特集 2017年10月25日

発行部数100万部の国民的雑誌「キング」はインターネットだった

キングはインターネットだった
キングはインターネットだった
そろそろ平成も終わろうとするご時勢だが、昭和の雑誌の話をしたい。

インターネットはもちろん、テレビもなく、ラジオもまだ普及途上といった時代に、毎月100万部を売っていた『キング』という雑誌があった。

いま読み返してみると、これがけっこうおもしろい。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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ざっくり『キング』のこと

いきなり『キング』と言われてもピンとこないと思うので、ざっくり説明したい。
『キング』は、1924年(大正14年)に大日本雄辯會講談社(いまの講談社)が発行していた月刊誌だ。
最初に買ったのがけっこうおもしろかったので、ヤフオクで安いやつを追加で二冊買った
最初に買ったのがけっこうおもしろかったので、ヤフオクで安いやつを追加で二冊買った
このキングという雑誌は、今の雑誌のように読者層をしぼった紙面づくりということはしておらず、老若男女、すべてのひとが読めるような内容になっていた。

キングは昭和初期に、日本で初めて発行部数100万部を超える雑誌となる快挙を達成した。

しかし、戦時中、キングが敵性語だとされ、『富士』と改題させられ、戦後『キング』に戻したものの、さまざまな要因により、戦前の勢いは取り戻せず、1957年(昭和32年)に終刊となった。
ちなみに、大日本雄辯會講談社が、この『キング』で大成功しているときに設立した音楽部門が、キングレコードである。

なにがおもしろいって、古いんですよ

『キング』のなにがおもしろいってもう、何もかもが古いからおもしろい。

1931年(昭和6年)の9月号を見てみたい。
昭和6年9月号の「キング」
昭和6年9月号の「キング」
まず、表紙をめくったところから、目を引く。蓄音機の広告だ。
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蓄音機でかいなー、とおもったが、よく読むと「お座敷用」「携帯用」とある。
山へ! 海へ!
山へ! 海へ!
おそらく、たためばスーツケースぐらいにはなっただろう。たしかに、蓄音機は電気が必要ないので、これぐらい小さければ、アウトドアに持っていける。
据え置き型の表現が「お座敷用」というあたりもいい。むかし、おばあちゃんが、室内犬のことを座敷犬と言ってたと、遠い記憶がよみがえった。

そして、折り込み特別カラーページ。

今だとグラビアアイドルのかわいい女の子が、水着でもって海だとか、古民家みたいなところに出かけていって写真を撮ってるページがあるが、キングは鎧武者である。
カラーページが日本画
カラーページが日本画
木島櫻谷。明治から昭和にかけて活躍した日本画家だ。ウィキペディアを読むと、夏目漱石に酷評されたりして、のちにちょっと悲しい死に方をされたようだが、この雑誌が発売された昭和6年はまだご存命だ。
印刷会社?
印刷会社?
絵の下に、めちゃめちゃ小さい字で「秀英舎」と書いてある。秀英舎は今のDNP、大日本印刷だ。ダイレクトプレドプロセス(?)というのはおそらく、印刷方式かなにかのことだろうか。
奥付をみてみると、たしかに今、市ヶ谷の大日本印刷があるところの旧住所が書いてある。
今も昔も市ヶ谷加賀町の大日本印刷
今も昔も市ヶ谷加賀町の大日本印刷
明治時代からここにあるのか、大日本印刷
明治時代からここにあるのか、大日本印刷
この時代から大日本印刷は、あの防衛省の裏の窪地みたいなところに工場があったのだ。

何もかもが古いと思っていたら、意外と今とつながる部分もあったりして、読んでて飽きない。
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全年齢向けなので、内容がバラバラ

この『キング』、最初にも書いたとおり、誰それ向けといった誌面づくりをしていない。子供から、老人まで、全員が楽しめるコンテンツがごっちゃになって入っている。だからトーンがコロコロかわる。
純愛小説『大地に立つ』サブタイトルが「空腹を抱いて」
純愛小説『大地に立つ』サブタイトルが「空腹を抱いて」
小説があったと思うと、こんなコーナーもある。
突然はじまる昆虫の豆知識コーナー
突然はじまる昆虫の豆知識コーナー
盗癖のある糞虫! 強すぎる文言
盗癖のある糞虫! 強すぎる文言
「盗癖のある糞虫」のフレーズが強烈すぎる。これは一応子供向けのコーナーだろう。あまりにも衝撃的だったので、この部分だけ引用しておきたい。(現代仮名遣いに修正)
糞虫という虫は赤城山辺りにも沢山いますが、よく注意していれば、どこの家の庭にもいるものです。犬や牛や馬の糞が何よりの御馳走で牧場地帯に多いのもこういう訳からですが、新しい糞が落とされると、数町四方からその匂いを慕って集まり、てんでにその糞を掻き集めて大きい団子を作り、それを後肢で引っかけて後ずさりに押しながら、砂地へと運びます。そして砂に穴を掘って糞玉を埋め、自分もその穴に入ってゆっくり御馳走を食べます。が、集まり遅れた連中は、団子を丸めたくてももう材料がないので、他の者たちが一生懸命に玉ころがしをやっているのを手伝います。が、手伝いというのは実は略奪の下心があってのことで、いよいよ糞玉の主が目的地へついて砂地に穴を掘り始めると穴の外で番をしているような風を見せながら、持主が深く穴へ入った隙きを見すまし、さっさと糞玉を盗んで逃げ出すのです。
盗まれる糞玉。なんどか読み返すと、糞玉がとても良い物におもえてくる。
歴史小説だ、おれ、この人の子孫</a>、知ってる
歴史小説だ、おれ、この人の子孫、知ってる
冒険小説あり
冒険小説あり
今ではギリギリアウトなマンガがある
今ではギリギリアウトなマンガがある
小説がメインであるものの、そのバラエティの豊富さは、さすが全年齢向けといったところである。

ちなみに、上で紹介した「塙團右衛門」は、文藝春秋社を作った菊池寛、「黒潮の彼方へ」は、日本初のロボット、学天即を作った西村真琴、「宝島の秘密」の画は「正チャンの冒険」で、正ちゃん帽をはやらせた樺島勝一といった人たちが執筆している。

「宝島の秘密」もだけれど、「黒潮の彼方へ」も、今だと丁寧な断り書きをしなければ雑誌には掲載が難しい内容である。

そして、こんどは急に果物の良さを語りだしたりもする。
最初のチョイスに枇杷がくるあたり、シブい。
最初のチョイスに枇杷がくるあたり、シブい。
果物漫談と題されたコーナーは、フルーツがどんなにおいしいか、健康によいかを縷々述べている、さらに、途中食べるだけじゃない、眺めて楽しもうとまでいいだしている。(以下引用、現代仮名遣いに修正)
日本人は果物を単に食べる物としか考えてないようだが、花を飾り眺めるのと同じく、果物もまず床の間や書斎に飾って眺めて見ることを試みてほしい。果物の美しさ、果物のなつかしさ、果物特有の色……形、それには又花と別な詩趣があり、雅趣があるはずだ
たしかに、果物の詩趣や雅趣を眺めて楽しもうという心の余裕を我々は失っていた。きっと、イチゴが飾ってある床の間の主人はハローキティだろう。

しかし、盗癖のある糞虫からの果物を見て楽しめという話まで、ほんとうに内容の層の厚さがすごい。

昭和(戦前)のギャグ

漫画などの他にも、唐突に小話がいくつか書かれたページなんかもある。
笑話漫画 ニコニコ風景
笑話漫画 ニコニコ風景
動物園の小話、寄席で聞いたことあるな
動物園の小話、寄席で聞いたことあるな
でたー「大坂城作ったのは、大工さん」っていうタイプのやつだ!
でたー「大坂城作ったのは、大工さん」っていうタイプのやつだ!
今の時代からみて、この手の小話の面白さのレベルをどうこういっても仕方がないけれど、昔はこれで充分おもしろかったのだ。

おそらく、2117年ごろの未来人は、にゃんこスターのコントをみても、同じおもいをいだくにちがいない。

スポーツ中継を誌面で行なう根性がすごい

さらに瞠目するのは、相撲の中継を誌面でおこなっていることだ。
「日本力士選士権大会」通常の大相撲のやつとはちがう
「日本力士選士権大会」通常の大相撲のやつとはちがう
この『キング』で中継レポートしている「日本力士選士権大会」は、大相撲とは違うトーナメント形式の相撲大会のようだ。
見てくださいこの細かいレポート
見てくださいこの細かいレポート
取り組み一つ一つを、いちいち文章に書き起こして載せている。
参考までに、春日野・玉錦戦の取り組みを引用しておきたい。
差し勝って春日野、ここ真っ向に押し進むかと思いのほか、焦らずヂツと形勢を伺えば、玉は、何のと、上から巻き込みに来た、しめたと春日野、双(もろ)の差手を高く煽りあげ、敵の巻き込みを殺しつつ、グイグイグイとおし立てれば、玉は堪らず、ズルズルズル、そのまま土俵を割るかと見えたが、さすがに彼は土俵際の粘り強く、体を弓のように反って、『ウーン! クーッ!』と必死の防御、きわどく怺えて寄り返さんとした。その一瞬! その出鼻! グッと引いたる金剛力、右に引きつゝ強くグイッとひんねぢれば、さすがに三十四貫の玉の巨体、もんどり打ってブルルンルン! ずでーんッ! とばかり土俵の塵、あの太鼓腹を空にしてデングリかえつた。
この流れるような解説、読んで気持ちが良いが、状況はあまりよくわからない。でも、ぼくは「もんどりうって、ブルルンルン! ずでーんッ!」の部分のリズム感がお気に入りだ。

しかし、これはよく考えるとすごい。

一応、ライターの端くれとしておもうのは、ICレコーダーもデジカメもない状況でよくこんなのかけたなということだ。

普通、ライターが取材の原稿を文字に書き起こすまで、何段階も経ていると思うけれど、取り組みでだれがどんなふうに動いたなんてまったく覚えられないとおもう。

当時は、映画や写真といった記録手段は限られていたはずだ。となると、相撲の取り組みがどんなふうだったのかいちいちメモしたのだろうか?

もしそうだとしたら、感心を通り越して、もはや謝罪したい。
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僕らでも知ってる有名人が……

さきほど紹介した小説の執筆者に、菊池寛や西村真琴がいたように、他のコーナーにも「え、あのひとが?」というものが多い。

例えばこのコーナー「男から女へ、女から男へ、遠慮のない座談会」の出席者。

見覚えある名前が……
見覚えある名前が……
当時は、大正デモクラシーが盛り上がり、その中で、社会主義や自由主義といった考え方が広がり、また女性の権利についても、さまざまな分野で女性が活躍することも増えてきていた。と、歴史の教科書に書いてあったことだけど、そういう世の中の雰囲気があったということが、このコーナーの存在でもわかる。

座談会の出席者をみてみる。
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徳川夢声あたりは、戦後もタレントとして活躍した人なので、名前だけはしっている。が、ここで注目したいのは女子側の人だ。

まず、「『家庭』主幹 村岡花子」とあるが、これは、『赤毛のアン』などを翻訳したことで知られる村岡花子のことだろう。NHKの朝の連続テレビ小説『花子とアン』のモデルとなったひとだ。

この座談会は、前回の号で、女性ばかりに、家事などの負担が過剰にかかっている。と主張する高良富子(婦人運動家)に対し、中村武羅夫(作家)が「それは女のわがままだ」という雑な反論をしたところから、村岡花子が女性側に助け舟を出すかと思ったらそうではなく、高良富子と村岡花子が、女性の仕事と家事について議論する。というところから始まっている。

論争を一々書き出すと異常な長さになるので、内容をかいつまんでいうと、村岡は、女性が仕事をするのは結構だが、家事ぐらいはきっちりできるはず、家事をしっかりやってから仕事や余技にせいをだせばよい。というスーパーマンの正論みたいなことを主張していた。

いいとか、わるいとかではなく、あくまで、この昭和6年のこの時代に生きていた人たちはそういうことを考えていた。という記録である。

小泉芳江とは?

もうひとり、この座談会の参加者で注目したいのは小泉芳江だ。肩書は「小泉逓相令嬢」とある。
下段いちばん左が小泉芳江
下段いちばん左が小泉芳江
小泉逓相とは、小泉又次郎。ということは、この小泉芳江という方は、小泉純一郎元首相の母親である。

なんでこんなところに出てるんだという気もするが、出ているのである。

小泉又次郎は、全身に入れ墨を入れた大臣として、大衆にものすごく人気があった。その娘だということで、引っ張り出されたのだろうか。

座談会の中でどんな発言をされているのかな? と思って探してみたところ、発言はほとんどなく、中村武羅夫の「今の若い女性はどんな男性がタイプなの?」という質問に「やっぱり、それぞれその方によって違うとおもいます」という、政治家みたいなはぐらかしで質問をかわしている。
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小泉芳江は、このころ、女学校を卒業し、母親に代わって家の家事を手伝っていたようだ。
しかしこの雑誌が発売されたあと、立憲民政党(又次郎の所属政党)の事務員をしていた鮫島純也と恋愛関係になり、なんと駆け落ちしてしまう。
純也と芳江は、駆け落ちしたのち、表参道にあった同潤会アパートで暮らしていたが、父又次郎は、二人を許し、純也が小泉家に婿入りする形で二人は結婚する。小泉純也はその後国会議員となり、防衛庁長官までつとめる。

そして、この二人の長男が、小泉純一郎だ。
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未来予想がやたらある

ぼくが持っている『キング』三冊のうち、2冊に「未来予想」の特集があった。
こういうの大好きでしょう? ぼくも好きです
こういうの大好きでしょう? ぼくも好きです
この時代の未来予想図は、素っ頓狂なものも多い。
どこの未来かこれは
どこの未来かこれは
プロペラ推進の列車は、過去にドイツで開発されていたやつだ。車両を連結できないのと、高速で回転するプロペラがホームに入ってきたらめっちゃ危険なので、実用化されなかった。

この裏側もすごい。
殺人光線、テレビジョン、人工呼吸器などがある
殺人光線、テレビジョン、人工呼吸器などがある
ロボット?
ロボット?
やけに人くさい人造人間だ。よく見るとタバコっぽいものを吸っている。椅子にバネがついてものもなんだかよくわからない。横の解説にはこうかいてある。
人造人間(機械で作った人間)は最近著しく進歩した。秋頃ニューヨークの世界ラジオ博覧会に現れた女の人造人間は観客の命ずるままに長い文章を書いた。英国では飛行機を操縦したりロンドンの地下鉄ヴィクトリア駅には出札係として働いているのもあるという。
人型のロボットでなければ、自動改札もオートパイロットも実現してからひさしい。

飛行機の操縦や出札係で働いているのは、はたしてほんとうに人の形のロボットだったのだろうか?

漫画家が考える100年後の未来

もう一冊もっているキングの特集が、漫画家考える100年後(2028年)の未来予想がすごい。
蛇状のものは、いったいなんなのか?
蛇状のものは、いったいなんなのか?
モガとモボ
モガとモボ
モガはだんだん男化し、モボはだんだん女化するらしい。(モガはモダンガール、モボはモダンボーイの略)
男女の「こうあるべき」という観念がだんだん曖昧になっていくことを予想しているのだとしたら、慧眼だと思う。
火星探査機
火星探査機
オポチュニティだ。実際は、もっと高性能で、火星に行ったっきりで、画像を自動的に送ってくれる。

上記の予想は、かなりいいところをついているが、中にはこんなのもある。
なんだこのカラス
なんだこのカラス
みたことないタイプの火星人。タコ型ではない。つま先がカールしている靴とか、星付きの三角帽子など、デザインに意味が無さそうなうえに適当でいい。
目がマヌケそうなので、悪い人ではないとおもわれる。

『キング』=インターネット

老若男女だれもが読むための雑誌として生まれた『キング』。その内容の多様さはすごい。
つまり、誰もが、自分の読みたいページだけ読んで終わる。そんな雑誌だった。

映画をみたり、音楽をきいたり、人がやってる議論や論争を横から眺めたり、読み物を読んだりと、いまインターネットでできることを、紙媒体でやろうとしたら、こうなるのではないか。
当時の講談社は「どりこの」という飲料も販売していた。が、現在はレシピも失われ、いったいどんな味だったのか、謎に包まれている。詳細はこちらをどうぞ
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