コロコロには「法人向け」がある
訪れたのは東京の品川区にある株式会社ニトムズ。最寄り駅はりんかい線品川シーサイド駅である(※取材時。現在は東京都中央区に移転)
中に通されると、そこはニトムズ製品がずらりと陳列された部屋だった。その一画、コロコロだけでもこんなに種類がある。
広報を担当する保坂さんと、上長の油田さんにお話をうかがう。いまコロコロの種類ってどれくらいあるんですか?
保坂さん サイズ違いや詰め替え用なども含めると、トータル180種類以上あります。一般のご家庭向けとは別に、法人のお客様向けの商品もあるんですよ。
保坂さん コロコロは電源が不要で音も出ないので、主にオフィスや工場などでご利用いただいていますね。もちろん小回りが効く製品もありまして、シュレッダーくずの掃除を想定した超強力タイプや、ビニール床に対応したタイプもあります。
お客さんの問合せから「コロコロ」が商品名に
興奮のあまり、いきなりニッチなものから紹介してしまった。ちょっと一旦座りましょう。
ところでみんな、こういう粘着テープでゴミを取るクリーナーを全部「コロコロ」と呼んでいないだろうか?
実は「コロコロ」は登録商標である。ニトムズ以外のものはコロコロじゃないのだ。
といっても、ニトムズさんも最初から「コロコロ」という名前で売り出したわけではないという。当初は「粘着カーペットクリーナー」という、何というか、そのまんまの名前だった。
保坂さん まだ世の中にない発想の商品だったので、発売当初は「何に使うの?」という反応だったみたいですね。社員が実演販売をしたり、実際に手に取ってもらったりして、徐々に「これは便利だね」と評判が広まるようになりました。
コロコロ転がすだけでゴミが取れる。これは便利だ!と粘着カーペットクリーナーは飛ぶように売れた。
しかし使い続けてしばらくすると、粘着シートを使い切るときがやってくる。また買おうとした人々はこう思った。「あれ?なんていう商品名だっけ?」
保坂さん ホームセンターなどに「あのコロコロと転がすアレある?」という問合せがくるようになったんです。そこで親しみやすくなるように、1985年に商品名を「コロコロ」に改名しました。
うろ覚えのまま「コロコロと転がすアレ」って人に聞いてしまうの、物忘れが激しくなってきた中年として激しく共感する。たぶん質問しながら空中でコロコロを転がしている。
と同時に、名前を覚えてもらえないことに「粘着カーペットクリーナーです!」と怒ることもなく、「じゃぁコロコロにしよっか」と名前を変えちゃう柔軟性に感心してしまう。社内で反対とかなかったんだろうか。
保坂さん 特に記録には残っていないのですが……。もともと、当社の社員はすごくお客様目線で考えるところがあるので、「お客様がそう呼ぶのなら」という気持ちもあったのかもしれないですね。
コロコロを開発したきっかけは「ゴキ逮捕!」
ちょっと待ってください。さっき、粘着テープでゴミを取るコロコロは「まだ世の中にない発想の商品」だったって言ってましたよね。
じゃぁその発想ってどうやって生まれたんですか……と、元をたどっていくと、話は1975年の「株式会社ニトムズ設立」までさかのぼる。
保坂さん もともとニトムズは、日東電工株式会社の「消費財部門」として独立した会社です。日東電工は産業用の粘着テープに強みを持っていたので、この技術を日用品などに活かそうと考えたんですね。
会社が新しくなったことだし、やっぱりヒット商品がほしい。設立したてのニトムズは、新商品を開発するプロジェクトチームを立ち上げた。
若手社員が集まり、出し合ったアイデアは月100個を超えるという。なかにはこういうものもあった。
そんな数々のアイデアの中から、実際に商品化に至ったのがこちらの「ゴキ逮捕!」。「ゴキ」とはお察しの通り、あのGのことである。
日東電工の粘着技術があれば、ゴキブリだって身動きできまい。あれだけアイデアを出し合ったし、すね毛も犠牲にしたし、これはヒット間違いなし!
……と、満を持して新商品を世に送り出したニトムズであったが、この「ゴキ逮捕!」には、致命的な欠陥があった。
保坂さん ゴキブリの動きが速すぎて、捕まえるのが難しかったんです。家具の隙間に逃げられるともう使えませんし。あと、そもそも虫が苦手な方には、意外と距離が近いんですよね……。
確かに、逮捕できたとしても、この距離でゴキブリが粘着テープの下でもがいているのを想像すると、ちょっと怖いですね……。
「ゴキ逮捕!」はなかなか売れず、倉庫に在庫が積み上がった。しょんぼりする光景である。
とはいえ会社なので、しょんぼりしてばかりもいられない。ホコリっぽい倉庫の中で、在庫を整理する社員たち。
休憩時間になると、服についたホコリを取るために、クラフトテープを逆に巻いてペタペタしている社員がいた。
その様子を見た開発メンバーが「これだ!!」と閃く。粘着力を掃除に使えばいいんだ……!
保坂さん これをきっかけに「コロコロ」が生まれたんです。ただ、開発には5年かかりました。「ゴミは取れるけどカーペットには貼り付かない」という、絶妙な粘着力を実現するのが難しかったと聞いています。
あんなにみんなでアイデアを出し合ったのに「掃除」という発想はなかった。現場で目撃してはじめて閃いたのだ。
もし倉庫がホコリっぽくなかったら、倉庫に開発メンバーがいなかったら、それ以前に「ゴキ逮捕!」が飛ぶように売れていたら……コロコロは生まれていなかったかもしれない。
それにしても、閃いてから開発期間が5年もかかったなんて大ごとである。粘着力が強すぎると転がせないし、かといって弱すぎるとゴミが取れない。「ほどよい粘着力」を実現するのって大変なのだ。
保坂さん 私たちはゴミをしっかり取れることはもちろん、床の上をスムーズに転がせることも大切にしています。粘着力と転がしやすさのバランスは、製品づくりにおいて特にこだわっている部分の一つです。


