特集 2018年2月22日

上海最長の34円路線バス

上海の974路という路線バスに乗ります。
上海の974路という路線バスに乗ります。
上海に2元(34円)均一ながら、ものすごく長い距離を走るバスがある。中国のネット情報という、出元の怪しい情報によれば、上海の974路が安いのにとにかく長い距離を走るというのだ。

その情報を知って以来、上海に行ったらこのバスに乗ってみたいと常々思うようになった。

そしてついに上海に行く機会があった。当然乗りに行ったわけですよ!
変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

前の記事:中国で絶滅寸前のレトロプリクラを利用した

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1キロ1円より安い

上海974路は、上海ではどこでも走っている日本と同じようなありふれたバスが、40.625km縦走する。

あまりに距離が長くて、各バス停での運転間隔の調整が難しいとのことから、これでも距離を以前よりも短くしたそうだ。

かつてウェブマスターの林さんが乗った都バスの梅70系は31.8kmというのだからそれよりもさらに9km長くなる。

しかも東京都の市部を走る梅70系は、距離に応じて高くなるのに対し、上海974路はどこまでいっても2元であり、1つのバス停しか移動しなくても2元なのだ。長く乗れば乗るほど34円に価値がでるわけだ。

中国の路線バスのポイント1: 均一料金のバスがある。 だいたい2元(34円)

20分に1本くるという974路。バス停についたらすぐに乗った。
20分に1本くるという974路。バス停についたらすぐに乗った。
上海には2元とかを前払いする路線バスと、行先を車掌に伝えて支払う路線バスがある。前払いのバスはお釣りはでないけど、車掌に払うバスだとお釣りはでてくる。

それじゃあ不便だからと出てきたのがSUICAのような交通カード。それを使うと運賃が1割引くらいになるというのだから、交通カードは小銭要らずな上にお得なのである。

さらに最近では中国の電子決済を使った支払いができるバスも出てきているという。路線バスもパワーアップしているのだ。

中国の路線バスのポイント2: 料金均一バスはお釣りがでない 現金しかないとつらい

974路は前払いで2元のバスの中ではおそらく最長の距離なんだそうな。

おそらくと書いたのは、乗り路線バスマニアというのは中国にはいないのか、ファンによるデータベースがどうも存在しないようなのだ。
客は11人とまだまばら。
客は11人とまだまばら。
スタート地点は上海駅から1km程度のところにある「北区汽車駅」から。汽車駅はバスターミナルの意味で、路線バスが集まる以外に特に何もあるわけでもなかった。

時間は午後3時前。心の準備をしてから行くつもりだったのに、いきなりバスが来たものだから乗り込んでしまった。そして直後にやってきた尿意。昔流行ったマーフィーの法則の1つにあったよね。

中国の路線バスのポイント3: 汽車駅はバスターミナル。 地下鉄が少ない都市では超重要。

どのバスにもある停留所一覧。ほかと比べても長いのなんの。
どのバスにもある停留所一覧。ほかと比べても長いのなんの。

中国の路線バスのポイント4: バス停一覧やバス停には漢字しかない

バス停の数は30。40km以上あるからバス停間距離は平均1kmちょいある。気になったところで降りそこねたら、次は1km先という一期一会であり、チャンスは一度なのである。

バス停の名前を見ると、「なんとか路なんとか路」という名前ばかり。「なんとか路」というのは「なんとか通り」とか「なんとか筋」とおなじ通りの名前である。バス停近くの交差点で何路という道路と何路という道路が交差しているかで、そのバス停の名が決まるというから、なんとなく場所がつかめそうで便利。道には詳しくなりそう。

上海だと特に「なんとか路なんとか路」が多く、普及している言い方なのか、この言い方はタクシーでも通じる。

中国の路線バスのポイント4: バス停名は京都っぽく交差する道と道の名で

ところで上海のバス停の距離は結構長くてバスは結構飛ばす。都バスより飛ばす。

中国の路線バスのポイント5: 都バスより飛ばす

最初のみどころはジャンクション。萌え。
最初のみどころはジャンクション。萌え。
ジャンクションを曲がりバスは南下する。この左手にSLがみえた。気になったけれど、バス間平均距離1km以上は伊達ではなく、相当走ったうえでバス停についた。気になる場所はだいたい一期一会だ。

この辺は古い街なのか、大通りでありながらもそこそこ古い建物があって、味がある。
中国名物の渋滞にあう
中国名物の渋滞にあう
2元なのに高速道路を走り出した。出てからすぐはメリハリがある車窓だ。
2元なのに高速道路を走り出した。出てからすぐはメリハリがある車窓だ。
こういう建物が混ざっているのが中国の他の都市にはない上海のいいところ。
こういう建物が混ざっているのが中国の他の都市にはない上海のいいところ。
と思ったらすぐに下道を走り出した。アンタッチャブルなバスだ。
と思ったらすぐに下道を走り出した。アンタッチャブルなバスだ。
ちょっと高速道路を走ったと思ったら、もう上海の北から中心を超えて南に行っていた。飛ばす。

あまりに広い車線なので、中央分離帯しか見ることなく、プロパガンダ「社会主義革新価値観」の漢字オブジェを延々見せられた。刷り込まれそうです。

中国の路線バスのポイント6: 車窓のみどころはプロパガンダ

路線バスの見どころ「プロパガンダ」。中国ではどこでもそうかも。
路線バスの見どころ「プロパガンダ」。中国ではどこでもそうかも。
路線バスでの見どころ。「トマソン」系建物。これも中国あるある。
路線バスでの見どころ。「トマソン」系建物。これも中国あるある。
大きな交差点のオブジェも数少ない見どころ。
大きな交差点のオブジェも数少ない見どころ。
圧倒される道路や建築物にまぎれた、ボロボロなところはアクセントになる。
圧倒される道路や建築物にまぎれた、ボロボロなところはアクセントになる。
高速道路下のスペースを活用した駐車場と高級外車も気になる。
高速道路下のスペースを活用した駐車場と高級外車も気になる。
人の乗り降りが激しくなってきた。最初に乗ってた人たちの多くが下りて、入れ替わってきた感がある。

ドライバーさんはずっと乗り続けている人がいるのに気づいているのだろうか。ここ数年、中国各地で「ドライバーとの会話は禁止」と言われるようになった。このドライバーさんも口から言葉を発することなく、黙々と運転している。

中国の路線バスのポイント7: ドライバーとの会話は禁止

それほど昔でもない昔、中国のバスドライバーがおばちゃんと地元の方言で話しているのを聞いた。

「トイレ行きたくてもいけないなんてやってらんねぇよ!そんなんで渋滞にはまってもみろよ!!」とか言っているのも知り合いの中国人の通訳を介して聞いたことがある。下町風情があってよかった。

さて出発から30分。南下するバスは高速道路の下道から離れて、斜土路という道に入った。バスはときどきバス停でとまりながら商業地から住宅地へ。出発からの尿意も止まったりぶり返したり。
アムウェイがあるということは、まだまだ街中だろう。
アムウェイがあるということは、まだまだ街中だろう。
黄色い自転車がずらりと並ぶ。シェアサイクルのofoだ。
黄色い自転車がずらりと並ぶ。シェアサイクルのofoだ。
上海名物の空に突き出す物干し竿がでてきた。生活臭があっていい。
上海名物の空に突き出す物干し竿がでてきた。生活臭があっていい。
川の地下トンネルを越えてより庶民的な街にすすみます。
川の地下トンネルを越えてより庶民的な街にすすみます。

走り出して1時間。上海の代名詞的なビル群がある浦東地区のそのまたはずれをひたすら南下していく。

路線バスにはテレビがついている。このバスに限らず、上海に限らず、中国の路線バスにはテレビがついている。ループかつエンドレスで複数の番組とCMが流れている。そのうちのひとつは「外国人も絶賛、中国ここがスゴイ!」という感じの番組だった。乗り始めてもう2ループ目となる。

でも乗客はスマホやタブレットに見入っていて、テレビを見る人は少ないように感じた。

中国の路線バスのポイント8: バスのテレビより自分のスマホ

道は広いままだけど、だんだんと建物が低くなっていく。
道は広いままだけど、だんだんと建物が低くなっていく。
庶民的な家へと変わっていき上海らしさがなくなっていく。
庶民的な家へと変わっていき上海らしさがなくなっていく。
中国のファミマの「全家便利店」と同じ発音の全佳便利店があった。
中国のファミマの「全家便利店」と同じ発音の全佳便利店があった。
さすが40kmの道のりを走るバスだけあって、不安になるほどひたすら南下し続ける。

僕の当時のメモ書きには、この道路を走っているときのメモに「しんどいトイレいきたい」と書いてあった。苦行だったようだ。

中国の路線バスのポイント9: 長く乗り続けるのは路線バスでもしんどい

繁華街やビジネス街ではないからか、今までよくみたオレンジや黄色のシェアサイクルや、コンビニや日本料理屋を見ることが少なくなった。

ときどきタワーマンションや地下鉄の建設現場を通るほかは、ファミマのまがいものなどの、気になる店が増えた。ちょっと楽しい。

中国の路線バスのポイント10: 繁華街を抜けるとうさんくさい店が出て楽しくなる

もう住宅地が終わるかと思うとタワマンやモールの建設現場が出てくる。
もう住宅地が終わるかと思うとタワマンやモールの建設現場が出てくる。
ときどき地下鉄工事現場も出てくる。中国の町は広がる。
ときどき地下鉄工事現場も出てくる。中国の町は広がる。

大通りを延々と走った後、曲がって片側2車線の道路に入った。車窓はいっそう庶民的になった。

時間は16時半。日が暮れてきた。

客層が変わり、庶民的な人が増えた。子連れの子供が英語の教科書を音読し始めたり、女性客が突然歌いだした。中国アルアルだ。

中国の路線バスのポイント11: 歌いだす人や音読する子供などに寛容

個人商店や路上で干されるタオルなど、中国のどこにでもある光景がここでも。
個人商店や路上で干されるタオルなど、中国のどこにでもある光景がここでも。
学校の前で停車する。ちょうど学校も帰宅時間のようだ。 学校の前後で学生が、屋台でつまんだり、商店で買い物をしてたり。楽しそうだ。
学校の前で停車する。ちょうど学校も帰宅時間のようだ。 学校の前後で学生が、屋台でつまんだり、商店で買い物をしてたり。楽しそうだ。
17時。中国スゴイ!を放送する車内テレビは3巡目となる。

つかれたという気持ちの先に、果たして帰れるのだろうかという不安があったとメモには書かれていた。

窓の外を見ると、帰宅中の生徒たちでにぎわっていた。ジャージ姿の学生がフライドチキンを食べたり、バスケットボールをバウンドさせたり、タピオカドリンク屋で飲んだりしている。
学校を抜けたら突如終点に到着した。
学校を抜けたら突如終点に到着した。
5時過ぎ。僕と数人が乗るバスは商店街を抜け、学校を抜けると5分もしないうちに終点に到着し、40km超のバス旅は終わった。近所には集合住宅があるくらいで、商店のひとつもない。

終点は華があると思っていたのだが、中国の路線バスの終点はよくわからないところであることが多い。

都バスでいうところの終点「荒川土手」である。

中国の路線バスのポイント12: 何にもないところが終点となる

終点について尿意が解放されるとともに、そこにトイレすらないという落胆、冬の木枯らしに、いよいよ待ったなしの地獄がやってきた。

そこはお察し&ご想像とさせてほしい。

広すぎない道を通る路線バスに乗りたい

2時間ちょっとの時間をかけた最高に有益な34円だった。疲れた。悟った。

上海は地下鉄建設が進んでいるけど、それでもまだ鉄道がなくバス便だけの場所もたくさんある。遠方から毎日市内中心部に通勤するのだから、リスペクトという言葉のほかない。

都市の中心部から離れていくうちに変わっていく景色は確かにあって、最初は高層ビルが立ち並ぶ上海らしい景色だったけど、次第に上海なのかどの都市かわからない景色に移っていった。

中国の道は広い。片側何車線か数えられないほど広い。片側2車線くらいなら右も左も見えて楽しい。路線バスの旅を中国でやるなら、広い道を通るか否か、日本語ができる地元の人に確認するのがおススメだ。
同じバスで戻った。バス便があることに感謝した。
同じバスで戻った。バス便があることに感謝した。
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