表現は照れる
岡田 デイリーは、ライターみんなでやっているのが特徴ですよね。面白いことを表現するだけなら一人でもできると思うんですが、なぜ仲間を集めてやっているんですか? 一人でやるより、面倒なことが増えたりも、あると思うんですが。
林 なんででしょうね。おれ毎回、ライターが集まる場所を借りたりしていますもんね。みんなにお茶を買ってきたり。
岡田 撮影の時、林さんが率先してお茶を買ってきて下さるし、めっちゃ動きますよね。「橋田(玲子)さん買ってきて!」とか絶対言わない。
林 言えないですよね。偉そうじゃないですか、そういうの。
なんで一人でやってないんだろう……。自分がやってることが面白いと思っているんですが、変わったことをする仲間がいると嬉しいし、不安が減りますね。
それに、照れもある。恥ずかしい。表現する人ってみんな、恥ずかしいことをやっていますよね。映画監督は俳優に、「おれが考えた話を皆で演じろ! お前、泣け!」とか言って、俳優も「なんすかそれ?」とか言わない。
小説家とか、歌詞を書いて歌う人もそうですけど。表現者はみんな、照れや恥ずかしさを乗り越えてやっているから、おれも乗り越えたいですね。照れているのがよくないんじゃないかって。
照れてしまいそうな時に、「いや、これいいよ、行けますよ!」って言ってくれる人が横にいるのが大事なんじゃないかな。それを言ってほしくて仲間を増やしているのかな。
余暇こそ人生の中心
岡田 改めてうかがいますが、デイリーポータルZを続ける理由を教えて下さい。
林 自分が書きたい、自分が知っている面白いことを自慢したい、人に言いたいため、ですかねえ。
でも「なんでやってるの?」とかも「もうかるの?」って聞かれるのって、日本だけ、さらに言うと、東京だけかもしれません。人がものを作っているのをみて「もうかるの?」って聞くのって……。
「顔が大きくなる箱」とか、作ったものをアメリカに持っていくと、アメリカ人は「ナイスアイディア」って言って笑って去っていく。中国もそうでした。日本だと、大阪の人にも受け入れられやすくて。
そういえばこの間、ウィーン少年合唱団のコンサートを見に行って「こっちが本当だ」と思ったんです。
おばあちゃんが一人で聞きに来てて、演奏に拍手したり、団員に手を振ったりしていて。おばあちゃんは、少年たちに手を振っているこの瞬間があるから、生きているんだろうなって。
こういう演奏会とか、デイリーのようなサイトも、「余暇」って呼ばれますけど、そういう楽しいことがあっての、つまんない労働だったり、通勤だったり、通院だったりする。
余暇が人生が中心ですよね。「余」じゃなくて。
(インタビュー前編 「『黒字、出ちゃいました』 独立から半年、デイリーポータルZの今 林雄司に聞く」もどうぞ)
編集部から)
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