特集 2021年2月1日

ワラビの根っこから本物のわらび餅を作りたい

ワラビの根っこから本物のわらび餅ができました!

わらび餅という和菓子、あれは本来なら山菜であるワラビの根っこからとった澱粉、わらび粉で作るもの。だがわらび粉は超高級品らしく、ほとんどの市販品はサツマイモやジャガイモ、レンコンなどの澱粉で作られているのが現状だ。

一度は食べてみたい、本物のわらび餅。そこでワラビの根を掘って、潰して澱粉を精製し、手作りの本わらび餅を作ってみた。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:イカ徳利があるならタコ徳利があってもいいはずだ

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ワラビの根を掘っていい場所が見つかった

わらび餅を作ることになったきっかけは昨年の夏まで遡る。知り合いが環境保全のために整備している宮寺ふくろうの丘公園を見学させてもらったのだが、そこにワラビが自生していたのだ。

粉から手作りのわらび餅は長年の悲願だが、そのためには土地所有者の許可が必要。山菜としてワラビを食べるのなら新芽を摘むだけだが、わらび粉を作るとなると根っこを掘らなければいけない。それを許してもらえる場所がなかったのだ。端から諦めて探そうともしていなかった。

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これは甘藷(サツマイモ)澱粉、葛粉、わらび粉がミックスされたわらび餅用の粉。ワラビだけで作られる澱粉は、本わらび粉と呼ばれる高級食材。

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埼玉県入間市にある宮寺ふくろうの丘公園。耕作放棄地を有効活用するため、今後どうするか計画を立てている段階の場所。

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公園の端にワサワサと茂るシダ植物、これワラビじゃないですか。

そんな時に出逢ったのが、この公園に自生するワラビである。これぞ千載一遇のチャンス、掘りたい!

管理している方にダメもとでちょっと掘らせてくれないかと聞いてみたところ、特に利用していないので一部ならいいよとの返事をいただいた。やった!

こうして澱粉が蓄えられる冬を待って、念願のワラビ掘りをさせてもらったのだ。

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12月、すっかり枯れたワラビ。

ワラビの根は細かった

以前にクズという植物を掘って葛粉を精製して、本物の葛餅を作った経験があるのだが(こちらの記事)、澱粉を蓄えた芋状の根を掘るのがとても大変だった。

今回もそれなりの覚悟をして臨んだが、川原などに比べれば土がかなり柔らかく、圧倒的に掘りやすい。そのためサクサクと掘り起こせるのだが、肝心の根に澱粉を蓄えている様子がなくて焦る。

ワラビには芋的な部分は皆無だった。横置きになったゴボウみたいな根から、果たして澱粉はできるのだろうか。

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自生するワラビの端っこ部分を管理者の方と一緒に掘らせてもらった。

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ワラビの根は根茎といって、横に伸びて広がっていく。

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澱粉、あるのかこれ。

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いくら掘っても澱粉が蓄えられる芋的な部分は見つからなかった。

ワラビを掘って澱粉を精製してわらび粉を作るという行為が初めてなので、何が正解なのかよくわからない。だから楽しいんだけど。

とりあえず根茎を切って断面を確認してみると、意外なことに白い部分がかなりあって、これなら澱粉が取れるかもという淡い期待が持てた。効率はかなり悪そうだが。

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新作ロールケーキみたいですね。

試しに白い部分をちょっと齧ってみると(※生食はダメですが)、ヤマイモやレンコンっぽいサックリしつつも粘りを感じる歯ごたえで、苦味やアクはそんなにない。物理的に土がついているので土っぽい味はするが、これは良質の澱粉が取れそうだという気がする。

とりあえずリュックに入るだけの根っこをいただき、本物のわらび餅作りに挑む。これだけあれば最低でも一人前くらいは作れるだろう。

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どうにかすれば食べられる植物の味がする。

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ワラビざんまい!

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ワラビの澱粉を沈殿させる

持ち帰ったワラビの根っこは、当然だが土だらけ。わらび餅というよりはチョコレートの材料みたいな状態なので、家の外にある温水がでない水道で凍えながらタワシを握ってゴシゴシと洗う。これ専用の洗濯機を買おうかな。

なかなか地味で辛い作業な上に、こんなにあっても手にする澱粉は一握りなんだろうなという悲しさが胸を締め付ける。辛く悲しい。洗えば洗うほど、ただの根っこにしか見えないし。

わらび粉がいつの時代から食べられているのかわからないが、よくこれから澱粉を採ろうと思ったな。

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ベットリとへばりついた赤土をタワシでよく洗って、髭みたいな細い根をハサミで切る。今考えるとなんでゴム手袋をせず、真冬に素手でやっているのだろう。悲劇の主人公ごっこか。
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がんばって洗った根茎。ただの根っこにしか見えない虚しさ。

ここから澱粉をとる一般的な方法は知らないが、私には葛粉作りで培った経験がある。あの記事を書いた後も、毎年葛を掘ってノウハウを溜め込んでるのだ。使いどころがないと思っていた知識がこんなところで役に立つなんて。

効率よく澱粉を取り出すためには、まず細かく裁断する必要がある。たまたま買ったばかりの中華包丁があったので使ってみたところ、硬い根茎がザクザクと気持ちよく切れた。買っておいて本当によかった。

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金太郎飴みたいですね。
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この状態で1622グラム。

これを水と一緒に強力なミキサーでガーっと砕き、サラシや不織布の袋に入れて水の中で澱粉を絞り出し、何度も水を変えて沈殿させていく。

ミキサーで砕いた段階でバナナみたいな甘い香りがうっすらと漂い、そして粘りがあることにかなり驚く。これはクズにはなかった個性だ。そういえば山菜のワラビにも粘りがあり、叩くとメカブ(ワカメの付け根)みたいなるが、どうやら根茎にも粘りの成分があるようだ。

この香りと粘りがわらび餅の味にも影響するのだろうか。だとしたらすごくうまいものができあがる気がする。市販のわらび餅にわざわざレンコンの澱粉が使われる場合があるのは、同じく粘り気のある食材だからかも。ワラビの根からわらび餅を作ろうとうしてこそ生まれる疑問である。

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刻んだワラビの根茎を、水と一緒に丈夫なミキサーで砕く。
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はい、砕きました。
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ワラビなのにバナナに似た香りとヤマイモのような粘りがある。チョコバナナを砕いたような見た目だ。
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ラーメンなどでダシをとるために使う不織布の袋に入れて、よく揉んで澱粉を絞り出す。
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袋の中には澱粉が抜けた搾りかすが残る。
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ちょっととろみがある澱粉水溶液ができあがった。

この汁をそのまま置いて沈殿させ、上澄みの水を捨てて、新しい水を入れてよく混ぜてまた沈殿させる作業を朝晩繰り返し、五日で沈殿作業を終了とし、ベランダで干す。

まだ完全に真っ白ではないけれど、多少の雑味があってこその味があるはず。

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沈殿の一回目。泥水だ。
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だが底には澱粉が溜まっている。しかもたっぷりとだ。
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沈殿を繰り返すと少しずつ上澄みが透明になってくる。澱粉が先に沈むので、全体が沈殿しきる前に濁った水を捨てるのがコツなのだが、それはそれで貴重な澱粉も流れ出しそうで怖いんですよ。
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まだゴミが結構あるので、もう一度不織布で濾しておいた。
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これ以上の精製は家庭だと無理かなというところで終了。
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本物のわらび粉ができあがった

太陽の力で干すこと三日、こうして出来上がった本わらび粉は235グラム。使った根茎が1622グラムなので、その変換率は14%といったところか。ただの根っこにしか見えなかった状態を考えれば、驚きの歩留まりの良さだろう。

乾いて全体を混ぜてしまえば、不純物の色も気にならない。画像検索してみると市販の本わらび粉も真っ白ではないようだ。わらびの澱粉という意味では100%じゃなくても、わらびから作った粉という意味では完全に100%。よってこれは純粋な本わらび粉だ。

意外と量がとれたなと思うと同時に、これだけの手間なら本わらび粉が高くても当然だと理解できる。ここまで作業時間だけでもトータル10時間以上、時給1000円なら100グラム4000円オーバーだ。

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ボウルのままベランダで干す。丸い形が太陽光を集めてくれるのでは。
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乾いたら本わらび粉の完成。
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上にちょっと不純物が残ったけれど、これもワラビの一部なので味の要素だ。
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意外とたくさんできた。
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完全手作りの本わらび粉、売るとしたら末端価格はいくらにしよう。

本物のわらび餅を作る

こうして手に入れた手作りの本わらび粉で、ようやくわらび餅作りに取り掛かる。使うのがもったいなくて、一か月ほど冷蔵庫に入れて先延ばしにしてしまったが。

澱粉をとりだすのは大変だけど、調理するのは簡単だ。わらび粉と砂糖と水を混ぜて、加熱して冷まして切るだけ。過去に様々な澱粉で試したお馴染みの工程である。

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わらび粉50グラム、砂糖25グラム、水250にしてみましょう。
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よく混ぜたら小鍋に入れて、木べらで混ぜながら加熱。
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しばらくすると底から固まってくるので、引っぺがすように混ぜ続ける。
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手を止めずに混ぜ続けると透明感が出てくる。澱粉が加熱によって糊化するのだ。
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全体がムラなく半透明のゲル状になったら、火を止めて中身をバットに移す。
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冷水にバットごと入れてしっかりと冷やす。
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これをバットから剥がして切るのだが、餅みたいにへばりついて大変。餅米を使っていないけれど、確かにわらび餅と名付けたくなる粘り。ちょっと水が多すぎたかな。
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千切れそうで千切れないニュルンニュルン感がすごい。深海に住むメンダコみたいだ。
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一口サイズに切るのだが、独特の手ごたえに高い声の悲鳴がでた。
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素晴らしい色味と透明感。

とりあえずこのまま食べてみると、砂糖を入れているのでほんのりと甘く、そして遠くでごぼうのような土の属性を感じさせる。さすが根っこ。

素晴らしいのは食感だ。ヌルンと口に入ってくる食感がすごい。ゼリー状なのに粘りがあり、噛むとモニュンモニュンと歯を包んでくる。澱粉なんて大差ないだろとちょっと思っていたのだが、これは想像以上に違う。

本格焼酎が素材の味をしっかり残すように、手作りの澱粉もまた然り。あの粘りがある根茎だからこその餅なのだ。これはうまいな。

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きな粉と黒蜜を掛けるともっとうまい。甘い蜜を纏っても本わらび餅の個性は消えない。
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鍋に薄く残ったわらび餅の残りが伸びるオブラートになった。

糊化した澱粉は老化によって硬くなるため、出来立てをすぐに食べるのが本当に大切。本来の味わいを楽しむためには賞味期限は5分と考えていいと思う。

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ついでに葛切りならぬ、わらび切りも作る

せっかくなのでもう一品、葛切りを作ってみよう。わらび粉なので「わらび切り」だろうか。聞いたことがない料理名だ。

葛切りは葛粉の利用方法を研究している過程で試して大成功した調理法(こちらのブログ参照)だが、きっとわらび粉でも美味しいはず。

葛餅やわらび餅との違いは、湯煎によって静かに固めること。これによってツルンとした滑らかな口当たりになるのだ。

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わらび粉35グラムと水80グラムを混ぜて、熱湯に浮かべたバットに薄く流して湯煎をする。
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しばらくすると全体が透明になってくるのは、わらび餅作りと一緒。
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すぐに水で冷やして、細切りにする。ニュルニュルと手から逃げていくので、排水溝に流しそうになった。
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友人からいただいたキンカンを煮た甘い蜜を掛けてみたところ、澱粉の塊がこんなにおいしいってどういうことだよとため息が出た。
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表面はツルンツルン、噛むとクニュンクニュンの食感がすごい。釣りたての生きたマルイカで作った刺身にちょっと似ている。

本物のわらび粉で作ったわらび餅の美味しさを知ることができて、本当によかった。もちろん他の澱粉で作ったわらび餅もおいしいのだが、あの粘りは独特だ。

前に石川県でサクラマスの寿司(鱒寿司ではなく握りだったけど)を食べたのだが、やはりニジマスなどとは違う、オリジナルの圧倒的な個性があった。

寒空の下で根っこを掘ったり、ゴシゴシと洗ったり、もう二度とやらないって思ったけれど、こうして本物の味を知ってしまうと、場所さえあれば次の冬もやりたいなと思ってしまう。


クズやワラビの根っこを掘って、わざわざ澱粉を精製して食べる理由、それはうまいからである。言い切れる。うまいんだもの。

この澱粉は嗜好品だ。季節的に冬の作業となるので、農閑期の道楽みたいなニュアンスもあったのかもしれない。作ることに達成感のある食べ物だ。

過去にはドングリの澱粉で韓国風冷麺を作ったりもしたが(その話はこちらの本でどうぞ)、澱粉作りは大変だけど地味に楽しい。こうなるとカタクリの根で作る本物の片栗粉を試したり、キャッサバを掘ってタピオカを手作りしたくなるね。

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