特集 2019年11月15日

体長3kmのおしゃれ子ヤギ「恵比寿キッド」

GPSを利用して描いた巨大子ヤギ。体長3km。東京のおしゃれタウンに現る。

スマホやカーナビに使われているGPS。それを使って地上に絵を「描く」趣味・GPS地上絵。今回は、恵比寿・白金・西麻布・代官山といった名だたるハイブランドの街々をキャンバスに、かわいい子ヤギを描いたのでその顛末をご覧ください。

結論から言うと、おしゃれタウンはやたら坂だらけですごくたいへんでした。おしゃれタウンめ。

(トップ画像は「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:東横線高架跡地とセイタカアワダチソウのお茶

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最高傑作

まずはその出来映えをご覧ください。

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東京都心にかわいい子ヤギ。名付けて「恵比寿キッド」。"KID"って子ヤギのことだと今回初めて知った。なんで「子供」の意味になったんだろう。
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少し引いて見ると、こんな。

デイリー編集部のある用賀を見つめていることが判明。

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鳥瞰図で見ると、こんな。

これまでたくさんのGPS地上絵を描いてきたが、この子ヤギはかなり良い出来だ。

体長3kmというのは子ヤギとしては大きいが、GPS地上絵としてはかなり小さい。GPS地上絵の設計の難しさは「小ささ」にある。いくらでも大きくて良いのであれば、どんな絵も描ける。道路の曲線を上手く使って最小限のスケールでちゃんとした絵を描けるルートを見つけるのが最大の難関なのだ。その点、この子ヤギはとてもうまくいった。今のところ最高傑作だ。

設計の苦労話をし始めると長くなるので、ここでは控えるが、すごーーーくたいへんだった、ということだけお伝えしよう。何日も地図とにらめっこする日々であった。見つめすぎて、夢に地図が出てきた。

うきうき気分でスタート

前出の画像はすべて、GPSロガーという、移動の軌跡を記録する装置を持って、実際にを移動して「描いた」データを地図に載せたもの。

移動の軌跡を動画にしたもの。よくがんばった、と自分で思う。

道のり20km。このクオリティの絵としてはかなり短距離だ。ほんとうにうまく設計できた。

とはいえ、20kmは歩くとなるとたいへんだ。なので、今回は自転車で「描く」ことにした。上の動画は、自転車の移動ログを早回しにしたもの。

Google earthでログデータを読み込んで移動ログを再生した。こういう視点の動画も作れる。これは子ヤギの鼻を描いているところ。ぐるっと一周している。

たいへんありがたいことに、いま東京都心は「バイクシェアサービス」が充実していて、それを使って描くことができた。

なにがありがたいって、自分の折りたたみ自転車を運ばなくて済むこともさることながら、このサービスで提供されている自転車が電動アシストだという点だ。

今回あらためて実感したが、東京は坂が多い。電動アシストでなければ途中で諦めていたかもしれない。

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おあつらえ向きに、バイクシェアのポートがコース上近くにあった。ありがたい。
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前出の動画のスタート地点である、子ヤギのお腹である描き始め地点は恵比寿ガーデンプレイスの横。
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設計も上手にできて、天気も良く、首尾良く自転車も借りられて、気分良くスタート。後ろにガーデンプレイスが見える。
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これがぼくの愛用しているGPSロガー。スマホでも記録できるが、こういう専用機の方が精度が高い。衛星からの受信状況も良好である。
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まずはJR沿いに目黒方面へ。

スタートしたのは11時30分ごろ。保育編に息子を迎えに行かなくてはならないので16時前には終了したい。まあ、20kmだし電動アシストだし、4時間あればじゅうぶんだろう、と思っていた。お日柄も良く、ちょっとした散歩気分だ。うきうき気分でスタートである。

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以前記事にしたすごく賛同を得づらい『理想の「線路沿いの道が終わる場所」を求めて』の一種を見つけて「良い分かれ道!」と立ち止まったり、
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住宅の向こうにぬっと出現する巨大な球体に「おおっ!」ってなったり、
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球体(ふだん赤いのがオリンピック仕様になっている)の正体である自動車教習所が、実は三田用水の跡地であることに「ほー」となったり
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通ったことのない小さな跨線橋がルートになっていることをうれしく思って(地図を見て設計に専念しているときは、そこがどんな場所・道なのかなど意識していられないので)、
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跨線橋の上で立ち止まって写真を撮ったり(向こうに見えるのが出発地点である恵比寿ガーデンプレイス)。

というように、出発直後は気持ちに余裕があった。写真もたくさん撮っていた。

これが後半、だんだんとそれどころではなくなっていく。

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進入禁止と工事中迂回と幅2mの千葉

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あっというまに目黒駅に到着。
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目黒駅前が子ヤギの右前脚の先。

ここ目黒駅から広尾にかけては、個人的に(といっても全てが個人的なのですが)思い入れの深い描画箇所である。右前脚から首にかけての優美なS字カーブこそ、地図とにらめっこしていて「おっ、この道の形、いいぞ!」と、子ヤギの造形につながるきっかけだったからだ。

この曲線は、首都高によって作られている。

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恵比寿キッドの、前脚から首にかけての優美な曲線を作っているのが首都高。丁寧に側道を行き、きれいな曲線を描きたいところ。

速度が速い道路は曲線が緩やかになる。だから都市でGPS地上絵を設計すると、しばしば幹線通りや高速道路が手がかりになるのだ。

……なんて言っているが、先のできあがりの画像を見ると、それほど前脚は滑らかに仕上がっていない。なぜか。

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なぜかというと、地図上では行けそうに見えた側道が進入禁止だったことと、
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工事中で迂回を余儀なくされたことが原因。
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赤いルートは設計時に予定していた優美な前脚曲線。白い線が実際の描画。

現地に行ってみたら進めなかった、というのはGPS地上絵地上絵では必ず起きる。地図での設計は文字通り机上のルートなのだ。

ただ、この迂回によって、結果的にはよりヤギの前脚っぽくなった。ひずめっぽくなり、足の付け根も関節っぽくなった。こういう「現場の事情によってより描写が良くなる」という現象こそGPS地上絵の醍醐味である。

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それにしても首都高の横(というか、下)の道、すごくいい。
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この首都高の曲線が自然教育園の崖の形によっているのだということがよく分かる。アクロバティックな構造。いい。
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いやー、ほんとうに高速道路脇っていい。ぼくが育ったのはこういう環境だったので郷愁を感じる。目黒のど真ん中だけど、ここは千葉だ。幅2mの千葉が首都高の脇に伸びている。

プラチナも崖にゆけば

さて、いつまでも「千葉」を行くわけにはいかない。すこし進んだところで、左前脚のために、千葉から白金に行く必要があるのだ。残念だ。

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「千葉」から離れ、なんと通称:プラチナ通りを行く。

左前脚は外苑西通り、いわゆる「プラチナ通り」である。おしゃれである。白金=プラチナ。ほんとうにおしゃれなのか、と思う命名センスだが、街は確かにおしゃれである。

幸いなことにすぐにプラチナを離れ、脇の道を行くのだが、この道がすごい坂だった。

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写真だとうまく伝わらないが、けっこうな坂。

これ以降、コースが坂だらけになる。電動アシストで本当に良かった。

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電動アシストで楽々登れた。すばらしい。白金恐るるに足らず。
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左前脚は、ほんとうに坂だらけで楽しかった。
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地図だけを見てコース設計していた時には思いもよらない道を行く。右側の道が前脚の一部。すごくいい。
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まさに崖線の道。GPS地上絵でもなければ来ないだろう。いい。
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ぼくが集めている「干してある靴」があった。崖下に向かって干すとなにやら不穏な光景になるのだということを発見した。
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それにしても、プラチナとか言っちゃう白金も、一歩崖方面に行くと親しみやすい感じになるものなのだな。
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セレブヤギ

この後も、東京を代表するおしゃれタウンが連続する。どうもこの子ヤギ、かわいいなりして、セレブっぽい。

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目は広尾の高台、あからさまな高級マンション群だった
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右耳は南青山。その付け根では現在高級マンションが建設中。
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その物件「常磐松ハウス」のマンションポエムは「HOUSE OF LEGACY」「継がれし価値を映す新たなる邸として。」さすがにテンションが高い。(常磐松ハウスウェブサイトより・MARUBENI CORPORATION)
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あと洗練と由緒。(常磐松ハウスウェブサイトより・MARUBENI CORPORATION)
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このエリアには大使館も多い。コース上にもいくつかあった。鼻にはペルー大使館。
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特に左耳周辺には警官の姿が多く「なんだろう?」と思っていたら(向こうもそう思っていたと思うが)、中国大使館があった。
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白金、麻布、南青山、などを経由し、ついに子ヤギのお尻ときたら代官山である。どこまでもセレブ子ヤギ。
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そしてお尻代官山。にもマンションが。「TOP OF TYO」を謳う。さすが。
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その物件、パークコート渋谷 ザ タワーのマンションポエムを確認したところ「2020年、渋谷の象徴は、このタワーになる。」という威勢の良さ。(「パークコート渋谷 ザ タワー」ウェブサイトより・三井不動産レジデンシャル)

次から次へと通過するおしゃれタウン。ふだん訪れるとしても電車を使って、なので、こうして自転車で巡ると「こことここはこういう風につながってたのか!」と新鮮だった。たぶん自動車で移動する人にとっては当たり前のことなのだろうけど。

それにしても、この子ヤギ、とんだハイブランドである。

坂を上り、そして下って川に出るの繰り返し

道行く人が全員金持ちに見えてしょうがない。なんというか、落ち着かない。これまでたくさんのGPS地上絵を描いてきたが、こういう感触ははじめてだ。

一方、たいそうぼく好みの要素もあった。それは先ほどから触れている「坂の多さ」、すなわち地形である。

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左耳の付け根の急な坂は「鉄砲坂」というそうだ。
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その鉄砲坂の近く、外苑西通りを挟んだ向かいの台地を登る坂(子ヤギ的には頭頂部)は、電動アシストでも息が切れた。すごい坂だった。
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ぜいぜい言いながら、ようやくたどりついた頭頂部。この坂は「牛坂」というとのこと。急な坂に似合わぬ牧歌的な響き。
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さんざん坂を登ったかと思えば、一気に下って川に出たりもする。これは子ヤギの首の部分。
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場所はここ。渋谷川の橋の上で折り返す。
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この護岸の固められっぷり、渋谷川だなあ。と思いながら引き返す。
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渋谷川には計3回出会った。これは尻尾。
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まさか最後にこんな坂が

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いよいよゴール間近で目黒川。

代官山から駒沢通りを下って、目黒川。ここまで来ればもうゴールの恵比寿はすぐそば。やれやれ、坂は多かったけど、電動アシストのおかげで楽だったな。保育園にも余裕で間に合いそうだ、などと思ったら。

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目黒川を渡り終えた進行方向。おや、なんか崖なんですけど……
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「この先階段あり 通り抜け出来ません」だと……
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どんどんきつくなる登り坂。その名は別所坂。
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しかもカーブ。いや、でも電動アシストだし!
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いや、これ、さすがにアシストされても無理かも……
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結局、電動アシストでも登れませんでした。降りて押した。息が切れる。なんだこの坂、すごい傾斜だぞ。
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急傾斜の上に、くねくねと何度も曲がる別所坂。最後には予告通り階段が。
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それにしても坂の途中の「ザ・崖」ってところで行われている工事、すごくたいへんそう。
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階段の横には、かつてここに富士塚があったという案内板が。富士山が良く見えたという。そりゃあ、見えたでしょうよ、って感じだ。
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登り切ったところから振り返る。ずいぶん登ったものだ。
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ずいぶんバッテリーも減った(借りた時点では90%だった)。
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一気にヘトヘトになって、ふらふらになって恵比寿ガーデンプレイスにゴール。

まさか最後にこんな坂が

まさか電動アシストでも上れないほどの坂が最後に待ち受けているとは思わなかった。

GPS地上絵は、必ず一筆書きになる。ペンは紙から離れることができるが、GPS地上絵の「ペン先」である自分の体は瞬間移動することはできないから。

だから恵比寿キッドも当然一筆書き。なので、どちら回りで描いても結果は同じになる。今回、たまたま反時計回りに描いたが、これは逆回りでも支障はない。

スタート地点がすなわちゴール地点なので、どちら回りでも累積上り下りは同じだ。だけど、別所坂は下った方が楽だっただろう。ただ、こんなにドラマチックな終わり方にはならなかっただろうから、これで良かったのだ、と思うことにしよう。

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冒頭でもご覧いただいた、地形図にログを載せた図。右後ろ足の付け根が別所坂。(「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)

それにしても、こうして地形図で見ると、この子ヤギは実に起伏が飛んだところに生息している。そうか、ヤギってもともと高山の斜面で生きていたりするな、と思った。

渋谷川・古川と目黒川に加え暗渠化したかつての流れが作った谷をいくつも横断したものだ。そして、こうして見ると山手線の切り通しはまるで川のようだ。

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断面図で見るとさらにアップダウンの激しさがよく分かる(「スーパー地形」の画像をキャプチャ・加筆加工)

上の断面図のデータを見てびっくりしたのは、累計標高が340mもあったということ。つまりこれって、100階建てのビルを登って降りた、ということだ。そりゃあ電動アシストでも疲れるわけだ。

以前から、東京の街って、イメージ範囲が細かすぎるよなあ、と思ったいた。つまり、まさに今回のルートのように、白金やら麻布やら南青山やらって、すごく近い。だけど全く別の街として認識され、それぞれにブランドができている。

これは東京に人が多く住んでいるから街(と地名)の細分化が起こっているのだろう、ぐらいに思っていたが、今回よく分かった。細かく谷で仕切られているのだ。だから違う街なのだ。

おしゃれタウンっぷりにやっかみを覚えつつ、の今回のGPS地上絵地上絵だったが、地形によって知るところの多いものとなった。満足だ。


みなさんもぜひ

結局書き終えたのは15:30。4時間もかかったことになる。保育園には間に合った。

GPS地上絵は、いまやスマホがあれば誰でもできる趣味。みなさんもぜひ。

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途中、すばらしい「立体Y字路」があった。地形が豊かとはこういうことだ。

【告知】2019年11月17日(日)15:00~新宿駅西口でトークイベントやります

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土木学会主催の「土木コレクション2019『TOKYO DOBOKU FROM―1964―TO 過去から未来、新しいTOKYOへ』」が開催されております。場所は新宿駅西口イベントコーナー

その最終日、17日の15時から、京都大学教授の高橋良和先生と「祝祭・災害が形づくるドボク」と題してトークします。これは先日行われた「TOKYO2021」の美術展「慰霊のエンジニアリング」に出展した作家の一人として、同展で考えたことなどを話したいな、と思ってのテーマ設定です。

一見、堅そうな主催者と登壇者ですが、楽しい話になりますよ。入場無料。みなさんぜひ。

詳しくは→こちら

 

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