1~2個飾ってあるくらいならいいですけど、この量あるとお客さんもビックリするんじゃ……。
拾ってきた木とか発泡スチロールとか。朝、海に行って流れてきた木を拾ってくるんよ。
え、相当デカい木もありますけど、かついでくるんですか?
大きいのを見つけたときは、近所で台車を借りて押してくる。
ホームセンターとかで買ってくるより流木の方がいいんですか?
うん、つまんないもん。拾ってきた木は、どういうものを作ろうか、自然が教えてくれるから。
16歳の頃に床屋へ丁稚に出されて。床屋なんかなりたくなかったけどな。就職口がねえから口減らしよ、口減らし。働かなきゃ寝るとこもねえしメシも食えねえし、泣き寝入りや。
そんなこんなで32歳のときにこの「酒井理容店」をオープン。さらに40歳頃に転機が訪れます。
宇佐神宮に行ったときに、お面が大事に飾られてるのを見たんだけどな、お面つうのは神様がこんなに大事にするようなものなんかいって感心して。自分でも作ってみようと思ったんだ。それからもう40年以上作ってるな。
いきなり作ったにしてはスゴイですけどねぇ。やっぱり、髪型を作るのとお面を作るの、共通するところもあるんですか?
できないでしょう! 作り方を誰かに習ったりとかは?
見よう見まね。本屋行くとお面とか仏像の写真集があるでしょ。買うと高いからな、よーく見て頭ん中入れて……。
作るよ。材料がいいのがあったらな。「何か面白いもんないかなー」と思っていい木が見つかると、作る気が沸いてくる。作り出したら一晩中熱中しちゃうな、それだけ集中せんと良いものができん。手を切る。
売ることもあるよ。どっから聞いてくるか知らんけどな、外国人が来て売ってくれって。お土産代にするんじゃないか?
それが難しい。普通の商品みたいに大量生産できるわけじゃないからな。値段を付けられない。オレが売りたくねえ、手放すのが惜しくなる。
熱中せんとな、完成できん。「次にしよー」と思っておいとるとな、熱が冷めてしもうちょるけんな。「よし、これを完成させてやろう」と思ったら徹夜してでも一気に作らないと。
昼間は床屋さんをやって、夜はお面作りじゃ大変ですね。
いやあ、床屋はさぼってるから。夜、お面を見ながら酒を飲むのが楽しいんだ。お面としゃべってる。
「こんな店に飾るな、はやく寺に飾られたい」とか、色々しゃべるよ。
ボクの考える「変わったお店」「変わった観光スポット」が成立する条件は。
・お金
・時間
・根性
……まあ普通ですな。
ということで、メチャクチャ財力のある人が作っている(宗教絡みとか)じゃない場合、多少変わっててもお客さんが来てくれる場所にあるケースが多いです。
たとえば温泉地とか、世界遺産などの超A級観光スポットの近く。そのお店目的では来ないけど「ついでに」寄ってくれるんですよね。
その点、床屋さんは……。
・髪は伸びるから変わった店でもお客さんがくる(だいたい近所の床屋に行くでしょう)
・営業時間はキッチリ決まってるし、お客さんを待つ間はヒマ(偏見だけど!)
・昭和20~30年代頃、どうやら「とりあえず床屋で手に職をつけろ」という時代があったっぽい
これまで取材した店主さんもみんな70~80歳代で、「親に言われて仕方なく」という理由で床屋をはじめているケースが多かったです。
ホントは他のことがしたかった……。しかも地方の床屋じゃあクリエイティビティーを発揮できるような突飛な髪型を注文してくれる人もいない。
ということで、突然クリエイティブ魂が爆発して、床屋とは関係のないものを作りはじめてしまうんじゃないかと。
それでも店が成立しているのがスゴイ!
前から薄々感づいていた「床屋の店主はクリエイティブが爆発しがち」問題。新たなクリエイティブ床屋を発見したことで、確信にまた一歩近づいてしまいました。
過去の取材を振り返ってみても、みんな「別に床屋になりたかったわけじゃない」と言っているのが面白い。そんなやる気がないのに、キッチリお店は維持できてるのがスゴイですよね(変な店なのに)
もちろん、もともと床屋さんになりたくて、仕事に情熱を燃やしている床屋さんも多いと思いますが。
■酒井理容店
大分県別府市松原町13-7
【営業時間】9:00〜17:00 ※要確認
【定休日】月曜、第3日曜
【電話】0977-22-7377