特集 2018年9月28日

歓楽街特有のビル「キャバ状ビル」が気になる

こういうビルの入り口が気になります。こういう形式を「キャバ状」といいます(命名)
こういうビルの入り口が気になります。こういう形式を「キャバ状」といいます(命名)
歓楽街にある、キャバクラとかスナックとかが入っているビルの入り口って、なんだか豪華に吹き抜けてないですか。

見かけるたびに気になって、で、友人らに見覚えないかきいてみるのだけれど、あまり芳しい反応がない。業を煮やして上のイラストを描いて説明したが「うーん……?」って感じ。こういうビルが多い、っていうのはぼくの思い込みだろうか。あるいは絵が下手すぎるせいだろうか。

発見するたびに撮ったそういうビルの写真がほどほどにたまったので、今回はそれをご覧いただきたいと思います。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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命名:キャバ状

タバコを吸ったこともなく、パチンコをしたこともない。合コンをしたこともない。制服の第2ボタンを外したこともなかった。かように、きわめておとなしく人生を送ってきたぼくは、当然キャバクラにも行ったことがない。

上記いずれも興味がなく、そんな時間があるのなら団地や工場を巡りたいと思うタイプの人間なので後悔はない。ただ、キャバクラのサービスに興味はないが、建物には興味がある。

幸い、ファサードを眺めるだけなら法外な料金を取られることもないので、通りかかるたびによく眺めている。

それで気がついた。なんだか、よく、吹き抜けてない?
ほら、こういうことですよ!
ほら、こういうことですよ!
ほら!
ほら!
ね?
ね?
なんでだか吹き抜けてるでしょう?
なんでだか吹き抜けてるでしょう?
これらはキャバクラなど歓楽街特有のサービスを提供する店舗が入ったビルだ。いずれもご覧のように特徴的に吹き抜けている。このような状態のファサードを「キャバ状」と命名した。もっと良い名前があったらご提案いただきたいです。

なぜこうなっているのかはいまひとつはっきりしない。ウェルカムな雰囲気を演出する意匠というだけでなく、もしかしたら法規も関係しているかもしれない。が、よくわからない。よりよいネーミングとともにここらへんの詳しい事情についても情報をお寄せいただきたいです。

いずれそこらへんのこともまとめて記事にしたいと思っているが、今回はまずはともあれキャバ状を鑑賞していこう。下調べである。

角の物件はいまいち

さて、前出のキャバ状ビルたちは、立地的に大きく2つに分かれる。道路の並びにあるか、道の角にあるか、だ。「それがどうした」と思われると思うが、ぼくにとっては重要な違いである。

角のやつって、なんかキャバ状感が薄まっちゃう気がするんだよなー。
典型的な角のもの。たしかにゴージャスに吹き抜けていて、柱の感じとか階段とかなかなかのものなんだけど、なんか、違うんだよなー。
典型的な角のもの。たしかにゴージャスに吹き抜けていて、柱の感じとか階段とかなかなかのものなんだけど、なんか、違うんだよなー。
これも角キャバ状。なかなか意欲的な造作ではあるが、ぼくの好みではない。
これも角キャバ状。なかなか意欲的な造作ではあるが、ぼくの好みではない。
ただ、階段はすごくキャバ状でいい。惜しい。
ただ、階段はすごくキャバ状でいい。惜しい。
おわかりいただけるだろうか。

というか、そもそもこの手の吹き抜けたビルを鑑賞することの面白さも伝わらないうちに「角の物件はいまいち」などといわれても混乱するばかりだと思う。申し訳ない。ご理解いただける方がいたら、うれしい。
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階段が見所。そして山形で脱線

気を取り直していこう。

立地よりも分かりやすい見所は、階段だ。冒頭の絵にも書き入れたが、やんわり曲がったゴージャス階段がポイントだ。その点、前出の作品はとても惜しい。
この階段とか、すごくいい。
この階段とか、すごくいい。
上の物件の階段などは、キャバ状階段のマスターピースといってもいいだろう。

実は、ここまで紹介したキャバ状ビルは、東京は新宿歌舞伎町と、北九州は小倉の2つの街もの。つまり、キャバ状はおそらく全国共通の様式である可能性がある。

例えば、下の2つは山形のキャバ状である。
分かりやすい吹き抜けファサードと、曲がりくねった階段が見事。
分かりやすい吹き抜けファサードと、曲がりくねった階段が見事。
こちらも山形。スナックなどが入ったビル。階段にもっとキャバ状感がほしかったが、なかなかの佳作。天井の照明など良い感じだ。
こちらも山形。スナックなどが入ったビル。階段にもっとキャバ状感がほしかったが、なかなかの佳作。天井の照明など良い感じだ。
北九州にも山形にも見られるということは、やはり全国区である可能性が高い。いずれすすきのでも鑑賞したい。

ここで脱線。山形で階段、で思い出した。当地の住宅の多くが外にハシゴを備えているのが興味深かった。
1階の屋根から2階の屋根へのハシゴ。最初に見たときは「何かの作業中?」と思った。
1階の屋根から2階の屋根へのハシゴ。最初に見たときは「何かの作業中?」と思った。
屋根の色に合わせたカラーのハシゴ。キュート。
屋根の色に合わせたカラーのハシゴ。キュート。
こういう、地上に届いていない状態を見て、
こういう、地上に届いていない状態を見て、
NY名物の非常階段を思い出した。
NY名物の非常階段を思い出した。
もちろんこれは、屋根に積もった雪を下ろすために使うハシゴだ。雪国にお住まいの方にとっては当たり前の光景だろうが、ぼくにとっては新鮮だった。地面に雪がたくさん積もったときのためのものゆえ、ハシゴの脚が地上に届いていないさまも、なんかいいな、と思った。NYの非常階段に似ている。
製氷屋さんも雪を下ろすのか!(当然だが)ちょっと面白い。
製氷屋さんも雪を下ろすのか!(当然だが)ちょっと面白い。
閑話休題。

階段がキャバ状の重要な要素だということはご理解いただけたと思う(ほんとか)。しかし、必須条件かというとそういうわけでもないのがややこしいところ。例えば下のものには階段がないが、かなりの好物件だ。
階段が見当たらないが、これはかなり素敵なキャバ状。パワーポイントで作図したかのような幾何学形態と色使いが愛おしい。
階段が見当たらないが、これはかなり素敵なキャバ状。パワーポイントで作図したかのような幾何学形態と色使いが愛おしい。
いきなり「角立地はいまひとつ」とわかりにくい好みをぶつけてきたかと思えば、「階段がポイント」「でも例外もある」と基準が定まらない。「結局お前が言う『良いキャバ状』はどういうものなんだ」という声が聞こえてきそうだ。しょうがない。だってぼく自身よく分かっていないのだから。今後、キャバ状鑑賞仲間が増えるに従って(増えるのか)、おいおいここらへんははっきりしていくことだろう。長い目で見守っていただきたい。
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普通の業務ビルはキャバ状といっていいのか問題

さて、さらに悩ましい問題がある。

すてきなキャバ状ビルなのに、キャバクラ的な店じゃない、という問題だ。

問題だ、っていってもこれを問題だと思っているのはぼくだけでしょうが。
かなり良い感じのキャバ状だが、見ると入っているのはコンビニと飲食店。
かなり良い感じのキャバ状だが、見ると入っているのはコンビニと飲食店。
階段はすごくキャバってるのだが。
階段はすごくキャバってるのだが。
例えば上がそういう事例だ。吹き抜けたキャバ状空間にコンビニとは、少々興ざめだ。やはりここは徹頭徹尾ビルまるごとその手の接客サービスで占められていてほしい。行ったこともないやつが何言ってんだ、って感じではあるが。
こちらも同様。あたらせっかくのキャバ状吹き抜けがもったいない。
こちらも同様。あたらせっかくのキャバ状吹き抜けがもったいない。
しかし上の2つのものはまだいい。吹き抜け部分以外の上階および地階はちゃんとスナックやキャバクラが入っているから。

下のものはさらに悩ましい。
アーケード商店街の中にもキャバ状形式ときどきある。悩ましい。
アーケード商店街の中にもキャバ状形式ときどきある。悩ましい。
商店街にあるキャバ状ファサード。上部の波形意匠も良い感じだし、階段もやんわりと末広がりになっている。シャンデリアもなかなかのもので全体的にキャバレベルが高い。しかし「キャバ」と呼べる店のラインナップではない。
こちらも完璧なキャバ状ビル。しかし、歯医者。
こちらも完璧なキャバ状ビル。しかし、歯医者。
こちらにいたっては事務所。かわいいビル鑑賞のときに見つけたもの。
こちらにいたっては事務所。かわいいビル鑑賞のときに見つけたもの。
上のものは、1階というより半地下だしガレージだしで、形式的にもキャバ状と呼んで良いものか迷う。もちろんシャンデリアもない。でもかわいい。

いずれにせよ、歓楽街以外にもキャバ状ビルは存在する、ということだ。そしていずれもそれぞれキュート。

考えてみればぼくがたまたま「歓楽街に多い」という印象を受けて「キャバ状」呼ばわりしただけだ。歯医者だろうが事務所ビルだろうが、平等に愛でればいい。ただ、やっぱりシャンデリアなどのゴージャス要素はほしいところ。歓楽街のものを「一級キャバ状」、ゴージャス感はないものの吹き抜けたファサードを持つ他業種のものを「二級キャバ状」と呼ぶのはどうか。どうか、っていわれても困ると思うけど。

高崎楽しかったです

逆に、間違いなく歓楽街の物件で、各種条件を満たしているんだけど、なんか微妙にキャバ状じゃないんじゃないか、というものもある。下がそれだ。
吹き抜けているようないないような。
吹き抜けているようないないような。
ゴージャス感にまったく問題はない。が、これは吹き抜けていると言って良いのだろうか。確かにパイプの穴によって吹き抜けていると言えなくもないが。

また「もうちょっと頑張ればキャバれるのに!」というものもよくある。
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これとか。隠れている踊り場より上の階段部分を開放したらかなりキャバ状になると思う。惜しい。
これとか。隠れている踊り場より上の階段部分を開放したらかなりキャバ状になると思う。惜しい。
上のものなど「もうちょっと頑張ればキャバれるのに!」の代表例だ。キャバ状になりづらいこぢんまりとした規模のせいもあるだろう。角も丸みといい、階段の変則的な付き方といいなかなかのポテンシャルなのだが。

あと、関係ないけど、向かって右の店構えも気になった。
これ。かわいい。正直屋。
これ。かわいい。正直屋。
ちなみに、これがあったのは高崎の中央銀座通り内。また脱線ついでに書くが、実は、上の写真を撮ったのは3年前の2015年で、この前年の大雪でこのアーケードがたいへんなことになっていた。屋根が落ちちゃったのだ。
こんなになっちゃってました。
こんなになっちゃってました。
現在は直されて新しくなっているが(正直屋は残念なことになくなってしまった)、このワイルドな状態は映画のロケなどで使われた。さもあろう。とても印象的な光景だった。
ふたたびの脱線ついででいうと、このとき高崎に行ったのはこの群馬音楽センターを見るためだった。モダニズム建築の傑作である。
ふたたびの脱線ついででいうと、このとき高崎に行ったのはこの群馬音楽センターを見るためだった。モダニズム建築の傑作である。
さらに脱線ついでにいうと、高崎は「音楽のあるまち」をキャッチフレーズにしているとのことで、街のあちこちに「雰囲気五線譜」が見られる。
さらに脱線ついでにいうと、高崎は「音楽のあるまち」をキャッチフレーズにしているとのことで、街のあちこちに「雰囲気五線譜」が見られる。
これとかも。音楽にこだわりがあるだけあって、「雰囲気」じゃなくてちゃんとしている、と思いきや唐突に5/4拍子になっていたりして、雰囲気五線譜疑惑が否めない。
これとかも。音楽にこだわりがあるだけあって、「雰囲気」じゃなくてちゃんとしている、と思いきや唐突に5/4拍子になっていたりして、雰囲気五線譜疑惑が否めない。
そしてこの音楽の街であることは、当地のマンションポエムに大胆に反映されている。この高崎のマンション、「DIVA」ときた。もはやこの図柄がキャバ状に見える。
そしてこの音楽の街であることは、当地のマンションポエムに大胆に反映されている。この高崎のマンション、「DIVA」ときた。もはやこの図柄がキャバ状に見える。

暫定的最高峰キャバ状ビル

また脱線してしまった。申し訳ない。

最後に、現時点でぼくが見つけた、もっともキャバっているキャバ状ビルをご紹介しよう。これだ。
実に3層にわたる吹き抜け。階段の造作、ゴージャス感、どこをとってもすばらしい。
実に3層にわたる吹き抜け。階段の造作、ゴージャス感、どこをとってもすばらしい。
小倉のキャバ状である。当記事1ページ目最初のものもかなり良いが、個人的には(そもそも全部個人的なのだが)これの方が好き。

これを超えるキャバ状に出会いたい。いいキャバ状を見つけたらご連絡ください。

キャバ状情報お待ちしております

最後までよく分からない内容で申し訳ない。脱線もしすぎた。でも、全国に100人ぐらい「分かる!」って人がいると思う。キャバ状情報お待ちしております。
高崎に、眼鏡屋さんとしてしごくまっとうな名前とファサードデザインのお店があった。
高崎に、眼鏡屋さんとしてしごくまっとうな名前とファサードデザインのお店があった。
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