特集 2021年4月7日

お面だらけの床屋さん ~どうして床屋の店主はクリエイティブに目覚めるのか!?

思えば色んな床屋さんに行ったもんです……

店主が作りまくった大量のお面が飾られている謎の床屋さんを別府で発見! そのお店自体もスゴいんですが、思えばこれまでも色んな〝変わった〟床屋さんに遭遇してきました。

様々な業種に〝変わった〟お店はあるものの、どうも床屋さんの〝変わった〟率は妙に高いような……。床屋さんはどうして〝変わった〟ことになってしまうのか!? これまでの取材を振り返りつつ考察してみました。

1975年群馬生まれ。ライター&イラストレーター。
犯罪者からアイドルちゃんまで興味の幅は広範囲。仕事のジャンルも幅が広過ぎて、他人に何の仕事をしている人なのか説明するのが非常に苦痛です。変なスポット、変なおっちゃんなど、どーしてこんなことに……というようなものに関する記事をよく書きます。(動画インタビュー)

前の記事:国語の読解問題、作者自身が解いたら満点取れるのか!?

> 個人サイト Web人生

2104_床屋の店主_イラスト_001_01.jpg

2104_床屋の店主_イラスト_001_02.jpg

2104_床屋の店主_イラスト_001_03.jpg

 

2104_床屋の店主_イラスト_001_04.jpg

2104_床屋の店主_イラスト_001_05.jpg

jin.jpg

これ、全部で何個くらいあるんですか?

tenshu.jpg

うーん、数えてないから自分でも分からねえなぁ。

jin.jpg

1~2個飾ってあるくらいならいいですけど、この量あるとお客さんもビックリするんじゃ……。

tenshu.jpg

うん、子どもはイヤがって帰る!
001.jpg
この前に座らされても落ち着けないと思う……

jin.jpg

(笑)営業的にマイナスじゃないですか!

tenshu.jpg

いいの。床屋はあんまりやる気ないからな。

jin.jpg

(いいのか!?)材料は何で作ってるんですか?

tenshu.jpg

拾ってきた木とか発泡スチロールとか。朝、海に行って流れてきた木を拾ってくるんよ。

jin.jpg

え、相当デカい木もありますけど、かついでくるんですか?
002.jpg
だいぶデカそうなお面もあるけど……

tenshu.jpg

大きいのを見つけたときは、近所で台車を借りて押してくる。

jin.jpg

ホームセンターとかで買ってくるより流木の方がいいんですか?

tenshu.jpg

うん、つまんないもん。拾ってきた木は、どういうものを作ろうか、自然が教えてくれるから。

jin.jpg

床屋さんはいつ頃からやってるんですか?

tenshu.jpg

16歳の頃に床屋へ丁稚に出されて。床屋なんかなりたくなかったけどな。就職口がねえから口減らしよ、口減らし。働かなきゃ寝るとこもねえしメシも食えねえし、泣き寝入りや。
003.jpg
ホントは京都の染物屋に行きたかったけど、求人がなかったそうです

そんなこんなで32歳のときにこの「酒井理容店」をオープン。さらに40歳頃に転機が訪れます。 

tenshu.jpg

宇佐神宮に行ったときに、お面が大事に飾られてるのを見たんだけどな、お面つうのは神様がこんなに大事にするようなものなんかいって感心して。自分でも作ってみようと思ったんだ。それからもう40年以上作ってるな。

jin.jpg

急に!? はじめてつくったのはどれですか?

tenshu.jpg

最初はコレコレ。だからあんまり上手じゃねえな。
004.jpg
この赤いのが一作目(たぶん)とのこと

jin.jpg

いきなり作ったにしてはスゴイですけどねぇ。やっぱり、髪型を作るのとお面を作るの、共通するところもあるんですか?

tenshu.jpg

うーん? 関係ないな。こんなの誰でもできるよ。

jin.jpg

できないでしょう! 作り方を誰かに習ったりとかは?

tenshu.jpg

見よう見まね。本屋行くとお面とか仏像の写真集があるでしょ。買うと高いからな、よーく見て頭ん中入れて……。
005.jpg
見よう見まねで作っているだけに、「仏像や能面を元にしてるんだろうなー」とは分かるものの、そこからちょっとズレたオリジナリティーが爆発しています
006.jpg
「拾ってきた材料に合わせて作っている」ということで形やサイズも色々

jin.jpg

この中で特に気に入ってるのはどれですか?

tenshu.jpg

ない! 作る時は熱中してたけど、まだまだだな。

jin.jpg

最近もどんどん作ってるんですか?

tenshu.jpg

作るよ。材料がいいのがあったらな。「何か面白いもんないかなー」と思っていい木が見つかると、作る気が沸いてくる。作り出したら一晩中熱中しちゃうな、それだけ集中せんと良いものができん。手を切る。

jin.jpg

ノミとかで掘るんですか?

tenshu.jpg

いや、コレ。自分で作った。
007.jpg
メチャクチャ年季の入ったお手製の道具

jin.jpg

道具も自作なんだ!
008.jpg
ちなみにこの容器に入った液体も、自家製の塗料か何かと思ったら……

tenshu.jpg

これ? コレはコーヒー! 温めてるの。

jin.jpg

アイデアマン!
009.jpg
(拾ってきた)材料の活用法もだいぶアイデアマンです。髪のモジャモジャ感を松ぼっくりで表現したり
010.jpg
投網をバラして「毛」にしたり
011.jpg
よーく見ると廃タイヤで作られています
012.jpg
「コレは溶岩がくっついたヘルメットを削って作ったんだ」……そんなのどこで拾ったの!?
013.jpg
こだわりポイントは表面の質感。木や発泡スチロールを削っただけではなく、何かを貼り付けて表現しているそうですが……​​​​​

tenshu.jpg

それは秘密!

jin.jpg

こんなに作って、売ったりとかはしないんですか?

tenshu.jpg

売ることもあるよ。どっから聞いてくるか知らんけどな、外国人が来て売ってくれって。お土産代にするんじゃないか?

jin.jpg

いくらくらいで売るんですか?

tenshu.jpg

それが難しい。普通の商品みたいに大量生産できるわけじゃないからな。値段を付けられない。オレが売りたくねえ、手放すのが惜しくなる。
014.jpg
店内には、作りかけと思われるお面も多数飾られています

tenshu.jpg

熱中せんとな、完成できん。「次にしよー」と思っておいとるとな、熱が冷めてしもうちょるけんな。「よし、これを完成させてやろう」と思ったら徹夜してでも一気に作らないと。

jin.jpg

昼間は床屋さんをやって、夜はお面作りじゃ大変ですね。

tenshu.jpg

いやあ、床屋はさぼってるから。夜、お面を見ながら酒を飲むのが楽しいんだ。お面としゃべってる。

jin.jpg

しゃべってる!?

tenshu.jpg

「こんな店に飾るな、はやく寺に飾られたい」とか、色々しゃべるよ。
015.jpg
最近はお面だけでなく仏像にも手を出しているそう。これも流木を利用して見よう見まねで作ってるんだとか
016.jpg
いや、もうガチの仏師じゃん!

2104_床屋の店主_イラスト_002_01.jpg

2104_床屋の店主_イラスト_002_02.jpg

2104_床屋の店主_イラスト_002_03.jpg

ボクの考える「変わったお店」「変わった観光スポット」が成立する条件は。

・お金
・時間
・根性

……まあ普通ですな。

ということで、メチャクチャ財力のある人が作っている(宗教絡みとか)じゃない場合、多少変わっててもお客さんが来てくれる場所にあるケースが多いです。

018.jpg
成田山久留米分院。財力のある珍スポットは規模がとんでもないです

 たとえば温泉地とか、世界遺産などの超A級観光スポットの近く。そのお店目的では来ないけど「ついでに」寄ってくれるんですよね。

017.jpg
もう潰れちゃいましたが、鬼怒川温泉にあった秘宝館。温泉地には「ついで」スポットが多いです

 その点、床屋さんは……。

・髪は伸びるから変わった店でもお客さんがくる(だいたい近所の床屋に行くでしょう)
・営業時間はキッチリ決まってるし、お客さんを待つ間はヒマ(偏見だけど!)
・昭和20~30年代頃、どうやら「とりあえず床屋で手に職をつけろ」という時代があったっぽい

これまで取材した店主さんもみんな70~80歳代で、「親に言われて仕方なく」という理由で床屋をはじめているケースが多かったです。 

 ホントは他のことがしたかった……。しかも地方の床屋じゃあクリエイティビティーを発揮できるような突飛な髪型を注文してくれる人もいない。

ということで、突然クリエイティブ魂が爆発して、床屋とは関係のないものを作りはじめてしまうんじゃないかと。

2104_床屋の店主_イラスト_002_04.jpg


それでも店が成立しているのがスゴイ!

前から薄々感づいていた「床屋の店主はクリエイティブが爆発しがち」問題。新たなクリエイティブ床屋を発見したことで、確信にまた一歩近づいてしまいました。

過去の取材を振り返ってみても、みんな「別に床屋になりたかったわけじゃない」と言っているのが面白い。そんなやる気がないのに、キッチリお店は維持できてるのがスゴイですよね(変な店なのに)

もちろん、もともと床屋さんになりたくて、仕事に情熱を燃やしている床屋さんも多いと思いますが。

shop.jpg

■酒井理容店
大分県別府市松原町13-7
【営業時間】9:00〜17:00 ※要確認
【定休日】月曜、第3日曜
【電話】0977-22-7377 

 

▽デイリーポータルZトップへ
20240626banner.jpg
傑作選!シャツ!袋状の便利な布(取っ手付き)買って応援してよう

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ