あの皿がほしい
びっくりドンキーが好きだ。
家族で外食先を決める際は、かなりの高確率でびっくりドンキーの名が候補に挙がる。
そしてわたしが毎度注文するのは、おろしそバーグディッシュ。
おろしそバーグディッシュをはじめとした〇〇バーグディッシュを頼むと、ハンバーグ・サラダ・ごはんが木目調の大きな皿に盛られてやってくる。
そう、びっくりドンキーのあの皿だ。
びっくりドンキーのあの皿と聞いて「どの皿?」となる人のほうが少ないのではないか。それくらいの存在感がある。
木のぬくもりを感じる大きなワンプレートは、大人でも思わずわくわくしてしまう特別な1枚。料理がおいしそうに見えるだけでなく、中央が盛り上がった形状になっていて、ハンバーグの肉汁やソースがごはんやサラダに混ざりにくい。
見た目と機能性を兼ね備えた、まさにびっくりドンキーならではの唯一無二の皿である。
家でもあの皿でごはんが食べられたら、食卓がびっくりドンキーになるのではないか。
そう思って調べてみると、公式通販でも販売されていた。
しかし、値段を見てびっくりした。
ほしい気持ちに変わりはないが、勢いでは買えない値段でそっとページを閉じた。
ここで終わるわけにはいかない。買えないならば、自分で作ればいい。そう思い、わたしはホームセンターへ向かった。
厚みが足りない
びっくりドンキーの公式通販によると、あの皿の正式名称は『ディッシュ皿』、サイズは直径約27cm高さ約4cmとのこと。
もちろん、まったく同じものを作るのは難しい。それでも本物に限りなく近い皿を目指すなら、まずはこのサイズを満たす材料探しから始める必要がある。
しかし、高さ4cm=厚み4㎝を超える木材がなかなか見つからない。
大きさはそこまで大きくないため、あわよくば端材コーナーで厚みがある木材が見つかればと思っていたが、端材どころか通常サイズの木材も厚み4cm超えはハードルが高いと気づかされた。
市内外のホームセンターを5軒回ったが、希望サイズの木材は見つからず。あきらめかけたその時、ふとわたしが子どもの頃からある小さな材木店の存在を思い出した。
趣のある個人店で入るのに勇気がいったが、ここが最後の砦だと思い意を決して入店。結果、雑多に置かれた端材の中から素晴らしい木材をゲット。
おそらく木の種類によって皿に向いている向いていない、削りやすい削りにくいなど特徴があるはずだが、そもそも厚みのある木材を見つけること自体にとても苦労したため、このヒノキで最後まで作り通すと心に決めた。
削れたというよりめくれた
材料探しに予想以上に時間がかかってしまったが、無事手に入れたヒノキで早速皿製作に取り掛かりたい。
びっくりドンキーのディッシュ皿は、冒頭でも述べた通り皿の中央が盛り上がった形状になっている。あの形状こそがディッシュ皿最大の特徴で、盛り上がりなしではびっくりドンキーの皿とは言えない。
素人が作るには難しい形状だということは重々承知している。が、あの盛り上がりはなにがなんでも再現したい。
ということで、まずはコンパスを使って円を描きガイドを引く。
「木を彫ってびっくりドンキーの皿を作りたい」というイレギュラーなメッセージを突然送ったにも関わらず、帰省したら必要な道具をばっちり用意してくれていた。さすが父、話が早い。
ノミの正しい持ち方すらわからないが、ディッシュ皿がほしいの一心でとにかく削ってみることに。
刃物で木を削るなんて何年ぶりだろう。小学生の頃、図工の授業で彫刻刀を使って版画を彫った日々を思い出した。
もともと工作は好きだ。しかし、好きと得意は違う。
羊毛フェルトだって、あの鋭い針で指を何回突き刺したことか。紙の工作では、うっかり自分の親指をホッチキスで止めた経験もある。ホッチキスの方が痛みは少なかったです。
皿づくりも細心の注意を払って進めなければと、自分に言い聞かせる。何事も安全第一だ。
思った以上に刃が入らない。削ったというより、正確にはめくれたといった程度だ。
ほかの木材と比べてヒノキがどの程度の硬さなのかわからないが、少なくとも版画づくりよりは削りにくい。調べてみると、版画でよく使われる木材はシナという種類で、やわらかく削りやすいのが特徴らしい。
削りやすさはシナには負けるが、ヒノキを選んでよかったのは削るたびヒノキのいい香りに包まれるという点だ。
皿づくりでこんな体験が待ち受けているとは思ってもみなかった。皿に適しているかどうかはこの時点ではまだなんとも言えないが、ヒノキにしてよかった。
大変だけど、今のところ楽しい。
道具の名前がノミなのかミノなのかすらわからなかったわたしにしては、あきらめず集中して彫り進めたほうだ。
事前に相談に乗ってもらっていたDIYが得意な夫からは「中央部分は5mmくらいは彫っていい」と言われていたが、一番深く彫り進めた箇所でも2mmくらいという結果に。
それでも、わくわくした気持ちのまま初日を終えられた。


