特集 2013年3月15日

ビルの名称表示「建て書き」がおもしろい

今後このビルの名称が示されている部分を「建て書き」と呼びましょう。
今後このビルの名称が示されている部分を「建て書き」と呼びましょう。
ぼくはうれしい。

なにがうれしいって「そうそう、インターネットってこういうものだよな!」っていう、すばらしい例にひさしぶりに出会ったからだ

その名は「建て書き」。ビルの名称が示してある部分をひたすら撮り集めているサイトだ。すてきだ!すてきすぎる!すてきすぎるのでサイトの主に会いに行きました。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:やっぱりわざと降りる駅を間違えてみると楽しい

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ナイスネーミング!

「建て書き」を収集したサイト:建て書き」。すてきだ。

よりより(@yoriyori291)さんによる「建て書き」を収集したサイト:「建て書き」。すてきだ。

「建て書き」とは冒頭で書いたようにビルの名称が示してある部分のこと。

たとえばこういうものだ。
白地にシルバー。そつなくまとめてきた建て書き。
白地にシルバー。そつなくまとめてきた建て書き。
新ビル。とくに新館とかそういうわけではないようだ。そういえば先日の田村さんの記事「ニューのつく時代</a>」はいわば「ニュー」に特化した建て書き記事であった。
新ビル。とくに新館とかそういうわけではないようだ。そういえば先日の田村さんの記事「ニューのつく時代」はいわば「ニュー」に特化した建て書き記事であった。
時代を経たビルのテクスチャに合った色使い。文字間が広めなのもかわいい。
時代を経たビルのテクスチャに合った色使い。文字間が広めなのもかわいい。
錆の浮いた貫禄の建て書きだが、「オ」と「ガ」の間があきすぎていたり「ビ」が大きかったり。やんちゃなままおじいちゃんになった、みたいな建て書き。
錆の浮いた貫禄の建て書きだが、「オ」と「ガ」の間があきすぎていたり「ビ」が大きかったり。やんちゃなままおじいちゃんになった、みたいな建て書き。
しぶい。小ぶりだが確かな意志を感じる。雨跡のまだらが興を添えている。
しぶい。小ぶりだが確かな意志を感じる。雨跡のまだらが興を添えている。
どうだろう。「ああ、これのこと『建て書き』っていうのね」という感じだろう。日常よく目にしているはずだ。
Googleわかってねえなあ。
Googleわかってねえなあ。
実はこの「建て書き」、これはよりより(@yoriyori291)さんによる命名なのだ。

「ネーミングが大事だと思って、半年考えました」というよりよりさん。「一般には『ビル銘板』とか『建物名称看板』って呼ばれてるみたいですけど、もっと良い名前が必要だなと思って」と。

ちゃんとしてるなー、若いのに!しっかりもの!

そう、よりよりさん、若いのだ。大学生なのだ。
「建て書き」提唱者・よりよりさん。さわやか青年だ。
「建て書き」提唱者・よりよりさん。さわやか青年だ。

日本の未来は明るい

自分が、団地を撮ってはならべるだけのサイトをつくったころ、同じようにダムばかり集めたサイトを見つけて興奮した。10年以上前の話だ。あとガスタンクとか。
実生活では理解されない偏愛ぶりを、思う存分世に問うことができるインターネットってなんて素晴らしいんだ!と思った。

ところがさあ、なんかさあ、さいきんってさあ、ニュースや誰かの発言について気の利いた論評するのが主な使われ方になってないか、インターネット。もっとデジカメ持って街に出てくだらないもの集めて発表しようよー。

なんていうのはもはや、じじいの繰り言なんだろうな、と思っていた。

そんなふうにすっかり年寄り気分でいたところで見つけたのが「建て書き」だ。しかもやっているのは大学生!日本の未来は明るい。おじいちゃんうれしいよ。
「まずお見せしたいのが、ちょっと変わった建て書きでして…」と福岡の街を案内してくれたよりよりさん。
「まずお見せしたいのが、ちょっと変わった建て書きでして…」と福岡の街を案内してくれたよりよりさん。
おお!団地っぽい!すてき!
おお!団地っぽい!すてき!
狭いアプローチに入っていく。ここに?建て書きが?
狭いアプローチに入っていく。ここに?建て書きが?
「これです」
「これです」
おお!確かに建て書きだ!
おお!確かに建て書きだ!
「なんでここなんですかねえ」いや、これ見つけたっていうのがすごいよ!
「なんでここなんですかねえ」いや、これ見つけたっていうのがすごいよ!
よりよりさんは福岡在住の大学生。おじいちゃん、あんまりうれしかったので、会いに行きました。そして地元の「よりぬき建て書きラインナップ」を選んでいただいて、案内してもらった次第。たのしかったー。

建て書き鑑賞ポイント

「これこれ!いいですよねえ」と駆け寄り、いとおしそうに撫でるよりよりさん。なんとなくわかるよ、その気持ち!
「これこれ!いいですよねえ」と駆け寄り、いとおしそうに撫でるよりよりさん。なんとなくわかるよ、その気持ち!
たしかにこれは良い。建て書き素人のぼくでも良さが分かる逸品だ。ちゃんと字体をを選び抜いた、って感じ。建物自体もかわいい。
たしかにこれは良い。建て書き素人のぼくでも良さが分かる逸品だ。ちゃんと字体をを選び抜いた、って感じ。建物自体もかわいい。
「ぐっとくる建て書きってどういうものなの?」
「うーん、まずはフォントですかね。オリジナルの書体はいいですよね。出来合いのもわるくはないですけど」
「このフォントいいですよねー」「あー、これはかわいいねえ」
「このフォントいいですよねー」「あー、これはかわいいねえ」
「これはぜひ見てもらいたくて!」「バランスわるっ!かわいい!」「そして夜は光るんです</a>」
「これはぜひ見てもらいたくて!」「バランスわるっ!かわいい!」「そして夜は光るんです
ビル自体もかわいい。
ビル自体もかわいい。
「『川』に注目です」「ん?」「3画目って、ほんとはハネじゃないですよね?」「あー、そうか!」「あと『ビ』の最後も勢い余ってる」
「『川』に注目です」「ん?」「3画目って、ほんとはハネじゃないですよね?」「あー、そうか!」「あと『ビ』の最後も勢い余ってる」
そしてこれもビル自体がいい雰囲気!「文字の正確性よりも建て書きとしての存在感を重視した、ってことなんでしょうかね」
そしてこれもビル自体がいい雰囲気!「文字の正確性よりも建て書きとしての存在感を重視した、ってことなんでしょうかね」
これもすごくかわいい!「『多』ががんばってますよね」(「建て書き」より</a>)
これもすごくかわいい!「『多』ががんばってますよね」(「建て書き」より
「街にあるフォントに注目している方はけっこういるんですけど、建て書きに特化している人はあまりきいたことがないです」
建物のネーミング自体に注目している例はあるけど、たしかに銘板やフォント含め全体的に鑑賞している例はぼくも聞いたことがない。
「入り口ドアのガラスに書かれている建て書きは、反射しちゃって撮るのが難しいんですよね」と腰をかがめ角度を探るよりよりさん。あー、わかるー</a>。
「入り口ドアのガラスに書かれている建て書きは、反射しちゃって撮るのが難しいんですよね」と腰をかがめ角度を探るよりよりさん。あー、わかるー
開いちゃったりするしね。
開いちゃったりするしね。
「とすると、なんで建て書きに注目したの?」
「ふつう、街にある文字のほとんどは広告なんですけど、その中でビルの名前はちょっと違うんですよ。それほど主張していないというか」
「あー、なるほどなるほど」
「でも妙に凝っているものもあって、ロゴになりたいのかどうなのか、って思うんですよ」
「あー、なるほど!それ名言。そうか、建て書きはロゴのようでロゴでない、ただの表記のようでそうでない、っていう存在なんだ」


「あとおもしろいのは、建て書きに書かれている名称は、実際にはあまり呼ばれることがない、という点ですね」
「どういうこと?」
たとえばこういうこと。天神の大丸の建物の名前は「西日本渡辺ビル」なのだが、ふつうそうは呼ばれない。
たとえばこういうこと。天神の大丸の建物の名前は「西日本渡辺ビル」なのだが、ふつうそうは呼ばれない。
「地図にはビル名が記されていることが多いんですけど、実際にはそこに入っている店や会社の名前などで呼ばれますよね」
「あー、そうか。打ち合わせで始めて行くときなんかはビル名意識するけど、慣れるともう呼ばないねえ。名前のようで名前でない。所番地の一部みたいなものなのか、建て書きって」

東京だと、たとえば「有楽町センタービル」って言われてもどのビルかピンと来ないけど、「マリオン」って言えばすぐわかる。なるほどねえ。

なにかをしつこく追いかけている人は、その対象がどんなものであれ、穿った見方をするようになるものだなあ。すばらしい。

ちゃんとしていたりしてなかったり

ロゴのようで、ロゴでない。しかしなんせ名前を掲げている大事なものだ。広告ではないけれども、 オーナーにしてみれば建て書きには気合いが入るものではないだろうか。

とはいえ実際には、オリジナルのフォントを使い、造作にも手が込んだものもあれば、なんだか無頓着な「それでいいの?」っていうものもある。

たぶん、ここらへんの温度差のバリエーションが建て書きの魅力のひとつなのではないだろうか。だんだんわかってきたぞ。
「ぜひ見てもらいたいものがこっちにありまして」と連れて行ってもらった先にはメタリックな建て書きが。そのハードな輝きには不釣り合いな書体。
「ぜひ見てもらいたいものがこっちにありまして」と連れて行ってもらった先にはメタリックな建て書きが。そのハードな輝きには不釣り合いな書体。
「細かい仕事ぶりもいいですよね」たしかにー。
「細かい仕事ぶりもいいですよね」たしかにー。
一方、こちらは欠けちゃってる。「こういうの、よくあります」よくあるのかー。
一方、こちらは欠けちゃってる。「こういうの、よくあります」よくあるのかー。
「これはちょっとかわいそうですよねー」
「これはちょっとかわいそうですよねー」
首を突っ込んでようやく拝めた。
首を突っ込んでようやく拝めた。
これも看板の影になってしまっている。
これも看板の影になってしまっている。
「こういう風に配管に浸食されちゃっているものもときおりあります」なんか、けなげ。
「こういう風に配管に浸食されちゃっているものもときおりあります」なんか、けなげ。
一見、どこにも建て書きはなさそうに見えるが…
一見、どこにも建て書きはなさそうに見えるが…
なんとこんなところに!
なんとこんなところに!
趣がある良い建て書きだ。テントがあとから付けられたのだろう。書体もかわいらしいし、もっと前面に出してほしいところ。
趣がある良い建て書きだ。テントがあとから付けられたのだろう。書体もかわいらしいし、もっと前面に出してほしいところ。
「これ、すごくいいんですよ!」とよりよりさんお勧めの作品。確かに文字も大きいし、変わった書体だなあ、と思っていたらそれだけではなかった。
「これ、すごくいいんですよ!」とよりよりさんお勧めの作品。確かに文字も大きいし、変わった書体だなあ、と思っていたらそれだけではなかった。
「見てください!ほら!」なんと焼き物でできている!これはすごい!なるほどね、素材もポイントなのだな。
「見てください!ほら!」なんと焼き物でできている!これはすごい!なるほどね、素材もポイントなのだな。
「これ、なんか変だと思いません?」
「これ、なんか変だと思いません?」
「この『ハ』、右と左が逆で、かつ短い方は逆さまだと思うんですよ」
「この『ハ』、右と左が逆で、かつ短い方は逆さまだと思うんですよ」
明朝体で「ハ」を打ってみたら…ああ、ほんとだ!
明朝体で「ハ」を打ってみたら…ああ、ほんとだ!
ちょっと歩き回っただけで、じつにいろいろな建て書きがあるものだ。世界はおもしろいものであふれているのだなあ、と改めて思った。

「建て書きはけっこう新しくなっちゃもので、しかも建築自体と違って記録も残ってなかったりするので、見とかないと」
近々なくなった「建て書き」といえば、名古屋駅前の「代名古屋ビルヂング」だ。と思ったらよりよりさん、当然のように押さえておられた。さすがだ。「ビルの名前は残るということなので、建て書きも復活しないかと期待してます」とのこと。(「建て書き」より</a>)
近々なくなった「建て書き」といえば、名古屋駅前の「代名古屋ビルヂング」だ。と思ったらよりよりさん、当然のように押さえておられた。さすがだ。「ビルの名前は残るということなので、建て書きも復活しないかと期待してます」とのこと。(「建て書き」より
「なくなっちゃう、で言うと、この天神ビルの建て書きがおもしろいんです」うーん?まあ「ビ」の点がおもしろいけど、ふつうじゃない?
「なくなっちゃう、で言うと、この天神ビルの建て書きがおもしろいんです」うーん?まあ「ビ」の点がおもしろいけど、ふつうじゃない?
すると、やおらビルの中に入っていくよりよりさん(思えばこの日、何時間もさんざんビルを見て回ったけどビルの中に入ったのはこれがはじめてだった)。
すると、やおらビルの中に入っていくよりよりさん(思えばこの日、何時間もさんざんビルを見て回ったけどビルの中に入ったのはこれがはじめてだった)。
「これ見てください!」と地下への階段踊り場に。おお?
「これ見てください!」と地下への階段踊り場に。おお?
なんと!古い建て書きが保存展示してるではないか!ちゃんと背景のレンガも再現して。
なんと!古い建て書きが保存展示してるではないか!ちゃんと背景のレンガも再現して。
「へー!大事にされてますね!」
「"TENJIN"じゃなくて"TENZIN"なのがまたおもしろいですよね」
「あ、ほんとだ」
50周年を機に取り替えたようだ。
50周年を機に取り替えたようだ。
「ビル自体が福岡の街では歴史的なもので、思い入れがあるんでしょうね」
「だったらまたこれ使えばいいのにねえ」

ちょうかわいい建て書き3選

フォントもかわいいが、名前自体もいい。そしてその名前の由来は…
フォントもかわいいが、名前自体もいい。そしてその名前の由来は…
さて、この日一日よりよりさんにエスコートしてもらった「建て書きめぐり」そのすべてを紹介すると20ページぐらい必要だ。もっと見たいという方にはサイト「建て書き」をじっくりと見ていただくとして、涙を飲んで最後に3つだけ紹介することにしたい。いずれも第一人者お墨付きのちょうかわいい作品だ

まずは「チョコレートビル」
「たぶん、ビル全体が板チョコをイメージしていると思うんです」
「たぶん、ビル全体が板チョコをイメージしていると思うんです」
確かに色といい、目地といい…
確かに色といい、目地といい…
「建て書き教えてもらって分かったのは、ぼくは建築の雰囲気と建て書きの雰囲気が合ってるのを見るとうれしい、ってことだなー」
「ぼくももともと建築が好きで、建物自体を見ていて、あるときからふと建て書きが気になりだしたという感じなので、わかります」
クールなよりよりさんが目に見えてエキサイトしていたのが、この建て書きを案内した時だ。「福岡県パン会館」
クールなよりよりさんが目に見えてエキサイトしていたのが、この建て書きを案内した時だ。「福岡県パン会館」
「書体もいいし、名前もいいし、『縣』『會』の漢字もいいし、丸に穴が開いてないのもいいし…」
「書体もいいし、名前もいいし、『縣』『會』の漢字もいいし、丸に穴が開いてないのもいいし…」
「見てください、金属を盛り上げて作って、その前面だけ白く塗っているのもいい!」うん、これはたしかにかわいい。「もし取り替えてしまうときはぼくが引き取りたいです!」だそうです>関係者さま
「見てください、金属を盛り上げて作って、その前面だけ白く塗っているのもいい!」うん、これはたしかにかわいい。「もし取り替えてしまうときはぼくが引き取りたいです!」だそうです>関係者さま
そしてよりよりさんが「ここらへんのボス的建て書き」というのがこちら!
全体的にかなりくたびれているが、そこがまたキュートだ。「これに出会って建て書きに目覚めました」という。「タイルもいいし、フォントもいい。アルファベットの書体もかわいいし、文字が浮かせてあるのもいいし…」と賞賛の言葉はとどまることがない。
全体的にかなりくたびれているが、そこがまたキュートだ。「これに出会って建て書きに目覚めました」という。「タイルもいいし、フォントもいい。アルファベットの書体もかわいいし、文字が浮かせてあるのもいいし…」と賞賛の言葉はとどまることがない。
そしてもちろんビル自体もかわいい</a>。
そしてもちろんビル自体もかわいい
きっともう何十枚と撮ってるんだろうなー。行くたびに撮りたくなるよねー。わかるわー。
きっともう何十枚と撮ってるんだろうなー。行くたびに撮りたくなるよねー。わかるわー。

すてきな建て書きみつけたらよりよりさんに教えてあげよう!

「学校の友達には、こういうの集めてるって言ってるの?」
「まあ、何人かには。でもみんな無関心ですね。いいの見つけたら教えたりしてほしいんですけど」

だそうですよみなさん。すてきな建て書き見つけたら彼に教えてあげて!Twitterアカウント持っている方はハッシュタグ #建て書き とともに @yoriyori291 さんにご一報を!
2面建て書きと記念撮影。
2面建て書きと記念撮影。

【告知:大阪で写真展開催します!】

2012年にすったもんだで開催しつつも(→デイリーの記事:「個展をひらいてみたらたいへんだった」)大好評だった写真展を大阪で開催することになりました!2013年3月31日(日)~4月20日(土)です。詳しくはこちら
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