7人そろうことはほとんどない
「7人ぐらいのこびと」がどういうものか、まずはとにかくご覧頂こう。
不敵な笑いで、ひとり。
花の色と合っている。下に控えているのはブタだろうか。花壇にステージを用意されてのドヤ顔。しかし、ひとり。
残りの6人を倒して一人生き残った、みたいな悪い表情に見えてくる。
塀の上にふたり。
メルヘン。これは浮かれ
電飾を観賞してまわっている時に見つけたもの。浮かれ電飾を実施するお宅にはしばしば7人ぐらいのこびがいる。
3人。7人ぐらいのこびとがいるのは家庭ばかりではない(ライター仲間の
伊藤さんよりいただきました)
ぼくが「7人ぐらいのこびとを集めてます」と言ったところ、ちょくちょく友人たちから写真が送られてくる。これは
伊藤さんからいただいたもの。
家庭ではなくオフィスビルの脇にいるのは驚きだ。しかし考えてみれば彼らの持ち歌「ハイ・ホー」の歌詞は「ハイ・ホー、ハイ・ホー、仕事が好きー」だ。そりゃオフィスにもいるはずだ。
と思ったんだけど、調べてみたら英語の元歌詞は
"Heigh-ho, Heigh-ho
It's home from work we go"
だった。終業の歓びではないか。なんで逆にしたんだ、和訳。
残業時間が問題になって久しい日本の労働環境。7人が3人になっている状況ががぜん不穏なものに見える。守るべきは白雪姫ではなく、自分の健康だ。
「ほんとうに7人のこびとなのか」という疑問
まずは1人から3人までをご紹介した。このあと増えていきます。ともあれ「7人ぐらいのこびと」がどういうものであるかおわかり頂けたと思う。
つまり、何らかの事情 (風雨にさらされ一人また一人と減っていったとか、あるいはそもそも最初から7人用意していないとか) でメンバーが揃っていない庭先のドワーフたちなのだが、こうなると当然「いや、これそもそも7人のこびとなのか」という疑問が浮かんでくる。
共通しているのはとんがり帽子にヒゲをたくわえた低身長のビジュアル。これはいうまでもなく1937年のディズニー映画「白雪姫」に登場する7人のこびと(原題は "Snow White and the Seven Dwarfs" なので正確にはドワーフ)に似ているからそう判断しているわけだ。
下の4人はその点明らかに「7人のこびと」だ。あの彼女がいる。
4人。しかし満身創痍。「生き残った」という感じ。
4人が守り抜いた白雪姫も同席。今回の一連の中で唯一、彼女が登場した事例だ(
@ki_mu_chi さんよりいただきました)
こちらも7人のうちどうにか4人生き残った、という雰囲気のご一行。とりあえず過半数は超えた。勝ち越しだ。
そしてご覧の通り白雪姫もいらっしゃる。やはり、とんがり帽子+ヒゲのスタイルの彼らは「7人のこびと」でまちがいないだろう。4人だが。
それにしてもこのうらぶれぶりはどうだ。待たされすぎて、もはや寝て待ってなんかいられない。キスとかもういい。毒リンゴからは自力で快癒。王子様を待つことはや何年、という感じだ。
いつまでもぐずぐずと結婚を決めなかった自分の不甲斐なさを思い起こさせられる。白雪姫の晩婚化問題だ。腹をくくれ、王子。結婚、いいぞ。
でもまあ、考えてみたら7人の男たちと同棲してる女性と結婚、って躊躇するよね。
余談だが、今回記事を書くに当たって「こびと」は差別用語ではないのかと悩んだ。白雪姫の絵本の中には「7人の妖精」と表現しているものもあるときいた。ここらへんは用心しないと昨今のSNSはひじょうにやっかいだからな。
しかし東京ディズニーランドでも「7人のこびと」と言っているし「こびとづかん」という絵本も人気だ。あと「借りぐらしのアリエッティ」が「こびと」を連呼しているのに気を強くした。ありがとう、ジブリ。
絵柄のタッチから見ると、真ん中2人とそれ以外3人は別のグループっぽい。違うバンドで活躍していたメンバーが結成した5人組といったところか。イエスあたりか。
それにしても彼らがいる場所がすごい。
ガソリンスタンドにいるのだ。
これは7人のこびとの生業的に非常に象徴的なロケーションである。
原作であるグリム童話で彼らの名前は "Zwerge" で、これが英訳された際「ドワーフ」とされた。ディズニー映画でも "Snow White and the Seven Dwarfs" だ。
現在のファンタジーにおけるドワーフのイメージは「指輪物語」の影響が大きい。鍛冶や石工を得意とするとされ、原作でもディズニー映画でも鉱山仕事をしている。
一方、ディズニーでビジュアル化された際にモデルのひとつになったのは「ノーム」というヒゲをたくわえた老人の小さな妖精と言われている。彼らもまた地中の宝を守る存在であるとされている。
ノームは同時に庭師の妖精ともされ、ヨーロッパでは以前から人形を庭に置く文化があったという。一連の「7人ぐらいのこびと」はその流れと、ディズニー趣味との2つの流れを汲んでいるわけだ。
ともあれ、土を掘る彼らが行き着いた現代の仕事は油田というわけだ。掘り当てたか。このガソリンスタンドの5人のこびとはそれを表している。
いまなら白雪姫は得体の知れない王子さまに嫁ぐより、油田を掘り当てたこびとたちと末永く暮らした方がいいと思われる。しかしそうなると、白雪姫を巡ってこびと達がさや当てを始めるかもしれない。アナタハン島事件のようなことにもなりかねない。もしかして2人いないのはその末か。
富と女という組み合わせが男たちを狂わせるのだ。サークルクラッシャー白雪姫おそるべし。
というか、考えてみたら7人のこびとの種族に女性はいないのでしょうか。どうやって子孫を残しているんでしょうか。あ、もしかして7人のこびとをモデルにしたBLとかあるんでしょうか。いやさすがにそれはないよね(調べたらなんとありました。白雪姫じゃなくて白雪王子にした設定のもの。すげえ)
おしい。あとひとり。
まさに「7人 "ぐらい" のこびと」にふさわしい6人体制。いないのがひとりとなると、事件性が色濃くなる。「この中に犯人が」感が漂う。
立ち位置から見るに、両脇の2人組はそれぞれいっしょにいてアリバイがあるが、真ん中2人は犯行当時ひとりだった、ってところか。手前の柵がちょっと倒れているのがなんらかのトリックではないかと思う。
というか、ほんとうにどうして6人なんだろう。
「サンタ& ザ・ドワーフス」
さあ、ひとりきりのこびとからカウントアップしてきたが、ついにほんらいのフォーメーション、7人体制だ。
一見、8人のようだが実は7人。
発見した最初は「あー、8人かー」とがっかりしたのだが(そんなことでがっかりするな)、よく見たら真ん中の白い彼はこびとじゃない。サンタじゃないですかあなた。こんなところでなにやってんの。
考えてみれば、とんがり帽子にヒゲ、って7人の小人とサンタ、かなりかぶってる。間違い探しのようだ。彼にしてもソリに乗ってなければ分からなかっただろう。
とはいえそれ以前に、こびと側にも「ほんとうにこびとですか?」という感じのものがいる。特に一番左の彼に関しては今なお疑念が。なんかちょっと大きいし。そのとなりの後ろ向きで単色の彼も変だ。
油田の5人よのように、複数のグループで活動していたこびとたちが「ハイ・ホー」の音楽性の不一致から脱退・再結成をしてこの組み合わせに、といったところだろうか。これだけ世の中に7人のこびとグループがいるのだからそりゃ業界内での再編成もあるだろう。
さしずめ真ん中のサンタは名義上バンドメンバーではないボーカルか。「サンタ& ザ・ドワーフス」とか。「ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース」みたいな感じで。さっきからバンドの例えが古くて申し訳ない。
7人以上の場合も
さて、ごく希にではあるが正規の定員7人を越える場合もある。下は8人だ。
いろいろなキャラに混じって、こびとさんたちが計8人いるのが分かりますか。
アヒルやリスやピエロなど攪乱する要素が多いが、こびとさん達が計8人いる。おもしろいのはペア×4組というフォーメーションでつかず離れずの距離で立っている点だ。
集団はある一定の人数を超えるとグループに分裂するものだそうだが、さすがに8人ともなると呑気にハイ・ホーなどと歌っていられなくなるようだ。ここに白雪姫が投入されたらたいへんなことになるのではないか。
というか、いま気がついたけど7人のこびとって、なんで7人なんでしょうかねそもそも。7という数字になにか意味があるのかな。
まぎれがちな7人ぐらいのこびと
さて、ひとりから定員オーバーの8人まで順に見てきたわけだが、最後のもののように、7人ぐらいのこびとは他の種族に混じっていることが多い。
たとえばこちら。門柱の上の様子からして期待が高まる。
近づいて見てみると、いろいろなキャラに混じってこびとさんたちが思い思いの体制でいることが分かる。
鉱山仕事で鍛えたバランス感覚です。
アクロバティック
こちらもアクロバティック!
てんでばらばらのこびとたち。自由だ。
おもしろいのは、これだけいろいろなキャラを揃えているにもかかわらず、結局こびとは4人しかいないという点だ。
「全体ではたくさんいるのにこびとは7人に満たない」というこの問題の極端な例は下のものだ。
どういう経緯でこなったのかは分からないが、期待が高まる物量作戦。初の9人越えが見られるか!?
しかし数えてみたら、こびとは3人しかいない。
なぜだ。なぜここまでとりそろえておきながらたった3人なのだ。
7人のこびとが7人揃うのはほんとうにレアケースだということが分かる。
絵だとまちがいなく7人で描かれるんだけど。しかし鶏屋でなぜ7人のこびと。(これも
@ki_mu_chi さんよりいただきました「舌の色がキリンみたい」とのコメント。ほんとだ。なぜ紫)
ともあれ、こびとオンリーで庭先に出現することはまれで、たいていの場合はほかのキャラに紛れて7人ぐらいのフォーメーションで立っている。
お、4、5人いるぞ! と思って近づいて見ると
こびとは3人。真ん中の彼がカエルに対して背を向けているのもしょうがない。「確かにメンバー足りないって言ったけどさ、こいつら違くね?」と言っている。
2人。ニワトリと、よく見ると右の鉢植えにも別種族が。
大きさがかなり違うけど、いちおう2人。やはり別のキャラに混じって。
なぜそんなところに
上の例でもうひとつ興味深いのは庭や玄関エリアではなく、プランター内にいるという点だ。
こういった「鉢植え内7人ぐらいのこびと」もしばしば見かける。
鉢植え内に2人。とたんにカップルに見えてくる。薄い本の出番だ。
一人っきりで鉢植え内なので「こびとが生えてきた」みたいになっている。
日本において7人のこびとを庭に置くようになったは、おそらくガーデニングブーム以降ではないかと思う。上の例たちのように庭でなくても置かれるという事実は、いかにこびとがスタイルとして定着したかを示すものだ。
とにかくこびとを置くものだ、というスタイルが高じて前出のアクロバティック柵の上に代表されるように「なんでそんなところに?」という例が目に付く。
かつて使っていたと思われるフェンスの柱になぜか乗っている。ひとり。奥には堂々としたカエル。
これは…! なぜそこに。
@muninini さんより。「かぐや姫なのかもしれません」とのこと。うしろのふたりも気になる。
これも
伊藤さんより。「なんか昔の人が考えていた世界の構造みたいになってました」。ほんとだ。世界はカメとかじゃなくて給湯器の上に存在し、7人ぐらいのこびと(4人)がそれを支えている。
「俺のことはいいから…! かまわず先に行け!」みたいなこびと。チューリップきれい。
うつみさんより。
庭で泥まみれになったりや柵の上でバランスを取ったり、というようなことはしない、ホワイトカラーのこびと。
ヤミラさんより。6人。この利率だと7人になるまでどれぐらい時間かかるだろうか。
べつやくさんが「
信用金庫のディスプレイ観察」で城南信用金庫は別格だと書いていたが、噂に違わぬディスプレイだ。6人というギリギリの線でせめてくるあたりも「7人ぐらいのこびと」のことわかってんなー、と感心した。
こちらも
ヤミラさんより。街路樹の根もとをじぶんちだと思ってる方ときどきいますが、こびと置くことによってより庭感がでる。ひとり。アウェーな場所で心細そうだ。
荒野の7人(ぐらい)
上の例もそうだが、7人ぐらいのこびとは、なんだか過酷な環境にいる場合が多い。
これもまた
伊藤さんより。伊藤さんの通っていた小学校の校門前だそうだ。このハードコアな環境はどうだ。彼に影響を及ぼした情操教育の一端を垣間見た想いがする。
伊藤さんは過酷系こびとを見つける名人らしく、これもすごかった。ガレージの入口に仁王立ち。なぜ5人しかいないか。その理由がよく分かる。逃げて!
この荒野っぷりもすごい。
@mitakasound さんより。あるいはこびとが荒らしたのか。昔の採鉱現場の環境破壊っぷりを偲ばせる名作かもしれない。
こびとにも人権を!
このように過酷な環境にいがちなこびとたち。7人ではなくメンバーが欠けているだけに色々考えてしまう。
別の意味でさらに過酷な目にあっているものたちも。
@coldsoup さんより。羽田空港にいたという、椅子のこびと。頭の上に座られる仕事! バチ当たり!
7人ぐらいのこびとは、たいていひとり
最後に、今回あつまった38組のこびとたちの人数分布を集計してみた。
ごらんのように人数が少ないケースほど多い。14/38がひとりきりだ。およそ37%。
7人ぐらいのこびとは、たいていひとりなのだ。
ひとり。
ひとり。
ひとり。
ぼくがもし庭のある家を持つことになったら、ちゃんと7人をそろえてあげようと思う。
今回写真を送ってくれたひとり「
100均フリーダム」のうつみさんによれば、とある100均では「6人のこびと」という名前でガーデニング用こびとが売られていたという。
そういうことなのか! だから7人ぐらいなのか! これが理由か? どうだろう。
今後も観察を続けていくので、みつけたらお知らせください。
遠目に「あ! いた!」と思って駆け寄るとこんなだったりする。
【お知らせ】あさって4月10日(日)「どぼく+マンガ展」でトークイベント出演します
京都国際マンガミュージアムで開催中の「
どぼく+マンガ展」。あさって日曜日の14時からトークさせていただきます。
以前DPZで書いた、
ドラえもんの空き地と土管論をさらに発展させたお話をする予定。土管とは、未来なのだ!
入場無料、事前申込不要 (当日午前10時より、ミュージアム館内にて整理券を配布)。関西方面のみなさま、ぜひ。
【詳しくは→
こちら】