特集 2017年1月20日

キエフのベランダはかわいい

キエフの団地のベランダは、住民によってサンルーム化していました。
キエフの団地のベランダは、住民によってサンルーム化していました。
過日記事にしたように、昨年チェルノブイリに行ったのだが、ウクライナに降り立ったとなれば行かねばならぬ場所がもうひとつある。団地だ。

旧ソ連の国の団地。こんなに魅惑的なものがあるだろうか。団地マニアのぼくにはたまらない響きだ。共産建築の団地。

で、スケジュールの合間をぬってたずねた。そうしたら、やっぱりちょうすてきだった。なにがすてきって、どこもかしこもすてきなんだけど、特にベランダがたまらなかった。

「寒い国に行ったら、ベランダを見ろ」だな、と思った。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:クリスマス「浮かれ電飾」は年越しする

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とにかくかわいい! キエフの団地

まずはとにかく写真をご覧ください。
すてき。かっこいい。なんなのこれ。ちょうかわいい。
すてき。かっこいい。なんなのこれ。ちょうかわいい。
日本のものとまるで違うけど確実に団地感がある。ふしぎだ。これが団地マジックというものか。
日本のものとまるで違うけど確実に団地感がある。ふしぎだ。これが団地マジックというものか。
知らないのに「ホーム感」ある。帰るべき場所はここだ感。ウクライナの実家だ。ただいま。
知らないのに「ホーム感」ある。帰るべき場所はここだ感。ウクライナの実家だ。ただいま。
団地がある限り世界中どこでもゆったりうっとりできるな、ぼくは。とあらためて思った。
団地がある限り世界中どこでもゆったりうっとりできるな、ぼくは。とあらためて思った。
遊具の感じも「ザ・団地」って感じなんだけど、同時に異国情緒ある。このブランコの造形すばらしい。支柱の角度とか絶妙。カラーリングもキュート。ミニチュアほしい。
遊具の感じも「ザ・団地」って感じなんだけど、同時に異国情緒ある。このブランコの造形すばらしい。支柱の角度とか絶妙。カラーリングもキュート。ミニチュアほしい。
これすてきだった。免許も持っておらず、車に興味はないがこれはすごくいいな、と思った。形はもちろん、色がいい。
これすてきだった。免許も持っておらず、車に興味はないがこれはすごくいいな、と思った。形はもちろん、色がいい。
そういうかわいい車は、団地敷地内でしばしば見かけた。かわいい団地とあいまって絵になる。そりゃあ住民の女性をあえて入れたそれっぽい構図にもしちゃいますよ。
そういうかわいい車は、団地敷地内でしばしば見かけた。かわいい団地とあいまって絵になる。そりゃあ住民の女性をあえて入れたそれっぽい構図にもしちゃいますよ。
こういう造形的にがんばっちゃってる団地棟もある。実家感はないがこれはこれで惹かれる。決してかっこよくはないが憎めない。日本ではお目にかかれないタイプのデザイン。とてもこうふんする。
こういう造形的にがんばっちゃってる団地棟もある。実家感はないがこれはこれで惹かれる。決してかっこよくはないが憎めない。日本ではお目にかかれないタイプのデザイン。とてもこうふんする。
造形もさることながら、おそらく建設年と思われる年号がちょんと添えられてたりして、もだえる。いいなあ。
造形もさることながら、おそらく建設年と思われる年号がちょんと添えられてたりして、もだえる。いいなあ。
これなど、「ツートンカラー」という死語を使わざるを得ないぶきっちょな色づかいがたまらない。塗り分け位置も微妙でいい。
これなど、「ツートンカラー」という死語を使わざるを得ないぶきっちょな色づかいがたまらない。塗り分け位置も微妙でいい。
一方、比較的新しめのこういう集合住宅はちょっとなー。きっとこっちのほうが暮らしごこちはいいんだろうけどなー。日本人の目からするとちょっとしたラブホテルっぽいしなー。
一方、比較的新しめのこういう集合住宅はちょっとなー。きっとこっちのほうが暮らしごこちはいいんだろうけどなー。日本人の目からするとちょっとしたラブホテルっぽいしなー。
でもこのみょうにリアリズムなカタツムリは気に入ったぞ。
でもこのみょうにリアリズムなカタツムリは気に入ったぞ。
造形といえばこれがすごかった。集合住宅としてはかなり意欲的。とても共産主義建築っぽい。いい。
造形といえばこれがすごかった。集合住宅としてはかなり意欲的。とても共産主義建築っぽい。いい。
いったん広告です
比較的新しめ物件にはけったいなデザインがしばしば見られて、たとえばこれとか。
比較的新しめ物件にはけったいなデザインがしばしば見られて、たとえばこれとか。
建設途中で放棄か。なんか木生えちゃってるし。そしてそこにタギングするか!
建設途中で放棄か。なんか木生えちゃってるし。そしてそこにタギングするか!
キエフの「団地絵心」は気合いが入っている。日本の団地で見られる雲とか動物とかのほっこりモチーフとは一線を画すアグレッシブさ。
キエフの「団地絵心」は気合いが入っている。日本の団地で見られる雲とか動物とかのほっこりモチーフとは一線を画すアグレッシブさ。
このロンドンの団地絵といい、比べると日本のものは無難なんだな、と思わせられる。
このロンドンの団地絵といい、比べると日本のものは無難なんだな、と思わせられる。
キエフの団地絵で悲しみを誘ったのはこれ。荘厳なモチーフと確かな絵心。しかし塗料の選択を誤ったか。いや、わざとか? まだ描き途中とか?
キエフの団地絵で悲しみを誘ったのはこれ。荘厳なモチーフと確かな絵心。しかし塗料の選択を誤ったか。いや、わざとか? まだ描き途中とか?

そして、でかい。

写真を並べたててしまったが、どうだろうか。なんかいいよね、キエフの団地。「かわいい」を連発してしまったが、このキュートさが伝わっているだろうか。

これらはキエフ市街中心部から北東にすこし行ったエリアの団地。地図で見るだけでも魅力的な、いかにも計画された団地って感じ。すてきだ。うちの近所ならいいのに。

団地趣味の人間にとって、共産国、特に旧ソ連の国の集合住宅を見るのは憧れだ。それがかなってすごくうれしかった。思い出すだけで鼻息が荒くなる。

かわいさもいいが、なによりぼくの団地趣味傾向的にぐっとくるのは、その巨大さだ。
横方向に長大なので、プロポーション的には日本のふつうの団地と似た感じだが、数えてみれば17階建てだ。でかい。日本の4階建て団地をシフトキーを押しながらドラッグして拡大した感じ。
横方向に長大なので、プロポーション的には日本のふつうの団地と似た感じだが、数えてみれば17階建てだ。でかい。日本の4階建て団地をシフトキーを押しながらドラッグして拡大した感じ。
でかい。かっこいい。近所にほしい。
でかい。かっこいい。近所にほしい。
日本ではあまり見られない、城壁のように広場を囲む形で建てられた高層棟。ぐるりとどこを見回してもみっしり団地景のめくるめく世界。全天球画像はこちら
日本ではあまり見られない、城壁のように広場を囲む形で建てられた高層棟。ぐるりとどこを見回してもみっしり団地景のめくるめく世界。全天球画像はこちら
ちょっと香港の団地を思い出す。地震がないと団地はこうなるのだなあ、とあらためて思った。このダイナミックさ。日本の風土がうらめしい。いや、日本の団地もすてきだけどね。
ちょっと香港の団地を思い出す。地震がないと団地はこうなるのだなあ、とあらためて思った。このダイナミックさ。日本の風土がうらめしい。いや、日本の団地もすてきだけどね。
この棟が今回見た中で、ぼくの一番のお気に入り。でかさといいポップな色といい、かわいい。これのミニチュアほしい。いや、くれるんなら本物でもいいけど。
この棟が今回見た中で、ぼくの一番のお気に入り。でかさといいポップな色といい、かわいい。これのミニチュアほしい。いや、くれるんなら本物でもいいけど。

そして最大のポイント「ベランダ・カスタマイズ」

で、本題のベランダです。すでに前ページ前半の写真でわかると思いますが、ベランダがすごい。

キエフの団地、ベランダのカスタマイズがはなはだしい。それが最大の魅力。
上の「ぼく的暫定キエフNo.1団地もよく見ると、家によってベランダの具合がまちまち。
上の「ぼく的暫定キエフNo.1団地もよく見ると、家によってベランダの具合がまちまち。
各戸でデザインが違う。すごく出っ張ってる感がある。ベランダと言うより、ほぼサンルーム。
各戸でデザインが違う。すごく出っ張ってる感がある。ベランダと言うより、ほぼサンルーム。
すごく魅力的なまちまちベランダ。こういうのは日本の団地にはないぞ。興味深い。そしてかわいい。
すごく魅力的なまちまちベランダ。こういうのは日本の団地にはないぞ。興味深い。そしてかわいい。
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ご覧のようにどうやら、これらの「まちまちベランダ」、住民によるカスタマイズの結果らしい。

もともと柵がついた開放的な屋外の、いわゆるベランダだったものを壁で囲い、サッシと窓をつけることでサンルームのようにしているとのこと。
いろんな素材、色、微妙な出っ張り具合の違いなどによって、すごく楽しいことになっている。それがキエフの団地のファサード。キュートきわまりない。
いろんな素材、色、微妙な出っ張り具合の違いなどによって、すごく楽しいことになっている。それがキエフの団地のファサード。キュートきわまりない。
これなら団地趣味の人じゃなくても見ていて飽きないだろう(たぶん。きっと)。日本でもやればいいのに(違法になっちゃうのよね)。
これなら団地趣味の人じゃなくても見ていて飽きないだろう(たぶん。きっと)。日本でもやればいいのに(違法になっちゃうのよね)。
長大でありながら雰囲気がポップなのは、これらカスタマイズベランダが理由なのでした。
長大でありながら雰囲気がポップなのは、これらカスタマイズベランダが理由なのでした。
この棟は「元もとベランダだったのをサンルーム化」どころか、よく見るとただの窓の外壁部分に強引に拡張しているのが分かる。
この棟は「元もとベランダだったのをサンルーム化」どころか、よく見るとただの窓の外壁部分に強引に拡張しているのが分かる。
この「ベランダのサンルーム化」は寒さが厳しい国の団地ではよく見られる。ロシアでも普通に行われている(かなり無茶なことが行われている)らしい。見に行きたい。

おそらく日本と同様、厳密には違法だろう。聞くところによると、ときどき落下事故が起こるという。

思い出したのは、ソウルの団地でも同様のことが行われていたこと。かの国の冬も厳しい。
三泊四日でひたすら団地だけを見て回ったソウルの旅。すてきな団地にたくさん出会った。
三泊四日でひたすら団地だけを見て回ったソウルの旅。すてきな団地にたくさん出会った。
で、ベランダをよく見るとこの通り。サッシの位置やガラスの色がまちまち。これもカスタマイズだそうだ。
で、ベランダをよく見るとこの通り。サッシの位置やガラスの色がまちまち。これもカスタマイズだそうだ。
このソウルのかわいい団地も、
このソウルのかわいい団地も、
同じようにカスタマイズされている。
同じようにカスタマイズされている。
韓国の場合、ベランダと言えばサッシがついているもの、だそうだ。日本の場合は寒さより夏場の湿気の方が問題とされ、換気が良いことが伝統的に住宅に求められてきたのと対照的。

比較的最近の集合住宅の場合はもともとサンルーム化されているものが多いそうだが、古い団地の場合は住民の手によってカスタマイズされているとのこと。おそらくキエフでも同じだろう。
ソウルでおもしろかったのは、これ。
ソウルでおもしろかったのは、これ。
ベランダのみならず、通路側の開口部にもサッシを入れている箇所が!
ベランダのみならず、通路側の開口部にもサッシを入れている箇所が!
写真見てたらまたソウル団地巡りがしたくなってきた。ソウルはほんとうに団地天国だった。この棟とか、すごくかっこいい。
写真見てたらまたソウル団地巡りがしたくなってきた。ソウルはほんとうに団地天国だった。この棟とか、すごくかっこいい。

日本のキエフ・関西高架下

残念ながら日本の団地ではこういった愉快なベランダ増設・カスタマイズはみられないが、似たような事例はある。鉄道高架下におさまっている建築にそういうのよくある。

その名も「高架下建築」という写真集を出しているぼくは、日本全国の高架下建築を見て回っているのだが、関西の物件がかなり大胆な「増築・カスタマイズ」を施しているのを目撃してきた。
神戸市の阪神線御影駅周辺の高架下建築は特にお気に入り。そして見てください、この増築っぷりを!
神戸市の阪神線御影駅周辺の高架下建築は特にお気に入り。そして見てください、この増築っぷりを!
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ベランダの奥にある窓の位置が、もともとの建築の壁。つまりここに見えるファサードはすべて増築。あまつさえ大胆な煙突まで。
ベランダの奥にある窓の位置が、もともとの建築の壁。つまりここに見えるファサードはすべて増築。あまつさえ大胆な煙突まで。
これは分かりやすい。2階部分に見える窓の位置がオリジナル高架下建築。
これは分かりやすい。2階部分に見える窓の位置がオリジナル高架下建築。
これとかほんと魅力的な増築。中どうなっているのか謎。想像をかきたてられる。雨樋のアクロバティックな這わせ方もキュート。
これとかほんと魅力的な増築。中どうなっているのか謎。想像をかきたてられる。雨樋のアクロバティックな這わせ方もキュート。
「ザ・増築」といった風情の出っ張り高架下建築。
「ザ・増築」といった風情の出っ張り高架下建築。
ただ、最近こういう昔気質の高架下建築どんどんなくなってる。これとかほんとすてきだったんだけど。階段つけちゃうとかすごくない?
ただ、最近こういう昔気質の高架下建築どんどんなくなってる。これとかほんとすてきだったんだけど。階段つけちゃうとかすごくない?
大阪市は阪和線美章園駅そばの魅力的な作品。
大阪市は阪和線美章園駅そばの魅力的な作品。

団地だけじゃなかった

脱線しましたが、要するに「キエフの団地の魅力はフリーダムなベランダにあり」ということです。

で、これ、実は団地だけじゃなくて、キエフの集合住宅全般に言えることのようだった。市街中心部を歩いていたら、同様のベランダを多く見かけたのだ。
キエフ市街中心部のアパートメント。ご覧のように、やはりまちまちなベランダ。団地のものより、設置された時代の差が出ていて、味わい深い。
キエフ市街中心部のアパートメント。ご覧のように、やはりまちまちなベランダ。団地のものより、設置された時代の差が出ていて、味わい深い。
ここも中心部。路地入っていったら行き止まりですごく興奮した。異国の地で行き止まると興奮しますよね。そして思い思いのベランダプレイ。このバリエーションは団地をしのぐ。さながらカスタマイズベランダ品評会会場のよう。
ここも中心部。路地入っていったら行き止まりですごく興奮した。異国の地で行き止まると興奮しますよね。そして思い思いのベランダプレイ。このバリエーションは団地をしのぐ。さながらカスタマイズベランダ品評会会場のよう。
カスタマイズのビフォー/アフターがよく分かる例があってうれしかった。上がオリジナルに近いベランダ状態。それに腰壁とサッシと屋根がつけられて、下のようになる。ぼくもつくってみたい。
カスタマイズのビフォー/アフターがよく分かる例があってうれしかった。上がオリジナルに近いベランダ状態。それに腰壁とサッシと屋根がつけられて、下のようになる。ぼくもつくってみたい。
これはカスタマイズではなく、完全に増設の例。足場の向こう側を見ると分かるが、元もとは窓でしかなかったものの外側にサンルーム的ベランダをくっつけてる。こうして目の当たりにすると「だいじょうぶなのか」って思う。
これはカスタマイズではなく、完全に増設の例。足場の向こう側を見ると分かるが、元もとは窓でしかなかったものの外側にサンルーム的ベランダをくっつけてる。こうして目の当たりにすると「だいじょうぶなのか」って思う。
で、思った。「原発事故で廃虚になった街に行った」で紹介したチェルノブイリ近くの都市プリピャチに建っていたこのかっこいい団地。うち捨てられて30年。
で、思った。「原発事故で廃虚になった街に行った」で紹介したチェルノブイリ近くの都市プリピャチに建っていたこのかっこいい団地。うち捨てられて30年。
現役の団地を見て楽しんだ後だと、躯体がぼろぼろであること以上に、ここウクライナにおいては、カスタマイズされていないベランダの状態にこそ「ここには人が住んでいない」ということが現れているのだな、と。事故が起こらず、この団地が現役だったら、きっと色とりどり素材様々のサンルーム化した様子が見られたことだろう。
現役の団地を見て楽しんだ後だと、躯体がぼろぼろであること以上に、ここウクライナにおいては、カスタマイズされていないベランダの状態にこそ「ここには人が住んでいない」ということが現れているのだな、と。事故が起こらず、この団地が現役だったら、きっと色とりどり素材様々のサンルーム化した様子が見られたことだろう。

次回は中に入るぞ

昨年は海外団地趣味が高まったあげく、ロンドンの団地に泊まるという快挙を成し遂げた。キエフにおいては今回ただ外観を見て回るだけだったが、いずれ同じように中を見てみたい。ベランダ、どうなってるのか。
キエフにあったこの滑り台のデザインが強烈だった。いかめしい。
キエフにあったこの滑り台のデザインが強烈だった。いかめしい。

【告知】共産主義建築をテーマにしたトークイベントやります

今回の記事の団地を元に構成主義っぽく告知画像をつくってみた。むずかしい。赤くすればいいというものではないということがわかった。
今回の記事の団地を元に構成主義っぽく告知画像をつくってみた。むずかしい。赤くすればいいというものではないということがわかった。

2017年2月15日に「ユートピアと日常の共産主義建築——地下鉄、団地、チェルノブイリ」と魅力的なタイトルのトークイベントに登壇しますよ。内容も必ずや魅力的なものになるでしょう。ぼく自身がすごく楽しみ。みなさんぜひお越しくださいませ。

詳しくは→こちら
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