ハトを履くまで
ハトの群れで人気者に。これだけ書くと頭大丈夫かって感じだが、鳥と言葉を交わせる物語の中の少女のように、ハトとコミュニケーションをとれたらと思う。
まずはその「ハトヒール」のラフを描いてみた。まあだいたいこんな雰囲気になるか。
右、わかりにくいがヒール部分がハトの足と同化しているので、つま先がハトの尾羽になる。つまり前後逆にハトがくっつくことになる。
つまり、この靴は後ろ歩きを余儀なくされることとなる。
いきなり不安な展開だが、まあ、有りだろう。
さてどうやって作っていくか。市販の安い安いハイヒールを買って、そこにとにかくパーツを貼り付けていこうと思うんだが、その材質だ。本物の羽根は資金的にも時間的にも大変なことになるので、フェルト一発で行こうと思う。
とはいえ、ハトの頭と体の部分は立体的なので、中にスチロール素材で芯を埋め込み、周囲を羊毛フェルトで覆うことにした。
ありもののスタイロフォームで2体削りだす。
羊毛フェルトをとにかく埋め込むべし!フェルト!いっぱーつ!
ハトといえばあの魅惑のグラデーション。どうにか表現しましょう。
やがて、注文していた安い安いハイヒールが届いた。確か2千円しなかったと思う。パーツを付けやすいよう、表面がざらついているスエード風のを選んだ。
販売サイトには「出勤にも!」と書いてあったが9cmヒールだ。そんな世界に住んだことないです。
ハイヒールが届くまでは家にあった靴で見当をつけて制作していたので、バッチリだ。
翼は・・・ハイヒールに合わせるとちょっと長くなってしまうが仕方がない。ドウナガバトだ。
本物の羽根を使えない代わりに、少しでも羽根に見えるよう、一枚一枚小さく切ったフェルトを貼り付けた。
翼1つ分に羽根を貼り終えた後、羽根の重なる向きが逆だったことに気付いた。まあいいか・・・と思ったが、気になりだすともうダメで、全部また貼り直した。ということをここに記して、地味な苦労を昇華させたい。
ハイヒールに、大胆にボンドを!
これは顔のあそこの玉っころである。この小っさいのも羊毛フェルトで。
尾羽を貼り付けて固定。ここまで来ると、もう形の整合性とか後回しで、早く完成が見たい気持ちでいっぱいになる。
ちなみに、両足それぞれ違う色合いにしてみた。なんとなく(地味な違いだったが)。
さあ最後に足の細工を。針金を芯に。なんとか足の形にまとめあげる。
ハトの足、ってけっこうピンク。なので赤い羊毛フェルトをまずボンドで巻きつけ。
アクリル絵の具でピンクを載せると、すごく・・・ハトの足です。これはうまくいくと確信。1つでもこういう部位があるとかなり違ってくるはず。
家にあった人形の目をオレンジ色に塗ってハトの目にして埋め込み、完成、「ハトヒール」。
頭と体の形が甘くてかなりマヌケなたたずまいになったが、羽根と足はがんばったぞ。
人間の言葉しゃべったら絶対うっとおしいやつだ。
うーむ、うっかり愛着のわく物を作ってしまったではないか。しかし目の位置が非常におかしいな。まあいいか。
でもこれから、こいつらを「履かねば」ならないこのつらさ。そもそも履けるのかこの形?!ハトを履く?!バカボンのパパは猫を履いていたけども!
というわけで、ハトといえばあそこ、上野公園までロケをしに行ってみる。さあ、果たして私はハトとお近づきになれるでしょうか。
上野は奇なるものにやさしい街
やってきました上野公園。ハトのメッカ、もうそれは絨毯をしきつめたように、ハトたちがたむろする場所。のはずだが。
ガラーン。
前記のような光景を見たのはお花見シーズンだったか。あるいはこの日は平日だからか、ハトの群れを目視で捉えられない。
それでも、木陰にポツポツといるな。とりあえず靴を履き替えねばならないので、人々が思い思いに休憩しているスペースへと行ってみる。
おお、熱心に求愛していらっしゃる!
求愛とか関係ないこちらの面々。
履くよ、あんたたち!
ムギュムギュ。
度重なるボンドの塗布で羽根がカチカチのバリバリ。なので、崩壊しないように履くのも一苦労であった。
ちなみに今日は全身もハトになじむよう、服を選んで来たつもり。
何も言われなければとくにどうということもない立ち姿であるが。
足元が何やらメルヘンチックな。
背後で目線を下げるとなんだかハトが急で、自分でも驚く。
これは目立つのか?それとも他人には意外とわからないものなのか。
公共の場の撮影では私はけっこう人目が気になるほうなのだが、とにかくハトの群れがいないと始まらないので、意を決してハトがいると思われる方へ歩きはじめた。ハトよ!
なにせ9cmヒールなので、時間が限られている(疲労度の関係で)。
ところで、まずは後ろ歩きを練習して、ハトに備えなければならない。
そしてハトがいなくなった。
お、あの木陰で誰かがエサをやっている、急げ!歩きにくくて急げないけど。
まずは追い回す。
そしてやおら後ろ向きになって追いかける!オラオラオラー。
とにかくハトをマークだ。こういう踊りが古来からあるようにも見える追いかけ動画はこちら。
とにかく、ヤ みたい。
「ヤバイの来た」「触れちゃいけないやつだ」「スルーで」とか思われてるきっと。
実は履き始めたときから、周囲の目が足元にあるのを感じていた。そばにいた親子連れも、笑いながらハトだハトだ言ってる。これ相当目立つんじゃと思ってた矢先、プロの方の目にも留まってしまった。大道芸の方々がすごく反応してくれる。
「わあ、作ったんですか?」「撮影していいですか?」思わぬハトフィーバーが上野に巻き起こる!
ハトじゃなくて人がたくさん寄ってきた。ハトバブル!
ただしなぜここでハトヒール履いてるのか説明もしづらく、「いやーなかなかハトと仲良くなれなくてぇー」と簡単に言いまわっていたのだけど、いっそう奇人寄りになってしまったんじゃないか。
上野公園で奇人になる、って……私も上京して28年ほど経つけども、ずいぶん来るとこまで来たなという思いである。
さてなかなか「ハトの群れの中にいる私」を体験できず、なおも単発で追っかけを繰り返していたらば。
ハトシフト。ハトフォーメーション。
突如巻き起こるハト旋風!ハト嵐!
あ、あなたは・・・!
なぜか撮影の主旨を理解してパンくずを投げてハトを集めてくれるんですね!
おじさん、やっとハトと近づけたよ!ありがとうノリのいい上野のおじさんよ。
おじさんとの感動のコラボレーションの様子はこちらで。
気付くと散策中のご婦人がカメラを構えてハトとハトヒールとのシャッターチャンスを狙っていた。今頃インスタに上がってるだろうか。
というわけで、周囲の観光客や近所の人、芸人さんたちが注目して声をかけてくれた。変な靴を履いて写真撮る身としては、とても助かったのだった。上野はいいところだなぁ。
エサが無くなれば明らかに避けられて本日は終了。
まあ、ハト寄って来ませんわね。
追い掛け回してごめんねハト。
でも代わりに、人が寄ってくるハイヒールとなった。
なんだかいい話のようになったので、ここで終わることにします。
編集部より:
その後、このハトヒールは世界的に話題になりました。後日談も合わせてお読みください。
乙幡さん、ハトヒールが世界で話題になった結果、改名を迫られる
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