特集 2018年6月29日

回転する船のリフト「ファルカーク・ホイール」に乗ってきた

常識的な理解の範疇を超えている
常識的な理解の範疇を超えている
先日、イギリスに行ってきた。主な目的はダムめぐりだったのだけど(最高だったので近いうちに記事にします)、せっかくイギリスまで行くならと、前から気になっていた「ファルカーク・ホイール」にも足を運んだ。

ファルカーク・ホイールはボートリフトである。ボートリフトとは、運河などで高さの違う場所に船を移動させる装置で、日本では船舶昇降機、運河エレベーターなどという。なかでも、唯一の回転式ボートリフトとして、ファルカーク・ホイールは世界にその名を馳せている…というところまでは前から知っていたのだけど、実際に見てみたら、もうなんだかすごかった。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:八ッ場ダム工事の夜景がものすごかった

> 個人サイト ダムサイト

これがファルカーク・ホイールだ

ファルカーク・ホイールがあるのはスコットランド、場所はエジンバラとグラスゴーのちょうど中間くらい。
このためにスコットランドまで行きました
そもそも、高さの違う場所に船を移動させる、しかも世界で唯一の回転式、などと言われても、運河が一般的でない日本ではいったい何のこっちゃという人も多いと思う。そこで、まずこの動画を見てほしい。
最初にすべて見せてしまうパターン(途中で8倍速にしています)
早送りせず、実際の速度で全編見たいという酔狂な方は以下の動画をどうぞ。
およそ5分で半回転する(動き始めるのは5分30秒過ぎから)
勾玉のような形をしたフレームの中に船が入っていくと、船を浮かべた場所がプールとなって水路から切り離され、ぶっとい軸を中心にぐるりと半回転して上(下)に移動し、ふたたび水路に接続して船が発進する。その水位差は24mもある。

どうだろう。笑っちゃうほどバカでかくて無茶苦茶な仕組みである。昔、近所の遊園地(としまえん)にあった「レインボー」という乗り物に似ている。けれど、こちらが載せるのは人が乗り水に浮かんだ状態の船である。こんなものを考えて造ってしまうなんて頭おかしいと思う(褒め言葉です)。

船を上下に行き来させる

ドイツやオランダなど、ヨーロッパではいまも運河による水運が盛んで、内陸の奥深くまで巨大な貨物船が入っていくという。イギリスではいったん廃れたけれど、最近になって運河の魅力が再発見され、主に観光やレジャー用に再開されたものが多いと聞いた。
イギリスでもいくつか運河を見つけた
イギリスでもいくつか運河を見つけた
運河と言っても地形の高低もあるため平坦には造れない。そこで、水位の違う運河を結ぶために、こういった船を上げたり下げたりする装置がいくつも造られているそうだ。

装置にはいくつか種類があって、もっともポピュラーなのは何と言っても閘門(こうもん)だろう。ヨーロッパではないけれどパナマ運河などでも使われている方式で、水位の違う場所を2ヶ所の水門で締め切って、内部の水位を船が進む先の水位に合わせる、という比較的原始的な方式だ。パナマだけでなく、運河のあるところ世界中に存在すると思う。もちろん日本にもあって、ちょっと調べたら当サイトでも過去に何人かのライターが閘門を取り上げていた。
みんな閘門好きすぎである。ここまで閘門が出てくる読み物サイトもほかにないと思う。冒頭の写真につけたキャプション「常識的な理解の範疇を超えている」はこれにも当てはまると思った。
僕も10年前に見に行っていた
僕も10年前に見に行っていた
ファルカーク・ホイールのすぐ下に小さな閘門があって、ちょうど船が通り抜けるところを撮影できたので見てほしい。
こんな小さな閘門が!
こんな小さな閘門が!
なんと手動!しかも動かしてくれるのはお姉さん!!
閘門は便が良いけれど、大きな水位差を越えようとすると何段もの装置が必要になり時間がかかるし、船を上げ下げするたびにその水位差分の水を流さなければならない。そのため、大きな水位差を越えるところでは船をプールに入れ、そのプールごとエレベーターのように垂直に動かしたり、ケーブルカーのように斜面を走らせたり、ファルカーク・ホイールのように回転させたりして上げ下げする。これがボートリフト、運河エレベーターだ。

国内では琵琶湖疏水の蹴上インクラインが有名だけど、現役で稼働しているものはないと思う。でも運河エレベーターを海外まで観に行く人もいて、水門写真家(現在は動物写真家)の佐藤淳一さんのサイト、ブログが詳しくて面白い。なかでもドイツの運河エレベーター(シフスヘーベヴェルク)、ベルギーのロンキエール・インクラインが特徴的。

Schiffshebewerke
ロンキエール

ちなみに佐藤さん、上に挙げた大山さんの記事「東京都江東区パナマ運河」にも登場されているけれど、日本のネット創成期においてポップな文体でドボク鑑賞趣味をぶちまけたパイオニアとして、当時ガスタンク鑑賞のホームページを作成していた当サイトウェブマスターの林さんと並んで、僕はいまも勝手に師と仰いでいる。たぶんこの人たちの影響なくして僕はダムを追いかけていないし、イギリスにも行っていない。

自分語りが過ぎた。「ファルカーク・ホイール」、閘門、運河エレベーターなどの用途や仕組みが分かってもらえたと思うので、次ページではファルカークホイールとその周辺を紹介します。
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ホイール推し

ダムめぐりでレンタカーを借りていたので僕は車で向かったけれど、ファルカークホイールには路線バスも来ていた。エジンバラ空港から車で30分程度、電車とバスを乗り継ぐと1時間半くらいで着くらしい。
路線バスは2階建てばかり
路線バスは2階建てばかり
駐車場やバス停で車を降りると、目の前には乗船チケットやお土産売り場、カフェなどが入った建物がある。ロゴマークや看板など、いろいろなものがホイールモチーフで俄然テンションが上がる。
正面右の船底のような形の建物でチケットやお土産を買える
正面右の船底のような形の建物でチケットやお土産を買える
スピード感のあるロゴマークがかっこいい
スピード感のあるロゴマークがかっこいい
案内図もホイール(というか歯車)の中!
案内図もホイール(というか歯車)の中!
上手いこと言ってる自転車置き場
上手いこと言ってる自転車置き場
そして目の前には円形の池があり、その端に異様な存在感を持ってそびえ立つファルカークホイールの姿が!夢にまで見た変態ボートリフトとの感動の対面である。
こ、こ、これかあぁぁぁ!!
こ、こ、これかあぁぁぁ!!
こんな形見たことない!(さんざん自宅のパソコンのモニタで見た)
こんな形見たことない!(さんざん自宅のパソコンのモニタで見た)
思わずカメラ片手に駆け寄って写真を撮りまくる。すると突然、ホイールが音もなく回転をはじめた!
こ、神々しすぎる…!!
こ、神々しすぎる…!!
僕だけでなくいろんな外人が走り回って写真を撮っていた
僕だけでなくいろんな外人が走り回って写真を撮っていた
しかし見れば見るほど頭おかしい(褒め言葉です)
しかし見れば見るほど頭おかしい(褒め言葉です)
かわいらしい船が2艘降りてきた
かわいらしい船が2艘降りてきた

ホイールの仕組み

ホイールが1周まわって少し冷静になってきた。ここからは詳しいディテールを見てみよう。

船を浮かべたプールは、それ自体がホイールの内側に敷かれた円形のレールの上に乗っていて、ホイールが回転しても、重さで常に下側にあるから水平を保てる、と思っていた。
よく見るとレールと車輪がある
よく見るとレールと車輪がある
ホイールを回転させる中心軸の太さがすごい
ホイールを回転させる中心軸の太さがすごい
プールの水平を保つのは重力かと思ったら違った
プールの水平を保つのは重力かと思ったら違った
ちなみにプールの入る場所は水が溜まっていない
ちなみにプールの入る場所は水が溜まっていない
よく見ると、中心軸の根元に大きな歯車が設置されていて、上下のプールにもそれに噛み合うように歯車が接続されていた。つまりプールの水平を保つのは重力で車輪が転がっているのではなくて、中心軸と上下のプールに同じ大きさの歯車を設置して噛み合わせ、同じ回転数で回転させているからのようだった。よくこんな構造思いついたなあ(そしてよく本当に造ったなあ)。
実はお土産コーナーのこの棚を見て気がついた。というかこの棚ほしい!
実はお土産コーナーのこの棚を見て気がついた。というかこの棚ほしい!
お土産コーナーは充実していて何も買わなかったのを激しく後悔している
お土産コーナーは充実していて何も買わなかったのを激しく後悔している
ところで上の水路に上がった船はどこに行くのだろう。ファルカーク・ホイールの周りは自由に歩き回れるようになっているので、上の水路まで坂道を登って行った。
水路も未来的なデザイン
水路も未来的なデザイン
水路際まで上がってきた
水路際まで上がってきた
空港の誘導灯のようでもある
空港の誘導灯のようでもある
さすがにホイールには近づけなかった
さすがにホイールには近づけなかった
反対方向。水路の先はトンネルになっていた
反対方向。水路の先はトンネルになっていた
ファルカーク・ホイールはこの運河を通る一般の船のほか、このボートリフトを体験するクルーズ船に乗って通ることができる。それなら早くクルーズ船に乗れば良いのだが、なぜ僕はさっきから周りをウロウロしているのか。

実はこの日、スコットランドは一日中強風が吹き荒れており…
クルーズ船、運休していた
クルーズ船、運休していた
このためにスコットランドまで来たのに強風で運休。さすがに諦めるわけにもいかず、予定を変更して翌日再トライしてきた。
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ついに乗船!

翌日ふたたびファルカーク・ホイールにやってきた。今日は順調に運行している様子!乗船チケットは窓口でも買えるけれど、英語に自信がないのと、まんがいち売り切れたらどうしようもないので、前日夜にネットで予約していた。するとメールでEチケットが送られてきた。こういうところ、日本より進んでいると思う。ちなみにチケット料金は13.5ポンド、日本円でおよそ2000円弱だった。
着くなりいきなり動いていた!
着くなりいきなり動いていた!
乗船口に並んでいると、時間になりいよいよ船に乗り込む。中は自由席で、真ん中の通路を挟んでスタジアム風のベンチが片側3人分ずつ並ぶ、まさに遊覧船の造りだった。
船内がよく見えるようにいちばん後ろ左隅に陣取ってみた
船内がよく見えるようにいちばん後ろ左隅に陣取ってみた
やがて満席に
やがて満席に
船内が満席になり、いよいよ出航。さっそくホイールの下のプールに入っていった。
いよいよ出航~
いよいよ出航~
ついにホイールの中に入った!
ついにホイールの中に入った!
船内では乗組員の若いお兄さんが(たぶん)安全指導やファルカーク・ホイールの紹介をしていた。時折乗客の笑いが起こるくらい軽い調子だったけれど、僕はほとんど分からず。そうこうしているうちに、気がついたらホイールが回転しはじめていた。音も揺れもほとんどなく、じっとしていないと動いているのも気がつかないくらいだった。
何を言って笑いが起きてるのか誰か教えてください
気がついたらけっこう高く上がっていた
気がついたらけっこう高く上がっていた
上の水路に着いた
上の水路に着いた
少し進むとトンネルをくぐる
少し進むとトンネルをくぐる
ホイールが上に着くと、数分経って水路が繋がり、ボートは静かに進みはじめる。やがてトンネルをくぐると少し広い運河たまりに到着。先には閘門も見えているけれど、残念ながらここでUターンしてトンネルを抜け、ふたたびホイールの中へ。
トンネルを抜けるとそこには閘門が
トンネルを抜けるとそこには閘門が
あの閘門通りたい!
あの閘門通りたい!
しかしふたたびトンネルの中へ
しかしふたたびトンネルの中へ
そして今度はホイールで下に降りる
そして今度はホイールで下に降りる
下に降りるホイールの中に入ると、後ろからやってきた別のボートも並んで横付けされた。中を覗き見するとキッチンやベッドが備え付けられた、キャンピングカーのようなボートだった。これ楽しそう!
老夫婦っぽい2人が乗り組んだボートが並んだ
老夫婦っぽい2人が乗り組んだボートが並んだ
キッチンがついてる!載せないけどベッドもあった
キッチンがついてる!載せないけどベッドもあった
帰ってから調べたら、イギリスではナローボートと呼ばれるこういった運河専用の船でクルーズを楽しむ人が多く、レンタルすることも可能で、操縦するのに免許も必要ないという。手動の閘門は自分で開け閉めして進むのだ。何それ楽しそうすぎる…!いつか乗ってみたい。

ところで、これを読んでファルカーク・ホイールのクルーズ船に乗ろうと思った方には、向かって右側の窓際をお勧めします。左側は外の眺めは良いのだけど、ホイールが何も見えないので動いている感がないのだ。右側はずっと太い中心軸が目の前にあるけれど、向かい側のホイールも見えるし、ホイールが回転しているさまがよく分かると思う。
船内から見た中心軸
船内から見た中心軸
行って戻っておよそ1時間のクルーズでした
行って戻っておよそ1時間のクルーズでした
というわけでスタート地点に戻り、ファルカーク・ホイール体験クルーズは終了。正直に言うと値段はともかく、特に何かあるわけでもないので(ファルカーク・ホイールは上り下りするけど)わざわざ乗るまでもないかな…、という気もするけれど、ファルカーク・ホイールはものすごいインパクトなので、イギリス北部に行くことがあれば見に行って損はないと思う。

運河エレベーター見たい

日本にはない運河エレベーター。初めて見たのがかなり特殊なやつだったけど、ドイツやベルギーやフランスにもものすごい施設があるという。ダムもフランスやポルトガルやオーストリアにいつか見たいすごいやつがあるし、帰ってきたばかりだけどまたヨーロッパに行きたくなってしまっている。
近くに「ケルピーズ」というケルト神話の馬をモチーフにした巨大な像があったので見に行ったけどよく分からなかった。でも2頭の馬の間にも運河が流れ閘門があって興奮した
近くに「ケルピーズ」というケルト神話の馬をモチーフにした巨大な像があったので見に行ったけどよく分からなかった。でも2頭の馬の間にも運河が流れ閘門があって興奮した
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