母の料理、今と昔
名誉のためにまず言うが、母はとても料理がうまい。
見たことのないような食材もよく知っているし、面倒で手のかかる料理もしっかりおいしく作る。あるものでチャッチャというのももちろん得意だ。
が、それは私がだいたい高校を卒業したぐらいからの話だと思うのだ。
おもうに、私が子どもの頃は今にくらべるとそれほど料理がうまくなかった。うまくなかった、というか、家事や育児などなどに忙しすぎてうまく作る暇がおそらくまったくなかった。
子どもたちが大きくなるにつれ余裕があらわれ、経験を積み重ねることが可能になって、結果、料理のスキルが上がったとか、そういうことではないか。
さて、ボンゴレそばについてだ
で、ボンゴレそば、である。
これは私が小学校5年か6年ぐらい、土曜の昼ごはんあたりで出されたメニューだったと記憶している。
母の実家が魚屋を営んでいるため、我が家の食卓にはよく魚介が出た。この日母はいつものように送られてきたアサリを使ってスパゲティにでもしようと思ったようだ。
アサリとホールトマトでソースを作る(このスパゲティー、ボンゴレ・ロッソっていうみたいですね)。
ところが。
さあ、ソースの準備ができてきた。スパゲティを茹でないと……と思ったら、なんと自宅にスパゲティがない。
買いに行くにもコンビニやスーパーは車を出さねばならない距離にある。面倒だし、5人の子ども(私は5人きょうだいなんです)が食事を今かと待っている。
どうしようと、と思った母が見つけたのが、そばだった。
母は、迷わずそばをゆでた。
そうして出てきたものが、アサリの入ったトマトソースがそばにからんでいたものだったのだ。
ボンゴレそばである。
うまいじゃんか
当時は、えーっ!? と思った。ありえない、ありえないですよ お母さん! という気持ちだった。母にも料理にも非常な反発を感じたことをよく覚えている。
味も美味しくなかった。好き嫌いのほとんどない私でも確か完食できなかった。きょうだいたちはおいしいおいしいと私の残した分までよく食べて驚いた覚えがある。
15年以上を経て、今ここによみがえったボンゴレそば。
初見で「あれ?」と思った。なんだか、違和感がない。美味しそう……だな……?
食べたら、美味しかった。えー? 子どものとき、あんなに反発心を感じたのに。当時のことを母や妹弟に聞いても誰も覚えていなかったのを、しつこく覚えているほど忌々しがっていた料理だったのにー。
アサリの出汁がソースに凝縮され、そば粉の独特の風味にからむ。
はて? と検索してみたら、実際にそれっぽい料理がかなり引っかかってきた(検索「ボンゴレ そば」)。
どの写真を見てもとても美味しそうだ。
なんで当時の私はあんなに反発したんだろう。
考えながら、母の伝説の料理2品目、おでんカレ-を食べてみます。