特集 2018年2月2日

GPS描き初め2018・山王子犬

大森の市街の匂いを嗅いでいる子犬。体長1.4km。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
大森の市街の匂いを嗅いでいる子犬。体長1.4km。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
年が明けてもう1ヶ月たった。今年の残りは92%ほどだ。はやいものだ。

いまさらだが、年明けに行った「描き初め」のレポートをしたい。今年の干支であるイヌの絵を描いたのだ。その全長1.4km。

総勢50名弱で敢行した「GPS描き初め」。かわいい子犬の絵ができました。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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みんなGPSログとったほうがいいぞ

ぼくは、移動の記録をするGPSロガーを持って歩き、そのデータで絵を描くという遊びをときどきやっている。

「GPS描き初め」とは、その手法で年始にその年の干支を描くこと。まずは今回の成果をご覧ください。
GPSロガーによって記録された移動の軌跡データをGoogle earthで表示し、早回しで再生したもの。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
上の動画で、1.4kmの絵を描く、というのがどういうことか分かっていただけたと思う。こういうことです。

それにしてもかわいい。
マップにログデータをのせたもの。かわいい。お座りしている。
この子がいる場所は大田区の山王周辺。鼻の先にあるのはJR大森駅。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
この子がいる場所は大田区の山王周辺。鼻の先にあるのはJR大森駅。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
GPSロガーとはこういうもの。もともとトレッキングなどのアウトドアを嗜む方々のためのものだが、そういう使い方は全くしていない。
GPSロガーとはこういうもの。もともとトレッキングなどのアウトドアを嗜む方々のためのものだが、そういう使い方は全くしていない。
同じ手法で友人の結婚を祝って全長9kmのお祝いメッセージを描いたこともある。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
同じ手法で友人の結婚を祝って全長9kmのお祝いメッセージを描いたこともある。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
これまでたくさんの「GPS地上絵」を描いてきた。最近の自信作は山形で描いたマスター・ヨーダ。フォースと共にあらんことを。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
これまでたくさんの「GPS地上絵」を描いてきた。最近の自信作は山形で描いたマスター・ヨーダ。フォースと共にあらんことを。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
絵を描く時以外でも、外出時には必ずGPSロガーを携帯している。この10年間の全外出記録が残っている。
外出の記録は全部記録している。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
外出の記録は全部記録している。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
海外に行くときは興奮する。「普段と違うログが取れるぞ!」って。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
海外に行くときは興奮する。「普段と違うログが取れるぞ!」って。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
もはやGPSログをとらずにはいられないカラダになってしまった。一度、ロガーを忘れて大阪に行ったことがあるが、せっかくの遠方への移動記録が残せないことが悔しくて悔しくて、大阪で店を探してロガーを買ったことすらある。

過去10年分のログを見て実感するのは、移動の記録は記憶を圧縮して保存している、ということだ。日記なんかよりも遥かに強烈に思い出を喚起する。

この時期助かるのが「このレシート何買ったっけ?」っていうのが分かること。確定申告する人にはお勧めです。

いや、そういう実利的なことが言いたいのではない。大げさに言うならば、移動こそ人生であり、人生は一筆書きのログである、ということだ。数年間続けるといろいろ見えてくるので、みなさんもログとったらいいと思う。
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絵を描く動きは移動として変

さて、描き初めだ。

地図をためつすがめつ眺めていたら、ある日、山王にかわいい子犬を発見。奇しくも今年は戌年。縁起物だし(縁起物なのか)せっかくだからみんなで書き初めよう、と参加者を募った。
昨年末、Twitterで参加を呼びかけました。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
昨年末、Twitterで参加を呼びかけました。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
参加料をとるわけではないが、年明け早々だし、言ってみればただ歩くだけだし、そんなに集まらないだろうとおもっていた。

そうしたら50人も集まってしまった。
大盛況。
大盛況。
「この通りに歩いてください」と地図を用意すると、喜んでその通りに歩く大人たちがたくさんいる。なんて素晴らしいんだろうか、と思う。世の中は確実に良い方向に動いている。

上の写真はその素晴らしい大人たちの大所帯で絵を描いている風景だ。

なぜ向こうに向かっている人と、こちらを向いている人がいるのかというと、この場所が折り返し地点だったからだ。子犬の前足の付け根である。

歩いて絵を描くと、こういう行って戻ってがしばしば発生する。絵筆と違って、人はキャンバスたる地面から離れて瞬間移動できたりはしないからだ。

絵を描くと、普段は絶対しない種類の移動をすることになる。それがおもしろい。参加者のひとりは「歩行という行為のハックだなぁと思った。GPSという補助線によって見えていなかったものが見えてくる」とおっしゃっていた。
歩いて絵を描くとなると、行って戻ってを繰り返すことになる。
歩いて絵を描くとなると、行って戻ってを繰り返すことになる。
これは尻尾のくるっとなったところ。大勢が奇妙な動きをする。通行人が怪訝そうに見ていた。何かの宗教儀式に見える。
これは尻尾のくるっとなったところ。大勢が奇妙な動きをする。通行人が怪訝そうに見ていた。何かの宗教儀式に見える。
GPS地上絵は「一筆描き」であり、そもそも人の移動がそうなのだ。我々の生まれてから死ぬまでは一本の線なのだ。「人生は一筆書きのログ」と言ったのはそういうことである。

がんばっても差し引きゼロ

なんだか名言を吐いてしまった。いやそうでもないか。

ふだんはしない奇妙な移動をすることになるGPS地上絵。もうひとつの特徴は「やたら登ったりおりたりする」というもの。

地図上で設計をするときは地形を鑑みていないので、現地に行ってみたらやたら坂を行き来しなくちゃならない、ということがよくある。今回もそうだった。
顎のあたり。けっこうな急坂を下る。
顎のあたり。けっこうな急坂を下る。
こめかみ(イヌの場合もこめかみって言うのだろうか)も急な下り坂だった。「ここ行けるのか?」って心配になるぐらい細い下り階段。こういう、GPS地上絵でもなければ絶対通らないであろう道を行くのは本当に楽しい。
こめかみ(イヌの場合もこめかみって言うのだろうか)も急な下り坂だった。「ここ行けるのか?」って心配になるぐらい細い下り階段。こういう、GPS地上絵でもなければ絶対通らないであろう道を行くのは本当に楽しい。
もちろんくだりだけではない。のどの部分のこの急でしかもかなり長い階段をのぼるのが今回の描画ハイライトであった。
もちろんくだりだけではない。のどの部分のこの急でしかもかなり長い階段をのぼるのが今回の描画ハイライトであった。
描画終盤だったこともあり、みんなけっこう息を切らしていた。
描画終盤だったこともあり、みんなけっこう息を切らしていた。
登りきってふり返ると、富士山が見えた。富士山が見えるととりあえず達成感が得られるのでいい。富士山、べんり。
登りきってふり返ると、富士山が見えた。富士山が見えるととりあえず達成感が得られるのでいい。富士山、べんり。
地形図で子犬を見ると、背中および顔の彫りが深いことが分かる。のどの部分、確かに崖を登っている(Google earthで国土地理院長の基盤地図情報データを「東京地形地図」によって表示)
地形図で子犬を見ると、背中および顔の彫りが深いことが分かる。のどの部分、確かに崖を登っている(Google earthで国土地理院長の基盤地図情報データを「東京地形地図」によって表示)
スタートからゴールまでの道のりの標高の変化、つまり断面図を見るとこうなる(高さ方向をかなり強調して表示してます)。背中部分の登り降りとのどの登りがやっぱりすごい。(カシミール3D スーパー地形セットで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
スタートからゴールまでの道のりの標高の変化、つまり断面図を見るとこうなる(高さ方向をかなり強調して表示してます)。背中部分の登り降りとのどの登りがやっぱりすごい。(カシミール3D スーパー地形セットで表示したものをキャプチャ・加筆加工)
上のグラフによれば、最大標高差は19m弱、累積標高差は登りとくだり合わせて290mほどである。48階のビルを登っておりてきたのに相当する。

これだけ息を切らしても、ゴールはスタート地点なのである。すなわり、差し引きゼロ。8km歩いてこの結末。ふつうだったらこんな移動はしない。この得も言われぬ徒労感もまたGPS地上絵の醍醐味。
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GPS地上絵には若返り効果がある

10年間の外出ログを記録していると聞いてちょっと引いた人も多いかと思う。しかし引くのはまだはやい。

移動ログだけではなく、ぼくは24時間の脈拍数もずっと記録している。健康管理のためではない。ただ純粋に記録したいから。

で、今回の子犬描画の際の心拍数を見てみた。そうしたら興味深いことが起こっていた。
なんとなく標高差断面図と同じようなグラフになってないか。
なんとなく標高差断面図と同じようなグラフになってないか。
上は当日のぼくの心拍数の推移。子犬を描いている間の心拍数の増減が、さきほどの断面図とシンクロしているように見える。おもしろい。

まあ、つまり坂を登ると心拍数も上昇してグラフが上り坂になる、ということなので当たり前ではあるんですが。でもこれ、すごく面白くないですか。こういうのが楽しくて日々ログをとっているのです。

いや、待ってください。まだ引くのは早いんです。心拍数だけじゃないんです。
ぼくの毎日の標準装備。とれるログはすべてとっていきたい。
ぼくの毎日の標準装備。とれるログはすべてとっていきたい。
さいきん、ぼくはログをとるために生きているのではないだろうか、と思い始めている。

あと脳波もとりたいんだけど、まだカジュアルに記録できるデバイスが世の中に存在していない。発売を心待ちにしております。

メガネは瞬きの回数と身体の傾きを記録する代物なのだが、これが「マインド年齢」と「ボディ年齢」の謎の指標を算出して、年齢推移グラフと一日の平均を示す。メガネからスマホにデータが転送され、それを見ることができる。ぼくとしては余計なことしないでいいから瞬き回数をそのまま表示してくれよ、と思うのだが。

ともあれ心拍数と同じように描き初めの最中のログを見てみよう。
GPS描き初めの最中の「ボディ年齢」、異常に若い!
GPS描き初めの最中の「ボディ年齢」、異常に若い!
描き初めを実施したのは1月7日だったのだが、この日の平均年齢は、ほかの日と比べてとても若い。マインドは20代だ。
描き初めを実施したのは1月7日だったのだが、この日の平均年齢は、ほかの日と比べてとても若い。マインドは20代だ。
いったいどういうロジックで年齢を算出しているのかは謎だが、アプリを信じれば「GPS地上絵には若返り効果がある」ということになる。

標準装備ののこりひとつ。30秒に1枚自動的に写真を撮る小さなカメラだ。どこに発表するでもなく、ただ毎日のぼくの目の前にあった光景をクラウドに保存していっているだけなのだが、これがときどき見返すと面白い。

これに関しても子犬を描いている最中のものを見てみよう。
今回の道のりはおよそ8km。描くのにかかった時間は2時間半。つまりこの間に300枚ほどの写真が撮れている。
今回の道のりはおよそ8km。描くのにかかった時間は2時間半。つまりこの間に300枚ほどの写真が撮れている。
その300枚をスライドショーにしてGPSログ再生と合わせてみた。
「だからなんだ」って感じかもしれない。でもこんな早回しでもこれを見るとぼくには思い出すことがたくさんある。おそらく他の参加者のみなさんも同様だろう。
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犬の中の犬

すっかりぼくの「ログ趣味」の話題になってしまった。話を元に戻そう。

これまで描いてきたGPS地上絵は、ヨーダだったり、ヘビだったりタツノオトシゴだった。今回はイヌというポピュラーな動物がモチーフだったため、道中何回か面白い光景に行き当たった。
たとえばこれ。「園内に犬を連れて入らないでください」
たとえばこれ。「園内に犬を連れて入らないでください」
みんな「ここ自体が犬なのにねえ!」って言って笑った。
みんな「ここ自体が犬なのにねえ!」って言って笑った。
犬の中で犬を飼っている。
犬の中で犬を飼っている。
まさか自分の家が犬の鼻先だとは知るまい。
まさか自分の家が犬の鼻先だとは知るまい。
また、犬の散歩にもちょくちょく出くわした。
犬のお腹を散歩する犬。
犬のお腹を散歩する犬。
前足を散歩する犬。
前足を散歩する犬。
「犬を連れてこのコースを歩いたら面白いんじゃないか」というアイディアをいただいた。それやりたい。
「犬を連れてこのコースを歩いたら面白いんじゃないか」というアイディアをいただいた。それやりたい。
犬にロガーをつけて同じコースを散歩させてみたい。8kmはちょっときついかな。

ぼく自身は犬を飼ったことがなく、まったく犬種などの違いについて疎い。今回のこの山王子犬にしても、設計しておきながらいったい何犬なのか判別できていなかった。というよりも、犬種自体を気にしていなかった。

そんなぼくが散歩中の下の犬で気がついた。
あっ! しっぽが似てる!
あっ! しっぽが似てる!
犬を飼っているという参加者のひとりに教えてもらったのだが、尻尾がくるっとなっているのは日本犬の特徴だとか。「今描いている犬は、たぶん柴犬の血が入ってますね。顔は洋犬っぽいけど」とのこと。そうなんだー! 知らなかった。
おまえは柴犬系だったのか。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
おまえは柴犬系だったのか。(Google earth / Image Landsat / Copernics / Data SIO, NOAA, Navy, NGA, GEBCO / Imga IBCAO / Data Japan Hydrographic Association)
と、こんな感じで8km、2時間半楽しく描きました。

50名もいると列が長くなってさすがに全員とお話しすることもできず、ちょっと多すぎたかな、と思ったけど、参加者のひとりは、50人ならではの伸びたり縮んだりの列が「筆の太さ・長さ・かたちなんだと思う」と言っていた。ぼくらは筆の毛の一本一本だったのだ。また大勢でやろう。
ゴールで記念撮影。おつかれさまでしたー。
ゴールで記念撮影。おつかれさまでしたー。

またやりますよ

もはやライフワークの「GPS地上絵」。また近いうちやりますので、興味ある方はぜひ。
歩き終わって、打ち上げで飲んでたら、年齢がぐっと上がった。
歩き終わって、打ち上げで飲んでたら、年齢がぐっと上がった。

【告知】3月3日 あの「防火壁団地」を見に行きます

きたる3月3日に「四大防壁団地」(ぼく命名)のひとつ、かの長さ1kmのファイアーウォール団地、白鬚東アパートを見に行くツアーやります。(参考→「長さ1km超・日本四大防壁団地」

都市防災の専門家とご一緒します。ぼくもすごくたのしみ。みなさんぜひ。詳しくは→こちら
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