みなさんもぜひ
結局書き終えたのは15:30。4時間もかかったことになる。保育園には間に合った。
GPS地上絵は、いまやスマホがあれば誰でもできる趣味。みなさんもぜひ。

スマホやカーナビに使われているGPS。それを使って地上に絵を「描く」趣味・GPS地上絵。今回は、恵比寿・白金・西麻布・代官山といった名だたるハイブランドの街々をキャンバスに、かわいい子ヤギを描いたのでその顛末をご覧ください。
結論から言うと、おしゃれタウンはやたら坂だらけですごくたいへんでした。おしゃれタウンめ。
(トップ画像は「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)
まずはその出来映えをご覧ください。
デイリー編集部のある用賀を見つめていることが判明。
これまでたくさんのGPS地上絵を描いてきたが、この子ヤギはかなり良い出来だ。
体長3kmというのは子ヤギとしては大きいが、GPS地上絵としてはかなり小さい。GPS地上絵の設計の難しさは「小ささ」にある。いくらでも大きくて良いのであれば、どんな絵も描ける。道路の曲線を上手く使って最小限のスケールでちゃんとした絵を描けるルートを見つけるのが最大の難関なのだ。その点、この子ヤギはとてもうまくいった。今のところ最高傑作だ。
設計の苦労話をし始めると長くなるので、ここでは控えるが、すごーーーくたいへんだった、ということだけお伝えしよう。何日も地図とにらめっこする日々であった。見つめすぎて、夢に地図が出てきた。
前出の画像はすべて、GPSロガーという、移動の軌跡を記録する装置を持って、実際にを移動して「描いた」データを地図に載せたもの。
移動の軌跡を動画にしたもの。よくがんばった、と自分で思う。
道のり20km。このクオリティの絵としてはかなり短距離だ。ほんとうにうまく設計できた。
とはいえ、20kmは歩くとなるとたいへんだ。なので、今回は自転車で「描く」ことにした。上の動画は、自転車の移動ログを早回しにしたもの。
Google earthでログデータを読み込んで移動ログを再生した。こういう視点の動画も作れる。これは子ヤギの鼻を描いているところ。ぐるっと一周している。
たいへんありがたいことに、いま東京都心は「バイクシェアサービス」が充実していて、それを使って描くことができた。
なにがありがたいって、自分の折りたたみ自転車を運ばなくて済むこともさることながら、このサービスで提供されている自転車が電動アシストだという点だ。
今回あらためて実感したが、東京は坂が多い。電動アシストでなければ途中で諦めていたかもしれない。
スタートしたのは11時30分ごろ。保育編に息子を迎えに行かなくてはならないので16時前には終了したい。まあ、20kmだし電動アシストだし、4時間あればじゅうぶんだろう、と思っていた。お日柄も良く、ちょっとした散歩気分だ。うきうき気分でスタートである。
というように、出発直後は気持ちに余裕があった。写真もたくさん撮っていた。
これが後半、だんだんとそれどころではなくなっていく。
ここ目黒駅から広尾にかけては、個人的に(といっても全てが個人的なのですが)思い入れの深い描画箇所である。右前脚から首にかけての優美なS字カーブこそ、地図とにらめっこしていて「おっ、この道の形、いいぞ!」と、子ヤギの造形につながるきっかけだったからだ。
この曲線は、首都高によって作られている。
速度が速い道路は曲線が緩やかになる。だから都市でGPS地上絵を設計すると、しばしば幹線通りや高速道路が手がかりになるのだ。
……なんて言っているが、先のできあがりの画像を見ると、それほど前脚は滑らかに仕上がっていない。なぜか。
現地に行ってみたら進めなかった、というのはGPS地上絵地上絵では必ず起きる。地図での設計は文字通り机上のルートなのだ。
ただ、この迂回によって、結果的にはよりヤギの前脚っぽくなった。ひずめっぽくなり、足の付け根も関節っぽくなった。こういう「現場の事情によってより描写が良くなる」という現象こそGPS地上絵の醍醐味である。
さて、いつまでも「千葉」を行くわけにはいかない。すこし進んだところで、左前脚のために、千葉から白金に行く必要があるのだ。残念だ。
左前脚は外苑西通り、いわゆる「プラチナ通り」である。おしゃれである。白金=プラチナ。ほんとうにおしゃれなのか、と思う命名センスだが、街は確かにおしゃれである。
幸いなことにすぐにプラチナを離れ、脇の道を行くのだが、この道がすごい坂だった。
これ以降、コースが坂だらけになる。電動アシストで本当に良かった。
この後も、東京を代表するおしゃれタウンが連続する。どうもこの子ヤギ、かわいいなりして、セレブっぽい。
次から次へと通過するおしゃれタウン。ふだん訪れるとしても電車を使って、なので、こうして自転車で巡ると「こことここはこういう風につながってたのか!」と新鮮だった。たぶん自動車で移動する人にとっては当たり前のことなのだろうけど。
それにしても、この子ヤギ、とんだハイブランドである。
道行く人が全員金持ちに見えてしょうがない。なんというか、落ち着かない。これまでたくさんのGPS地上絵を描いてきたが、こういう感触ははじめてだ。
一方、たいそうぼく好みの要素もあった。それは先ほどから触れている「坂の多さ」、すなわち地形である。
代官山から駒沢通りを下って、目黒川。ここまで来ればもうゴールの恵比寿はすぐそば。やれやれ、坂は多かったけど、電動アシストのおかげで楽だったな。保育園にも余裕で間に合いそうだ、などと思ったら。
まさか電動アシストでも上れないほどの坂が最後に待ち受けているとは思わなかった。
GPS地上絵は、必ず一筆書きになる。ペンは紙から離れることができるが、GPS地上絵の「ペン先」である自分の体は瞬間移動することはできないから。
だから恵比寿キッドも当然一筆書き。なので、どちら回りで描いても結果は同じになる。今回、たまたま反時計回りに描いたが、これは逆回りでも支障はない。
スタート地点がすなわちゴール地点なので、どちら回りでも累積上り下りは同じだ。だけど、別所坂は下った方が楽だっただろう。ただ、こんなにドラマチックな終わり方にはならなかっただろうから、これで良かったのだ、と思うことにしよう。
それにしても、こうして地形図で見ると、この子ヤギは実に起伏が飛んだところに生息している。そうか、ヤギってもともと高山の斜面で生きていたりするな、と思った。
渋谷川・古川と目黒川に加え暗渠化したかつての流れが作った谷をいくつも横断したものだ。そして、こうして見ると山手線の切り通しはまるで川のようだ。
上の断面図のデータを見てびっくりしたのは、累計標高が340mもあったということ。つまりこれって、100階建てのビルを登って降りた、ということだ。そりゃあ電動アシストでも疲れるわけだ。
以前から、東京の街って、イメージ範囲が細かすぎるよなあ、と思ったいた。つまり、まさに今回のルートのように、白金やら麻布やら南青山やらって、すごく近い。だけど全く別の街として認識され、それぞれにブランドができている。
これは東京に人が多く住んでいるから街(と地名)の細分化が起こっているのだろう、ぐらいに思っていたが、今回よく分かった。細かく谷で仕切られているのだ。だから違う街なのだ。
おしゃれタウンっぷりにやっかみを覚えつつ、の今回のGPS地上絵地上絵だったが、地形によって知るところの多いものとなった。満足だ。
結局書き終えたのは15:30。4時間もかかったことになる。保育園には間に合った。
GPS地上絵は、いまやスマホがあれば誰でもできる趣味。みなさんもぜひ。
土木学会主催の「土木コレクション2019『TOKYO DOBOKU FROM―1964―TO 過去から未来、新しいTOKYOへ』」が開催されております。場所は新宿駅西口イベントコーナー
その最終日、17日の15時から、京都大学教授の高橋良和先生と「祝祭・災害が形づくるドボク」と題してトークします。これは先日行われた「TOKYO2021」の美術展「慰霊のエンジニアリング」に出展した作家の一人として、同展で考えたことなどを話したいな、と思ってのテーマ設定です。
一見、堅そうな主催者と登壇者ですが、楽しい話になりますよ。入場無料。みなさんぜひ。
詳しくは→こちら
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