特集 2015年8月12日

マスター、「ゴールデン街」ください

日ハム特製の徳利とお猪口
日ハム特製の徳利とお猪口
バーや居酒屋の店主に、その街をイメージしたお酒を作ってもらうシリーズ。今回はあの「ゴールデン街」を訪れた。とはいえ、向かったのは羽田空港。果たして、どんな“ゴールデン”なお酒が出てくるのか。乞うご期待。
ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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階段を降りると、そこは桃源郷

羽田空港から新千歳空港まで約1時間半。そこから快速エアポートに乗り換えて約40分。夜の札幌に着いた。予想以上に蒸し暑い。
おなじみ「ニッカウヰスキー」のネオン看板
おなじみ「ニッカウヰスキー」のネオン看板
さらに札幌市営地下鉄で6駅、「平岸」という駅に着く。ここが目的地だ。
もちろん初めて降りる
もちろん初めて降りる
駅直結の地下にあるのがーー。
「平岸ゴールデン街」である
「平岸ゴールデン街」である
ゴールデン街といえば新宿だが、800km離れた北の街にもあった。階段を降りると、そこは桃源郷。
各店からの告知が貼られた案内板
各店からの告知が貼られた案内板
入り組んだ通路の両側に、11店舗が軒を連ねる。個人的にこういうスポットは大好きで、早くも胸が踊る。
レトロな風情
レトロな風情
規模は小さいが、雰囲気は抜群だ。なんとなく小学校の廊下を思い出す。

「かめちゃん」っていう焼酎で、ここの一番人気

どこに入ろうかしらと思いつつ歩いていると、気になる店を見つけた。全面的に日本ハムファイターズを推している。
のれんの脇から覗いてみる
のれんの脇から覗いてみる
店内は実家の居間のようなたたずまいだ。
テレビでは日ハムVSソフトバンク
テレビでは日ハムVSソフトバンク
店名は「二代目やなぎ」。ここにしよう。中に入ると、ママが笑顔で迎えてくれた。
ママの今野恵美子さん
ママの今野恵美子さん
取材したい旨を告げると、「あら、それならマスターを呼ぶから待ってて」とのこと。この店のオーナーで、2年前の開店時からいろいろとアドバイスをもらっている“師匠”だという。

しばらくして登場したのが、オーナー兼マスター兼師匠の岸柳司さん(68歳)。「ネット? よくわからんな。納豆なら好きだけど」と軽いジャブが来た。
近所の居酒屋「一八(いっぱち)」オーナーでもある
近所の居酒屋「一八(いっぱち)」オーナーでもある
「平岸ゴールデン街をイメージしたお酒を飲みたい」と伝えたところ、笑顔で取り出してきたのが上のボトル。

「『かめちゃん』っていう焼酎で、ここの一番人気。ひと目盛り400円ね」

ひと目盛り?
これが目盛りシステムだ
これが目盛りシステムだ
ロックなり水割りなりを自分で好きなように作って飲むんだそうだ。ボトル上部は細くなっているので、目盛りの幅も広い。

「『お代わり』とかも言わなくていいから。ふた目盛り分飲んだら800円になるだけ。勝手に飲んでくつろいでって」
いただきます!
いただきます!
「かめちゃん」はウオッカのようなさっぱりした飲み口で、水割りにすると若干の甘さも生じて非常においしかった。

ファイターズファンは昔から穏やかだから

ところで、日ハムファンのお店なんですね。

「そうそう、俺が熱狂的なファイターズファンで『一八会』っていう応援団をやってるぐらい。ここもそれで行こうって勧めて。ママは最初野球のことはまったく知らなかったけど、今じゃファイターズ大好きだよ」
地元の新聞でも紹介された
地元の新聞でも紹介された
「札幌ドームで試合があるときは、お昼でも試合開始とともに店を開ける。8割がファイターズファンだけど、他のチームのファンも来るね」

ケンカにならないのかと聞くと、「ファイターズファンは昔から穏やかだから。他のチームをけなしたりしないで、仲良く観戦しましょうというスタンス」とのこと。
壁にはユニフォームも
壁にはユニフォームも
これらは「一八会」で作ったもので、ODAバージョンは40数年前に優勝した際の“伝説のユニフォーム”。小田智之は2004年に北海道移転後のチーム本拠地初ホームランを打った選手だそうだ(現在は二軍の打撃コーチ)。

テレビに目を向けると、大谷が投げている。ママに誰のファンかと尋ねたところ、「うーん、近藤、岡、あと最近巨人から来た矢野とか…。大勢いるのよ」。本気なのだ。
毎年デザインが変わる選手&球場バッジ
毎年デザインが変わる選手&球場バッジ
マスターいわく、「みんなで手分けして集めてるやつ。ミッチ・ライブリーと、もう一個地方球場が揃えばコンプリートなんだよ」。

ミッチさんは今年6月に加入した助っ人外国人ピッチャーだ。
バット徳利とボールお猪口
バット徳利とボールお猪口
おお、これは日ハムファンならずともほしい。以前販売された限定グッズで、それぞれ「夢は正夢」という栗山監督の座右の銘が書かれている。

新宿のゴールデン街も参考にして作った

「平岸ゴールデン街」に話を戻そう。できたのは7年前。もともとはパチンコ店とスーパーが入っていたそうだ。

「ここの地主さんが昭和レトロな雰囲気の飲食店街にしようって言って。新宿のゴールデン街も参考にして作ったんだよ。当時と比べて店舗数は減ったけど、若い人もがんばってる」
生から揚げるポテトフライ
生から揚げるポテトフライ
今が旬の新じゃが、北海道産男爵を低温でじっくりと揚げる。

「お客さんは“ハムが勝つ”って意味でハムカツをやれって言うけど、とにかく値段を安く抑えたいからね。採算が合わないとできん」
冗談抜きで北海道の大地の味がした
冗談抜きで北海道の大地の味がした
これほど日ハムが好きなマスター。仮に入団したらどこを守りたいのだろうか。

「えっ!? うーん、センターかな。俺、昔は足が速かったんだよ。外野のフェンスギリギリで捕ってレーザービームのバックホームでアウト、なんてさ」
マスター作のメニューもかわいい
マスター作のメニューもかわいい
戦後、マスターのお母さんは生活のためにすすきので屋台ラーメンの店を始めた。店名は「やなぎ」。だから、ここは“二代目”なのだ。

マスター自身も飲食店をやる前は、タクシー運転手、自衛隊員、キャバレーのボーイなど様々な職を経験したという。そんな話を聞きながら、「平岸ゴールデン街」の夜はおだやかに更けてゆくのであった。
「またおいでよ」
「またおいでよ」
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最近は外国人観光客の姿もよく見かける

さて、そうなると本家の新宿ゴールデン街も訪れねばなるまい。
約280店がひしめき合う
約280店がひしめき合う
新宿ゴールデン街の公式サイトには、こうある。

昭和33年の売春防止法ができるまで、“青線”と呼ばれる非合法売春地帯として隆盛を迎える。(ちなみに赤線、青線ともに警察が地図上に赤色、青色の線でその地域を囲ったことに由来している)
流しのギターがひょいと出てきそうな路地
流しのギターがひょいと出てきそうな路地
昔は文化人が集まる“オトナの街”だったが、10数年前から若い世代が店を開くようになり、とくに最近は外国人観光客の姿もよく見かける。
朝まで開けている店も多い
朝まで開けている店も多い
その時、面白そうな店が目に入った。店名は「Barダーリン」。
ドアが開いていると入りやすい
ドアが開いていると入りやすい
店内ではマスターと常連客らしき男性が談笑中だ。
このかんじ、ザ・ゴールデン街である
このかんじ、ザ・ゴールデン街である
よし、入ってみよう。

タランティーノもお忍びで来たよ

「お、いらっしゃい」。マスターが快く迎え入れてくれた。
昭和の優男といった風貌である
昭和の優男といった風貌である
石川ゆうやさん(41歳)。ゴールデン街北側に位置する三光商店街振興組合の理事長だという。

また、現役の俳優でもあり(「片腕マシンガール」「ロボ芸者」「電人ザボーガー」「ヘルドライバー」「ヒミズ」など多数出演)、映画や演劇関係者が多数来店するらしい。

「タランティーノもお忍びで来たよ。映画関係者が『好きそうな店だろう』って連れてきてくれてさ」
壁には映画・演劇関連のポスターやチラシ
壁には映画・演劇関連のポスターやチラシ
店は今年の12月で10周年。マスターは沢田研二のエアボーカルパフォーマー「沢田王子」としても知られており、店では沢田研二のほぼ全曲を聞くことができる。
2008年に行われた「ジュリー祭り」のタオル
2008年に行われた「ジュリー祭り」のタオル
「きっかけは、店を始めた頃に主演映画のイベントで『何かやってくれ』と言われたこと。当時、ジュリーがマイブームだったから、古着屋で衣装を揃えてパフォーマンスをしたんだよ」

ジュリーは子供の頃からテレビで見ていてビジュアルは印象深かったが、大人になって楽曲や歌詞のすばらしさを再確認したそうだ。
「沢田王子」としてのステージ
「沢田王子」としてのステージ
とはいえ、今はあんまりやっておらず、頼まれればやるぐらいのかんじだという。

お酒を味わって飲むような街じゃない

そんなわけでマスター、ゴールデン街ください。
「はい、ゴールデン街」
「はい、ゴールデン街」
出てきたのは600円のハイボールだった。
照明のせいか、どこか艶かしい
照明のせいか、どこか艶かしい
「レモンピールが入ってるのがポイント。ここは、お酒を味わって飲むような街じゃないから。うちでも昔はいろんなカクテルを出してたけど、誰も注文しない(笑)。ハイボールぐらいがちょうどいい」
もちろんおいしい
もちろんおいしい
ちなみに、タランティーノは常時ハイテンションのまま、日本のウイスキーをロックで飲んでいたそうだ。そして、日本円の持ち合わせがなかったので、ツケにしてあげたとか。
トイレに貼ってあった味わい深いイラスト
トイレに貼ってあった味わい深いイラスト
ディープなイメージのあるゴールデン街だけに、やはり変な客も来るのだろうか。

「変な客? いっぱいいすぎてわかんないな。タイガーマスクの扮装で新聞配達してる人もたまに来るし。気持ちよく飲んでくれれば、誰でも歓迎しますよ」

ヤンキーの喧嘩をこっそり録音する

“変”つながりでフェチの話に移行した。

「ショートカットは好きだね。女の刈り上げを見ると、なぜかグッとくる。でも、坊主はダメ」
フードメニューにマルちゃん正麺
フードメニューにマルちゃん正麺
「あ、そうだ。朝採れのとうもろこし食べる?」
今朝まで嬬恋で映画の撮影をしていたとのこと
今朝まで嬬恋で映画の撮影をしていたとのこと
そういえば、カウンターの中にはアルバイトの女性もいた。
まいさん(24歳)
まいさん(24歳)
何気なく趣味を聞いてみると、「ヤンキーの喧嘩をこっそり録音することです」というハイレベルな答えが返ってきた。

「ICレコーダーで撮った音声を食事中に聞いています。ヤンキーって言葉の引き出しがすごい。自分にないものを持ってるなあって。あ、あと秩父で石を拾うのも好きです」

さすが、ゴールデン街である。おいしいお酒と謎のトークを堪能してお会計。
「また来てよな」
「また来てよな」

“街”という集合体の中の一軒

札幌と新宿のゴールデン街。どちらも一見とっつきにくいが、中に入ってしまえば人間くささ全開の心地よい世界だった。また、“街”という集合体の中の一軒という特性から、何か大きなものに包まれている安心感のようなものも感じられる。ごちそうさまでした。
平岸の公園は名前がかわいい
平岸の公園は名前がかわいい

<取材協力>
呑み処 二代目やなぎ
http://hiragishi-golden.com/shoplist/spot3/
Barダーリン
http://the-goldengai.com/shops/cont/21
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