。
さきほど下り線のSAでは我慢していた浮かれ気分、いよいよ全開だ。自力では全く高速道路を使わない道路音痴なのでイメージが沸いていなかったのだが、ここは山梨なのだった。
そうだ、東京じゃないのだ。つまり、お土産だ!
売り場もあげあげ攻めてくる。ほうとう、おやき、野沢菜、わさび漬け、干物、笹かま、山梨から長野の名物がずらりだ。ごごごごご。
こういうとき、私はどうにもテンパってしまう。興奮してどこから手をつけていいか分からなくなるのだ。ああ、楽しすぎる、楽しすぎてどうしていいか分からなくてもはや帰りたい、そんな気分になっていた。
いや、せっかく来たんだからまだ帰らないで!
そうだ、食べよう、ね、ね、何か食べよう。興奮しすぎてもう帰っちゃいそうになる気持ちを必死で抑える。
SAといえばお土産と軽食だ。ざっと見渡すと、しっかり食事が取れるレストラン・麺や丼もの中心のフードコート・おにぎり等軽食・たこ焼きやアメリカンドックなどの祭りめしと、SAの必須食がびっしりしっかりそろっていた。
SAというのは、やはり各地で名物料理を一応そろえている。談合坂の場合はやはり、ほうとうだろう。レストランではのぼりが立ち、いろいろな種類のほうとうを扱っていた。
そういったご当地ものを「浮かれメニュー」と呼ぶとする。普段は食べられないメニューだ。普通、旅先だとそういった浮かれメニューに手が出がちになる。が、SAで結局人気があってみんな食べているのはなんだか普通の牛丼やカレーだったりしないか。
私が行ったときも、仕事で立ち寄っている風な運転手さんたちはもちろん、旅行風の方々もみんな、どうってことない物々を食べていた。実際、人気メニューはラーメンだそうだ。
人はSAでとる食事においてはそれほど浮かれを求めていない。そんな気は実は前々から感じていたのだ。
あ、そういや、私も車でSAに寄ると食べるのはうどんとかそばだ。食べ終わると別にアメリカンドッグやらソフトクリームやらを買って車に戻る(そこで少しだけ浮かれる)。
うどん食べてソフトクリーム。SAならではの食事コースだと思う。
で、この日はどうしたかというと、せっかくだから浮かれメニューを食べてみたんですよ。
食べたのは、「ほうとうまん」。中華まんのなかにほうとうが入っているというものだ。どこに出しても恥ずかしくない浮かれメニューだと思う。
で、これがえらく美味しかった。中華街の豚まんぐらいの大きさがあるのだが、生地がかなり柔らかい。その柔らかいふわっふわの部分が分厚いのだ。おおー。中のほうとうもちゃんと美味しかった。あ、そうか、仕組みとしては焼きそばパンか。
通常車で来ると、食事では浮かれずに、お土産で浮かれるのがSA流なのではないか。お土産は大量に買っても車で持って帰れる。長旅なら途中でそのお土産を食べちゃってもいいだろう。
私は徒歩(とバス)なのでそんなに大量のお土産は持ち帰れない。そこで、食べ物で浮かれてバランスをとってみたわけです。
でも、車で来ても ほうとうまんはちょっと食べたほうがいいかもしれないです。うまうま。
たくさん歩いたからかかえって中華まんひとつで満腹になってしまい、ええ! もう食べられないの! と自分自身にびっくりしている間にすぐ時間は経ってしまった。
帰りのバスの時間もざっくりだが決めてある。実は、上りSAから上り線のバス停まではまた結構な距離があるのだ(おさらい図参照)。
今回の楽しみは、SAに乗り込むことのほかに「高速道路上にあるバス停からバスに乗る」ことにもあるのだ。いよいよその夢へ向けて歩き出そうではないか。
……しまった、ハイキングするのにおみやげに信玄餅8個入り2パックは買いすぎたか。
道は上り線沿いよりも坂が少なくなだらかで歩きやすかった。もしSA遠足をお考えの方は、行きも帰りも上り線沿いをいくのがいいかもしれない。
さて、そろそろ到着するころだろう。実は事前にいろいろなホームページで調べたものの上り線の野田尻バス停の場所はついに分からずじまいだった。「談合坂SA外、新宿寄り」という情報があるだけだ。
どっちみち高速沿いに歩いていれば必ず見つかるだろうと思っていた。けれどなかなか出てこない。あれ、通り過ぎちゃったかなと不安になったころ、ひょろっと高速道路上へ続く階段があった。表示は何もない。
……まさか。
階段を上がってみると、大きな扉があった。扉のサイズのわりに小さな取っ手をつかむ。固くてなかなか開かない。よーいーしょっ。がらっ。
シャーッ。あけるなり、車の走る音がひっきりなしに聞こえてきた。シャーッ、シャーッという、すべるようなあの音だ。高速道路だ!
バス停、あった。行きに降りたバス停同様、放任主義でざっくりした入り口だった。いつも車のなかから見かけては、どうやって入るんだろうと思っていた高速道路のバス停はこうなっていたのだ。おおお。
その後、普通の顔をしてバスは来て停車し、興奮しつつ普通のふりをして料金箱に1050円を入れて、観光バス風のシートに座った。
バスは新宿の南口について、新宿駅からは電車で家に帰った。
うごごごごごごごごごご。と、お腹の底からなにか湧き出るような、静かな興奮にまみれた旅だった。SAに再び歩いて上陸できたのもうれしかったが、今回初の高速道路のバス停の不思議な魅力にはがっぷりだ。
ハイウェイバスは思いのほか高速道路の各所に細かく停車している。今度の遠足は、ハイウェイバスのぶらり途中下車の旅だろうか。
あたりには珍しいお店や名物もなさそうなので、主に駅のシンプルさを堪能するというだけの遠足になるかと思う。うん、いい! それで全然いい! お弁当を持って行こう。楽しみだ。
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