あけぼのタワーのタイヤ
ざっくり説明すると、あけぼのタワーは塔のてっぺんから伸びている紐を使って、塔の周りを飛び回る遊具である。
細かいルールの前に、まずはあけぼのタワーの特徴を知っていただきたい。
一つ目の特徴はタイヤだ。とにかく無数にタイヤが積んである。
数えたことはないが200個くらいはあった。
タイヤとタイヤのすき間に足を入れると、大人の足でもすっぽりハマるぐらい深い。
この写真をもとにあけぼのタワーの全貌を書き足してみた。
タイヤは大きいもので直径2メートル、幅1.3メートルほどの大きなものもあった。
タイヤの大きさは大中小あり、地形に合わせて積んであった。
遊具が置いてある場所は、少し複雑な地形だったので手元にあった皿で再現してみることにした。
手元におやつのドーナツがあったので並べてみた。
さらに小さいタイヤをチョコワで再現した。
外側の大きなタイヤに囲まれて、内側には柔らかい小さなタイヤが無造作に入れられている。
小さなタイヤは小高い位置まで乗り上げていて、遊具全体が平らではなく高低差があることがあけぼのタワーのミソなのだ。
ちなみに小高い位置から加速して時計回りに飛んで遊ぶ。
あけぼのタワーの紐
二つ目の特徴は、塔から繋がれた紐である。
塔のてっぺんから4本の紐が垂れ下がっていて、それぞれ左から1番、2番、3番、4番と名付けられていた。
みんなお気に入りの紐があり、私は短い1番の使い手だった。
しかし、紐は定期的に取り替えられるため、慣れてきた頃に新しい紐になってしまう。そしてまた新しいお気に入りを作る。扱いやすい紐は順番待ちができるほど人気だった。
あけぼのタワーの遊び方
あけぼのタワーは遊び方が危険そのものだった。
なのに、毎日放課後にあけぼのタワーで遊び明け暮れるほど、病みつきになってしまう中毒性があったのだ。
私の母校、青海小学校のホームページに遊んでいる様子の写真が掲載されていた。
こんな感じ。青海小学校は長くて急な坂の上にあり、その名の通り小学校から青い海を眺めることができるよい学校だった。
遊び方はこうだ。
まずみんなで紐を持つ。1人でもできるし4人でもできる。
小高い砂利の位置にスタンバイして、1番から時計回りに駆け出す。ダッシュして加速しタイヤを蹴って飛ぶのだ。
自分の中でいつも、高く遠くへ飛ぶにはあのタイヤをタイミングよく右足で踏み切るんだ、と考えていた。高跳びの足の踏み切りと少し似ている。足のリズムも歩幅も踏み切る位置も重要なのだ。
飛んで塔の周りを回るのだが、ここであけぼのタワーの高低差がきいてくる。
小高い位置から飛んでいるので、低い位置を飛んでいる時は地面が下がり、より高く飛んでいるような気分になるのだ。
この風を切って空を飛んでいる感じが病みつきになる。他のどんな遊具でもこの気持ちよさは味わえないだろう。
紐の乗り方もいろいろあった。
紐に座る子もいたが、私は手だけで掴んで回るタイプだった。
あの頃の身体能力がこの人生のマックスだったと思う。
手だけで紐をつかんで回ると、遠心力で体がふわっと浮く。
あの独特な浮遊感はまさにターザンだった。枝を踏みながら木の上を駆け抜けて、猛スピードで飛んでいるような気分。
しかし、怪我も絶えなかった。
途中で手を離してしまいどこかに飛んでいってしまう子や、うまく着地できずにタイヤの上を引きずられてしまう子、大きくて固いタイヤに落ちて打撲する子もいた。
一周すると、また足がつく小高い位置に戻る。
ここで止まらずにさらに加速するのだ。滑らかにタイヤを蹴り、今のスピードを消さないようにタイヤの上を走り抜け、2周目へ突入する。
タイヤは独特な踏み心地だった。柔らかくもなく堅くもなく、しなやかでバネがあった。そんなタイヤを蹴って加速するのが、野生で生きてるターザンみたいで心地よかった。
2周目の時点でも、どのタイヤを踏めば最高のパフォーマンスが出しやすいかを心得ていた。
どんどん紐がタワーに巻きついていき3〜4周になると、足がつかなくなり、自分が紐に振り回され始める。
この紐の暴れに食らいつき、バランスを取るのが楽しいのだ!
そして最後も重要だ。
幅5センチほどのタイヤ塔の段差に足を乗せ、ひざを使ってゆるやかに塔にはりつく。
ここも一歩間違えばタイヤの塔にビタっと叩きつけられてしまうのだが、慣れてくると塔に沿うように、静かに止まれる。
これもまた気持ちがいい。
そして2.3.4番も順番に回る。
全員が塔に張り付いたら、せーの!で一斉に逆回転して戻るのだ。
ここがまた楽しい!これが醍醐味だ!行きは高く遠くへ飛ぶことを意識しているのだが、帰りはみんなと景色を見ながら回るのだ。
これがあけぼのタワーの遊び方である。
あけぼのタワーの裏技
あけぼのタワーにはただ回るだけじゃない、派生した遊びがあった。
それは紐同士を編むことで、より高く飛ぶ裏技だ。
なぜ高く飛べるのかはわからないが、2人で紐を編むと、1人は高く1人は低く飛べるのだ。
紐2本で編むことをチップ、3本で編むことをデール、4本全員で編むことをチップとデールと呼んでいた。
誰がつけたか知らないが、小学生らしいネーミングセンスがいい。
編み方は、編み込みの要領でやっていた。
1メートルほど編んだら準備完了だ。
そして編んだもの同士で連続で飛ぶ。
すると1人は高く、1人は低く飛べるのだ。
この1人の時より軽い浮遊感と、高い位置に強く引っ張られていく感じがたまらなく楽しいのだ!
3人、4人で編むと1番高い位置を飛ぶ子は、桜の木の枝に当たるほど飛んでいた。今見たらハラハラしちゃうくらい危険だ。
この裏技は、上級生から教わったもので、代々受け継がれてきたものだと思う。
子どもが遊ぶなかで見つけた裏技だと思うと、すごい。
あけぼのタワーに魅了された私たち
あけぼのタワーは小学4年生頃からブームが始まる。
熱狂し始めると、教室で帰りの会をやっている途中で、こそっと足の速い子に「1番(の紐)とっておいて!」とお願いしたものだ。
そしてチャイムが鳴ると一斉にあけぼのタワーに駆け出した。
芝生にランドセルを放り投げて、17時ギリギリまで遊んだ。
それでも飽き足らずに土日も学校に来て遊んでいた。
小学1年生の授業で、「あ」からはじまる言葉を書くシートにあけぼのタワーと書いてあるのを見つけた。
それほどこの小学校といえばあけぼのタワーで、低学年から早くやってみたいという気持ちでいっぱいだったのだ。
幻の危険なあけぼのタワー
数年前に地元に住む2歳年上の姉から、撤去されたという話を聞いて、やっぱりそうか、と思った。
あけぼのタワーをやると慣れていても身体はタイヤで真っ黒になった。腕も肘もすねも膝も全身タイヤ色になって帰った。もちろん服も靴も黒くなる。
とにかく怪我のたえない危険な遊具だった。
しかし、小学生の身体能力と危険を顧みない好奇心によって、代々受け継がれてきた伝統的遊具で、私に熱狂を教えてくれた唯一の遊具でもあった。
危険だけど、そういうものがなくなるのは寂しい。
今でももう一度やりたいと思う。
友達と紐を持って駆け出して、タイヤを蹴って空を飛ぶ。
あの感覚を味わえることはもうない。
あけぼのタワーは今はなき者だし、なにより私にそんな体力がない。
でも、もし似た遊具があるのなら遊びに行きたい。
あけぼのタワーOGとして、華麗に飛んでみせよう。
あけタワやりたい
あけぼのタワーは通称「あけタワ」と呼ばれていた。
友人達にあけタワの記憶を聞いてみたところ、みんな記憶が薄れ始めていたので慌てて記事にした。
それでも他にも思い出したことがある。
時計回りに飽きた時にやる「反対周り」や、紐を持ったまま塔の周りを歩くだけの「おさんぽ」など懐かしい用語があった。
書いてたら、あけタワで遊びたくなってきた。
今まで、タイムマシンがあったら?という質問になんとなく「生まれた時に戻りたいかな~。」とか言ってたけど、今はタイムマシンがあったら、過去に戻ってあけタワやりたい。はっきりそう言える。