ダイソーに、プラレールみたいな電車のおもちゃが売られているのをご存じだろうか。
100円でモーターが入ったおもちゃが買えるのは破格である。あらゆるものが安売りされている中国の通販サイトですら、そんなの見たことがない。
しかし値段相応に壊れやすくもある。手元に壊れた電車が大量にあるので、その故障の原因を調べてみたい。
おもちゃの墓
うちに、壊れた電車が山積みになっている。
これが電車の墓場だ
「電車のおもちゃ」と言われて想像するもの、そのまんまのおもちゃである
このスイッチを入れると走った。壊れる前は。
ここ数年、小学校で授業をやらせてもらっていて(小学校でヘボコンの授業をする)そこで工作の材料として電車のおもちゃを使っているのだ。
この電車は安いわ入手性が良いわで、動くおもちゃを大量に仕入れたい立場としては非常に重宝している。ありがとう大創産業。
しかし値段相応に壊れやすいのも事実で、特に授業では子供が手荒に扱うこともあって、これがバンバン壊れていく。
そのたびに、回収して家に持ち帰っていた。
全部で16台あった
故障の原因さえわかれば、修理して再利用できるかもしれない。
いつか中を開けて、調べようと思っていたのだ。
今日、それをやってみようと思う。
不具合ベスト4の発表です
原因を調べる前に、故障の種類を仕分けていく。
あらためて動作確認してみると、不具合は大きく4つに分けられた。
1.カチカチいうパターン
車輪がくるくる回らないで、断続的に回ったり止まったり
それだけでなく、カチカチと何かを弾くような異音がする
モーターは動いている。この弾くような音は、動力を車輪に伝えるギアがなにか不具合を起こしているのだと思う。これが16台中1台あった。
2.空回りするパターン
電源を入れても動かない
動画で見てもらうと、モーターが空回りする「ウィーン」って音がしてるのわかります?
こちらもモーターは動いている。が、その動力が車輪まで全く届いていない感じ。これもギア周りかな?16台中2台あった。
3.全く動かないパターン
アニメーションで見るとひとつ前のと同じだが、こちらは物音ひとつしない
うんともすんとも言わない。モーターが動いてないということは、途中で断線しているとか、端子が折れているとか、とにかく電源経路の故障だろうか。16台中、ダントツ最多の12台。
4.金具ズレ
これは現象としては3.と同じ、つまり全く動かないのだけど、調べるまでもなく原因がわかってしまったケース。
右の空間が電池ボックス。本来はスイッチを動かすと金具が動いて電池にあたるのですが
金具がずれてて動かなくなっていた
元に戻したらすぐ動きました
調査するまでもなく一瞬で直ってしまった。16台中、1台。
以上4パターンの不具合があった。並べてみるとこうだ。
「全く動かない」の圧倒的マジョリティ感
それぞれ、何が原因でこうなったのか、調べていきたいと思う。
1.カチカチいうパターン
まずはこのパターンから見ていく。とりあえず分解します。
車輪を外して
ネジを外すと
中身が見えます
3つのギアが入っていて、構造としてはこんな感じ。
モーターにつながった①のスクリューギアが回って
→②の上下2段につながったギアが回転
→下段のギアが③の車輪直結のギアを動かす
動きが見やすいように透明のシャーシを作った。(裸のまま回すとギアが吹っ飛ぶので)
こんな感じの動きです。
車輪が回る仕組みはわかった。では、なぜカチカチ音が発生して、動きも断続的に止まってしまうのだろう。
上のアニメーションだとスムーズに動いて見えるけど、実はこの時もカチカチ音がしている。
その原因はすぐ分かった。
ギアが割れとる
こんなふうに紙が挟まってしまうくらいの亀裂がある
ギアに亀裂が入ったことで変形し、噛み合うギアとひっかかり、カチカチと音が鳴ったり、時には詰まって止まったりしていたのだ。
カチカチいうパターンの故障原因
ギアに亀裂が入っている!
この調子で、別のパターンも調べていこう。
2.空回りするパターン
こちらも分解してみると、原因はすぐに分かった。
こちらも割れてますな
さっきのカチカチとの割れ具合の比較
カチカチの方はギアが亀裂でわずかに変形していたのに比べて、こちらは歯が一つ丸ごと欠けてしまっている。
この状態で動かすと…
モーターと、その次のギアは回っているけど、車輪は回っていない。空回りした!
同じギア割れでも、その割れ方によって不具合のあらわれ方が異なるのだ。趣深い。趣深いが、おかげでおもちゃが動かなくなるので、要らん趣ではある。
空回りするパターンの故障原因
ギアの歯が欠けている!
3.全く動かないパターン
では、最多数派である、まったくうんともすんとも言わないパターンはどうだろう。そもそもモーターが動いていないので、前の2つとは根本的に違う気がする。
分解してスイッチを入れてみても、ダメ
他のギアを外してみても…ダメ
原因特定のためにどんどん要素を減らしていく。
モーターに直接電池をつないでも…ダメ
なんだこいつ…
正直、この原因究明にはてこずった。
しかし小一時間いろいろ試した末、いよいよ決定的瞬間が訪れた。
手で無理やり回したら、動き始めた!!!
どうも何らかの理由で、モーターの軸が固着してしまっていたみたいだ。
潤滑用のグリスが固まってしまったとか…と想像したが、正確なところはわからない。
しかし、修理方法はわかった。分解して、手で回してやれば動くのだ。
これ開けるのすげえ面倒なんだけどな…!
手で無理やり車輪を回して、ギア経由でモータを回して直すという技も編み出した。直る可能性が半分、あの割れやすいギアがパキッと行く可能性が半分という捨て身の技である
全く動かないパターンの故障原因
モーターが固まっている!
修理され、元気に走り回る電車の姿をご覧ください。
なんでモーターが固まるの?
さて、すべての故障原因は分かった。
しかし最後に残った疑問がある。全く動かないパターンの原因は「モーターが固まる」であった。
なぜモーターが固まるのだろうか!?!?!
さっき仮説として「グリスが固まってしまったとか…」と書いたが、それはただの憶測である。
その後いろいろ調べたものの、結局、この理由を突き止めることはできなかった。
ただ、それが起きやすいモーターの特性がある、というところまでは迫ることができたのだ。
マブチモーター製のしっかりしたモーターと比べてみよう
マブチモーターはそんなふうに固まったことがない。何か違いがあるはずだ。
2つのモーターの軸をそれぞれ手で回してみた。
マブチモーターは、スルスルッと軽快に回るが
100均電車のモーターは、カクカクとひっかかるような感触で、重い
手回ししたときだけでなく、弱った電池をつないでみたときも、マブチモーターは自力で動き始めるが、電車のモーターは手で回さないと動き始めないという現象が確認できた。
つまり電車のモーターはそもそも動きが重いために、ちょっとしたトラブルですぐに動かなくなってしまうのだろう。
ではなぜ動きが重いのかという点だが…。
それぞれ分解したところ
パッと見、そんなに変わらないように見える。しかしよく調べると……
モーターというのはここに磁石が入っていますが
この強さが全然違った。左が電車のモーター。こっちだけネジがくっついているのがわかるだろうか
この強い磁石に、中のコイルの巻き芯が引き寄せられて、回転しにくくなっていたのだ。
ちなみになぜ100均の方は強い磁石を使用しているかというと、(ここからはまた僕の憶測だけれども)コスト削減の一環ではないかと思う。
よく見てみると、電車のモーターはマブチモーターに比べてコイルの巻き数が少ない。つまり電磁石の磁力が弱い。
モーターは電磁石と磁石がくっついたり離れたりする力で回っているので、電車のモーターは電磁石の磁力が弱いぶん、外側の磁石の磁力を強くして、モーターの回転力を確保しているのではないだろうか。
逆に言うと、100均モーターは永久磁石を強くすることで、コイルの巻き数を減らすことができ、コスト削減につなげている。
ただ、そのぶんモーターの動き始めが重くなり、故障の原因になっている。
これが僕の推理である。
わかったのはここまで
自分は専門知識があるわけではないので、この推理はあくまで憶測でしかない。(コイルの巻き数でそんなにコストの差が出るのか、本当に永久磁石の強さでコイルの磁力をカバーできるのか、など根拠にも憶測が多い)
しかし、ひとまず自分がたどり着けたのはここまでだ。
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