大小暦とは
江戸時代、暦(こよみ)は幕府が制定し管理していた。今とは異なり、月の大小(1か月が30日の月が大、29日の月が小)は不規則で、年によって違っていた。
当時、暦の自由売買は禁止されていた。そこで人々はせめて月の大小だけでもわかるよう、絵の中に隠して表現したそうだ。それが大小暦である。いわば、江戸時代の謎解きカレンダーだ。
実際に見てもらったほうが早い。(本記事に掲載の大小暦とその解説画像はいずれも国立国会図書館のWebサイトから引用したものである。)
船に漢数字が隠されている。七、八、三がわりと簡単に見つかるはずだ。また、船の帆に「大」と書かれていることから、この絵に出てくる月は「大の月」であるということを表している。他にもいくつか数字が隠されているのだが……。
答えはこう。
これが大小暦だ。謎解きじゃん。
大小暦を解きまくる
この記事ではこのような大小暦を解きまくりたい。手伝ってくれるのは能登崇さんだ。アイテム付謎解きゲーム「体験推理小説」やマーダーミステリーを制作している。
というわけで、ここからどんどん解いていきたい。
能登:さっきより全然謎解きっぽいですね。あれ、でもシャボン玉が13個あるな……
謎解きの基本は「数える」だ。シャボン玉が12個なら「シャボン玉1つが1つの月を表している」と言えそうなのだが、13個なのが気がかりだ。
ほり:……能登さんすみません、いきなり言い忘れていたんですけど、当時、年によっては13か月あったらしいです
当時は太陰暦であり、大の月は30日、小の月は29日であった。年間日数が地球の公転周期よりも10日程度短くなるため、2~3年に1度、閏月(うるうづき)を設け、季節と暦を合わせていた。
能登:……ということは、単純にシャボン玉の大小が月を表しているということですね。途中に閏月があると。
正解を見てみる。
能登:やってることはほぼ今の謎解きと一緒ですね。7個なら曜日、47個なら都道府県のように、数を数えて当てはめる
ほり:そうですね。しかも大小暦はすべて月を表す謎解きなので、どの問題でも12か13個あるものを探せば楽勝ですね。……それにしても12月のシャボン玉、中途半端すぎません?大とも小とも取れる
続いてはこちら。
ほり:不気味すぎる……。火の玉が12個あるので月を表していそうです。着目すべきは火の玉のサイズ?位置?
能登:やっぱりサイズじゃないですか?右から読むか左から読むかの問題はあるけど
ほり:江戸時代なんで、右からじゃないですか?
能登:小、大、大、小、大、大、…ですね
先ほどのシャボン玉と同様、月をなんらかのモチーフに託しているパターンだった。今の謎解きでもよく出てくる手法だ。
謎解きっぽい大小暦
続いて挑戦するのはこちら。
能登:単純に絵として綺麗ですね
ほり:扇形の数が12個なので、それぞれの扇が月を表すようです
能登:ギザギザかどうかで大小を表している?もしくは絵の男女で大小を区別している?
ほり:当時の価値観で男が大、女が小ということか
能登:でも歌舞伎役者って全員男だよな
ほり:じゃあやっぱり、ギザギザを読めばいいのか。答えを見ましょう
能登:男女か~
ほり:じゃあギザギザさせるなよ!ギザギザは何!
次いきましょう。
もう一枚の画像を見ると、こうなっている。
ほり:なになに!
能登:おもしろい
ほり:すごく立体的。謎解きのギミックっぽい
能登:ぱっと見わからないようになっているんですね
ほり:右から背丈の高低を拾えばいいですね
絵の中に描かれた幕が本当にめくれるようになっている。第四の壁を破っているみたいで面白い。現代の謎解きにもこの手のギミックはあり、謎解き制作者としてシンパシーを感じる。
結局、「誰かを面白がらせたい」という想いは当時も今も同じであり、紙を使って表現できるギミックとして同じものにたどり着いているのだと思う。