「島耕作」の名シーンです
とあるサラリーマン漫画というのは「島耕作」のことだ。同シリーズは大手企業の会社員である島耕作の活躍を描く名作である
例のワインを冷やす場面はシリーズ第2作『部長 島耕作』の序盤、主役である島がベトナムを視察しているときの出来事である。
ベトナム人女性のティムは島耕作に認められたくて危ない橋を渡ったところ、警察沙汰を引き起こしてしまった。島耕作はティムからの好意に気が付きつつもそこには触れず、極上のワインを振る舞うためタクシーに乗って海岸沿いを走らせる……。
男気と知性を感じる名場面である。そして劇中のセリフによれば、ビンに濡らした新聞紙を巻いて風で乾かせば中の飲み物が冷えるというのだ。気化熱の応用らしい。
気化熱はなんのこっちゃだがやってみよう
気化熱と急に言われてもピンとこない。
調べてみると液体は蒸発するときに周りの熱を奪っていくものらしい。それで周囲が冷えるというのだ。身近なもので言うと打ち水も気化熱を利用して辺りを冷やしているとのこと。
とにかくやってみよう。かっこよく飲み物が冷やせればなんでもいいじゃないか。
まずは常温に戻しておいたポカリの温度を測る。23.6℃だった。飲むと確かにぬるい。
ネット情報によると自動販売機の「つめた~い」は5℃前後らしいので、そこを目指して冷やしていく。
島耕作と同じように容器を新聞で巻いて濡らしたら焼きイモみたいな見た目になった。こんなに早く差がついてたまるかよ。
あとは風にさらして新聞に含まれた水分が蒸発するのを待つだけだが、実際に車を走らせると法に触れたり危ないのでブロワー(送風機)に頼ることにした。
僕はこんなことで叱られたくない。我が身かわいい保身の態度である。そうか、島耕作は法やモラルを超えてまで部下を励ましたかったのだ。
マキタの充電式ブロワーが音を立てる。ブオオオオオオ。男気なんてぜんぜんないし、何より上司がブロワー持ち歩いてたら怖い。
しばらく風を当て続けていると、ペットボトルを持つ手に冷たさを感じてきた。体感では冷蔵庫で冷やしたものくらいの温度にはなっている。気化熱、すごい。
冷静に分析したところ車の中でやる意味がないことに気づいて外に出た。おれは地頭がいいからな。
かっこよくはならないし、冷えもしない
ここで実践してみて分かった知見を共有したい。
濡らした新聞を握り続けるとインクが移って手が黒くなるのだ。漫画では描かれなかった暗部である。
濡れた新聞は突風でボロボロと破れていき、細切れになった紙片が辺りに散らばる。これを拾い集めるのには苦労するし風量もおのずと遠慮がちになってしまう。苦労は多い。
そして数十分風を当て続けてブロワーのバッテリーがなくなったころ、ペットボトルの中の温度を計測してみた。
数値にして2.4℃も下がっている!
果たしてこれはうまくいっているのか。相場が分からない。キンキンに冷えるものだと思っていたので少し肩を落とした。
試しに飲んでみたものの、どうひいき目に見ても冷たいとは言えない。
めちゃくちゃ気遣いのできる後輩だったら「…熱くはないっすね!全然いけますよ!」と楽しく声をかけてくれるかもしれない。そういう後輩に担がれたい。